• 更新日 : 2024年7月12日

総合原価計算とは?個別原価計算との違いや手順をわかりやすく解説

総合原価計算とは、製品・サービスの原価を計算する手段の一つです。
企業が製品を市場へ展開するには様々な費用が発生します。そのため、どの程度の値段で売れば利益が出るのかを把握するためには、製品一つ一つの原価を計算し、把握する必要があります。

適正な販売価格を設定できないと、企業が市場で利益を出し続けていくことは難しいでしょう。そのため、企業にとって正確な原価計算は必須です。
今回は、総合原価計算の概要や手順について解説していきます。また業種ごとの実例にも触れますのでぜひご参考にしてください。

総合原価計算とは

自社製品の原価計算手段として、総合原価計算を検討している企業は多いと思います。
総合原価計算ではどのように原価を計算するのでしょうか?

総合原価計算の概要

総合原価計算とは、一定期間に発生した原価を合計し、生産数で割る方法です。
単一の製品を連続かつ大量に生産する際によく採用され、特に同じ規格のものを大量に製造する場合などに適しています。
主に、食品や電気製品などの製造、鉄鋼、繊維、製粉などの業界で用いられています。

これらの業種では、一定期間(例えば1ヶ月)に発生した製品の生産費用を生産数で割ることによって、商品1つ当たりの原価を算出するのが通常です。

さまざまな総合原価計算

総合原価計算にはいくつか種類があるので、その点も把握しておきましょう。それぞれ、計算方法が少しずつ異なります。例えば、単純総合原価計算、工程別総合原価計算、組別総合原価計算、等級別総合原価計算などがあります。これらの選択は生産される製品の特性によって決まります。

単純総合原価計算

原材料、作業工程、設備などが全て同じ場合に採用される計算方法です。同一の製品を反復継続して生産する場合に適しているため、一つの製品を単品生産するメーカーで用いられます。

この計算方法は、後述の各総合原価計算のベースとなっています。

工程別総合原価計算

生産時に工程が複数ある製品などで、工程ごとに原価を計算する方法です。
各工程で担当部署が分かれている場合などに採用されます。

組別総合原価計算

同じ工程で異なる製品を生産する場合の計算方法です。例えばイチゴとブドウそれぞれのジュースを作る場合などのように複数の異なる種類の製品を製造するケースです。

作業は同じでも原材料が異なるため、別々に計算することになります。

等級別総合原価計算

種類が同じでも、サイズ(等級)が異なる商品を製造する場合などに用いられます。例えば、飲料メーカーにおいて容器のサイズだけが異なる製品を生産する場合などに適しています。

まずは単純総合原価計算で計算し、その後で各等級に設定された係数に基づいて原価が計算されます。

個別原価計算との違いについて

総合原価計算とは対となる計算方法として、個別原価計算があります。これは一つ一つの製品について、個別に原価計算する手法です。個別原価計算と総合原価計算は、費目の分類方法も異なります。

個別原価計算では、生産に直接関連する費用を「直接費」と「間接費」に分けて算出します。一方、総合原価計算では、材料費以外の費用を加工費とし、「材料費」と「加工費」の費目で計算することが基本です。また、同じ製造ラインで異なる製品を生産するケースや、複数の工程を経るケースでは、総合原価計算においても「直接費」と「間接費」を考慮するのが一般的です。

どちらかの方法が優れているというわけではなく、生産形態によって適切な計算方法が異なるのです。

個別原価計算に関しては別記事で詳しく説明しているので、参考にしてください。

総合原価計算のメリット・デメリット

原価計算には種類があり、製品や生産形態によって適切な計算方法は異なります。
総合原価計算を検討中の場合は、まずその特徴を正確に把握しましょう。総合原価計算のメリットとデメリットは、個別原価計算と比較すると理解しやすくなります。

総合原価計算のメリット

総合原価計算は、大量生産する製品の原価計算手法として適しています。
主なメリットは以下のとおりです。

  • 計算対象が大量であってもまとめて計算することができ、担当者の負担が少なくなる。
  • 対象の製品をまとめて計算できるため、作業時間や人件費があまりかからず、製品ごとの原価を簡単に計算できる。
  • 仕様が全く同じでない製品でも、等級別総合原価計算や組別総合原価計算を用いることで原価を求めることができる。例えば、同じ製品でサイズが異なる場合は等級別総合原価計算を、同じ工程で異なる製品を製造するのであれば組別総合原価計算を使用する。

総合原価計算のデメリット

一方、オーダーメイドの製品やサービスの場合、総合原価計算は不適切だといえるでしょう。
一つ一つの製品で原価が大きく異なる場合、計算の難易度は高くなります。総合原価計算には、主に以下のデメリットがあります。

