- 更新日 : 2024年7月16日
アンゾフの成長マトリクスとは? 企業事例や経営戦略をわかりやすく解説
アンゾフの成長マトリクスとは、成長戦略の方針を策定するフレームワークのことです。市場と製品の2つの軸に分け、さらに「既存」と「新規」で区分した4象限のマトリクスを指します。本記事では、アンゾフの成長マトリクスの4つの戦略の概要、多角化戦略の方向性を例を交えて解説するほか、企業事例をご紹介します。
目次
アンゾフの成長マトリクスとは?
アンゾフの成長マトリクスとは、経営戦略のフレームワークの一種です。市場と製品の2つの軸で成長戦略を検討し、さらに「既存」と「新規」の切り口から考察するためのツールです。4象限から企業の成長戦略オプションを抽出するもので、業種を問わず幅広いビジネスで成果を発揮すると考えられます。
戦略的経営の父として知られる経営学者のイゴール・アンゾフが、1965年に著書「企業戦略論」の中で提唱しました。
アンゾフの成長マトリクスを活用する場面
アンゾフの成長マトリクスの活用によって効果が得られる場面としては、以下の3つが挙げられます。
- 事業が伸び悩んでいるとき
- ビジネスのブラッシュアップを検討するとき
- 新規事業のプランニングをするとき
それぞれの場面について解説します。
事業が伸び悩んでいるとき
アンゾフの成長マトリクスは、自社の既存事業が成熟や縮小の状態にあったり伸び悩んでいたりする際に、その打開策を得るために活用すると効果的です。
4つのうちどの戦略に注力するのが企業にとって有益かを見極め、リスクが少ないかを検討するツールとして役立ちます。
ビジネスのブラッシュアップを検討するとき
ビジネスモデルを検討する際には、「ズームイン・ズームアウト」という3ステップで検証や修正を行い、ブラッシュアップしていくことが有効です。
そのうちのズームアウトのステップでは、外部環境を掴むのに適したアンゾフの成長マトリクスを活用することがおすすめです。自社に影響を及ぼす可能性のある外部環境を分析するのに効果を発揮し、ビジネスモデルの再構築がしやすくなるでしょう。
新規事業のプランニングをするとき
新規事業のプランニングを行う際にも、アンゾフの成長マトリクスの活用が適しています。ビジネスモデルに深刻な影響をもたらすであろう外部環境を事前に把握することで、無用なリスクを回避できます。その結果、効率的に改善や再構築を行える可能性が高まるでしょう。
アンゾフの成長マトリクスの4つの戦略
アンゾフの成長マトリクスにおける、4つの戦略は以下のとおりです。
- 市場浸透戦略(既存市場×既存製品)
- 市場開拓戦略(新規市場×既存製品)
- 製品開発戦略(既存市場×新規製品)
- 多角化戦略(新規市場×新規製品)
各戦略を解説します。
市場浸透戦略(既存市場×既存製品)
「市場浸透」は、既存の製品を用いて既存の市場での成長を狙う考え方であり、もっともリスクが低くビジネス展開をしやすい戦略といえるでしょう。具体的には、同一顧客の購入頻度を向上させる、販売量を増やすなどを目的とした施策を実行します。
かつて、ある清涼飲料メーカーは、「喉が渇いたときに飲む」から「喉の渇きの有無にかかわらずリフレッシュのために飲む」、「とくに理由はなくても飲む」とキャンペーンを展開しました。既存の市場で既存の製品の購入頻度を上げるための、わかりやすい事例といえます。
市場開拓戦略(新規市場×既存製品)
既存の製品を新しい市場に販売していく戦略が、「市場開拓戦略」です。これまでアプローチしてこなかった、新規のエリアやターゲットなどを対象に市場を開拓します。事業拡大の効果を得られる市場を見極めるには、ある程度専門的な調査や分析が必要です。そのため、「市場浸透戦略」よりもリスクが高いといえるでしょう。
たとえば、これまで子どもを対象としていた商品を大人向けに販売する、海外進出をするといったターゲット戦略が「市場開拓戦略」に該当します。
製品開発戦略(既存市場×新規製品)
「製品開発戦略」は、既存の市場に新しい製品を展開する戦略です。すでに存在する市場のニーズを汲み取り、新たな価値を提供することが求められます。研究施設や製造設備などへの投資が必要になることも多いため、「市場浸透戦略」よりもハイリスクであることが特徴です。既存製品に新しい機能やサービスを追加する戦略は、この「製品開発戦略」にあたります。
