- 更新日 : 2024年7月12日
M&AにおけるPMIとは?重要性・手順・成功のためのポイントを解説
M&Aにおいて、成約後の譲渡企業と譲受企業の経営統合作業であるPMIは非常に重要なプロセスです。この記事では、M&AにおけるPMIの概要や手順、成功のポイントについて詳しく説明します。今後M&Aを検討している経営者や、PMIについて理解を深めたい担当者の方々は、ぜひ参考にしてください。
PMI(Post Merger Integration)とは
PMIの意味
PMI(Post Merger Integration)とは、合併や買収のM&A後の統合プロセスを計画し、実行することです。
このプロセスの主な目的は、M&Aの効果を最大化し、最初に計画した通りのシナジーを実現することです。経営体制や業務プロセス、ITシステム、従業員、企業文化など、さまざまな要素に影響を与えます。
M&AにおけるPMIの重要性
M&AでPMIが重要だとされる理由は、PMIの実施有無によって、M&Aの成功率が大きく変わってくるためです。M&Aの成功を測る尺度はさまざまですが、その1つに「当事者となった企業が満足できる効果が出たかどうか」が挙げられます。
中小企業庁の「中小PMIガイドライン」によると、調査対象となった企業のうち24%は、M&A実施後の満足度が期待値を下回っていることが分かります。
また、その理由として「シナジー効果が出なかった」、「相手先の従業員に不満があった」、「企業文化・組織風土の融合が難しかった」などが挙げられています。
シナジー効果の最大化や従業員の引き継ぎ、文化や戦略などの融合は、PMIでの取り組みによって成否が左右される要素です。このように、M&Aの目的達成に大きな影響を与えることから、PMIは重要だとされています。
大企業と中小企業におけるPMIの違い
大企業と中小企業におけるPMIには、その「規模」に大きな違いがあります。
前掲のガイドラインによると、中小企業におけるM&Aの譲受企業は、約8割強が個人事業主または資本金1億円以下となっています。
また、譲渡企業の売上規模は譲受手側の約半分以下であるケースが大半であり、譲渡側・譲受側共に小規模であることがわかります。
M&Aの規模が小さいことから、中小企業のPMIでは以下の4点に留意が必要です。
- PMIに投入できるリソース(資金や人材など)が少ない
- 従業員の心情や処遇を重視する(特に譲渡側)
- 業務プロセスやITシステム運用の属人化・不備が多い
- 経営陣の個人的な心情に左右されやすい
特に注意すべきは1つ目です。PMIに割けるリソースが少ないため、外部コンサルタントなどの専門家を積極的に起用したり、早い時期から準備を進めたりすることが重要です。
また、経営陣や従業員の感情面への配慮については、大企業と同等以上に注力すべき事項だといえます。
PMIの種類と特徴
PMIは、「経営面の統合」と「業務面の統合」の2種類に大別されます。
経営面の統合では、経営の方向性確立や経営体制の構築などを実施します。
一方で業務面の統合は、さらに「事業機能の統合」と「管理機能の統合」の2種類に大別されます。
事業機能の統合では、経営資源の相互活用や共通化(原材料の共同調達・配送など)、販売拠点の統廃合などを検討します。
管理機能の統合では、人事・労務、会計・財務、法務、ITシステム、業務プロセスの統合や改善を図ります。
具体的な実施業務については、「PMIの実施業務」の章で詳しく解説します。
PMI前に防いでおきたいリスク
M&A実施後に発生する可能性がある主なリスクは、以下のとおりです。
- 従業員の協力が得られない:譲渡企業の従業員が新しい経営方針に納得せず、退職する
- シナジー効果が得られない:当初想定したシナジー効果が発現せず、期待した利益や成果を得られない
- 業務が滞る:異なる企業の業務プロセスやITシステムの統合がうまくいかない場合、業務が滞る
- 後任者が前任者の経理業務を引き継げない:日常業務が属人化しており、後任者がスムーズに引き継げない
