- 更新日 : 2024年7月22日
特例事業承継税制とは?一般措置との違いや申請の流れを解説
特例事業承継税制は、2009年度に定められた事業承継税制の中でも10年間限定の措置として利用可能な制度です。事業承継を検討している中小企業にとっては、より納税の猶予や免除が受けやすい制度となっています。
本記事では、特例事業承継税制の概要について解説し、適用条件やメリット、申請の流れや中小企業での適用事例などについて解説します。
目次
特例事業承継税制の概要
はじめに、事業承継税制の概要、特例措置と一般措置との違い、税制の対象について解説します。
事業承継税制とは
事業承継税制は、中小企業が事業承継をスムーズに行うことを目的に2009年に定められました。通常、事業承継によって取得した株式には贈与税や相続税がかかりますが、本税制を利用することにより納税に対する猶予が受けられ、更に一定の条件を満たせば猶予された納付の免除も可能となります。
この制度が設けられた背景には、承継した資産が株式の場合、後継者に納税用の現金を別途用意する負担が生じ、現金で承継したケースに比べて金銭準備の負担が大きいという問題がありました。
相続財産が株式であっても事業承継しやすい仕組みを整えることで、中小企業の事業承継に対するハードルを下げ、より柔軟な形で事業承継を実現する狙いがあります。
特例事業承継税制と一般措置の違い
2018年の税制改正で、事業承継税制の利用を促進するために特例措置が設けられました。特例措置では2027年までの10年間限定で要件が緩和されており、特例承継計画の提出を条件に贈与税・相続税ともに全額納税の猶予を受けられます。
特例事業承継税制 | 一般措置 | |
---|---|---|
対象の株数 | すべての株式 | 総株式の2/3まで |
猶予される税額の割合 | 相続税:100% 贈与税:100% | 贈与税:100% 相続税:80% |
適用期限 | 2027年12月31日まで | なし |
特例承継計画提出の要否 | 必要 | 不要 |
後継者の人数 | 最大3人 | 1人 |
特例事業承継税制の対象
特例承継計画を提出し、2018(平成30)年1月1日から2027(令和9)年12月31日までに贈与、相続によって会社の株式を取得した経営者が対象です。
一般措置では、先代経営者1人から後継者1人への贈与、相続のみが対象となります。
特例措置では親族外すべての株主の中から、最大3人までの後継者への贈与、相続が対象となります。
特例事業承継税制適用の要件
税制適用の要件について、以下の3つに分けて解説します。
- 経営者の要件
- 後継者の要件
- 会社の要件
経営者の満たすべき要件
経営者が満たすべき要件は以下のとおりです。
- 会社の代表者である
- 相続、贈与の前に筆頭株主である
- 親族などで総議決権数の過半数を保有している
- 贈与によって代表を退任する
- 過去に特例措置を適⽤した贈与をしていない
経営者は代表を退任した後も、有給の役員として会社に残ることが可能です。
後継者の満たすべき要件
後継者が満たすべき要件は以下のとおりです。
- 親族などで総議決権数の過半数を保有している
- (後継者が1⼈の場合)相続、贈与の後に筆頭株主である
- (後継者が複数の場合)各後継者が総議決権数を10%以上を保有している
- (相続の場合)相続開始の直前に役員である
- 過去に対象の株式に一般措置を適用していない
相続の場合は、経営者が70歳未満で死亡した場合や、相続発生前に提出した特例承継計画の中に特例後継者として記載されている場合でも後継者として認められます。
会社の満たすべき要件
会社が満たすべき要件は以下のとおりです。
- 中小企業者である
- 上場会社・風俗営業会社に該当しない
- 従業員数が1人以上である
- 資産保有型会社等に該当しない
中小企業に該当するかどうかは、業種・資本金・従業員数により異なります。詳しい条件は中小企業庁のHPで確認することができます。
特例事業承継税制のメリット
本章では、特例事業承継税制のメリットである以下の2点について解説します。