多角化戦略(新規市場×新規製品)
新しい製品を新市場に展開する戦略を、「多角化戦略」と呼びます。既存事業の衰退リスクを分散させるために効果的ですが、市場にも製品にも取っかかりがないため、4つの戦略オプションの中でもっともリスクが高い戦略に位置づけられるでしょう。
ベンチャー企業のほとんどは、経営そのものがこの第4象限に属しています。また、新規事業開発も、通常はこの「多角化戦略」に該当することを押さえておきましょう。
アンゾフの成長マトリクス「多角化戦略」の4つの方向性
アンゾフの成長マトリクスでは、第4象限にあたる「多角化戦略」をさらに以下の4つに分類しています。
- 水平型多角化
- 垂直型多角化
- 集中型多角化
- 集成型多角化
各戦略について確認しましょう。
水平型多角化
「水平型多角化」は、企業がすでに持っている技術などを活用し、既存の顧客に近い客層に製品を販売していく戦略を指します。
たとえば、自動車メーカーがバイクの生産を始めるといったケースをイメージするとよいでしょう。これまで培ってきた技術やすでにある設備などを活かせるため、比較的低リスクで実行できます。
垂直型多角化
「垂直型多角化」は、既存の顧客や取引先あるいはそれらに似た市場に、新製品や新サービスを投入する多角化です。
たとえば、輸入豆を材料としてコーヒーショップを展開している企業が、自社栽培で収穫したコーヒー豆の販売業を始めるようなケースが挙げられます。「水平型多角化」と比較すると、新設備への投資や新たなノウハウの獲得を行う必要があり、リスクが高まります。
集中型多角化
既存の技術やノウハウとの関連性が高い新製品や新サービスを作り、新分野に進出してくのが「集中型多角化」です。カメラメーカーが医療用レンズを開発するケースや、ペットフードの製造技術を離乳食に応用するといったケースが該当します。
新分野で製品をヒットさせられれば企業は大きく成長できますが、既存事業とは異なる分野での事業展開となるため、その分のリスクは大きくなります。
集成型多角化
「集成型多角化」は、既存の技術やノウハウ、市場ともにまったく関連性のない事業に進出する多角化のことです。ほかの3つの多角化戦略よりも、相乗効果やシナジー効果は低く、リスクが高いことも特徴です。
たとえば、食品メーカーが金融事業に参入するといったケースが該当します。ただし、既存の事業が衰退した場合にリスクを分散できるという点がメリットです。
アンゾフの成長マトリクスの企業事例
ここからは、アンゾフの成長マトリクスを活用した実際の事例として、「富士フイルム株式会社」と「株式会社吉野家」のケースをご紹介します。
富士フイルム株式会社
富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)のヘルスケア事業への参入は、多角化戦略の成功事例です。
2000年代にデジタルカメラの普及によって、これまで富士フイルムの売上の6〜7割を占めていた写真関連事業が大きな打撃をうけます。このとき、写真フィルムの開発・生産で培ってきた技術を応用できる分野を検討し、多角化戦略を推進しました。さまざまな事業を展開し成長を遂げ、なかでもヘルスケア事業で大きな成功を収めました。
株式会社吉野家
牛丼チェーンの株式会社吉野家(以下、吉野家)は、中華圏進出を果たしています。本格進出を始めた当初、中華圏において牛丼は馴染みのない料理でしたが、あえて高級路線を選択し、価格帯や座席などを国内店舗とは異なるスタイルで進出したことが功を奏します。そして、ついには北京で「消費者がもっとも愛するブランド」に選ばれました。吉野家の中華圏進出は、市場開拓戦略における成功事例の1つです。
アンゾフの成長マトリクスを活用して成長戦略を検討しよう
アンゾフの事業拡大マトリクスは、「市場」と「製品」をそれぞれ縦軸と横軸に取り、さらに「既存」「新規」の2つの区分を設定した、成長戦略のフレームワークです。「市場浸透戦略」「市場開拓戦略」「製品開発戦略」「多角化戦略」の4つに分類されます。
アンゾフの事業拡大マトリクスは、事業を発展させるための計画と戦略を策定するのに役立ちます。本記事を参考に、自社にとって有益な成長戦略を検討しましょう。
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