- 更新日 : 2024年7月12日
ベンダーロックインとは?リスクと対策方法を解説
ソフトウェアの機能改修やバージョンアップなどを、導入を実施してもらったベンダーに依存してしまっていませんか?
ベンダーロックインとは、コストや工数などのさまざまな要因によって、導入時のベンダーから他社への移行が難しくなる状態をいいます。
ベンダーロックイン状態になると機能改修やバージョンアップの適正な価格が把握できず、ベンダーの提示された条件や金額で実施せざるを得ない状況に陥ってしまいます。
この記事では、ベンダーロックインとは何か?脱却したい場合はどうすればいいのか?について、ベンダーロックインのリスクを確認しながら、その対策も含めて詳しく解説します。
ベンダーロックインの基本
はじめに、ベンダーロックインの概要や、そこに潜むリスクについて解説します。
ベンダーロックインとは
ベンダーロックインとは、企業内で使用するソフトウェアやシステムの導入・更新をする際に、特定のベンダーの製品やサービスに強く依存してしまう状態をいいます。
特定のベンターを継続的に利用しなければ正常な運用が困難な状況になり、コストや工数などのさまざまな観点から、導入時のベンダーから他社ベンダーへ切り替えることが難しくなっている場合が多いです。
ベンダーロックインには大きく2種類あり、コーポレートロックイン(システムが特定のベンダーに依存)と、テクノロジーロックイン(サービスやシステムの仕様、開発手法に依存)があります。
コーポレートロックイン
ここでは、コーポレートロックインの概要とリスクについて解説します。
コーポレートロックインとは、ベンダーが自社システムの仕様を深く理解していることにより、他社ベンダーへの移行が難しい状態のことを指します。コーポレートロックインのリスクは、ベンダー側で製品やサービスを値上げした際に、自社の事業を継続させるためには応じなければいけない点です。
他社製品へ乗り換えようとしても、同じようなシステムを構築するには膨大な移行コストが発生します。このコスト負担を考慮し、継続して同じベンダーへ依頼することになるのです。
テクノロジーロックイン
テクノロジーロックインは、ベンダーの技術(提供しているサービスやシステムの仕様、開発手法など)に依存している状態のことを指します。テクノロジーロックインのリスクは、ベンダー側の変更の影響を強く受けやすい点です。
特にベンダーが提供しているクラウドサービスだけを利用している場合、価格変更やサービス停止などの影響を受けやすくなります。価格変更に従わないと自社業務に影響が及ぶ可能性が高くなるため、価格変更を受け入れなければならず、ランニングコストの増加につながるでしょう。
ベンダーロックインのリスク
ベンダーロックインにはいくつかのリスクが伴います。代表的なリスクは以下のとおりです。
- 運用やサービス条件への依存
特定のベンダーに依存してしまうことで、他のサービスや製品への移行が困難になります。これを理由にベンダー側の意見や方針を聞き入れなければならなくなり、企業に最適な運用が難しくなることがあります。 - 価格交渉が難しい
他社を検討するのが難しい場合は、価格交渉が難しくなります。ベンダー側の提示価格で応じなければならなくなり、長期的に見るとコストが高くなるリスクがあります。 - 製品更新に依存する
現在は製品やサービスの性能の向上が急速に進んでいますが、それらの機能追加や更新についてもベンダーに依存することになります。ベンダーがそれらに対応していない場合、最新技術を取り入れることができない恐れがあります。 - .移行コストが高くなる
新しいシステムへ移行する際は、膨大な時間とコストがかかります。具体的には、システムの再構築やデータの移行、従業員へのトレーニングなどが必要です。システムの規模が大きくなるほど、これらの作業に伴うコストは増大します。 - 柔軟な対応ができなくなる
特定のベンダーに依存していると、ビジネス環境の変化や顧客のニーズに対して柔軟に対応できなくなるリスクもあります。市場の変化に迅速に対応できないと、顧客満足度の低下やビジネス機会の損失につながるため、注意しなければいけません。 - ベンダーのセキュリティレベルが低いと、脆弱性が発生しやすくなる
ベンダーのセキュリティ対策が不十分だと、システムに脆弱性が生じやすくなります。ベンダーのセキュリティ対応が遅れると、その分脆弱性が放置されることになり、結果としてサイバー攻撃のリスクも増大するでしょう。 - 競争力の低下につながる
ベンダーロックインに陥ると、最新の技術やより優れたソリューションを導入することが難しくなるため、競争力の低下につながるでしょう。競合他社が最新技術を採用している場合、業界内での競争力を維持できなくなります。
