• 作成日 : 2023年12月21日

社会福祉法人の会計をわかりやすく解説!会計基準や仕訳の特徴

社会福祉法人の会計をわかりやすく解説!会計基準や仕訳の特徴

社会福祉法人では、株式会社とは異なる会計基準に基づいて会計処理を行う必要があります。主な違いとして、一取引二仕訳や「事業」「拠点」「サービス」という区分ごとに計算書類を作成する点などがあります。

本記事では、社会福祉法人の会計の基礎をわかりやすく解説します。

社会福祉法人会計基準とは

はじめに、社会福祉法人会計基準がどのようなものであるかを解説します。

社会福祉法人とは?簡単におさらい

はじめに、社会福祉法人がどのような法人であるかを簡単におさらいします。

厚生労働省の「社会福祉法人の概要」によると、社会福祉法人とは「社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人」です。
そして社会福祉事業とは、社会福祉法第2条に定められている第1種および第2種社会福祉事業を指します。老人ホームや児童養護施設、障害者支援施設、保育所、デイサービスなどの事業がこれに当てはまります。

つまり、利益を得ること(営利)を主な目的とする一般企業とは違い、社会福祉法人の主な目的は「社会福祉への貢献(非営利)」となります。ただし、社会福祉法人は社会福祉事業だけでなく、公益事業や収益事業(一般的なビジネス)を行うことも認められています。

社会福祉法人会計基準の概要

社会福祉法人会計基準とは、社会福祉法人が行う全ての事業に適用される会計のルールです。

社会福祉法人会計基準」の第1条1項では、社会福祉法人はこの省令(会計基準)の定めに基づいて、会計処理や会計帳簿・計算書類・財産目録等を作成しなければならないとしています。また、同法第1条2項には、省令の定めの他に、一般的に公正かつ妥当とみなされる社会福祉法人会計に関する慣行を斟酌(しんしゃく)する必要があると規定されています。

つまり、一般的な慣行も考慮に入れつつ、当該会計基準の定めに基づいた仕訳や決算を行う必要があります。

構成

社会福祉法人会計基準は、以下4つの章と附則および別表で構成されています。

  • 総則:会計処理の基礎(社会福祉法人会計の目的や一般原則など)
  • 会計帳簿:資産や負債、純資産の評価方法
  • 計算書類:作成する計算書類の種類やその詳細、会計区分、内部取引
  • 財産目録:財産目録の内容や区分、金額、種類等

附則には施行期日や経過措置に関する事項、別表には勘定科目の詳細などが規定されます。

※参考サイト:厚生労働省「社会福祉法人の概要
※参考サイト:e-Gov「社会福祉法人会計基準

社会福祉法人会計と一般企業会計の違い

社会福祉法人会計と株式会社に適用される一般企業会計には、主に以下の違いがあります。

社会福祉法人の会計一般企業(株式会社)の会計
会計基準社会福祉法人会計基準会社計算規則
会計単位事業、拠点、サービス法人
仕訳方法一取引二仕訳
(支払資金の増減を伴う場合)
一取引一仕訳
作成する計算書類貸借対照表
資金収支計算書
事業活動計算書
貸借対照表
株主資本等変動計算書
損益計算書
個別注記表
会計期間4月1日〜翌年3月31日まで自由に決定できる

特に、実務で大きな違いとなるのは「会計単位」、「仕訳方法」、「計算書類」の3点です。株式会社の会計と具体的にどのように異なるかに関しては、次の「社会福祉法人の会計プロセスと特徴」の章で詳しく解説します。

社会福祉法人の会計プロセスと特徴

社会福祉法」第45条の23第2項の規定により、社会福祉法人では4月1日〜翌年3月31日までの1年間が会計期間となります。会計年度の始まりから年度の終わりまでは、主に以下の流れで会計業務が行われます。

