- 作成日 : 2024年7月22日
組織再編税制とは?適格要件やグループ法人税制との違いを解説
組織再編税制とは、合併や会社分割などの組織再編に関する税制度です。適格要件を満たすことで、税務上のメリットを得られます。組織再編税制の概要や該当スキーム、パターン別の適格要件などを説明します。
目次
組織再編税制とは
はじめに、組織再編税制に関する基本的な知識について説明します。
組織再編税制の意味
組織再編税制とは、組織再編行為に関する課税に関して包括的に定めている税制度です。
合併などのM&Aは、主にグループ企業内の組織再編を目的に行われます。原則的な税制が適用されると、移転される資産や負債が時価で評価されるため、課税が発生します。しかしこの多額の課税が阻害要因となり、M&Aなどによる組織再編を行いにくくなってしまうという側面もあります。
組織再編税制は、上記の事態に対処する目的で制定されました。これにより指定の条件を満たす組織再編行為に関しては例外的に資産や負債を簿価で引き継ぐことが認められるようになり、課税を気にせずに合併や会社分割などを行えます。
税制適格組織再編と税制非適格組織再編の違い
組織再編税制では、指定の条件をクリアしている組織再編行為を「税制適格組織再編」、満たさないものを「税制非適格組織再編」と定義しています。両者の違いを簡潔にまとめると以下のとおりです。
種類 | 移転する資産・負債の評価方法 | 課税の有無 |
---|---|---|
税制適格組織再編 | 簿価 | 課税されない(繰り延べされる) |
税制非適格組織再編 | 時価 | 課税される |
組織再編税制が該当するスキーム
組織再編税制に該当するスキームを紹介します。
会社分割
ビジネスに関して保有する権利・義務の一部または全部を分割し、他の企業に承継させる手法です。承継先が既存企業となる吸収分割と、新しく設立する企業となる新設分割があります。
合併
2社以上の企業を1社に統合させる手法です。ある企業の法人格を消滅させた上で、他の企業が消滅会社が有していた権利・義務のすべてを引き継ぎます。既存企業が承継する吸収合併と、新設会社が承継する新設合併があります。
株式交換・株式移転
株式交換は、主に株式を報酬として支給し、ある企業が有する発行済株式のすべてを取得することで、対象企業との完全支配関係を築く手法です。一方で株式移転は、1社または2社以上の企業が有する発行済株式のすべてを新設する会社に取得させることで、完全支配関係を築く手法です。
現物出資・現物分配
現物出資とは、金銭以外の現物を出資し報酬として株式を受け取る手法です。一方で現物分配は、株主に対する配当などを実行する際に金銭以外の現物を支給する手法です。
キャッシュ・アウト
少数株主に報酬として現金を支給することで、同意を得ずに株式を買い取れる手法です。100%子会社化を実現できる手法であり、スクイーズ・アウトとも呼ばれます。
組織再編税制における税制適格要件の内容
税制適格組織再編と認められるには、法人税法の第2条に規定されている条件の中で、組織再編のパターン別に必要なものを満たす必要があります。具体的な内容は下記のとおりです。
税制適格要件 | 概要 |
---|---|
支配関係継続要件 | 組織再編の前後において、対象会社間において支配関係が続くことが見込まれる(法人税法第2条12の8のイなど) |
金銭等不交付要件 | 株式または出資以外の報酬が支給されない(同法同条12の8など) |
従業者引継要件 | 組織再編対象となった企業における約80%以上の従業員が、引き続き再編後も業務に従事することが見込まれる(同法同条12の8のロなど) |
事業継続要件 | 組織再編対象となった企業が運営していた主要なビジネスが、組織再編後も続いて運営されることが見込まれる(同上) |
按分型要件 | 報酬である株式が、組織再編前における各株主が有する株式割合に応じて支給される(同法同条12の11) |
主要資産等移転要件 | 分割されたビジネスにおける主要な資産および負債が承継法人に移転している(同法同条12の11のロ) |
事業関連性要件 | 組織再編の対象企業間において、主要なビジネス同士が相互に関連しているものである(法人税法施行令第4条の3の4の1) |
