- 更新日 : 2024年7月12日
人事業務にERPを活用する方法
人事業務は、給与計算や福利厚生、能力評価、採用、育成など広範です。ERPを活用することで業務を効率化し、人的リソースの有効活用が促されます。この記事では、ERPを人事業務に活用するメリットや選定ポイントなどを解説します。
目次
ERPとは
ERPとは、企業の基幹業務(販売、在庫、購買、人事、会計など)にまつわるデータを一元化し、企業内の資源を可視化して効率よく使用するための考え方です。「Enterprise Resources Planning」の頭文字をとった略称で、日本語では「企業資源計画」と翻訳されます。また、この考え方をシステムとして具現化したものがERPシステム(ERPパッケージ)と呼ばれ、近年ではERPと言えばERPシステムを指す場合が多いでしょう。
一般的にERPには、「販売管理」「在庫・購買管理」「財務会計」「人事給与」「生産計画」など、企業の基幹業務に合わせて複数のシステムが用意されています。また、それぞれのシステムを流れるデータはひとつの統合型データベースで管理されています。ERPを導入する前は、業務領域ごとに分断されていた各情報(製品情報、取引先情報、人事給与情報)などが連携されることで、企業の「今」がわかりやすくなるという点が特長です。製造業であれば、「受注・販売」を受けてどれだけの原材料が必要になり、いつまでに製品を製造すべきか(製造できるか)がリアルタイムにわかるようになるわけです。また、人事異動や給与計算に関する情報も可視化されるため、人的リソースの管理にも役立ちます。
ERPについては、詳しくはこちらをご覧ください。
人事業務にERPはどうして必要?
人事業務にERPが必要な理由は主に2つあります。
バックオフィスの生産性向上
ひとつめの理由は「バックオフィスの生産性向上」です。人事業務は、異動情報や給与計算、福利厚生の管理など非常に広範で、人事業務を円滑に回すためにはそれなりの人手が必要になります。また、配置転換や異動、給与計算などが定期的に発生するため、常に何かしらのデータが動き続けます。さらに部署や支社が増えれば、データが分散して管理や計算が煩雑になっていくでしょう。これら人事業務に関する手間とコストを省き、より迅速に人事関連業務を進めるための基盤としてERPが求められています。
ピープルアナリティクス
2つ目の理由は「ピープルアナリティクスの台頭」です。近年、人事業務の意思決定において「ピープルアナリティクス」という分析手法が用いられるようになりました。ピープルアナリティクスとは、従業員に関するデータを収集・分析して、効果的な配置や能力開発につなげる手法です。従業員の属性情報・適性・行動データなどを分析して、採用や育成、配置転換などに活用していくわけです。従来であれば、人事担当者の経験や勘に頼っていた採用・育成などの業務を、より客観的で合理的な意思決定で行い、企業課題の解決につなげていくことができます。ERPは、こうしたデータを収集・管理するための基盤として活用され始めています。
人事領域のERP活用によるメリット
人事領域においてERPを活用するメリットは、以下3つに集約されます。
人事関連業務の効率化
ERPには、人事関連業務を効率化する機能が含まれています。こうした機能を活用し、煩雑な業務を効率化しつつ、リアルタイム性と正確さも高めていくことが可能です。具体的には、次のような業務が対象になります。
給与計算
従業員の給与や賞与、退職金などの計算業務です。源泉徴収税額の計算や、給与の増減、口座振り込みシステムとの連携なども対象になります。また、給与情報から社会保険関連のデータ作成、電子申請も自動化することが可能です。
福利厚生管理
日本企業の場合は、有給日数の管理や福利厚生の利用状況などを管理します。企業によっては401kプランの管理やヘルスケア管理なども含まれるでしょう。
従業員情報の管理
従業員の個人情報(属性情報、住所)や年金や社会保険に関する記録、雇用記録などを管理します。近年は、マイナンバーの管理機能も一般的になってきました。
勤務情報の管理
出退勤時間の管理や残業時間の計算、病欠日数の管理などが含まれます。ERPでは、これら勤怠データから給与を自動で計算し、担当者の負担を軽減することが可能です。
コア業務へのリソース集中
ERPの活用により、従業員が「コア業務(本来やるべき生産性の高い業務、ミッション)」に集中し、ビジネスの成長が促されるという効果が見込めます。
