- 更新日 : 2024年7月12日
個別原価計算とは?メリットや注意点、計算方法、効果的なツールを解説
個別原価計算とは、製品やプロジェクトごとに原価を計算する方法です。多品種少量生産を行う製造業やプロジェクト単位で活動するコンサルティング業界・サービス業界などで多く用いられています。
本記事では、個別原価計算の概要やメリット、注意点、計算方法、効的なツールについて解説します。
目次
個別原価計算とは
はじめに、個別原価計算の概要や総合原価計算との違いについて解説します。
個別原価計算の概要
個別原価計算とは、原価計算方法のひとつであり、製品やプロジェクト単位で個別に原価を計算する方法です。
現在日本では、1962年に当時の大蔵省企業会計審議会が公表した「原価計算基準」に準拠して計算を行うのが一般的となっています。
個別原価計算は、受注生産やロット生産などを用いて、多種多様な製品を少量ずつ生産する企業や、顧客からの注文に応じて商品を生産する業種などに適しています。具体的には以下のような業種が該当します。
- 造船業
- 建設業
- 印刷業
また、プロジェクト型のビジネスを展開する企業や業種も、各プロジェクトによって原価が異なるため、個別原価計算を用います。具体的な業種は次のとおりです。
- システム開発業
- イベント業
- コンサルティング業
- 広告業
- 士業 (公認会計士や弁護士など)
総合原価計算との違い
個別原価計算とは対照的な計算方法として、総合原価計算があります。
総合原価計算とは、ある期間内に生産した製品の総原価を総生産量で割り、平均原価を算出する方法です。同種類の製品を大量生産する企業などに適しています。総合原価計算を利用する業種の例は次のとおりです。
- 自動車製造業
- アパレル業(衣料品)
- 食品および飲料業
- 製鉄業
- 製紙業
個別原価計算と総合原価計算の主な違いは、原価計算を適用する対象や生産形態などにあります。両者の差異を表にまとめると、次のようになります。
個別原価計算 | 総合原価計算 | |
---|---|---|
生産方式 | 受注生産やロット生産 | 大量生産 |
計算方法 | 直接費と間接費に分けて算出 | 材料費と加工費に分けて算出 |
計算単位 | 1件ごと | 一定期間 |
主な業種 |
なお、以下の記事では総合原価計算について詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
個別原価計算を行うメリット
個別原価計算を行うメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
- 製品やプロジェクトごとに原価を正しく把握できる
- 利益状況をリアルタイムで確認できる
- 今後の製品・プロジェクトにおける原価見積もりに活かせる
製品やプロジェクトごとに原価を正しく把握できる
個別原価計算を行うメリットのひとつは、製品やプロジェクトごとに原価を正しく把握できる点です。
そもそも原価計算の大きな目的は、原価を正しく計算・把握することであるため、個別原価計算は原価計算の目的に沿った計算方法であるといえます。
製品やプロジェクトの原価を正確に把握することで、業務現場の状況を正しく理解することにもつながります。
利益状況をリアルタイムで確認できる
個別原価計算を行うことで、製品やプロジェクトの利益状況をリアルタイムで確認できることもメリットです。
製品やプロジェクトごとに利益がどの程度出ているかを把握できるため、計画との差異分析などを製品・プロジェクト単位で詳細に行えます。
また、赤字が出ている場合でもタイムリーに状況を把握でき、迅速な改善施策の検討・実行につなげることも可能です。
今後の製品・プロジェクトにおける原価見積もりに活かせる
個別原価計算は、計算対象の製品・プロジェクトだけでなく、今後の製品の製造やプロジェクトにおける原価の見積もりにも活かせます。
過去の実績値などの参考情報がない中で原価の見積もりを行うことは容易ではなく、担当者の経験や知識に依存しがちな側面もあるでしょう。
しかし、これまでの製品・プロジェクトの個別原価計算のデータがあれば、似たような製品の製造やプロジェクトを行う際の参考にできます。
個別原価計算の方法
ここでは、個別原価計算の方法について、以下の手順に沿って解説していきます。
- 原価を費目別に集計する
- 原価を部門別に振り分ける
- 部門別に振り分けた原価をプロジェクト別に振り分ける
1.原価を費目別に集計する
はじめに、製品やプロジェクトに関する原価情報を費目別に集計します。
費目は大きく直接費と間接費に分かれ、直接費には労務費・材料費・外注費などが含まれます。
