- 更新日 : 2024年7月12日
ERPのカスタマイズの概要と失敗する要因について
ERPの導入では、カスタマイズが必要となる場合があります。通常カスタマイズは、ERPと業務を熟知したコンサルタントが行うことが多く、難易度の高い作業です。ここでは、ERPのカスタマイズとカスタマイズが失敗する要因を解説します。
目次
ERPのカスタマイズ
日本国内では、ERPを標準設定のまま使用するケースはそれほど多くありません。多くの導入プロジェクトでは、「カスタマイズ」と呼ばれる設定変更を行ったうえでERPを利用しています。
カスタマイズとは、導入対象企業の組織形態やビジネスモデル、業務プロセスに合わせて、ERPのパラメータ設定を変更する作業です。カスタマイズによって変更が可能な範囲は製品によって異なります。
カスタマイズにかかる費用
ERPのカスタマイズにかかる費用は、提供元であるベンダーによってさまざまです。一般的にカスタマイズの項目が多くなればなるほど費用は大きくなり、外資系の大手ERPパッケージベンダーであれば、ERP本体の導入費用に加えて数百~数千万円のカスタマイズ費用がかかることも珍しくありません。
ただし、クラウド型のERPであれば、オンプレミスの数分の一~数十分の一にまでカスタマイズ費用を抑えられる可能性もあります。
カスタマイズの流れ
ERPのカスタマイズは、「Fit/Gap分析」から始まります。Fit/Gap分析では、ERPの持つ機能やコード体系と、導入企業の組織形態・ビジネスモデル・業務プロセスを比較し、両者の差分を明確にしていきます。ここで明らかになった「差」を埋めるために、ERP側でパラメータ設定の変更作業を行うのです。
具体的な設定変更の方法は製品によって異なります。そのため、ここで紹介する方法はあくまでもひとつの例として参考にしてください。
ERPのカスタマイズでは、ERPの画面からカスタマイズ用のトランザクションコードを入力し、カスタマイズ用のツリー画面を表示させます。次に、ツリー画面から関連する項目を特定し、導入企業の組織に合わせて支社や部門を定義します。
例えば、支社ごとに販売組織があるのであれば、まず支社を定義し、次に販売組織を定義して、支社に対して販売組織を割り当てていくのです。
このように、定義と割り当てを繰り返しながら、導入企業の組織形態・ビジネスモデル・業務プロセスをERPの中に反映していきます。
ERPのカスタマイズの歴史
ここで、ERPのカスタマイズの歴史について整理しておきましょう。ERPが日本で普及し始めたのは1990年代の後半です。ERPは海外での成功事例が多く、この事例を見た日本の大企業が外資系ERPベンダーから提供される製品を導入していきました。
ERPは、「世界各地の企業から集められた経営のベストプラクティスの集合体」とされ、日本企業もグローバルスタンダードに習うことを目指したのです。不動産バブル崩壊後の日本では、経営の合理化・スリム化が叫ばれており、ERPが持つ合理性が企業の思惑にマッチしたとも考えられます。
しかし、90年代のERPは海外で生まれたものであり、複雑で独自性の強い日本の商慣習や業務プロセスをそのまま吸収することはできませんでした。そのため、ERPが持つパラメータ設定機能をフル活用し、日本企業に適合させる作業が必要だったのです。
こうして日本でのERP導入は、初期に膨大なカスタマイズ作業を行うことが通例となりました。
「カスタマイズ」と「アドオン」の違いとは
前述したように、ERPが持つ標準機能を企業側に合わせる場合はカスタマイズで対応します。一方、ERPが持つ標準機能の外で何らかの処理を行いたい場合は、「アドオン開発」で機能を付与することになるでしょう。つまり、アドオン開発はERPに独自の機能を付与したいときに使う手法です。スクラッチ開発のようにゼロベースで機能を開発し、ERPの標準機能と連携させることを指します。
ERPの導入では、カスタマイズとアドオン開発を使い分けながら、導入企業が求める要件を実現していきます。
ERPの提供形態とカスタマイズ可否
ERPは、提供形態によってカスタマイズ可能な範囲が異なります。カスタマイズの自由度は「フルスクラッチ型」が最も高く、次いで「オンプレミス型パッケージ」、さらに「SaaS(プライベートクラウド)」「SaaS(パブリッククラウド)」の順にカスタマイズの自由度が下がっていきます。以下で、提供形態別にカスタマイズ可能な範囲や制約などをまとめました。
フルスクラッチ型
フルスクラッチ型のERPは、自社の組織形態・ビジネスモデル・業務プロセスに合わせて、ゼロからシステムを作り上げていきます。そのため、カスタマイズの自由度は最も高いです。
今後発生しうる組織形態の変更、ビジネスモデルの転換、業務プロセスの刷新を考慮しつつ、どのような変更があってもERP側で即時に対応できるような造り込みが可能です。機能的な制約はほぼ無いと言って良いでしょう。
その反面、時間的・金銭的な制約は常につきまといます。完全なるオーダーメイド設計であるゆえに、開発期間が長期にわたり、それに伴って人件費がかさむことが少なくないためです。機能面では最適解のひとつですが、予算や工期といった側面を考慮すると、オンプレミス型パッケージやSaaS型のほうが適切なケースも多いでしょう。