現代の日本は生産年齢人口が毎年減少しており、「現役の働き手」を確保することが難しい状況です。特に中堅・中小企業では、大手企業に比べると新規採用が難しくなっており、既存の従業員がもつ能力をいかに有効活用するかが課題になっています。こうした課題を解決するためには、業務を「コア業務(本来やるべきこと、ミッション)」と「ノンコア業務(コア業務に付随する業務、もしくは雑務)」に分類し、ノンコア業務の比率を極力小さくしてかなくてはなりません。また、生産性の高い業務により多くの人手を投下するために、人材配置の最適化も必要になるでしょう。
ERPの人事機能では、だれが・どこの部署(支社)に在籍しているかをリアルタイムに可視化できるため、人的リソースの集中が容易になります。また、計算作業やデータ入力作業などアナログな手作業をERPで半自動化することで、ノンコア業務の割合も減らすことができます。
タレントマネジメントの容易化
ERPの活用により、タレントマネジメントの容易化が見込めます。タレントマネジメントとは、従業員をタレント(専門的な技能や強みを持った人材)に育て上げるためのマネジメント手法です。タレントマネジメントは難易度が高い業務であり、「できる人が直接指導する」といった属人的な手法が主流でした。しかし、この手法では育成に時間がかかり、数も増えにくいため、タレントマネジメントツールを使用した施策が注目されています。近年のERPには、タレントマネジメントツールとして次のような機能が含まれることもあります。
採用強化機能
応募者情報の蓄積、求人への応募状況管理など担う機能です。
育成強化機能
従業員向けの研修やトレーニングプログラムを管理し、従業員がどのトレーニングを受けたかを可視化します。また、能力開発に役立つコンテンツの作成・配信・管理、昇格に必要なスキルや資格の関連付けなども担います。
業績管理
従業員の人事考課を記録して、継続的に追跡して管理します。目標管理ツールが含まれることもあります。
リーダー育成計画
次世代のリーダーを育成するために候補者をプールして管理し、離職による人材育成計画の頓挫を防止します。
人事領域のERP活用によるデメリット
人事領域のERP活用におけるデメリットとしては、以下2点が挙げられます。
導入・運用コストが嵩みがち
オンプレミス型ERPの場合、パッケージ自体の費用、ハードウェア調達費用、ネットワーク構築費用などがかかるためイニシャルコストが非常に大きくなります。また、日本企業の場合、ERPが持つ人事関連機能をそのまま適用できるケースは少なく、大半はカスタマイズやアドオン開発が必要です。カスタマイズやアドオン開発には多額の費用がかかるため、こうしたコストが問題になることも少なくありません。
運用ノウハウが必要
ERPの運用には標準機能の使い方や設定変更などにおいて、専門知識が必要になることがあります。専門知識の習得には時間もコストもかかるため、運用ノウハウが確立されるまでは業務が混乱する可能性もあるでしょう。
人事系ERPの種類(利用形態)
ERPには複数の種類があり、人事系も例外ではありません。ここでは、人事系ERPの種類を簡単に解説していきます。
パブリッククラウド型ERP
パブリックタイプクラウド型ERPとは、クラウドベンダーが提供するERPをインターネット経由のサービスとして利用する形態を指します。SaaS型と呼ばれることもあります。毎月の利用料を支払い、必要な機能のみを利用するケースが多いようです。
パブリッククラウド型ERPのメリット
あらかじめベンダーが用意している機能のうち、本当に必要な機能のみを選んで導入できるため、イニシャルコストが小さいというメリットがあります。システム監視やバックアップ、バージョンアップといった運用保守作業も不要で、ランニングコストの節約にもつながります。例えば、「将来的には全ての人事業務をERPでカバーしたいが、今は給与計算のみを利用したい」といった場合でも、パブリッククラウド型ならば対応可能です。
パブリッククラウド型ERPのデメリット
パブリッククラウド型は、カスタマイズやアドオン開発がほとんどできない製品が大半です。したがって、自社の業務にERPを合わせたいという企業には不向きかもしれません。
プライベートクラウド型ERP
プライベートクラウド型ERPとは、自社専用のクラウド環境上にERPを構築する形態です。IaaSやPaaSを用いた自社専用の環境に構築するため、パブリッククラウド型に比べると自由度が高いという特徴を持っています。