- 直接費:製品の製造やプロジェクトの実行に直接かかった費用
- 労務費:従業員の人件費など
- 材料費:製品の原材料費、サーバー調達費など
- 外注費:グループ企業への業務委託費用など
- 間接費:製品やプロジェクトに直接関係しないオフィス賃料や光熱費など
2.原価を部門別に振り分ける
次に、費目別に集計した原価を各部門に振り分けていきます。直接費は製造部門や開発部門などに振り分け、間接費は管理部門に振り分けることが一般的です。
その上で、管理部門に振り分けた間接費については、社内の一定の基準に基づき、各製造部門や開発部門に対して配賦を行います。
3.部門別に振り分けた原価をプロジェクト別に振り分ける
各製造部門や開発部門は、配賦された間接費に対して、工数比などの基準に基づいて各製品・プロジェクトへの配賦を行います。
各製品・プロジェクトにかかった直接費と配賦された間接費を合計することで、製品・プロジェクトごとの個別原価を算出することが可能です。
個別原価計算の流れ
個別原価計算の方法を押さえたところで、個別原価計算の流れについても解説します。主な流れは次のとおりです。
- 企業は顧客から注文を受けた段階で「製造指図書」を発行する。
- 製造指図書を元に原価計算表を作成する。
- 製品の製造に伴う直接費は発生の都度記録し、間接費は定期的に集計および配賦した結果を原価計算表に記載する。
- 製品完成時に原価計算を行う。
なお「製造指図書」とは、製品を製造するために必要な情報を記載した書類を指します。個別原価計算を行う業種や企業では、受注生産やロット生産を行います。
そのため、どのような材料を使い、どのような加工を施すかなどは商品によって異なっており、それらを管理するのが製造指図書です。
製造指図書に記載する内容は企業によって異なりますが、主な項目は以下のとおりです。
- 品名
- 規格
- 生産数量
- 受注先(得意先)
- 注文書番号
- 製造着手予定日/製造完了予定日
- 製造着手日/製造完了日
- 納期
- 引渡場所
- 入金条件
実際の現場では、この製造指図書を各部門が受け取ることによって業務が流れるように設計されているため、これは極めて重要なものだといえます。
また、製造指図書を元に作成する「原価計算表」は、商品ごとの原価を管理するための資料です。製造指図書と原価計算表は、同一の指図書番号で管理されます。
原価計算表では、主に次の項目を管理します。
- 前月繰越高
- 直接費
- 製造間接費
- 備考 (主に商品に対する月末の所在を記載)
個別原価計算を行う際の留意点
個別原価計算を正しく行うためには、いくつかの留意点があります。
具体的には次のとおりです。
- 直接費の厳密な管理
- 間接費の割り当て(配賦)
- データ管理
直接費の厳密な管理
個別原価計算では「ある製品を製造する過程」あるいは「あるプロジェクトを進行する過程」で発生した直接費を、漏れなく正確に管理する必要があります。
万が一直接費の計上が漏れていた場合、その状態で算出した製造原価は誤ったものとなります。その「誤った製造原価」をもとに商品の売価を設定してしまうと、本来得られるはずだった利益の減少(場合によっては売却するたびに損失発生)につながります。
このような事態を防ぐためにも、直接費を厳密に管理する仕組みを構築することが重要だといえます。
間接費の割り当て(配賦)
間接費とは、製品やプロジェクトに直接関係しないオフィス賃料や光熱費などを指します。また、工場の場合は複数商品の製造に利用する機械設備の減価償却費なども含まれます。これらの間接費について商品ごとにかかった金額を明確に管理するのは難しいため、一定のルールに基づいて部門や商品ごとに費用を割り振ります。この処理を「配賦」といいます。
なお、間接費の配賦方法についての法律やルールなどはありません。そのため、各企業が適切に製品やサービスに間接費を割り当てる方法を検討・実施する必要があるのです。
主な間接費の割り当て(配賦)方法は以下のとおりです。
配賦方法 (大分類) | 配賦方法 (小分類) | 概要 |
---|---|---|
部門別配賦 | 直接配賦法 | 間接部門で発生した費用をすべて直接部門へ割り当てる方法。 |
階梯式配賦法 | 間接部門に優先順位を設定し、その優先順位に従って直接部門へ割り当てる方法。 | |
相互配賦法 | 「一次配賦」と「二次配賦」の2Stepで割り当てる。 一次配賦で間接費を全部門へ割り当て、二次配賦で「一次配賦で間接費として割り当てた費用」を直接部門に割り当てる方法。 | |
製品別配賦 | 製造過程で発生した費用の中で直接商品に割り当てることができない費用を、一定のルールに基づいて商品ごとに割り当てる方法。 |
