- 更新日 : 2024年7月16日
バランススコアカード(BSC)とは?4つの視点や効果、作成方法まで解説
企業が業績を伸ばし、継続的な成長を続けるためには、複数の観点による多面的な状況把握が必要です。財務や顧客など、ひとつの観点からの評価のみでは正確に状況を把握することは困難でしょう。
当記事では、経営戦略を効率的に推進するために役立つバランススコアカードについて解説します。メリットや作成方法なども、ぜひ参考にしてください。
目次
バランススコアカードとは?
バランススコアカードとは、「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの観点から多面的に企業業績や経営上の戦略を評価・分析する手法です。
バランススコアカードを活用することで、企業が達成すべき目標や、将来のビジョンが明確になります。また、バランススコアカードは、英語表記における「Balanced Score Card」の頭文字をとり、「BSC」とも呼ばれています。
バランススコアカードのメリットや効果
バランススコアカードの活用には、多くのメリットが存在します。具体的なメリットを、効果と併せて紹介します。
ビジョンと戦略を明確化できる
バランススコアカードを活用することで、複数の観点から企業の業績や戦略が可視化されます。多角的な検証によって、財務検証のみでは明らかにならなかった課題や強みの発見につながります。より明確に企業に必要とされるビジョンや、戦略を打ち立てられるでしょう。
具体的な戦略目標や施策に展開できる
多角的な観点からの検証によって、抽象的であった経営戦略を現場レベルにおける具体的な行動にまで落とし込むことが可能です。具体的な目標や施策が展開されることで、効率的な行動が可能となります。
業績評価のバランスがとれる
バランススコアカードでは、4つの観点から多角的な検証を行うため、バランスのとれた業績評価が可能となります。バランススコアカードを活用することで、ひとつの観点に偏っていたこれまでの評価を適正な評価へと修正できます。
継続的な経営改善が図れる
財務の観点からの検証のみでは、短期的なコストカットに走りがちになってしまいます。しかし、バランススコアカードは、ひとつの観点ではなく、4つの観点から総合的な評価や検証を行うため、中長期にわたる継続的な経営改善が可能です。
バランススコアカードにおける4つの観点
バランススコアカードでは、「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの観点から評価や分析を行います。4つの観点を項目ごとに見ていきましょう。
財務の観点
財務の観点からは、株主や従業員などのステークホルダーに対し、財務的利益がもたらされているかが評価されます。財務の観点から検証を行うことで、企業における財務業績向上のために必要となる施策が明らかとなります。
顧客の観点
顧客の観点からは、自社が提供する商品やサービスの顧客満足度やリピート率、収益性などが評価されます。たとえば、顧客満足度が低下している場合であれば、接客態度の改善やスムーズな商品供給などが必要となるでしょう。
業務プロセスの観点
業務プロセスの観点とは、財務や顧客の観点における評価を向上させるために必要となるプロセスをどのように社内で構築し、運用しているかという観点です。財務においては、コスト削減や効率化など、顧客においては要望に応えられているかといった観点から業務プロセスを評価します。
学習と成長の観点
学習と成長の観点からは、組織の成長や人材の育成をどのように行えばよいかが明らかとなります。この観点における目標達成の度合いを測るための指標としては、従業員満足度や従業員の資格取得率、定着率などが挙げられるでしょう。
4つの観点の関係
バランススコアカードにおける4つの観点は、それぞれ独立しているわけではありません。各々が密接不可分に関係し、影響し合っています。そのため、各観点間の因果関係や影響関係を考慮することが必要です。
人材の育成は能力向上による活性化が目的であり、活性化することで業務の効率化が図れます。また、効率化すれば顧客満足度は向上し、受注量も増え収益性が高まることで、最終的な企業の成長につながるでしょう。4つの観点を整理し、論理的に考えることが必要です。
バランススコアカードの例および重要な用語
以下にバランススコアカードの一例を紹介します。
戦略目標 | 重要成功要因 | 重要業績評価指標 | 数値目標 | アクションプラン | |
---|---|---|---|---|---|
財務の観点 | 売上増大 原価の低減 | 新規顧客による売上増大 労務費の低減 | 売上高 利益率 | 10%向上 20%向上 | 原価を下げることで、低コストでの売上強化を図る |
顧客の観点 | シェアの拡大 | ブランドの認知度上昇 | 新規顧客獲得率 | 20%向上 | 年末商戦において、他社との差別化を図った新規商品を投入する |
業務プロセスの観点 | 生産性の向上 | 一人当たりの製造量改善 | 稼働率 不良率 | 95%以上 5%以下 | 現在のサイクルを見直し、最適なサイクルタイムを構築する |
学習と成長の観点 | 技術・技能の向上 | 業務遂行能力の向上 | 企業内研修 | 参加率100% | 新入社員研修だけでなく、既存社員に対する研修を実施する |
次項からは、上記表におけるそれぞれの語句の解説を行います。
戦略目標
戦略目標とは、抽象的な企業のビジョンや、戦略などを業績評価指標として置き換えられるように設定された目標です。あらかじめ設定されたビジョンや目標などを具体的な言葉に置き換えます。
重要成功要因(CSF・KSF)
重要成功要因は、事業の成功のために必要となる要素を指す言葉です。英語表記における「Critical Success Factor」の頭文字をとって、「CSF」とも呼ばれています。また、「KSF(Key Success Factor)」と呼ばれる場合もありますが、意味合いとして異なる点はありません。重要成功要因を上手く抽出することで、戦略の立案が容易となります。
重要業績評価指標
