- 更新日 : 2024年7月12日
M&AにおけるPMIとは?重要性・手順・成功のためのポイントを解説
M&Aにおいて、成約後の譲渡企業と譲受企業の経営統合作業であるPMIは非常に重要なプロセスです。本記事では、M&AにおけるPMIの概要や手順、成功のポイントについて詳しく説明します。今後M&Aを検討している経営者や、PMIについて理解を深めたい担当者の方々は、ぜひ参考にしてください。
目次
PMI(Post Merger Integration)とは
PMI(Post Merger Integration)とは、合併や買収のM&A後の統合プロセスを計画し、実行することです。
PMIの主な目的は、M&Aの効果を最大化し、最初に計画した通りのシナジーを実現することです。経営体制や業務プロセス、ITシステム、従業員、企業文化など、さまざまな要素に影響を与えます。
M&AにおけるPMIの重要性
M&AでPMIが重要だとされる理由は、PMIの実施有無によって、M&Aの成功率が大きく変わるためです。M&Aの成功を測る尺度はさまざまですが、そのひとつに「当事者となった企業が満足できる効果が出たかどうか」があります。
中小企業庁の「中小PMIガイドライン」によると、調査対象となった企業のうち24%が、M&A実施後の満足度が期待値を下回ったと回答しています。
また、主な理由としては、「シナジー効果が出なかった」、「相手先の従業員に不満があった」、「企業文化・組織風土の融合が難しかった」などです。
シナジー効果の最大化や従業員の引き継ぎ、文化や戦略などの融合は、PMIでの取り組みによって成否が左右される要素です。上記のように、M&Aの目的達成に大きな影響を与えることから、PMIは重要なプロセスだといえます。
大企業と中小企業におけるPMIの違い
大企業と中小企業におけるPMIには、「規模」に大きな違いがあります。
中小企業庁の「中小PMIガイドライン」によると、中小企業におけるM&Aの譲受企業は、約8割強が個人事業主または資本金1億円以下です。さらに、譲渡企業の売上規模は譲受手側の約半分以下であるケースが大半であり、譲渡側・譲受側の双方が小規模であることがわかります。
M&Aの規模が小さいことから、中小企業のPMIでは以下の4点に留意が必要です。
- PMIに投入できるリソース(資金や人材など)が少ない
- 従業員の心情や処遇を重視する(とくに譲渡側)
- 業務プロセスやITシステム運用の属人化・不備が多い
- 経営陣の個人的な心情に左右されやすい
とくに重要なのは、リソースの制約です。PMIに割けるリソースが少ないため、外部コンサルタントを含む専門家を積極的に起用したり、早い時期から準備を進めたりすることが重要です。
また、経営陣や従業員の感情面への配慮については、大企業以上に注力すべき事項だといえます。
PMIの種類と特徴
PMIは、「経営面の統合」と「業務面の統合」の2種類に大別されます。経営面の統合では、経営の方向性確立や経営体制の構築などを実施します。
一方、業務面の統合はさらに「事業機能の統合」と「管理機能の統合」の2種類です。
事業機能の統合では、経営資源の相互活用や共通化(原材料の共同調達・配送など)、販売拠点の統廃合などが検討されます。
管理機能の統合では、人事・労務、会計・財務、法務、ITシステム、業務プロセスの統合や改善を図ります。具体的な実施業務については、「PMIの実施業務」の章で詳しく解説するため、ぜひ参考にしてみてください。
PMIの費用
PMIにかかる費用は、統合する企業の規模や業種・システムの複雑さ・人員数などにより大きく異なります。一般的にPMIは安い投資ではなく、費用対効果を意識した進め方が必要です。
コストを抑えるには、PMIの目的を明確にし、「やること・やらないこと」の線引きをする必要があります。また、仲介会社が提供する標準的なPMIプランは、自社に適さない場合もあるため、内容を慎重に見極めましょう。
PMIの費用の内訳
PMIには多くの工程が含まれるため、事前に費用の内訳を把握しておくことが重要です。どの業務にどれだけのコストがかかるかを理解しておけば、予算の過不足を防ぎ、効率的に進行できます。
