- 更新日 : 2024年7月12日
ダイナミックケイパビリティとは?構成する3つの要素や成功事例などを解説
ダイナミックケイパビリティとは、将来の予測ができない不確実性が高い時代において、さまざまな変化に対応していく自己変革力のことを指します。
世界情勢や政治動向はもちろん、経済のグローバル化や消費者のニーズ変化など、企業経営はあらゆるものから影響を受けます。
ダイナミックケイパビリティがない企業は、そのような変化に対応できず、淘汰されるリスクが高くなります。企業が長い間経営を持続するためには、ダイナミックケイパビリティの強化に取り組むことが重要です。
本記事ではダイナミックケイパビリティの概要や主な構成要素をはじめ、具体的な事例、ダイナミックケイパビリティを高める方法について解説します。
目次
ダイナミックケイパビリティとは
はじめに、 ダイナミックケイパビリティについて解説します。
ダイナミックケイパビリティの概要
ダイナミックケイパビリティは、日本語で「企業変革力」と訳されます。「ダイナミック」は「動的な」、ケイパビリティとは「能力」や「才能」という意味を持つ言葉です。なお、ケイパビリティはビジネスでは「企業の組織力」などを指します。
現在、企業を取り巻く環境は常に激しく変化しており、将来の予測ができない「不確実性の時代」が到来しています。そのような環境において経営を持続するためには、変化へ対応する力(自己変革力)を付けることが重要です。その力を「ダイナミックケイパビリティ」と呼びます。
ダイナミックケイパビリティとオーディナリーケイパビリティの違い
企業のケイパビリティは次の2つから構成されます。
- ダイナミックケイパビリティ
- オーディナリーケイパビリティ
オーディナリーケイパビリティとは「与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力のこと」を指します。
前述のとおり、ダイナミックケイパビリティは「組織が自己変革する能力」、オーディナリーケイパビリティは「経営資源を有効活用する能力」を指すという違いがあります。
オーディナリーケイパビリティを高めることは重要ですが、それだけでは競合に対する優位性を獲得できません。また、想定外の変化が発生した場合、オーディナリーケイパビリティだけでは対応できない点にも注意が必要です。
ダイナミックケイパビリティを構成する3つの要素
ここでは、ダイナミックケイパビリティを構成する3つの要素を解説します。
感知 (Sensing:センシング)
「感知」は、脅威や危機を感知する能力を指します。
ビジネスは、大小様々な要素の影響を受けます。例えば、次のようなものです。
- 法律や政治の動向
- 経済水準・為替・金利
- 人口増減や流行
- 最先端技術の誕生・普及
- 競合他社の動向や消費者の意向
このような状況変化を適切かつ素早く把握し、自社の脅威や危機を感知することが求められます。また、「感知」を強化するためには、情報収集・分析および共有の仕組みを構築しておくことが重要です。
捕捉 (Seizing:シージング )
「捕捉」は、ビジネスチャンスを捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力を指します。
経営資源は有限であるため、事業の選択と集中を行う必要があります。「感知」によりビジネス環境の変化を把握・分析した結果、経営資源をどのように配分するか、あるいは組織や制度などをどのように変更するかが「捕捉」です。
この「捕捉」はダイナミックケイパビリティの中核だといえます。なぜならば「捕捉」は簡単に他社が模倣できないためです。なお、自社の取り組みだけで「捕捉」が実現できない場合は、取引先などにも協力を依頼するとよいでしょう。
変容 (Transforming:トランスフォーミング)
「変容」とは、競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し変化させる能力を指します。変容の対象は幅広く、経営方針や企業文化をはじめ、人材育成なども含まれている点が特徴です。
このようにダイナミックケイパビリティは、「感知」で脅威や危機を察知したのち、「捕捉」で既存資産の再配分を行い、最終的に「変容」で組織変革のスピードの向上を狙うという3要素で構成されています。
成功事例に見るダイナミックケイパビリティの活用
ここでは企業事例を通じて、ダイナミックケイパビリティがどのように実践されているかを紹介します。
富士フイルムホールディングス株式会社
写真フィルムの世界需要がピークだった2000年当時、富士フイルムホールディングスの売上の約60%、営業利益の約66%は写真事業が生み出していました。しかし、デジタルカメラや携帯電話の進化により、2010年までに写真フィルム市場はピーク時の10%以下まで落ち込みます。
一方で同社は、1970年代には既に市場変化を「感知」しており、デジタルカメラの研究に着手していました。その結果、1988年に世界で初めてとなるデジタルカメラの開発に成功したのです。
さらに今後成長が見込まれる、かつ写真事業で培ってきた技術を活かせるバイオ医薬品市場への参入や、AIを活用した医療ITと再生医療の実用化および産業化に取り組んでいます。
自社の強みを活かしながら変化に対応するだけではなく、自ら変化を作り出す富士フイルムホールディングスは、ダイナミックケイパビリティが高い企業の代表例だといえるでしょう。
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業株式会社は空調機の専業メーカーであり、全世界で100箇所以上の生産拠点を保有しています。エアコンは季節・天候・景気による需要変動が大きい商品です。また、国や地域の特性などによってもニーズが異なるため、不確実性が高い事業だといえます。
同社は可能な限り在庫を抱えず需要変動に対応するために、各市場のニーズを満たした製品を現地で生産して素早く提供するという「市場最寄化戦略」に取り組んでいます。この戦略により、リードタイム短縮と需要変動への素早い対応を実現しているのです。
さらに、汎用性が高い「ベースモデル」を日本国内で作り、国や地域のニーズにあわせてカスタマイズできるように工夫したことにより、コスト削減や開発期間短縮に成功しました。
このように柔軟性に富んだ戦略をとることで、不確実性が高い市場に対応している同社もダイナミックケイパビリティが高い企業です。
参考記事:経済産業省「2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化(コラム:我が国製造業にみるダイナミック・ケイパビリティ)」
ダイナミックケイパビリティを高める戦略
ダイナミックケイパビリティを高めるためには、DXを推進する必要があります。
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略であり「データやデジタル技術を使って、顧客目線で新たな価値を創出していくこと」や「ビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むこと」も含まれます。
ダイナミックケイパビリティの3要素において、「感知」ではデジタル化されたデータの収集・分析、「捕捉」ではERPなどをはじめとするサービスを活用した経営状況のリアルタイム把握、「変容」では経営のデジタル化などが必要となりますが、これらはDX推進により実現可能です。
まとめ
今回はダイナミックケイパビリティについて解説しました。
ダイナミックケイパビリティとは、将来の予測ができない「不確実性の時代」において、変化に対応していく力(自己変革力)のことを指します。ダイナミックケイパビリティには「感知」「捕捉」「変容」という3つの要素があり、DX推進によりそれらの力を高めることが可能です。
先が見えない時代を生き抜くためにも、ダイナミックケイパビリティの向上に取り組むことをおすすめします。
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