  1. 日々の業務に伴う仕訳
  2. 決算準備・計算書類の作成
  3. 計算書類と財産目録の提出

特に社会福祉法人の会計では、1と2における株式会社との違いに注意が必要です。以下では、1と2のプロセスにフォーカスし、社会福祉法人に特有の会計処理を解説します。

日々の業務に伴う仕訳

社会福祉法人も株式会社と同様に、日々の業務に伴う仕訳が必要です。
株式会社と大きく異なる点は以下の2点です。

1つ目は、一取引二仕訳です。
一般企業の会計では、1つの取引に対する仕訳は1つとなります。
一方で社会福祉法人の会計では、支払資金(流動資産流動負債の差額)の増減が発生する場合、1つの取引に対して2つの仕訳が必要です。

2つ目は特徴的な勘定科目です。
以下のとおり、社会福祉法人の会計には株式会社には見られない特徴的な勘定科目が用いられます。

  • 基本金:事業開始に際して受け入れた寄付金に用いられる(株式会社でいう資本金に近いイメージ)
  • 国庫補助金等特別積立金:固定資産取得に際して受け入れた補助金に用いられる

上記は一例であり、前述した支払資金を含めて株式会社とは異なる勘定科目があるため、注意が必要です。

決算準備・計算書類の作成

決算に際しては、決算準備や計算書類の作成が必要です。株式会社の会計とは、主に以下の4つの点で異なります。

1つ目は会計単位です。
株式会社の場合、1つの法人あたりで作成する計算書類は1つです。一方で社会福祉法人の場合、「事業」「拠点」「サービス」の3つに会計が区分され、各区分ごとに計算書類を作成する必要があります。

2つ目は、作成する計算書類の種類です。
株式会社では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表が計算書類となります。一方で社会福祉法人では、貸借対照表、事業活動計算書、資金収支計算書の作成が求められます。

3つ目は基本財産です。
社会福祉法第25条の規定により、社会福祉法人は社会福祉事業を行う上で必要な資産(≒基本財産)を備えることを義務としています。この規定に基づき、社会福祉法人の固定資産は、基本財産とその他の固定資産に区分して計上する必要があります。

4つ目は内部取引の相殺消去です。
内部取引の相殺消去とは、法人内で行った取引を計算書類の作成時点で消去する会計処理です。たとえば、拠点Xから拠点Yに対して100万円を支出する取引において、Xでは100万円の支出を記録する一方で、Yでは100万円の収入を記録します。法人全体で見ると収支の増減はないため、これらを相殺消去します。

社会福祉法人の内部取引の相殺消去では、公益性と透明性を保つために財務報告において詳細な開示が求められます。一方で株式会社では、利益追求と株主への責任を重視するため、主に経営効率と財務健全性を示すために行われる点で、違いがあります。

※参考サイト:e-Gov「社会福祉法

社会福祉法人の会計に役立つポイント

複雑な社会福祉法人の会計を正確かつスムーズに行うポイントを2つ紹介します。

社会福祉法人の会計や税務に詳しい税理士を起用する

社会福祉法人の会計・税務には、株式会社とは異なる点がたくさんあります。
そのため、税理士の中でも社会福祉法人の会計・税務に詳しい人を選ぶことが重要です。社会福祉法人会計および税務に強い税理士を起用することで、正確な計算書類の作成や納税が可能となります。また、会計や税務に関する業務負担の軽減にもつながります。

ERPを活用する

株式会社と異なる点が多いこともあり、社会福祉法人の会計処理は複雑です。そのため、手作業で仕訳や計算書類の作成を行うと、時間がかかる上にミスも生じやすくなります。

そこでおすすめなのが、会計やERPのシステムの導入です。会計システムの導入により、仕訳の効率化を実現できます。また、販売管理や給与管理などのシステムと会計システムを統合するERPの導入により、システム・部門を横断した情報の一元管理や、仕訳業務の自動化などを実現できます。

これにより、会計処理のミス防止や業務にかかる負担の軽減などのメリットを見込めます。以下の記事では、ERPの概要や導入するメリット・デメリットを詳細に解説しています。

まとめ

社会福祉法人の会計基準や会計処理について、株式会社との違いを踏まえつつ解説しました。一取引二仕訳をはじめとして、社会福祉法人の会計には特有のルールがあります。複雑な部分も多いため、会計システムやERPを導入し、業務効率化やミスの防止を図ることがおすすめです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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