以下では、PMIの費用の内訳について紹介します。
人件費
PMIには経営層から現場の実務担当者まで幅広い人材が関与するため、人件費は全体のコストの中でも大きな割合を占めるのが一般的です。とくに、M&A後に立ち上げる専任のPMIチームにかかる人件費は、短期的にも大きな負担となる可能性があります。
通常業務と並行して社内人員だけで対応しようとすると、効率が落ちるリスクがあるため注意が必要です。PMI経験のない人材のみで構成すると、判断ミスや遅れが発生し、かえってコストが増える恐れもあります。
一方、外部の専門家を加えることで、統合が円滑に進み、費用対効果が高まるでしょう。人件費は単なるコストではなく、戦略的な投資として捉えることが重要です。
外部委託費
PMIでは専門的な知識や実務経験が求められるため、一部の業務を外部の専門家に委託することが一般的です。
外部の専門家に業務を委託する場合に発生する外部委託費(コンサル費用)は、業務内容や企業規模によって大きく異なります。すべてのコンサル会社がPMI支援に適しているとは限らず、助言のみで終わる支援に依存すると失敗につながる恐れもあります。
PMI支援に特化した会社は、現場に入り込みながら担当者と並走するのが特徴です。外部委託費はコストではなく、成功に向けた戦略的投資と捉え、信頼できる支援先を選定することが重要です。
システム関連費用
M&A後には、基幹システム(会計・人事・販売管理など)の統合を要することが多く、システム関連費用が発生します。
費用はシステムの規模や複雑さにより大きく変動するため注意が必要です。たとえば、異なるシステム同士を無理につなげたり、大幅なカスタマイズをしたりする場合には、コストが大きく膨らむ可能性があります。
一方で、システム統合は将来的な業務効率の向上やコスト削減につながることも多く、長期的には戦略的投資と捉えることが重要です。なお、買収側の都合だけでシステム変更を進めると、現場に混乱を招き、生産性が低下するリスクがあります。
システム統合の可否は、コストだけでなく、現場のITリテラシーや使いやすさなども含めて総合的に判断することが大切です。
PMIにより期待できる5つの効果
PMIは、M&A後の混乱を抑えつつ、統合による成果を最大化するための重要なプロセスです。期待できる効果を事前に理解しておくことで、適切な目標設定や進行管理につながります。
以下では、PMIにより期待できる効果について紹介します。
1. 予定のシナジー効果をうまく発揮できる
M&Aでは、売上拡大やコスト削減、顧客基盤の共有、新規市場への展開といったシナジー効果が期待されます。
しかし、統合が不十分な場合には効果が実現せず、M&Aの成果が不透明になるリスクがあります。PMIは、予定されたシナジーを確実に発揮させるための実行段階であり、早期かつ丁寧な対応が重要です。
統合が遅れると、業務の非効率や人材の流出を招く恐れがあります。一方で、計画的にPMIを進めることで、サービスの質向上や市場シェア拡大といった成果が早期に現れやすくなるでしょう。
2. 従業員の不満を解消できる
M&Aでは、異なる企業文化や価値観の衝突により、従業員の間に戸惑いや不満が生まれることがあります。
とくに「買収された側」と感じる従業員は、心理的な不安からモチベーションが低下しやすくなります。PMIでは、「なぜ統合するのか」「今後どうなるのか」を丁寧に説明し、従業員の理解と安心感を得ることが重要です。
企業理念や経営戦略を共有することで、新体制への信頼が生まれ、離職リスクの軽減にもつながります。さらに、経営層と現場とのコミュニケーションを強化することで、人材やノウハウの流出を防ぎ、スムーズな統合を実現しやすくなります。
3. 内部統制やシステムの構築・統合を目指せる
PMIでは、業務ルールやガバナンス体制、情報システムを整理・統合し、新たな企業として機能する基盤を整える必要があります。
買収された側が中小企業である場合は、上場企業並みの内部統制を新たに構築する必要があるケースもあります。