プライベートクラウド型ERPのメリット
プライベートクラウド型ERPには、「コストと機能のバランスを取りやすい」というメリットがあります。ハードウェアリソースを他社と共有するパブリッククラウドに比べるとスケールイン/アウトが柔軟に行えます。また、カスタマイズ性についてもパブリッククラウドより優秀なことが多いです。
プライベートクラウド型ERPのデメリット
プライベートクラウド型ERPのデメリットは、「運用コストが嵩む場合がある」という点です。独自要件を詰め込みすぎると、本番稼働後の運用保守、セキュリティ対策などを独自に進める必要がでてきます。
オンプレミス(パッケージ)型ERP
オンプレミス(パッケージ)型ERPは、自社専用のオンプレミス環境にERPパッケージをインストールして使用する形態です。オンプレミス型ERPは、世界中から経営のベストプラクティスを集めて開発された製品が多く、非常に多機能で汎用性が高いことが特徴です。
オンプレミス型ERPのメリット
オンプレミス型ERPは、カスタマイズやアドオン開発によってほぼすべての業務要件に対応することができます。また、周辺システムとの連携にも制限が少なく、レガシーシステムとの共存も可能です。予算さえ十分であれば、10~20年単位で使用できる安定したシステムが構築できるでしょう。
オンプレミス型ERPのデメリット
オンプレミス型ERPのデメリットは「コストがかかりすぎる」という点です。ハードウェア・ソフトウェアの調達費用に加え、導入期のカスタマイズ・アドオン開発費用、さらには本番稼働後の保守運用費用などが必要になります。
ERP導入の注意点
ERPは人事業務の効率化や生産性向上に役立つツールです。しかし、人事業務を一切変更せずに、ERP側を合わせようとすると、導入がスムーズに進まないことがあります。特に、低コスト導入を目指す場合は、可能な限り対象業務を絞り込み、ERP側に業務を合わせるつもりで導入を進めていきましょう。こうすることで、安価で手軽なパブリッククラウド型ERPを利用できるようになるからです。
また、初めてのERP導入であれば、ベンダーが用意している機能(標準機能、テンプレートなど)をできるだけ活用するようにしましょう。標準機能やテンプレートには、さまざまな企業で通用する方法が集約されているため、自社独自のやり方にこだわるよりも効率的なことが多いからです。人事領域であれば、勤怠管理・給与計算・社会保険の計算などはERPの機能をそのまま使うことでトラブルが少なくなります。
ERPの選定ポイント
人事計ERPの選定ポイントとしては「必要な機能があるか」「コストは適正か」という2点が挙げられます。
機能面では、「給与計算」「勤怠管理」「人事管理」「社会保険関連機能」など、一般的な人事業務をカバーできるかをチェックしていきましょう。また、もし自社の業務プロセスが独特であれば、カスタマイズ性や拡張性もチェックすべきです。
コスト面では、導入時のイニシャルコストやラングコストに注目していきましょう。一般的にコスト面ではクラウド型が有利です。特にパブリッククラウド型ERPであれば、ひとつの機能のみを試験的に導入することができるため、導入時の混乱を避けることができます。
人事管理やマネジメントにERPを活用しよう
この記事では、人事領域におけるERPの必要性やメリット、デメリット、選定ポイントなどを解説してきました。人事領域でERPの導入実績を持つベンダーはそれほど多くないため、ベンダーの企業HPなどを参照し、過去の実績などをチェックしていきましょう。マネーフォワードでは、ひとつの機能から人事業務に適用可能な「マネーフォワード クラウドERP」を提供しています。「まずは給与計算のみ」「勤怠管理だけを効率化したい」といったご要望にも対応可能です。
よくある質問
人事領域におけるERP導入のメリットは?
給与計算、勤怠管理、人事管理など広範な人事業務を効率化し、生産性を高めることができます。 詳しくはこちらをご覧ください。
人事系ERPの選定ポイントは?
「必要な機能を備えているか」「コストは適正化」という2点に加え、人事領域で導入実績をもつベンダーかもチェックしていきましょう。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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