オンプレミス型パッケージ
オンプレミス型パッケージは、90年代から2010年代初頭にかけて最もよく採用された形態です。オンプレミス型パッケージには経営のベストプラクティスが最大公約数的に集められており、汎用性に優れた製品と言えます。また、カスタマイズの自由度はフルスクラッチに次いで高いです。
販売・受注・在庫・購買・人事・会計など主要な業務のほとんどをカスタマイズで調整できるため、効率よく導入を進めることができます。同時に、追加開発の発生を抑え、予算やコスト面でも調整がしやすいです。ただし、日本独自の商慣習や特定の業界・業種でのみ発生するような業務プロセスには対応できない製品も多く、アドオン開発が必要になることも少なくありません。
SaaS型(プライベートクラウド)
プライベートタイプのクラウド型ERPとは、自社専用のクラウド環境にERPを構築する形態を指します。
クラウド型ERPは、非常に安価な導入が可能な反面、フルスクラッチ型やオンプレミス型パッケージに比べると機能が絞り込まれており、カスタマイズの自由度は低いです。
ただし、プライベートクラウドであれば他の利用者の影響を受けないため、ある程度は自社独自の要件を組み込むことも可能です。ERP側に自社を合わせる前提であれば、機能面・コスト面のバランスが良い形態と言えるでしょう。
SaaS型(パブリッククラウド)
パブリックタイプのクラウド型ERPは、クラウドベンダーが提供するERPをサービスとして導入する形態を指します。一定の利用料を支払って必要な機能だけを利用できるため、安価で無駄のない導入が可能です。
ただし、プライベートクラウドよりもさらにカスタマイズの自由度が低く、大半の機能はテンプレート化された状態から変更できません。そのため、細かい業務プロセスはERP側に合わせる必要がでてきます。
誤ったERPのカスタマイズにより起こる問題について
ERPの導入では、カスタマイズの不備によってさまざまな問題が発生するおそれがあります。以下は、カスタマイズが原因で発生する問題の代表的な例です。
現場に混乱をきたす
現場担当者の意見を取り入れずに、経営層とSIerのみでカスタマイズを進めた結果、通常の業務プロセスを進めることができなくなるケースです。それまで行っていた帳票作成や経費処理などでエラーが頻発し、業務が止まってしまいます。
バックエンドに対する過度なカスタマイズ
ERPの機能は、在庫・購買管理や人事、会計など直接競争力と結びつきにくいバックエンドに対するものが多いです。この部分に過度なカスタマイズを施すと、コストが膨れ上がり、回収するまでに膨大な時間を要してしまいます。
業務プロセスを守りすぎるためにコスト増
既存の業務プロセスをほとんど変えずに、すべてをカスタマイズでカバーすると、カスタマイズの費用は膨れ上がります。また、稼働開始までのリードタイムが伸びれば、企業の業績に悪影響が出ることもあります。
ERPカスタマイズによる失敗を防ぐために
前述のような問題を防ぐためには、以下2つの点に配慮したカスタマイズがおすすめです。
ERP側に業務プロセスを合わせる
ERPが持つ機能に業務プロセスをできるだけ寄せていくことで、カスタマイズはシンプルになっていきます。シンプルさゆえに機能間の整合性も取りやすく、エラーが発生するリスクを抑えられます。また、カスタマイズにかかる工期や費用も圧縮できるでしょう。
テンプレート機能や標準機能をできるだけ活用する
現在では業界や業種に特化したテンプレートを提供し、ほとんどカスタマイズを行うことなく、複雑な業務に対応できる製品が増えています。こうしたテンプレート機能や標準機能をできるだけ活用することで失敗を防ぎやすくなります。
カスタマイズはERPをしっかり理解した上で行いましょう
この記事では、ERPにおけるカスタマイズの概要やアドオンとの違い、発生しうる問題と対応方法などを解説しました。カスタマイズは、導入の成否を左右する重要な工程です。ERPの特性と自社要件をしっかりと比較し、問題が生じにくい導入を目指していきましょう。マネーフォワードでは、ひとつの機能から利用を開始できる「マネーフォワード クラウドERP」を提供しています。カスタマイズの必要性が生じにくく、小さく確実なERP導入が可能です。
よくある質問
ERPのカスタマイズとは何ですか?アドオンとの違いは?
ERPのカスタマイズとは、標準機能の範囲内で設定変更を行うことです。これに対してアドオン開発とは、標準機能とは別の機能を独自に開発・付与することを指します。詳しくはこちらをご覧ください。
ERPのカスタマイズで発生する問題を防ぐには?
できるだけERP側に業務プロセスを寄せつつ、シンプルな導入を心掛けることでカスタマイズの問題を防ぐことができます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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