M&A直後は、組織や業務が不安定になりやすい時期です。内部統制やシステムの整備が不十分なままだと、業務ミスやシステム不具合が発生しやすくなります。結果として、期待していたシナジー効果どころか、かえって逆効果になる可能性もあるため注意が必要です。
属人化や情報のばらつきもリスクに挙げられます。システム統合では、利便性・コスト・将来性を踏まえた判断が重要です。PMI段階で方針を明確にしておくことで、スムーズな統合と早期安定化が可能になるでしょう。
4. 経営戦略や企業理念などを浸透させられる
M&Aでは、異なる企業文化や経営戦略、理念を持つ企業が統合するため、価値観のギャップが生じやすくなります。
PMIは、経営戦略やビジョン、企業理念を全社に浸透させ、組織の方向性を統一するための重要なプロセスです。経営陣同士の理念共有はもちろん、従業員一人ひとりが意義を理解し、納得することがPMI成功につながります。
PMIを通じて、経営の想いを現場の具体的な行動へと落とし込むことで、新しい組織としての一体感が生まれやすくなり、早期の統合効果も期待できるでしょう。
5. 業務の再設計により組織全体の生産性を向上できる
PMIでは、M&Aを機に業務プロセスを可視化し、部門や業務の無駄やムラを洗い出すことで、組織全体の再設計ができるようになります。
業務フローや生産体制を見直すことで、工程の最適化やリソースの有効活用が実現し、生産性向上につながるでしょう。
また、販売チャネルや営業エリアの整理により、重複業務を減らし、営業効率や対応スピードの改善も期待できます。さらに、両社のノウハウや強みを融合することで、より効果的な営業や製品開発が可能です。
上記のような業務改善の積み重ねにより、現場レベルから組織全体のパフォーマンスが高まり、生産性の向上を実感しやすくなります。
PMI前に防いでおきたいリスク
M&A実施後に発生する可能性がある主なリスクは、以下のとおりです。
- 従業員の協力が得られない:譲渡企業の従業員が新しい経営方針に納得せず、退職する
- シナジー効果が得られない:当初想定したシナジー効果が発現せず、期待した利益や成果を得られない
- 業務が滞る:異なる企業の業務プロセスやITシステムの統合がうまくいかない場合、業務が滞る
- 後任者が前任者の経理業務を引き継げない:日常業務が属人化しており、後任者がスムーズに引き継げない
PMIでは、上記のようなリスクを防ぐために、事前の計画や従業員の不安・混乱への配慮が必要です。また、シナジーを達成するための施策の実施、業務フローの改善や、ITシステムの統合などを行う必要があります。具体的な施策は次章以降で詳しく説明します。
PMI開始の最適なタイミング
PMIは、「プレPMI」「PMI」「ポストPMI」という3つのプロセスに大別されます。
以下では、各プロセスの最適な開始タイミングや期間の目安、留意点などを解説します。
プレPMIを開始する最適なタイミングと留意点
PMIのプロセス自体は、M&A成立後の初日に開始することが一般的です。
ただし、PMIでは業務や経営の統合が必要となるため、双方の企業の経営陣や従業員による協力や理解が欠かせません。統合には多大な労力を伴うため、M&Aの成立前から事前準備を進めることが重要です。
上記の事前準備は「プレPMI」と呼ばれ、通常は基本合意書の締結またはデューデリジェンスの実施後に開始されます。ただし、場合によっては、より早い段階から検討や準備を進めるケースもあります。プレPMIでは、デューデリジェンスやトップ面談などのプロセスを通じて、相手企業の定量的・定性的な情報を最大限取得することが重要です。
とはいえ、M&A成立後に実際の職場で従業員からヒアリングしなければ判明しない事項も少なくありません。したがって、プレPMIでは「現時点で何を把握できているか・いないか」を明確化した上で、PMIで実施すべき事項を具体的に計画しておくことが求められます。
PMIの目安期間と留意点