PMIにおいては上記のようなリスクを防ぐために、事前の計画や従業員の不安・混乱への配慮、シナジーを達成するための施策の実施、業務フローの改善や、ITシステムの統合などを行います。具体的な施策は次章以降で詳しく説明します。
PMI開始の最適なタイミング
PMIは、「プレPMI」、「PMI」、「ポストPMI」という3つのプロセスに大別されます。
この章では、各プロセスの最適な開始タイミングや期間の目安、留意点などを解説します。
プレPMIを開始する最適なタイミングと留意点
PMIのプロセス自体は、M&A成立後の初日に開始することが一般的です。
ただしPMIでは、業務や経営の統合を図る必要がある上に、双方の企業の経営陣や従業員による協力や理解が不可欠です。これには多大な労力を要するため、M&Aの成立前から事前準備を進めることが重要です。
この事前準備は「プレPMI」と呼ばれます。
プレPMIは、基本合意書の締結またはデューデリジェンスの実施後が開始の目安となります。場合によっては、より早い段階から検討や準備を進めるケースもあります。
デューデリジェンスやトップ面談などのプロセスを通じて、相手企業の定量的・定性的な情報を最大限取得することが重要です。
ただし、M&A成立後に、実際の職場で従業員からヒアリングしなければ判明しない事項も少なくありません。
したがって、プレPMIでは「現時点で何を把握できているか・いないか」を明確化した上で、PMIで実施すべき事項を具体的に計画しておくことが求められます。
PMIの目安期間と留意点
一方でM&A成立後に行うPMIは、約1年にわたって実施されるケースが一般的です。
特に、PMI推進体制の確立や信頼関係の構築、現状把握などの重要項目は最初の100日間で実施されることが多いです。
ポストPMIの目安期間
PMIのプロセスが完了したら、M&Aの効果を最大化するために、ポストPMIの取り組みを実施します。
ポストPMIでは、PMIの効果検証や改善策の実行を継続的に実施します。
ポストPMIは持続的な成長を目的に実施されるプロセスであるため、数年単位での実施が目安となります。
PMIの実施手順
PMIの実施手順について、それぞれ詳しく解説します。
M&A戦略の決定
まず、M&Aをどのような計画で、どのくらいの期間で実施するかを検討します。
PMIを通じた新しい経営管理体制のために動き始める段階では、以下のポイントを検討し決定します。
- 戦略の明確化:M&Aの目的やビジョン、目標を明確化します。どのような成果や効果を期待するのかを定義します。
- 期間の設定:クロージングや統合プロセスのスケジュールを具体的に計画し、実行可能な期間を設定します。
- 経営管理体制の構築:意思決定プロセスなどを計画し、新しい経営管理体制の設計を行います。
統合計画(ランディング・プラン)・100日プランの策定
次に、統合計画を策定します。統合計画は、クロージング(経営権の移転手続き)後に実行され、通常は3〜6ヶ月以内に実施されます。
譲渡企業と譲受企業それぞれが、事業と管理の両面から見た改善策や見直しを計画に盛り込みます。
事業面では原価・販売費などの目標が設定され、管理面では組織形態、規則、人事、経営管理、経理、一般事務に関する目標を設定し、見直しが行われます。業務プロセスやITシステムの統合に関する目標の設定も行われます。
従業員の協力が得られないというリスクを防ぐためは、M&A成立後、早急に従業員向けの説明会や個人面談を行うと良いでしょう。異なる価値観が誤解を生むおそれがあるため、コミュニケーションを促進し、価値観を共有することが有効です。
シナジー効果が得られないというリスクに対応するには、現場の担当者同士が協力し、お互いの価値観や働き方を尊重しながら、新しいルールを共同で策定するのが良いでしょう。
これまでのステップで策定した統合方針や計画に基づき、次に「100日プラン」を組み立てます。
統合計画は全体の枠組みですが、100日プランはより具体的なスケジュールを含み、特に緊急とされる課題に焦点を当てます。
この段階でプロジェクトチームの編成を行い、100日間にわたる統合作業の具体的な計画を立てましょう。
