- 作成日 : 2025年1月14日
人件費率とは?計算方法や業種別の平均値、改善方法を解説
人件費率とは、売上に対する人件費の割合を示す指標で、企業の収益性や効率性を評価する際に重要な役割を果たします。
人件費率は高すぎても低すぎても企業に悪影響を及ぼすため、適切な人件費率を維持することが大切です。
本記事では、人件費率の概要や計算方法、業種別の平均値、高すぎる・低すぎる場合の影響や改善方法を解説します。
目次
人件費率とは
人件費とは、企業が従業員に支払う費用を指します。
毎月の給与をはじめ、各種手当や賞与(ボーナス)、役員報酬などが含まれ、正社員だけでなくパートやアルバイトも対象です。さらに、社会保険料や労働保険料の企業負担分(法定福利費)、健康診断や福利厚生にかかる費用(福利厚生費)、退職金なども含まれます。
人件費率とは、企業の売上高に対する人件費の割合を示す指標です。売上と人件費のバランスを分析することで、企業の利益やコスト構造を評価するための重要なデータが得られます。
ただし、業種や規模により適正な水準が異なるため、必ずしも人件費率が高いことが悪いわけではありません。企業は、人件費率をもとに経営戦略やコスト管理を行い、持続可能な運営を目指しましょう。
人件費率の計算方法
人件費率の計算方法には、売上高と売上総利益をもとにする方法があります。
売上高人件費率
売上高人件費率は、売上高に対する人件費の割合を示し、企業の売上全体に対する人件費の負担感を簡易的に把握するための指標です。
計算式は以下のとおりです。
計算が簡単で、売上に対する人件費の割合を手軽に確認することができます。
売上総利益人件費率
売上総利益人件費率は、売上総利益(粗利)に対する人件費の割合を示します。売上原価などの変動費を除いた利益を基準にするため、企業の人件費の実際の負担をより正確に把握できます。
計算式は以下のとおりです。
売上原価の影響を受けないため、より適切な人件費管理が可能になります。
【業種別】人件費率の平均値
政府の統計データによると、中小企業における業種別の「売上高人件費率」と「売上総利益人件費率」は以下のとおりです。
業種 | 売上高人件費率 | 売上総利益人件費率 |
建設業 | 8.9% | 37.2% |
製造業 | 7.3% | 35.1% |
情報通信業 | 19.3% | 40.4% |
運輸業、郵便業 | 9.8% | 41.5% |
卸売業 | 5.9% | 38.8% |
小売業 | 11.6% | 38.2% |
不動産業、物品賃貸業 | 10.6% | 22.8% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 22.5% | 39.5% |
宿泊業、飲食サービス業 | 25.5% | 40.2% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 13.8% | 33.3% |
サービス業(他に分類されないもの) | 20.4% | 48.9% |
全体 | 9.7% | 36.7% |
売上高人件費率は、情報通信業や宿泊業・飲食サービス業などの労働集約型の業種ほど高い傾向があります。
売上総利益人件費率については、業種にかかわらず概ね30〜40%台に収まる傾向があります。
不動産業や物品賃貸業は、労働コストが比較的抑えられ、固定資産や設備を活用した収益構造が特徴のため、売上総利益人件費率が低いと考えられます。
参考:政府統計の総合窓口「中小企業実態基本調査 / 令和5年確報(令和4年度決算実績) 確報」
人件費率が高すぎる場合の影響
人件費率が高すぎる場合、以下のような影響があります。
- 利益率の低下
- 競争力の低下
利益率の低下
人件費率が高くなると、収益の中で人件費が占める割合が大きくなるため、営業利益や純利益が減少しやすくなります。
利益率が低下すると、企業は投資や事業拡大の資金を十分に確保できなくなり、成長機会が減少するリスクが生じます。また、株主や投資家からの評価が低下し、株価の下落や資金調達の難易度が上がる可能性もあります。
こうした資金面の問題は、長期的な企業の健全性にも影響するため、企業の競争力を弱める要因となりかねません。
競争力の低下