ベンダーロックインのメリット
ベンダーロックインはさまざまなリスクがありますが、企業によってはメリットになるケースもあります。主なメリットは、下記の2点です。
- ベンダーのサポートを受けやすくなる
一つ目が、ベンダーのサポートを受けやすくなる点です。ベンダーロックインの状態が続くと、ベンダーに社内の業務や課題などを深く理解してもらえます。その結果、課題解決に必要なIT機器やシステムなどを提案してもらえる可能性が高くなります。さらに、ベンダーとの信頼関係が強固になることで、将来的な機器の更新計画などの相談もしやすくなるでしょう。 - 社内のシステムを管理しやすくなる
二つ目のメリットが、社内のシステムを管理しやすくなる点です。特に50人以下の中小企業の場合は、ベンダーロックインの状態によっては利用するシステムが全て統一される場合もあります。その結果、システム管理を円滑に実施できるでしょう。
ベンダーロックインが起きる主な要因
ベンダーロックインが起きる要因として、よく挙げられる4点を解説します。
ドキュメントが整備されていない
システムを構築した際の設計書や仕様書を常に最新状態にしていないと、現在利用しているシステムの詳細な仕様を把握できません。その結果、システムの実際の動作と設計書の内容が一致しない状態につながります。他のベンダーはシステムの構造を正確に把握できないため、システム移行を進められなくなるのです。
契約期間・保守期間が足かせとなっている
システム導入時は、ベンダーと保守契約を締結するケースがよくあります。しかし、この契約が縛りとなって他ベンダーへの移行が難しくなることもあるため、注意しましょう。
ベンダーと保守契約を結んだ場合、契約期間が終了するまでメンテナンス費を払い続けることが一般的です。仮に契約期間中に解約を希望したとしても、契約内容によっては多額の違約金が発生するケースもあります。多額の違約金の支払いを回避するには、保守契約が終了するまで既存のベンダーとの取引を継続するしかありません。このように、他ベンダーへの移行が難しくなることで、ベンダーロックインが起きるのです。
独自の業務プロセス・ルールにより、システムが複雑化している
業界特有の商習慣や自社独自の業務プロセスに合わせてシステムを設計すると、システムが複雑化しやすくなります。特に自社業務に合わせたスクラッチ開発を繰り返すと、システムの改修がより難しくなるでしょう。その結果、標準的なソフトウェアや他のベンダーへの切り替えが難しくなり、ベンダーロックインにつながります。
独自の技術を採用している
独自の技術を採用していると、他のベンダーに移行する際に互換性の問題が生じます。例えば、標準化されていない独自の技術を使っていると、移行時に新しいベンダーがその技術に対応できません。また、技術習得にも多大な時間・コストがかかるでしょう。この高額な移行コストを避けるために、現行のベンダーに頼らざるを得なくなるのです。
ベンダーロックインを避けるための方法やポイント
ベンダーロックインを回避するためには、以下のポイントを抑えておくとよいでしょう。
ベンダー固有の技術の回避
導入をベンダー固有の技術や手法で進めてしまうと、自社内でシステム設計の内容を把握することが難しくなり、また他社も改修などでの介入が難しくなるケースが多いです。
オープンソースを活用したアプリケーションやクラウドサービスを検討することで、幅広いベンダーでの改修が可能となり、特定のベンダーへの依存度が低くなるでしょう。
システム仕様書の取得と最新化
システム導入時には、システム設計を明示する設計書やテスト結果報告書などのドキュメントを受け取ることができるように、必ず納品物として契約に盛り込んでおきましょう。
また、これらは改修時などに更新し、常に最新の状態にしておくことが重要です。
もしドキュメントが存在しない、最新の状態でない場合は、導入ベンダーやシステムの運用保守を担当するベンダーに整備を依頼し、第三者が確認しても理解できる状態にしておきましょう。
契約内容の精査
システム導入の検討時や契約締結前には、評価基準を設定することが重要になります。
契約内容に不利益な条件がないかを確認することで、ベンダーロックイン状態を事前に回避しましょう。
また、すでに契約済みの場合は早めにベンダーへ問い合わせし、契約内容の見直しを行いましょう。
長期的な柔軟性
長期的にシステムを利用する場合、必ずシステムの機能追加や改修が発生します。
開発の初期段階から、標準化された技術や互換性のある技術を活用することで将来の移行が容易になり、ベンダーロックインのリスク低減につながります。
コスト管理の徹底
導入時の費用が他社より安価であったとしても、継続的に運用していく中で、提案されるシステム改修や保守にかかる費用が高額になってしまう場合があります。