これらの配賦方法は、事業規模や事業特性を踏まえた上で、効果的な方法を採用することが重要です。
また、間接費の配賦方法は、様々な部門の利益に対して影響を及ぼします。そのため、あらかじめ関係者間でどのような配賦方法が適切であるかについて合意形成をしておくことも重要なポイントだといえます。
なお、次の記事では配賦について詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
データ管理
個別原価計算は、起業して間もない時期であればExcelなどでも対応できますが、事業規模が大きくなるほど負担も大きくなります。
Excelは、データが大量になるとパフォーマンスが著しく低下し、起動や編集に時間を要しがちになります。また、個人のPCやファイルサーバーなどに保管した場合、意図しない上書きや消失などが発生するリスクも高いです。これらが発生すると、正確な原価管理は実現できません。
一方で原価計算システムやERPであれば、大量のデータであっても効率的かつ正確な原価管理が可能です。さらにクラウド型のサービスであれば、自然災害などでデータが消失するリスクも低いため、安心して利用できます。
個別原価計算に役立つツール
個別原価計算に役立つツールとしては、主に以下が挙げられます。
- エクセル
- 原価計算システム
- ERP
エクセル
個別原価計算に役立つツールのひとつにエクセルがあります。
普段から業務でエクセルを活用している企業も多いため、エクセルであれば追加費用なしですぐに利用できる点がメリットです。
ただし、作業工数の入力や管理の手間が多くなるため、大規模なプロジェクトなどには向いていないといえます。
原価計算システム
エクセルでの原価計算が難しいと感じる場合は、原価計算システムを導入することも有効な手段です。
原価計算システムでは、専用の画面上で工数入力や原価状況の確認ができるため、工数入力作業の効率化などが期待できます。
また、レポート出力機能によって原価の推移などを可視化できるため、製品・プロジェクトごとの状況をタイムリーに把握しやすくなるでしょう。
ERP
ERP(Enterprise Resources Planning)を活用して個別原価計算を効率化する方法も挙げられます。
ERPであれば、個別原価計算だけでなく、プロジェクトの申請や工数入力、資産振替、レポート作成といった業務までまとめて実施できるケースもあります。
また、社内の会計システムなどとの連携を行うことで、労務費や外注費、経費などの費用をより効率的に管理することも可能です。
ERPで原価管理を行うメリットなどについては、以下の関連記事も併せてご確認ください。
先端技術を活用した個別原価計算
個別原価計算は、ただプロジェクトや商品ごとの原価を計算することだけが目的ではありません。
「あらかじめ設定した原価(標準原価)」と「個別原価計算により算出した実績原価の差異」を分析し、その差異を小さくするために改善を行うことが最大の目的です。
それらの差異を小さくするためには、間接費の適切な配賦が求められます。とはいえ、自社で最適な配賦方法の検討および実施を行うことは、担当者に大きな負荷がかかるものです。
しかし、個別原価計算は先端技術の進化に伴い、新しいフェーズに突入しています。
例えば、AIやビッグデータの活用により、担当者の負担軽減や高精度な分析及び予測ができるようになりつつあります。
また、過去の原価データをもとに来月の個別原価の予測や、AIが個別原価の予測値と実績値を比較した上で最適な改善策を提案してくれるなどといった機能も実現にいたっています。
このような先端技術を利用したシステムは、競合他社に対して「自社の強み」を生み出す源泉となりえるのです。
まとめ
個別原価計算とは、製品・プロジェクト単位で原価計算を行う方法です。主に受注生産・ロット生産を行う製造業や、プロジェクトごとに活動するコンサルティング業界・サービス業界などに用いられています。
個別原価計算を行うことで、製品・プロジェクトごとの詳細な原価を算出でき、利益状況の正確な把握につながります。一方、個別原価計算では製品ごとに製造指図書が必要となる点や、原価を算出するまでにある程度の時間・手間がかかる点には注意が必要です。
個別原価計算を行う際は、費目別・部門別・プロジェクト別と、段階的に原価計算を行っていくことになります。また、個別原価計算に役立つツールとしては、エクセルや原価計算システム、ERPが挙げられます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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