高い人件費率は企業の競争力を低下させる要因にもなります。
例えば、人件費が高いと製品やサービスの価格を安く抑えにくくなり、価格競争力が弱まります。
一方、利益を確保するために価格を引き上げると、顧客が離れるリスクが高まります。また利益が圧迫されることで、企業は研究開発やマーケティング、設備投資などに十分な資金を充てられず、新たな商品開発やサービス強化が難しくなる可能性があります。
競争が激化する市場では迅速な革新が求められるため、こうした投資の減少は競合他社に対する優位性の喪失につながり、長期的に見ると市場での地位が低下するリスクがあるのです。
人件費率が低すぎる場合の影響
一方で、人件費率が低すぎる場合、以下のような影響があります。
- 従業員のモチベーション低下
- 退職率の増加
従業員のモチベーション低下
人件費率が低すぎると、企業が従業員に十分な給与や福利厚生を提供できない可能性が高くなります。その結果、従業員は自分の労働が適切に評価されていないと感じやすくなり、働く意欲や組織に対する満足度が低下する可能性があります。
また、給与水準が業界平均より低い場合、従業員はやりがいや成長意欲よりも、経済的な不安を感じるようになります。
このような状況では、従業員の仕事への集中力やパフォーマンス、モチベーションが低下し、組織全体の生産性にも悪影響が及ぶ可能性があります。
モチベーションが下がると、優れた人材の流出リスクも高まり、結果として企業の競争力が低下する恐れがあります。
退職率の増加
人件費率が低いと、従業員は他社との待遇差を感じやすくなり、転職を考える可能性が高まります。
特に、同業他社が魅力的な給与や福利厚生を提供している場合、優秀な人材が流出するリスクが上昇します。
また、企業が十分な人件費を割けないことで、人材育成やキャリアパスの提供が難しくなり、従業員が自身の成長やキャリアに不満を感じやすくなることもあります。
退職率が増加すると、企業は人材の再採用や教育にかかるコストが増え、安定した組織運営を続けることが難しくなる可能性があります。
人件費率の改善方法
人件費率を改善するためには、以下のような施策が求められます。
- 業務フローの見直しや効率化
- 従業員のパフォーマンス向上
業務フローの見直しや効率化
業務フローを一度見直し、無駄な工程や重複作業を削減することで、業務効率化を図ります。
各部門で業務内容を精査し、不必要な作業があれば排除または代替手段を導入することが重要です。
また、作業方法を改善することで、時間外労働の削減や生産性の向上が期待できます。
効率化を図るために業務プロセスを細分化し、工数管理を強化すれば、早期に改善効果を確認しやすくなります。
自動化ツールや便利なシステムを導入することでさらなる効率化が進み、人件費削減につながることもあります。
従業員のパフォーマンス向上
従業員のパフォーマンスを向上させることで、少ない人員でも業務を効率よく遂行できるようになり、人件費率が改善します。
具体的には、適切な人材配置や評価制度の整備といった対策が効果的です。
従業員の適性や強みを見極め、各部署やプロジェクトに最も効果的な配置を行います。これにより業務が円滑に進み、従業員のモチベーションと生産性、双方の向上が期待できます。
また、適正な評価とフィードバックを通じて、従業員の努力が正当に報われる制度を整備することも重要です。公平な評価は従業員のやる気を引き出し、結果的に生産性向上にも寄与します。
まとめ
人件費率は、売上に対する人件費の割合を示す指標で、企業の収益性や効率性を評価する際に重要です。
人件費率が高すぎると利益率や競争力が低下したり、低すぎると従業員のモチベーションや定着率に影響を及ぼす可能性があるため、適切な人件費率の管理が求められます。
改善方法としては、業務フローの効率化や適切な人材配置、評価制度の見直しが効果的です。自動化ツールの導入や工数管理を強化することで、人件費の削減や適正化が期待できます。
これまで人件費率を重視していなかったという方は、ぜひ本記事の内容を参考に人件費率を見直してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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