効果検証とフォローアップ
PMIの最後のステップは、効果の検証とフォローアップです。100日プランに含まれなかった課題などに対して、別途実行計画を策定し取り組みましょう。具体的なアクションプランを立てたら、それに基づいた施策を実行し、マネジメントチームによるモニタリングを行うことも非常に重要です。
策定された統合計画や100日プラン、そして作成されたアクションプランの進捗状況を評価し、効果を検証します。この検証によって、改善すべき領域や対処すべき問題が浮かび上がれば、それに対応するフォローアップ施策を実行します。
PMIの実施業務
この章では、PMIで実施する業務とそれぞれの留意点を解説します。
新たな経営体制の構築
M&Aにおいては、新しい経営管理体制を作り上げる必要があります。M&Aでは、譲渡企業が意思決定を担当するのが一般的です。そのため、譲渡企業に経営陣を派遣し、連携しながら経営方針やビジョンを共有していきます。
譲渡企業が中小企業の場合、法的に必要な組織(例:取締役会)だけでなく、意思決定プロセス、業績管理方法、人員配置などについても統合と改善を進めると良いでしょう。M&Aによって新しい会計方針を設定したり既存の方針を見直したりすれば、それに伴なってKPI(Key Performance Indicators)、業績管理、中期経営計画、予算なども見直す必要があるためです。
両社の協力のための体制構築
M&A後にシナジー効果を生み出すためには、両社の現場担当者同士が緊密に連携することが不可欠です。しかし、実務担当者が変更に対してネガティブな反応を示すことがあり、協力を得るのが難しい場合もあります。
両社のコミュニケーションを図り信頼関係を築くためには、現場担当者同士で協力し、お互いの価値観や働き方を尊重しながら、新しいルールを共同で策定することが重要です。
業務プロセスとITシステムの統合
業務プロセスやシステムを標準化するために、これらの統合を実施します。
長期間にわたってオペレーションやシステムを統合しないままでいると、非効率な業務や情報の重複入力などの無駄が生じてしまいます。
そこで、両社が使っているシステムが全く異なる場合などには、新しいERPパッケージの導入を行うことが成功のためのポイントだといえます。
ERPは、企業経営に必要な人、モノ、カネ、情報という経営資源を効果的に管理・活用するシステムです。ERPを使えば、企業内の情報を集約し、それに基づいて企業の状況を正確かつ迅速に把握でき、シームレスな業務統合を実現することにつながります。
ERPの概要や財務会計業務においてERPを導入するメリットなどについては、以下の関連記事も併せてご確認ください。
経理・財務の統合
経理・財務の統合は、全体の経営判断を行うために急務となる重要なプロセスです。
・経理体制の構築
M&A後、支払い業務や給与計算、会計データの入力など、日常業務に支障が生じる可能性があります。後任者が前任者の経理業務を引き継げないリスクに対応するために、業務リストやフロー、マニュアルを作成するなど、業務を明確に整理することが大切です。
・決算の早期化と決算期の統一
効果的な財務分析と意思決定を行うには、決算情報を迅速に把握することが不可欠です。月次決算が遅れるなどしている場合はその原因を特定し、早期化を図るために経理担当者と協力し、プロセスの見直しを行うと良いでしょう。
・内部統制の構築
内部統制を構築するためには、次の3つの要素を整備する必要があります。
①フローチャート
②業務記述書
③リスクコントロールマトリックス
これらを作成し、不正行為や業務ミスの防止、効率化を図るための社内体制を、譲受企業の監査基準に合わせて新たに構築する必要があります。
・連結決算体制の構築
譲受企業が上場企業である場合には、譲渡企業の財務データを取り込んで連結決算を行う必要があるため、注意しましょう。
連結決算を行う際は、譲渡企業と譲受企業の両方で特別な対応が必要になります。