  • 完成品によって原材料が異なる製品の場合でも、総合原価計算では製品を単位ごとにまとめた原価をざっくりと計算するだけであり、正確な原価を計算できない。
  • 期間の最後まで原価計算が実施できないため、適切な販売価格を見極めづらい。また利益や損失の状況をリアルタイムに把握できず、即座に有効な対策を打つことが難しくなる。
  • 原価の変動に際する修正が比較的難しい。
  • 仕掛品に対する計算方法がやや複雑になる。計算方法を確立すれば問題ないが、その確立までは一定の手間がかかる可能性がある。

総合原価計算の手順

総合原価計算は、前述のとおりいくつかの種類があります。また、計算期間も会社によって異なります。
現場や製品による計算方法・手順の違いもあるため、注意しましょう。
ここでは最も一般的な単純総合原価計算の手順を説明します。

計算手順

①原価の集計
まずは総合原価計算の対象として定めた期間の中で発生した全ての製造費用を集計します。
対象となる期間は1ヶ月に定めている企業がほとんどですが、そうではない場合もあります。集計対象の費用は製品の材料費だけでなく、労務費や経費なども含めます。

仕掛品の原価を集計
次に、仕掛品の原価を集計します。仕掛品とは「製造途中の製品」です。まだ製品として完成していないものになるため、原価計算時には計算対象から除外する必要があります。
①で計算した結果に仕掛品が含まれていないかを確認し、含まれている場合はその費用を集計します。

③対象期間の費用から仕掛品の費用を引く
そして、全ての製造費用から仕掛品費用を引き、完成品の総費用を計算します。
具体的には、上記の①から②を引きます。

④完成品の原価をその数量で割る
最後に、③の結果を完成品の数量で割って、一つの製品あたりの原価を算出します。

総合原価計算の具体例

上記の計算手順に当てはめた、具体的な計算例を紹介します。

今回の対象期間で製造予定だった製品は100個で、その材料費など全ての費用が950,000円だったとします(①)。
ただし、その期間内で完成した製品は80個で、残りの20個は仕掛品だったとしましょう。
その仕掛品の合計費用をチェックすると150,000円でした(②)。
そのため、950,000円から150,000円を引き、800,000円が本期間の完成品の総費用となります(③)。
最後に完成品の総費用である800,000円を完成品数80個で割ると、製品1個当たりの原価は10,000円となります(④)。

総合原価計算のポイント

総合原価計算を効率的に行う際に留意すべきポイントを押さえましょう。

原価計算システムの導入

企業で原価計算の仕組みを構築するのであれば、一般的に原価計算システムの導入が有力でしょう。
特に総合原価計算に適した製品を扱う企業であれば、大量の原材料を管理する必要があるため、システム導入が必須になります。

原価計算用のシステムには、計算機能はもちろん、損益分析や配賦、予算と実績の比較などの様々な機能が実装されています。
選定の際は必ず、自社要件を満たせるかどうかを確認しましょう。

原価計算システムの導入によるメリット

原価計算システムの導入によるメリットは以下のとおりです。

  • 経営判断の手助けとなる
    原価計算システムを導入すれば、原価計算のシミュレーションをリアルタイムで行えます。このようなシステムを活用することで、経営者は迅速に正確な情報を得ることができ、経営判断に必要な考察の助けとなります。具体的には、正確な数値やデータを分析し、設備投資や新規ビジネス、サービス立ち上げの際の定量的な指標として活用できます。
  • 業務効率化につながる
    従来のExcelなどを用いた原価管理に比べ、原価計算システムでは自動化されたプロセスを提供できるので、ヒューマンエラーのリスクが著しく低減されます。さらに、原価計算システムは業務システムとの連携が可能であり、情報の一元化や共有がスムーズに行われます。これによって業務プロセス全体の効率化が実現でき、組織全体の生産性が向上します。
  • 無駄を把握できる
    部門や製品、工程における無駄を把握することは、原価計算システムの重要な機能の一つです。企業は部門や製品、工程レベルでのコスト構造を詳細に把握し、無駄や非効率な点を明らかにすることができます。経営者はコストの削減ポイントを特定し、効果的な改善策を実施することが可能となります。例えば、生産ライン上の無駄な待ち時間や在庫の過剰発生、無駄な作業手順などを特定して改善することで、生産性や効率性を向上させることができます。
    原価計算システムを活用して部門や製品、工程レベルでの無駄を把握し、コストの削減を実現することは、企業の利益最大化と持続的な成長につながります。
  • 人的コストの削減が可能
    原価計算システムの導入により、従業員が従来手動で行っていた原価や損益の計算作業を自動化することが可能です。この自動化により、企業は人的コストを削減できます。従業員が原価計算や損益分析に費やしていた時間や労力を節約することができ、その代わりに他の戦略的な業務やプロジェクトに注力することができます。また、自動化によって計算の正確性や効率性が向上し、人為的なミスやエラーのリスクが低減されます。
    原価計算システムの導入には導入コストが発生しますが、これは長期的な視点から見れば総合的なコスト削減につながるでしょう。
  • 原価変動のリスクへの対応が可能
    材料の仕入れ価格や設備投資の価格変動は、企業の原価に大きな影響を与えます。特に近年では、コロナ・円安などによる物価上昇が顕著であり、これによって原材料価格が大幅に変動しています。
    このような状況下で、企業は原価の変動に対処するために、リスクのシミュレーションや適切な対策を講じる必要があります。