初期費用だけでなく、長期的な運用や今後の改修も見据えた検討を行うことで、ベンダーロックインのリスクを効果的に低減できるのではないでしょうか。
マルチベンダー戦略
マルチベンダー戦略とは、複数のベンダーの製品やサービスを組み合わせて利用する方法のことです。マルチベンダー戦略は、特定のベンダーに依存せず、柔軟で競争力のあるIT環境を構築できるというメリットがあります。
マルチベンダー戦略を採用することにより、仮にあるベンダーで価格が急上昇したり、サービスが不安定になったりした場合でも、他ベンダーへ移行するという選択肢が生まれます。価格やサービス品質の変動にも柔軟に対応することで、コストやパフォーマンスの最適化を図れるのです。
マルチベンダー戦略では、ベンダーごとに提供されるサービスや技術を自由に選択できます。そのため、事業の状況に応じてシステムを容易に拡張・縮小することが可能です。例えば、特定のサービスが必要になった場合は、最適なベンダーを選んで導入でき、不要になれば別のサービスに乗り換えるといった形で対応できます。
自社開発
自社開発とは、外部のベンダーに依存せず、自社でシステムを開発・運用する方法のことです。自社開発もベンダーロックインを避ける方法の一つとなっています。自社開発のメリットは、会社固有のニーズに合わせてシステムをカスタマイズできる点です。
会社独自の業務フローや要件に合わせて必要な機能だけを実装することで、最適化されたシステムを構築できます。特定のベンダーに依存しないため、他社製品や外部システムの制約を受けることなく、自社のペースで改良を続けられるのもメリットです。
しかし、自社開発は初期コストが大きく、専任の技術者やチームを確保する必要があります。加えて、継続的な保守・運用を担う人材も確保しなければなりません。自社開発を検討する際は、初期コストと運用負担を十分に考慮する必要があります。
移行計画の策定
ここでは、ベンダーロックインからの脱却に向けた効果的な移行計画の策定方法についてご紹介します。
社内に専任担当者を配備
まず、社内に専任の担当者を置くことが有効です。自社の業務や既存システムの状況と課題などを理解し、一貫性を担保しながら進めることが可能となります。
移行計画書の策定
ベンダーロックイン状態からの脱却には、既存システムから新しいシステムに移行する必要があります。これをマイグレーションと言います。
マイグレーションの際には、移行計画書に沿ってシステム移行を進めていきます。
その際は、移行のノウハウを多く保有しているベンダーに移行計画の策定を依頼することも検討するとよいでしょう。
これらのプロセスは時間とコストを要しますが、長期的な視点で見ると、柔軟性の向上や最新技術の活用、ベンダー間の比較による適正価格でのシステム構築などにつながります。
また、ERPシステムなどを導入し組織全体の見直しや業務のスリム化を行うことで、既存システムからの移行をより促進する効果が期待できます。
リスク管理とモニタリングの重要性
ベンダーロックインを防止するためには、リスク管理とモニタリングが不可欠です。
ベンダーロックインを防止するリスク管理
ベンダーロックインを回避するためには、リスク管理を行うことが重要です。
リスク管理には、システムのブラックボックスを防ぐためのドキュメントの整備、業務の属人化防止や運用保守をベンダーに全て任せてしまわないようにすることなどが含まれます。
契約前から導入、運用フェーズに入っても定期的にリスク管理を行うことで、ベンダーロックインの防止に努めるべきです。
ベンダーロックインを防止するためのモニタリング
ベンダーロックインのリスクを最小限に抑えるためには、継続的なモニタリングが重要となります。
ベンダーマネジメント管理として、VMO(Vendor Management Office)と呼ばれるベンダーマネジメントを専任で行うための組織を設立し、半期や年ごとに定期的なベンダー評価を行うことが有効です。
まとめ
ベンダーロックインの概要から、脱却したい場合の対処法、リスクとその対策についてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?
ベンダーロックインを回避することが重要ですが、もし既に陥ってしまっている場合は現状の把握からしっかりと行い、計画立てて脱却に向けたアクションを進めてみてください。
企業活動の一端を担うシステムを柔軟に継続的に活用していけるよう、リスク管理と継続的なモニタリングを行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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