- 作成日 : 2024年9月30日
新リース会計基準とは?変更点や会計処理、企業に与える影響を解説
2023年5月に企業会計基準委員会が新リース会計基準の公開草案を発表しました。
この公開草案はIFRSの任意適用を行っている企業で既に導入されている、IFRS第16号を基本にしたものです。今後すべての日本企業に適用され、会計処理に重大な影響を与える可能性があります。
そこでこの記事では、新リース会計基準の主要な内容を解説し、具体的な会計処理や影響についても説明します。
目次
そもそもリース会計基準とは
リース会計基準とは、リース取引の種類やその会計処理方法を規定する会計基準のことです。
現行のリース会計基準では、リース取引はファイナンスリースとオペレーティングリースに分けられています。
ファイナンスリースはリース期間中に契約を解除できず、借手がリース物件の取得価格や関連費用のほぼ全額をリース料として支払うリースを指します。
そしてファイナンスリースに該当しないリース取引はオペレーティングリースとされています。
リース会計基準は、これらのリース取引に関する会計処理の指針となるルールを提供しています。
新しいリース会計基準の概要
2008年4月1日から施行された日本のリース会計基準では、リースで資産を借り入れた場合、ファイナンスリースとオペレーティングリースのどちらかで処理を行っており、国際的な基準である「国際財務報告基準(IFRS)」とは異なる手法を採用していました。
しかし、IFRSが基準を改訂したことを受けて、日本の基準も新たに見直される動きが進んでいます。
新リース会計基準の内容
IFRSの改訂により、2019年1月1日以降にIFRSを適用している企業には「新リース会計基準」が適用されています。結果として、リース資産をファイナンスリースまたはオペレーティングリースに分ける区別が廃止されました。この変化は、日本の会計基準にも取り入れられる予定です。
2023年5月に企業会計基準委員会(ASBJ)が発表した「リースに関する会計基準(案)」によれば、日本の会計基準と国際基準の間で、特に負債の認識に関する違いが問題視され、国際的な比較において議論が起こる可能性が指摘されていました。
この状況を踏まえて、企業会計基準委員会が財務諸表の作成者や利用者から広く意見を集めた結果、2019年3月に開催された第405回の会議で、資産を借りる側(借手)が行うすべてのリースについて資産と負債を計上する新しい会計基準の開発を始め、現在もその検討を続けているとされています。
ここでは負債の認識の違いを解消するため、すべてのリースを原則としてオンバランスで計上する方針が示されています。
そして企業会計基準委員会が公開した草案では、リース費用の配分について、減価償却費や利息相当額を計上する処理モデルが提案されています。
参考:企業会計基準委員会(ASBJ)「2023年5月 企業会計基準公開草案第73号 リースに関する会計基準(案)」
新リース会計基準案の適用開始時期について
具体的な適用開始日について新リース会計基準案では明示されていませんが、以下のように示されています。
「本会計基準は、20XX 年 4 月 1 日[公表から 2 年程度経過した日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。」
なお2024年8月時点では関係機関と企業との調整が難航していることを理由に、適用開始が2027年以降に延期される見通しです。
新リース会計基準の会計処理
新リース会計基準案では、新リース会計基準を、原則として全てのリース契約へ適用することを提案しています。
資産を借りる側(借手)の会計処理は、IFRS第16号「リース」と米国財務会計基準審議会(FASB)のTopic 842「リース」の「使用権モデル」を参考に、日本での新基準の開発が実施されており、例外はあるものの基本的には以下の方針に基づいています。
- 借手の費用配分方法
IFRS第16号との整合性を確保する方向で検討されています。 - 代替取扱いや経過措置
国際的な比較可能性を大きく損なわない範囲で、代替的な取扱いや経過措置を設けるなど、実務に配慮した方策が検討されています。 - 会計処理の一致
借手と資産を貸す側(貸手:リース会社)の会計処理に齟齬が生じないよう、現行のリース取引に関する会計基準を改正します。
この改正では、借手の会計処理において、ファイナンスリースとオペレーティングリースの区別をなくし、単一の会計処理を導入することが提案されています。さらに短期リース・少額リース以外の全てのリースに関して、使用権資産とリース負債を認識することが求められます。
これにより、現行基準でオフバランスとされているオペレーティングリースがオンバランスとなるなどの影響が生じます。
資産を借りる側の会計処理のイメージ
【リース取引開始時】
借方)使用権資産*1 □□□ 貸方)リース負債*2 □□□
*1:原則としてリース負債の額と同額を使用権資産として計上。
*2:支払リース料の総額の現在価値をリース負債として計上。
【その後】
借方)償却費用*3 〇〇〇 貸方)使用権資産 ×××
利息費用*4 ●●● 現預金等 ☆☆☆
リース負債 △△△
*3:リース期間にわたって、定額法などの方法で償却。
*4:リース期間にわたって原則として利息法で処理し、利息費用を計上しながらリース負債を減額する。
使用権資産の償却方法
- 原資産の所有権が借手に移転するリース:自らが原資産を所有していると仮定し、その場合と同じ減価償却方法を適用します。
- その他のリース:企業の実態に応じて、定額法などの償却方法から適切な方法を選択して適用します。
なお、使用権資産については以下の記事で詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
新リース会計基準が企業に与える影響
新リース会計基準の導入は企業に対して大きな影響を及ぼすことが想定されます。リース契約時に使用権資産とリース負債を計上する必要があるためです。
これに伴い、仕訳数は大きく増えることが予測されます。各リース取引に対して同様の処理が必要となるため、経理処理の負担が増加することは避けられないでしょう。
また、全社のリース取引状況を本社のみで完全に把握することは現実的でなくなることが想定されます。リース契約件数や利用部門が増えるほど、情報収集と適切な管理が難しくなるためです。
そして、従来リース取引として扱われなかった不動産賃貸契約なども、新基準の適用によりリース取引の対象に含まれる可能性があります。
結果として、リース取引に関わる経理処理の負担は従来よりも大幅に増加することが予想されます。
まとめ
新リース会計基準の適用までに準備を整えることは、経営者や財務担当者にとって重要な課題です。そこで本記事では、基準変更の重要なポイントや賃貸契約への影響、そして事前に必要な準備について詳しく説明しました。
新リース会計基準について理解を深めて、影響を受ける契約の特定や会計処理の調整、システムの更新などの適切な対応策を講じる必要があります。
特にこれまで資産計上が不要だったオペレーティングリース取引をオンバランスすることによって、土地の賃貸契約なども対象となるため、企業の会計処理フローに大幅な変更が求められます。
対応には時間がかかるため、早期に準備を始め、効果的な対応方針を策定することが推奨されます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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