- 相続税、贈与税の負担軽減
- 多様な事業承継に対応可能
相続税、贈与税の負担軽減
税制の活用により、事業承継を行う中小企業の税負担が大きく軽減されます。事業承継によって本来発生する相続税、贈与税の100%の猶予が認められ、条件を満たせば免除を受けられるためです。
事業承継にかかる2つの税負担を気にする必要がなく、資金を会社の成長投資に有効活用できます。事業承継にかかる税負担をネックに感じる企業にとって、助けとなるでしょう。
多様な事業承継に対応可能
特例措置は一般措置に比べさまざまなパターンの事業承継に対応しており、企業の事情に合った柔軟な事業承継が実現できます。一般措置では後継者が1人の場合のみ想定されていますが、特例措置では最大3人までの後継者への承継に適用できます。
事業承継後は共同経営を行うことも可能で、要件を満たせば親族外承継にも適用できます。税制を活用したさまざまなパターンから自社に最適な事業承継の形を探ることができるでしょう。
特例事業承継税制の利用に必要な書類と申請の流れ
特例事業承継税制の利用には、以下の必要書類を用意し所定の申請を行います。
特例事業承継税制に必要な書類一覧
- 特例承継計画
税制適用を受けるために提出が必須となります。申請企業は認定支援機関の協力を得て特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出します。 - 年次報告書
税制の要件を満たしていることを都道府県に示すために提出が必要です。提出を怠ると、猶予されていた相続税、贈与税の納税義務が生じます。 - 継続届出書
税制の要件を満たしていることを税務署に示す必要があります。提出を怠ると、猶予されていた相続税、贈与税の納税義務が生じます。
特例事業承継税制の申請手続き
特例承継計画の提出から認定までの詳細な流れは以下のとおりです。
1.特例承継計画の作成
特例承継計画は株式を相続した後に作成することも可能です。
2.先代経営者の相続の発生
相続対象の株式などの遺産分割は認定申請時までに完了している必要があります。
3.都道府県知事への認定申請
相続開始から8ヶ月以内に、本社のある都道府県庁へ認定申請を行います。
4.税務署への相続税の申告
相続開始から10ヶ月以内に、所轄の税務署へ相続税の申告を行います。申告には都道府県知事の認定書など書類の提出と、猶予される相続税額と利子と同等の額の担保の提供が必要です。
特例事業承継税制の適用事例と効果
特例事業承継税制の適用事例と効果を紹介します。
特例事業承継税制の適用事例
北海道で建築業を営む中小企業では、特例事業承継税制の活用を機に事業の引き継ぎと株式の譲受を行うことを決断。特例事業承継税制の活用により、承継時の税負担なく全株式を承継することに成功しました。
承継後は組織的な企業変革に加え、既存事業のノウハウを活かした店舗デザイン・工事や、カフェの運営を行う会社を設立。猶予された税金分を事業に投資することで事業の多角化に成功し、グループ全体で売上増を達成しています。
特例事業承継税制の効果
特例事業承継税制の活用が予定していた後継者への事業承継を後押しし、承継時の贈与税、相続税の負担なく全株式を承継できます。
猶予額算出の元となる株価は承継時に算定されることから、承継後に企業価値が上昇すればするほど実質的な税負担が緩和される点もメリットです。後継者の成長志向が強ければ強いほどより多くの恩恵を受けられる税制でもあるでしょう。
まとめ
特例事業承継税制の適用により、中小企業は相続や贈与にかかる税負担を抑えた事業承継が可能となります。経営者、後継者、会社がそれぞれの要件を満たすことで相続税、贈与税の納付の猶予を受けられ、更に条件を満たせば免除も可能です。
さまざまな形での事業承継に対応可能な本制度の利用には、特例承継計画、年次報告書などの提出と、定められた申請の手続きを経る必要があります。制度の効果的な適用により、税の免除に加えて事業拡大の一助になるメリットを享受することができるでしょう。
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