特に譲渡企業がそれまで連結決算を行ったことがない場合、業務量や精神的な負担が増加するおそれがあるため、必要に応じて経理担当者を追加するなどのサポートを実施すると良いでしょう。
経営ビジョンおよび組織文化の統合
シナジー効果を最大化するには、M&Aを行った企業双方の経営陣や従業員が同じ目線に立って、1つの目標に向かって進んでいくことが求められます。
そのために、PMIでは経営ビジョンや組織文化の統合も図ります。
具体的には、主に以下の取り組みを実施します。
将来的にどのような企業を目指すのか、そのための取り組みはどのようなものかを従業員に示す
譲渡企業の文化や良い面を尊重しつつ、慎重に組織の考え方を統一していく
また、上記2つのプロセスに従業員が不安を募らせないように、適宜コミュニケーションを図ることも大切です。
(h2)
PMIを成功させるポイント
最後に、譲受企業と譲渡企業双方の視点から、PMIを成功させるポイントを解説します。
譲受企業
譲受企業のポイントは以下の3点です。
デューデリジェンスによるリスクの洗い出し・対策の検討
PMIを成功させるには、相手企業の強みや弱み、経営資源や事業の状況、潜在的なリスクなどの情報が不可欠です。こうした情報がないと、PMIの的確な計画を立てることができず、的外れな統合となってしまうためです。
これらのリスクを回避するためには、人事や法務、会計などの各領域で徹底したデューデリジェンスを行いましょう。
スケジュールと目標の明確化
ここまで述べたとおり、PMIの業務は一筋縄ではいきません。経営方針や会計、人事など、統合の対象は多岐にわたるため、経営陣や従業員が一体となって取り組む必要があります。
そのためには、PMIのスケジュールと達成したい目標を明確化することが重要です。
目標とスケジュールが明確になれば、一人ひとりが「いつまでに」「何を行えば良いのか」を理解できるため、PMIがスムーズに進むでしょう。
適材適所の人材配置によるプロジェクトチームの編成
PMIでは、一部門に留まらない横断的な対応が求められるため、専属のプロジェクトチームを編成することがおすすめです。
専任でPMIに取り組むプロジェクトチームがあることで、よりスムーズかつ精度の良い統合を図れます。
チームを編成する際には、会計や人事などの各部門に精通した人材をピックアップすることが求められます。専門性の高い人材で編成することで、不測のトラブルにも臨機応変に対応できるためです。
譲渡企業
譲渡企業のポイントは以下の2点です。
(h4)
経営陣による従業員の不安解消
PMIの成功には、譲渡企業から引き継いだ従業員の協力も欠かせません。
しかし、組織文化や業務プロセスの違いから、従業員が不安や不満を抱く可能性があります。こうした不安や不満はモチベーションの低下や離職などを招き、PMIが円滑に進まない要因となり得ます。
そのため、経営陣が主体となって従業員とのコミュニケーションを図り、あらかじめ不安や不満を取り除くことが大切です。
なお、譲受企業側からも譲渡企業の従業員とのコミュニケーションを図り、PMIへの協力を得ることが求められます。
(h4)
円滑な移行に向けた経営陣主体での貢献
PMIの成功は、長期的に見ると自社(譲渡企業)の成長にもつながります。そのためにも、人事や組織文化などを円滑に移行・統合できるように、経営陣が主体となってPMIプロセスに貢献する必要があります。
まとめ
M&Aの成功にはPMIが非常に重要です。統合後のシナジー効果や既存事業との親和性を最大限に引き出すことが成功の鍵です。また、事前の検討と準備が非常に重要で、どれだけ事前に準備が進んでいるかが重要なポイントであるといえます。
PMIにおいては、短期間でM&Aの効果を発揮させる必要があるため、経験豊富な人材の派遣や早期の統合計画の策定も重要ですとなります。準備を早めに進めて、成功に向けて取り組むことが大切であるといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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