一方でM&A成立後に行うPMIは、約1年にわたって実施されるケースが一般的です。とくに、PMI推進体制の確立や信頼関係の構築、現状把握などの重要項目は最初の100日間で実施されることがほとんどです。
ポストPMIの目安期間
PMIのプロセスが完了した後は、M&Aの効果を最大化するためにポストPMIの取り組みを実施します。
ポストPMIでは、PMIの効果検証や改善策の実行を継続的に進めていきます。ポストPMIは持続的な成長を目的に実施されるプロセスであるため、数年単位での実施が目安です。
PMIの実施手順
PMIの効果を最大化するには、場当たり的な対応ではなく、明確な手順に沿って計画的に進めることが重要です。段階ごとの目的や実施内容を把握しておくことで、リスクの回避や統合効果の向上につながります。
以下では、PMIの実施手順について、それぞれ詳しく解説します。
M&A戦略の決定
まず、M&Aをどのような計画で、どのくらいの期間で実施するかを検討します。
PMIを通じた新たな経営管理体制のために動き始める段階では、以下のポイントを検討し決定することが重要です。
- 戦略の明確化:M&Aの目的やビジョン、目標を明確化します。どのような成果や効果を期待するのかを定義します。
- 期間の設定:クロージングや統合プロセスのスケジュールを具体的に計画し、実行可能な期間を設定します。
- 経営管理体制の構築:意思決定プロセスなどを計画し、新しい経営管理体制の設計を行います。
統合計画(ランディング・プラン)・100日プランの策定
次に、統合計画を策定します。統合計画は、クロージング(経営権の移転手続き)後に実行され、通常は3〜6ヶ月以内に完了するのが一般的です。譲渡企業と譲受企業それぞれが、事業と管理の両面からみた改善策や見直しを計画に盛り込みます。
事業面では、原価・販売費などの目標を設定します。管理面では組織形態、規則、人事、経営管理、経理、一般事務に関する目標を設定し、見直しを行い、目標の設定が必要です。業務プロセスやITシステムの統合に関する目標の設定も行われます。
従業員の協力が得られないというリスクを防ぐためは、M&A成立後、早急に従業員向けの説明会や個人面談を実施することが効果的です。異なる価値観の誤解を防ぐには、コミュニケーションを促進し、価値観を共有することが有効です。
また、シナジー効果が得られないというリスクに対応するには、現場の担当者同士が協力し、お互いの価値観や働き方を尊重しながら、新しいルールを共同で策定するのがよいでしょう。
これまでのステップで策定した統合方針や計画に基づき、次に「100日プラン」を組み立てます。統合計画は全体の枠組みですが、100日プランは緊急性の高い課題に絞り込んだ、具体的なスケジュールと実行計画です。
上記の段階でプロジェクトチームの編成を行い、100日間にわたる統合作業の具体的な計画を立てましょう。
M&Aの実施
M&Aの実施後は、統合初期の取り組みとして「100日プラン」に沿った行動が重要です。
短期間で成果の出やすい施策を優先的に進めることで、統合効果を早期に実感しやすくなります。100日プランに入りきらなかった施策は、「中期の実行計画」として整理し、継続的に取り組む必要があります。
各施策にはKPI(Key Performance Indicators)を設定し、進捗や成果のモニタリングが必要です。また、100日プランの前段階で売り手企業の課題やシナジーの可能性を整理しておくと、PMIを円滑に進めやすくなります。PMIは一度で終わるものではなく、中長期的なプロジェクトであるため、関係者のモチベーション維持も重要です。
ディスクローズ
M&Aが正式に成立した後は、社内外の関係者に向けて情報開示(ディスクローズ)を行います。
ディスクローズでは、秘密保持契約(NDA)を遵守しつつ、「誰に・いつ・どのように伝えるか」を慎重に設計することが重要です。
買い手企業の従業員には、M&Aの目的や今後の方針を丁寧に伝え、納得と協力を得る必要があります。また、M&Aによって実現したい未来や成長の可能性を示すことで、前向きな受け止め方を促せます。
説明会の実施にあたっては、登壇者の人選や話す順序、言葉の選び方にも細心の注意を払い、信頼を損なわない対応を心がけましょう。