重要業績評価指標とは、企業の打ち立てた目標の達成度合いを測るための指標です。目標が受注数の増加である場合には、商談数や受注率などが重要業績評価指標として設定されます。重要業績評価指標の設定により、進捗状況や達成状況の定点観測をすることが可能です。なお、重要業績評価指標は、英語表記である「Key Performance Indicator」の頭文字をとって、「KPI」と呼ばれることも多くなっています。
数値目標
数値目標は、達成すべき成果を数値化したものです。目標を数値化することで、進捗状況や達成状況の把握が容易となり、計画も立てやすくなります。勤務態度の改善のような定性的な目標は、数値化できないため、数値目標とは馴染みません。
アクションプラン
アクションプランとは、目標を達成するために必要となる行動計画のことです。アクションプランは曖昧なものであってはならず、具体的な行動を定めることが必要となります。設定においては、企業全体の行動ではなく、現場レベルに落とし込むことが大切です。
バランススコアカードの作成方法
バランススコアカードを作成するためには、適切な手順を踏むことが必要です。いずれも重要な手順のため、順を追って見ていきましょう。
ビジョンや戦略の策定
バランススコアカードを作成するためには、事前に事業におけるビジョンや経営上の戦略を定めておく必要があります。新たにビジョンや戦略を策定するためには、市場動向や競合他社の分析が必要です。すでにビジョンや戦略が存在している場合には、現状に即しているか確認しておきましょう。
目標設定や戦略の立案
ビジョンや戦略の策定が済んだら、実現に向けた具体的な目標や戦略の設定を行います。目標を設定する際には、後述するSMARTの法則を用いると効率的に進めることができます。また、併せて4つの観点からなる戦略マップを作成することで、目標の因果関係が可視化可能となります。
重要な成功要因の設定(CSF・KSF)
具体的な目標や戦略が定まったのであれば、その実現に向けた重要成功要因の設定を行いましょう。重要成功要因の設定の際には、作成した戦略マップを活用し、影響関係にあるものを線でつなぐと可視化が容易になります。可視化された影響関係や、因果関係から強化が必要となる項目を洗い出し、重要成功要因として設定します。
KGIとKPIのの設定
重要成功要因の設定を済ませたら、重要成功要因の進捗状況や達成状況を把握するために、重要目標達成指標(KGI)と重要業績評価指標(KPI)を決定します。KGIは、「Key Goal Indicator」の頭文字をとった略語であり、最終目標を定量的に定めた指標です。
KGIとKPIは、重要成功要因ごとに設定が必要となります。これらの指標を設定することで、進捗や達成の度合いが明確に把握可能となります。
数値目標の設定
KGIやKPIなどの指標ごとに数値目標を定めることも必要です。数値目標は簡単に達成できるものであっては意味がありません。しかし、あまりにも達成困難な数値を掲げることも問題です。数値目標は、現在の状況よりもやや上となる数値を設定しましょう。現実的な数値目標の設定は、モチベーションの維持につながり、達成意欲も向上させます。
アクションプランの計画
目標となる数値が設定できたら、達成のために必要となる具体的な計画(アクションプラン)を策定しましょう。アクションプランは、企業全体の行動ではなく、現場で働く従業員一人ひとりに落とし込んだうえで策定することが目標達成のために重要です。
バランススコアカードの作成に活用:フレームワーク「SMART」
バランススコアカードを作成する際には、SMARTの法則を活用することで、実現性を高めた目標が設定可能となります。
「SMARTSMART」とは
SMARTの法則とは、目標を設定する際に用いられるフレームワークのひとつです。SMARTの法則におけるSMARTとは、以下に挙げる5つの英単語の頭文字をとった略語です。
- Specific:明確性
- Measurable:計測可能性
- Achievable:達成可能性
- Relevant:関連性」
- Time-bound:明確な期限
「SMARTSMART」の要素
SMARTの法則における「Specific (明確性)」は、具体的でわかりやすいことを意味します。単純な「顧客獲得」よりも「前月より5件多い顧客の獲得」とした方が具体的なアクションプランの策定にも役立つでしょう。
「Measurable (計測可能性)」は、具体的な数値として把握可能であるかを意味します。数値化し、測定可能とすることで、必要に応じた修正も容易となります。
「Achievable(達成可能性)」は、目標が非現実的なものになっていないか確認するために必要となる要素です。非現実的な目標では、達成はもちろんのこと、モチベーションの維持も困難となります。
「Relevant(関連性)」とは、個人の目標と組織の目標に関連性があり、整合性があるかを判断する要素です。売上増大による昇給など、関連性が認められれば、モチベーションも高まり、目標達成も容易になるでしょう。
「Time-bound(明確な期限)」とは、期限が明確に定められていることを意味しています。目標には期限を設定することが重要です。期限がなければ、目標の達成も先送りになってしまい、達成に向けた集中力も失われてしまうでしょう。
上記5つの要素を考慮したうえで、バランススコアカードを作成すれば、より現実的で達成可能な目標を設定することが可能です。
バランススコアカードの活用で企業の成長を
ひとつの面からのみの評価や分析では、どうしても近視眼的で短期的な目標を設定してしまいがちです。そのような目標設定では、短期的な業績向上はできても、中長期にわたる継続的な成長は望めないでしょう。
継続的な成長を願うのであれば、ぜひ当記事で紹介したバランススコアカードを作成し、活用してください。企業を成長させる大きな力となってくれるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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