- 更新日 : 2024年12月20日
不当廉売とは?市場にもたらす影響や判断基準をはじめ防止策などを解説
不当廉売とは、正当な理由がないにも関わらず、原価を著しく下回る金額で継続的に商品やサービスを提供することを指します。不当廉売は、競合他社のビジネスを駆逐し、市場を歪めてしまう恐れがあります。さらには、消費者から選択の自由を奪うことにもつながりかねない点が特徴です。
本記事では、不当廉売の概要をはじめ、市場にもたらす影響や防止策などを解説します。
目次
不当廉売とは
はじめに、不当廉売の概要や罰則などについて解説します。
不当廉売の概要
不当廉売とは、正当な理由がないにも関わらず、原価を著しく下回る金額で継続的に商品やサービスを提供することを指します。
なお、廉売とは「商品を安い価格で売る」という意味を持つ言葉です。
不当廉売はダンピングとも呼ばれ、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)の第2条第9項第3号において、不公正な取引方法の1つとして禁止されています。
不当廉売を規制する目的
不当廉売を禁じている独占禁止法は「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」を目的としています。
不当廉売が規制されている理由も上記と同一であり、事業者間の公正かつ自由な競争の促進を狙っています。
不当廉売の罰則
公正取引委員会は不当廉売を行った事業者に対して、排除措置命令(当該行為の差止めなど違反行為の排除命令)や課徴金納付命令(課徴金を国庫へ納付する命令)を下すことができます。
さらに不当廉売(独占禁止法違反)を行った事業者は、犯罪行為に対する懲役や罰金などの刑事罰を受けることがあるため、注意が必要です。
参考:公正取引委員会「課徴金制度」
不当廉売が市場にもたらす影響とは
「不当廉売を行っても、当該企業が赤字になるだけであるため市場に大きな影響はないのでは?」と考える人も少なくないかもしれません。
しかし、規模が大きく潤沢な資金を持った企業(A社)が、長期にわたり原価を度外視した販売価格を設定すると、競合他社は追従できないため、ビジネスの継続が難しくなります。
この状態が続くと、競合他社は撤退や廃業せざるを得なくなるため、やがてA社が市場を独占することにつながります。そして市場独占後にA社が商品価格をつりあげた場合、消費者は法外な価格で商品を購入せざるを得なくなってしまうのです。
このように不当廉売は、企業間の公正かつ自由な競争促進はもちろん、消費者の利益を損ないかねないため、厳しく規制されています。
不当廉売の判断基準
実際に集客を目的とした目玉商品として、原価を下回る売価を設定することは少なくありませんが、それらのケースが必ず不当廉売に該当するわけではありません。
不当廉売を禁じている独占禁止法第2条第9項第3号の規定は、以下のとおりです。
つまり不当廉売の判断基準は
- 継続性がある
- 他の事業者の事業活動を困難にさせる
- 正当な理由がない
の3点を全て満たしているかどうかがポイントになります。
例えば、1回限りの安売りなどは継続性がないと判断されるため、廉売にはあたりません。また、市場に対する占有率が低い企業が低価格で商品を販売しても、競合他社の事業活動に与える影響は軽微なため、不当廉売と判断されることは少ないといえます。そのほか、いわゆる「見切り品」として、消費期限が近い商品を低価格で販売する行為も「正当な理由あり」として、不当廉売の対象外となるのです。
参考:e-GOV「昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」
不当廉売の防止策
自社が不当廉売を行わないようにするためには、次の対策が有効です。
社員への教育・啓蒙
競合他社のビジネスを妨害するという意図はなく「消費者が喜ぶから」という理由で、大幅な値下げを行う社員も存在します。
これを防ぐためには、継続的に原価を下回る価格で販売する「不当廉売」は、法律違反と判断される可能性があることを、日頃から丁寧に教育・啓蒙することが重要です。
法務部門と財務部門によるコンプライアンス強化
不当廉売と判断されるか否かの線引きは難しく、現場の社員では判断できないことも少なくありません。
確実に不当廉売を防ぐためには、商品価格改定時のフローに以下3点のチェックを実施することが重要です。
- 原価を下回る販売価格ではないか
- 継続的に値引きを行っていないか
- 値引きに正当な理由があるか
また、フローに法務部門や財務部門の承認などを組み込むことも、不当廉売の防止に有効な対策です。
不当廉売から自社のビジネスを守る方法
競合他社が不当廉売を行っている場合は、自社のビジネス存続が脅かされることになります。不当廉売から自社のビジネスを守るためには、次の方法が有効です。
公正取引委員会への通報
競合他社が不当廉売を行っている場合は、弁護士や所属協会などに相談の上で、公正取引委員会へ通報を行いましょう。
公正取引委員会の調査で不当廉売が確認された場合は、公正かつ自由な競争秩序を回復するために、当該事業者に対して違反行為排除措置などが下されることになります。
不当廉売関税制度
不当廉売の対象事業者は、国内のみにとどまりません。
海外の競合他社が国内の販売価格よりも低い輸出価格(ダンピング価格)で販売した商品が国内産業に損害を与える場合は、差額の範囲内で割増関税を課すことが可能です。これを不当廉売関税制度といいます。
なお、不当廉売関税制度を利用するためには、財務省関税局関税局への申請が必要となります。
参考:財務省関税局「不当廉売関税(ダンピング防止税)制度について」
不当廉売の事例
ガソリン販売に関する不当廉売の疑い
2023年5月、公正取引委員会は某ガソリンスタンド運営企業に不当廉売の恐れがあるという警告を行いました。
同社は、2023年1月31日から3月7日の36日間にわたり、周辺のガソリン価格(約160円)より20円ほど安い価格(約140円)でガソリンを販売していたのです。
この事業者は、地域の競合他社への対抗策として仕入れ価格を下回る販売価格を設定していたため、不当廉売にあたるとみなされることになりました。
1円スマホに関する不当廉売の疑い
2022年8月、公正取引委員会はスマートフォン端末を大幅に値引き販売する「1円販売」が、不当廉売にあたる恐れがあるとして、調査を行いました。
当時のキャリア各社は高額なスマートフォン端末を1円で販売し、発生した赤字は通信料金による収入などで補填するというビジネスモデルを展開していました。
なお、最終的な調査結果では「独占禁止法上問題となる恐れがある」ということで是正が求められるにとどまっています。
大手電力会社による不当廉売の疑い
2024年1月、公正取引委員会は大手電力会社の小売部門が、採算性を度外視して電力を低料金で家庭向けに販売した場合、企業規模が比較的小さい新電力会社などのビジネスに影響を及ぼす可能性が高いため、不当廉売の恐れがあるとの提言を公表しました。
まとめ
不当廉売は、正当な理由がないにも関わらず、原価を著しく下回る金額で継続的に商品やサービスを提供することを指します。
不当廉売を行うと、市場における公正な競争が妨げられるばかりではなく、一般消費者から選択の自由を奪ってしまうことにもなりかねません。
自社が不当廉売を起こさないためには、日頃からの意識啓蒙と価格改定時の業務フロー改善が有効です。
「不当廉売にあたるか」の判断が難しいところもありますが、前述の基準について十分に注意することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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