効果検証とフォローアップ
PMIの最後のステップは、効果の検証とフォローアップです。100日プランに含まれなかった課題に対して、別途実行計画を策定し取り組みましょう。
具体的なアクションプランを立てたら、プランに基づいた施策を実行し、マネジメントチームが進捗をモニタリングすることも非常に重要です。
また、策定された統合計画や100日プラン、そして作成されたアクションプランの進捗状況を評価し、効果を検証します。検証の結果、改善すべき領域や対処すべき問題が浮かび上がれば、問題に応じたフォローアップ施策を実行します。
PMIの実施業務
PMIでは、統合後の企業価値を最大化するために、多岐にわたる実務対応が求められます。人事や会計、システムの整備だけでなく、従業員の不安解消や文化の融合も重要です。
以下では、PMIで実施する業務とそれぞれの留意点を解説します。
新たな経営体制の構築
M&Aにおいては、新しい経営管理体制を作り上げる必要があります。M&Aでは、譲渡企業が意思決定を担当するのが一般的です。そのため、譲渡企業に経営陣を派遣し、連携しながら経営方針やビジョンを共有していきます。
譲渡企業が中小企業の場合、法的に必要な組織(例:取締役会)だけでなく、意思決定プロセス、業績管理方法、人員配置などについても統合と改善を進めるとよいでしょう。
また、M&Aによって新しい会計方針を設定したり、既存の方針を見直したりすれば、見直しに応じてKPIや業績管理、中期経営計画、予算なども見直す必要があります。
両社の協力のための体制構築
M&A後にシナジー効果を生み出すためには、両社の現場担当者同士が緊密に連携することが不可欠です。しかし、実務担当者が変更に対してネガティブな反応を示すことがあり、協力を得るのが難しい場合もあります。
信頼関係を築くには、両社の担当者がコミュニケーションを図り、互いの価値観や働き方を尊重する姿勢が重要です。そのうえで、新たなルールを共同で策定することで、より実効性のある統合が期待できます。
業務プロセスとITシステムの統合
業務プロセスやシステムを標準化するために、統合を実施します。
長期間にわたってオペレーションやシステムを統合しないままでいると、非効率な業務や情報の重複入力などの無駄が生じてしまいます。そこで、両社が使っているシステムがまったく異なる場合などには、新しいERPパッケージの導入を行うことが成功のためのポイントです。
ERPは、企業経営に必要な人、モノ、カネ、情報という経営資源を効果的に管理・活用するシステムです。ERPを使えば、企業内の情報を集約し、企業の状況を正確かつ迅速に把握でき、シームレスな業務統合を実現することにつながります。
ERPの概要や財務会計業務においてERPを導入するメリットなどについては、以下の関連記事もあわせてご確認ください。
経理・財務の統合
経理・財務の統合は、全体の経営判断を行うために急務となる重要なプロセスです。
・経理体制の構築
M&A後は、支払い業務や給与計算、会計データの入力など、日常業務に支障が生じる可能性があります。後任者が前任者の経理業務を引き継げないリスクに対応するために、業務リストやフロー、マニュアルを作成するなど、業務を明確に整理することが大切です。
・決算の早期化と決算期の統一
効果的な財務分析と意思決定を行うには、決算情報を迅速に把握することが不可欠です。月次決算が遅れるなどしている場合は原因を特定し、早期化を図るために経理担当者と協力し、プロセスの見直しを行うとよいでしょう。
・内部統制の構築
内部統制を構築するためには、次の3つの要素を整備する必要があります。
②業務記述書
③リスクコントロールマトリックス
上記を作成し、不正行為や業務ミスの防止、効率化を図るための社内体制を譲受企業の監査基準に合わせて新たに構築する必要があります。
・連結決算体制の構築
譲受企業が上場企業である場合には、譲渡企業の財務データを取り込んで連結決算を行う必要があるため、注意しましょう。