原価計算システムを適切に活用することで、企業は変動する原価によるリスクを把握し、効果的な対策を講じることが可能です。システムを通じて、異なる原材料や設備の価格変動が原価に与える影響をリアルタイムで把握し、それに応じたシミュレーションを行うことができます。
また、リスク管理の観点から、異なるシナリオに対する対策を検討し、最適なリスクヘッジ戦略を策定することも可能です。

これによって、企業は変動する原価による影響を最小限に抑え、経営の安定性を確保することができます。

特にERPシステムの導入がおすすめ

ERPシステムの導入は、総合原価計算の効率化に特に適しています。
ERPシステムとはEnterprise Resources Planning(企業資源計画)の略で、企業全体のリソースを管理するシステムです。
企業全体のデータでビジネス状況を可視化し、経営判断の迅速化や業務の効率化を実現します。

ERPシステムの最大のメリットは、各部署のデータを一元管理できる仕組みが容易に構築できる点です。
ERPにより、顧客の注文から原材料の調達、製品の製造にいたるまで、あらゆる業務プロセスの効率的な管理につながります。

食品・飲料メーカーにおける原価計算

食品・飲料メーカーにおける原価計算の特徴としては、シンプルであることが挙げられます。製造工程が短いため、仕掛品や半製品の比率が低い傾向もあります。

また食品・飲料メーカーは、原材料費率(原価要素の中で原材料費が占める割合)が高いことが特徴です。このため、原材料費や労務費の管理が重要視されています。
実際に現代の製造業では工場の自動化が進んでおり、多くのメーカーが原材料の工程管理に重点を置いています。これは、原材料費率が高いがゆえに、効率的な生産プロセスの確立が極めて重要であるためです。

さらに、トレーサビリティーやフードロスといった食品・飲料業界における社会課題に対処する上でも、原材料の工程管理は極めて重要です。原材料の適切な管理によって、製品の品質や安全性を確保することで、消費者が安心できる製品を提供することが可能となります。

多くの食品・飲料メーカーは、原材料の工程内における管理に依然として注力しています。適切な管理が製品の品質向上や生産効率の向上をもたらし、競争力の強化にもつながると考えられているためです。

一方、多品種少量生産や顧客ごとに内容が異なる業種には、総合原価計算は適していません。例えば、弁護士や税理士、コンサルタント、システム開発企業などが該当します。こうした場合には、個別の製品や依頼内容ごとに原価を算出する「個別原価計算」が適しています。

食品・飲料メーカーにおける原価計算手順

それでは、食品・飲料メーカーにおける原価計算の手続きを考えてみます。

①予算策定
予算策定時には、原価計算の基礎となる標準または予定原価や、各工程の間接費に対する配賦率を設定します。また市場環境の変化や工場ラインの更新などに応じて、これらの標準原価や配賦率は期中でも見直しを行います。

②原価計算システムで加工費の配賦を計算
製造工程において使用される材料の量や加工される半製品・製品の数量を生産管理システムで記録・把握し、原価計算システムで加工費として配賦計算を行います。また、この計算結果は会計システムに反映します。

③原価差額の把握
原価を正確に把握するためには、原価が発生する際に必要なデータを適切に記録していくことが不可欠です。製造現場では、材料の消費量や作業員の労働時間、ラインの稼働回数や稼働時間などが日々記録・集計され、生産管理システムに入力されます。これらの日々の記録をもとにして、実際の原価と標準(または予定)原価との差額である原価差額を把握します。

④間接費の配分
製造工程が下るにつれ当該の仕掛品や半製品の原価が上昇すると予想されるため、工程ごとに間接費を当該仕掛品や半製品に配分していきます。

⑤原価差額の配分
原価計算期間の終了時点で、原価差額を売上原価と期末在庫に配分し、その計算結果を会計システムに転記します。

まとめ

今回は、総合原価計算について解説しました。
この手法の採用を検討している場合は、まずその特徴を正確に理解しましょう。
製品を適正な価格で販売することは、ビジネスを成功させていく上で非常に重要です。
そのためには、適切な原価計算方法を選定する必要があります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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