事業規模要件 | 組織再編の当事者となる企業間において、事業規模の差が約5倍以内である(同施行令第4条の3の4の2) |
特定役員の引継要件 | 再編対象となる企業の特定役員について、再編後も特定役員になることが見込まれる(同上) |
株式の継続保有要件 | 組織再編に伴って支給される株式の全部について、支配株主によって継続的に保有されることが見込まれている(同施行令第4条の3の4の5など) |
完全親子関係継続要件 | 組織再編後に、完全支配関係が続くと見込まれる(同施行令第4条の3の20の6など) |
非支配関係継続要件 | 組織再編前に支配関係がなく、かつ再編後も支配関係が築かれないことが見込まれる(同施行令第4条の3の9など) |
※参照元:
e-Gov「法人税法」
e-Gov「法人税法施行令」
パターン別に見る組織再編税制の適格要件
主に財務省「組織再編税制に関する資料」をもとに、組織再編のパターンごとに満たすべき税制適格要件について説明します。
完全支配関係にある企業同士の組織再編
完全支配関係とは、親会社が子会社発行株式の全部(100%)を有する関係を指します。完全支配関係にある企業同士の場合、以下の条件を満たすことで税制適格組織再編となります。
原則 | ・支配関係継続要件 ・金銭等不交付要件 |
会社分割の場合 | 上記に加えて ・按分型要件 |
支配関係にある企業同士の組織再編
支配関係とは、親会社が子会社発行株式の50%超〜100%未満を有する関係を指します。支配関係にある企業同士の場合、以下の条件を満たすことで税制適格組織再編となります。
原則 | ・支配関係継続要件 ・金銭等不交付要件 ・従業者引継要件 ・事業継続要件 |
会社分割の場合 | 上記に加えて ・按分型要件 ・主要資産等移転要件 |
共同事業を実行する目的での組織再編
資本関係を有さない会社同士が共同でビジネスを実行する場合、以下の条件を満たすことで税制適格組織再編となります。
合併 | ・金銭等不交付要件 ・従業者引継要件 ・事業継続要件 ・事業関連性要件 ・株式の継続保有要件 ・事業規模要件または特定役員の引継要件 |
株式交換・株式移転 | 合併の要件に加えて ・完全親子関係継続要件 |
会社分割 | 合併の要件に加えて ・按分型要件 ・主要資産等移転要件 |
スピンオフ(独立してビジネスを実行する目的での組織再編)
スピンオフとは、任意の事業部門もしくは子会社を切り離し独立させる手法です。事業部門を切り離す場合は新設分割、子会社を切り離す場合は現物配当(株式分配)によって行われます。経済産業省「『スピンオフ』の活用に関する手引」によると、スピンオフは以下の条件を満たすことで税制適格組織再編となります。
新設分割(分割型分割) | ・金銭等不交付要件 ・非支配関係継続要件 ・按分型要件 ・主要資産等移転要件 ・従業者引継要件 ・事業継続要件 ・特定役員の引継要件 |
現物配当 | 上記要件から、主要資産等移転要件を除いたもの |
※参照元:
財務省「組織再編税制に関する資料」
経済産業省「『スピンオフ』の活用に関する手引」
組織再編税制を適用するメリット
適格組織再編の条件を満たすことで、資産を承継させる法人、引き継ぐ法人、株主のそれぞれに以下のメリットがあります。
対象者 | メリット |
---|---|
資産を承継させる法人 | 資産の時価評価に対する課税が行われない |
資産を引き継ぐ法人 | 簿価で資産を引き継いだと見なされる |
株主 | 譲渡所得やみなし配当に対する課税が生じない ※譲渡損益が繰り延べされる |
共通して、組織再編時点における税負担が軽減されるといえるでしょう。
まとめ
組織再編税制の適用により、法人や株主は税務上の恩恵を期待できます。ただし、満たすべき適格要件は組織再編のパターンによって異なるため、税理士などの専門家に相談することがおすすめです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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