連結決算を行う際は、譲渡企業と譲受企業の両方で特別な対応が必要です。とくに譲渡企業がそれまで連結決算を行ったことがない場合、業務量や精神的な負担が増加する恐れがあるため、必要に応じて経理担当者を追加するなどのサポートを実施するとよいでしょう。
経営ビジョンおよび組織文化の統合
シナジー効果を最大化するには、M&Aを行った企業双方の経営陣や従業員が同じ目線に立って、ひとつの目標に向かって進んでいくことが求められます。そのため、PMIでは経営ビジョンや組織文化の統合も取り組みのひとつです。
具体的には、主に以下の取り組みを実施します。
- 将来的にどのような企業を目指すのか、そのための取り組みはどのようなものかを従業員に示す
- 譲渡企業の文化やよい面を尊重しつつ、慎重に組織の考え方を統一していく
また、上記2つのプロセスで従業員が不安を募らせないように、適宜コミュニケーションを図ることも大切です。
PMIが失敗する原因
PMIは統合効果を最大化する重要なプロセスですが、進め方を誤ると期待した成果が得られず、M&A全体の失敗につながる可能性が高まります。リスクを回避するためには、失敗の原因を確認しておくことが重要です。
以下では、PMIが失敗する原因について紹介します。
PMIでの税務リスクについては、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
企業文化が衝突している
PMIが失敗する原因として、企業文化の衝突は多くみられます。統合する2社が異なる価値観や仕事の進め方を持っている場合、現場での摩擦や対立が生じやすくなります。
たとえば、オープンなコミュニケーションを重視する文化と上下関係を重視する文化、慎重な意思決定と即断即決のスタイル、年功序列か成果主義かという評価制度の違いが原因です。
文化のズレを放置すると、従業員の士気が低下し、生産性の低下や人材の流出を招く可能性があります。PMIでは、どちらか一方の文化を尊重するのか、両社の強みを活かして新しい文化を築くのか、明確な方針を示すことが重要です。
システム統合が失敗している
PMIでのシステム統合は、異なるシステムを持つ企業同士の統合であるため、難易度の高い工程です。統合が失敗すると、業務の停止や余計なコストの発生など、PMI全体に混乱を招く可能性があります。
よくある失敗としては、システムの規模や難易度を誤って見積もり、非現実的な計画を立ててしまうケースやデータ移行時に抜けや重複が発生し、情報の正確性が損なわれるケースなどです。
また、業務フローの見直しが不十分なまま統合を進めると、現場が混乱しやすくなります。さらに、十分なテストを行わずに本番稼働すると、業務停止や障害のリスクも高まります。
リスクを防ぐには、システム統合に精通した専門家のサポートを受けることが効果的です。
コミュニケーションが不足している
PMIは経営陣や従業員、顧客、取引先など多くの関係者が関わる「チーム戦」であり、情報を誰に・いつ・どう伝えるかが重要なポイントです。
コミュニケーションが不足すると、現場に誤解や不安が広がり、信頼関係の崩壊につながる恐れがあります。たとえば、経営陣からの情報共有が不十分なまま進行すると、従業員が取り残されたと感じて士気が下がるでしょう。
また、組織変更や人事制度の説明が曖昧だと混乱を招き、顧客への対応が不十分であれば、サービスへの不信から離反が起こることもあります。失敗を防ぐには、一方的な情報発信だけでなく、対話の場を設けて双方向のコミュニケーションを図ることが重要です。
プロジェクトマネジメントが不十分である
PMIは単なる統合作業ではなく、タスク・スケジュール・人材・予算を細かく管理する大型プロジェクトです。
プロジェクトマネジメントが不十分な場合、段取りが崩れ、PMI全体が迷走するリスクが高まります。よくある失敗としては、ゴールが不明確で関係者がバラバラに動いてしまうことなどです。また、進捗管理が甘くスケジュールが遅延したり、人材や予算を確保できず作業が進まなかったり、想定外のトラブルに誰も対応できず現場が混乱するケースもあります。
PMIを成功させるためには、PMI専任のリーダーを配置し、明確な目標設定、進捗の見える化、リスク管理を徹底することが重要です。
営業現場を把握できていない
PMIでは、売上の向上や新規顧客の獲得といった営業面での成果が求められます。
しかし、営業現場の実情を把握せずに戦略を立てると、売上ダウンや顧客離れを引き起こすリスクがあるため注意が必要です。たとえば、統合後の商品やサービスが既存顧客のニーズとずれていたり、営業担当の配置転換や顧客引き継ぎがうまくいかず関係性が悪化したりすることがあります。
また、期待されるシナジーに基づいて無理な売上目標が設定され、現場が混乱するケースもあります。
失敗を防ぐには、営業部門をPMIの初期段階から巻き込み、ヒアリングやアンケートを通じて現場の課題と必要な支援を明確にすることが重要です。
PMIを成功させるポイント
最後に、譲受企業と譲渡企業双方の視点から、PMIを成功させるポイントを解説します。
譲受企業
譲受企業のポイントは以下の3点です。
デューデリジェンスによるリスクの洗い出し・対策の検討
PMIを成功させるには、相手企業の強みや弱み、経営資源や事業の状況、潜在的なリスクなどの情報が不可欠です。必要な情報がないと、PMIの的確な計画を立てられず、的外れな統合となる可能性があります。リスクを回避するためには、人事や法務、会計などの各領域で徹底したデューデリジェンスを行いましょう。
スケジュールと目標の明確化
ここまで述べたとおり、PMIの業務は一筋縄ではいきません。
経営方針や会計、人事など、統合の対象は多岐にわたるため、経営陣や従業員が一体となって取り組む必要があります。
そのためには、PMIのスケジュールと達成したい目標を明確化することが重要です。目標とスケジュールが明確になれば、一人ひとりが「いつまでに」「何を行えばよいのか」を理解できるため、PMIがスムーズに進められるでしょう。
適材適所の人材配置によるプロジェクトチームの編成
PMIでは、一部門に留まらない横断的な対応が求められるため、専属のプロジェクトチームを編成することがおすすめです。
専任でPMIに取り組むプロジェクトチームがあることで、よりスムーズかつ精度のよい統合を図れます。
チームを編成する際には、会計や人事などの各部門に精通した人材をピックアップすることが重要です。専門性の高い人材で編成することで、不測のトラブルにも臨機応変に対応でき、統合の成功率を高められます。
譲渡企業
譲渡企業のポイントは以下の2点です。
経営陣による従業員の不安解消
PMIの成功には、譲渡企業から引き継いだ従業員の協力も欠かせません。しかし、組織文化や業務プロセスの違いから、従業員が不安や不満を抱く可能性があります。
不安や不満はモチベーションの低下や離職などを招き、PMIが円滑に進まない要因となり得ます。
そのため、経営陣が主体となって従業員とのコミュニケーションを図り、あらかじめ不安や不満を取り除くことが大切です。なお、譲受企業側からも譲渡企業の従業員とのコミュニケーションを図り、PMIへの協力を得ることが求められます。
円滑な移行に向けた経営陣主体での貢献
PMIの成功は、長期的にみると自社(譲渡企業)の成長にもつながります。そのためにも、人事や組織文化などを円滑に移行・統合できるように、経営陣が主体となってPMIプロセスに貢献する必要があります。
PMIとは何かを理解してM&Aを成功させよう
M&Aの成功にはPMIが非常に重要です。統合後のシナジー効果や既存事業との親和性を最大限に引き出すことが成功の鍵です。また、事前の検討と準備が非常に重要で、どれだけ事前に準備が進んでいるかが重要なポイントであるといえます。
PMIにおいては、短期間でM&Aの効果を発揮させる必要があるため、経験豊富な人材の派遣や早期の統合計画の策定も重要ですとなります。準備を早めに進めて、成功に向けて取り組むことが大切であるといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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