- 作成日 : 2024年7月22日
【令和7年度】業務改善助成金とは?条件や申請方法、車両購入の成功事例などをわかりやすく解説
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が従業員の賃金を引き上げ、生産性向上を目的とした設備投資やシステム導入を行う際に活用できる制度です。特に、令和7年度は要件や助成内容が拡充され、車両購入など幅広い取組みも対象となります。本記事では、対象となる事業者の定義や申請条件、申請方法、実際の活用事例を解説します。
目次
業務改善助成金とは
業務改善助成金とは、中小企業や小規模事業者を対象とした助成制度です。
「事業場内最低賃金を30円以上引き上げ」と「生産性向上を目的とした設備投資」の両方を行った場合に、その設備投資費用などが一部助成されます。
「事業場内最低賃金」とは、工場や営業所などの事業所において最も低い時間給を指します。また「生産性向上を目的とした設備投資」とは、各種機械設備やコンサルティングをはじめ、人材育成や従業員への教育などのことです。
なお、業務改善助成金は賃金アップや設備投資に関する計画を実施後に支給申請します。その後交付が決定すると、最大600万円の助成を受けることができます。
業務改善助成金の対象となる事業者
業務改善助成金は、中小企業または小規模事業者が対象です。中小企業は業種ごとに資本金や従業員数の基準が設定されており、例えば、使用する労働者は「製造業は従業員300人以下」「サービス業は100人以下」と定義されます。
また、従業員を雇用している個人事業主も対象ですが、従業員を雇用していない(1人で営む)個人事業主は対象外です。
業務改善助成金の対象となる経費
業務改善助成金の対象となる経費は、生産性向上や労働能率増進のための設備投資や関連費用です。例えば、POSレジシステムや業務用機械、顧客・在庫・帳票管理ソフトの導入、国家資格者による経営コンサルティング費用、店舗改装や会議費、教育訓練費などが該当します。
また「特例事業者」に該当する場合は自動車やPCなどの端末導入も助成対象となります。ただし、生産性向上に直接関係しない備品購入、人件費、既存設備の修理費用などは対象外となる点に注意が必要です。
業務改善助成金の申請条件
業務改善助成金を受給するためには、下記2つの主要条件をすべて満たす必要があります。
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 解雇や賃金引き下げ等の「不交付事由」に該当しないこと
事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
申請時点で、事業場内最低賃金(事業場で最も低い時給)が、所在地における地域別最低賃金と「50円以内の差額」となっている必要があります。例えば、地域別最低賃金が1,000円の場合、事業場内最低賃金が1,050円以下でなければ申請できません。
差額が51円以上の場合は対象外です。今後、地域別最低賃金が引き上げられ、条件を満たす場合は新たに申請可能になる場合があります。
不交付事由(助成金が受給できない場合)
以下のいずれかに該当する場合、助成対象外です。
- 不当な解雇(天災等を除く)
- 賃金の引き下げ
- 労働関係法令の違反
- 過去に補助金等の取り消し・不正受給歴がある場合
- 暴力団等反社会的勢力が経営に関与している場合
パソコンや車両購入などの特例
通常、パソコンや車両の購入は助成対象外です。ただし「特例事業者」のうち、物価高騰等要件に該当する場合に限り、以下の条件でこれらも対象になります。
- 定員7人以上、または本体価格200万円以下の自動車
- パソコン、タブレット、スマートフォン等の端末の新規購入
特例事業者となるには「事業場内最低賃金が1,000円未満」(賃金要件)、「売上高総利益率または売上営業利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上の低下」(物価高騰等要件)のいずれかの要件を満たす必要があります。
業務改善助成金の助成上限額・助成率
業務改善助成金は「生産性向上を目的とした設備投資などにかかった費用に助成率をかけた金額」と「助成上限額」のうち、安い方の金額となります。
助成上限額は賃金引き上げの金額(コース)・引き上げ対象労働者数によって定められ、最大で600万円(1事業主あたり)が上限となります。下記の1人~7人以上の区分に関して事業規模30人以上の事業者の場合における助成上限額を記載しています。「10人以上」の上限額区分は、特例事業者のみに該当します。
コース | 引き上げ額 | 1人 | 2~3人 | 4~6人 | 7人以上 | 10人以上(特例事業者に該当) |
---|---|---|---|---|---|---|
30円コース | 30円以上 | 30万円 | 50万円 | 70万円 | 100万円 | 120万円 |
45円コース | 45円以上 | 45万円 | 70万円 | 100万円 | 150万円 | 180万円 |
60円コース | 60円以上 | 60万円 | 90万円 | 150万円 | 230万円 | 300万円 |
90円コース | 90円以上 | 90万円 | 150万円 | 270万円 | 450万円 | 600万円 |
また、助成率は事業場内最低賃金が1,000円未満の場合、4/5(80%)です。1,000円以上の場合は、3/4(75%)となります。
例えば、以下のケースにおける業務改善助成金の額は次のとおりです。
- 事業場内最低賃金:850円
- 特例事業者に該当(申請事業場の事業場内最低賃金が1000円未満である事業者)
- 賃金を引き上げる労働者数:12人
- 引き上げ後の賃金額:955円
- 設備投資費用:700万円
事業場内の最低賃金が850円のため、助成率は4/5(80%)となります。また、設備投資費用は700万円のため、設備投資費用×助成率は560万円です。
一方助成上限額を確認すると、賃金の上げ幅が105円であるためコース区分は「90円コース」となります。さらに賃金引き上げ対象の労働者は12名であるため、助成上限額は600万円となります。
この場合は「560万円(助成対象経費×助成率)」と「600万円(上限額)」のうち安いほうである560万円が受給額です。
業務改善助成金の申請から受給までの流れ
業務改善助成金の申請方法は次のとおりです。
1. 交付申請の準備と提出
申請者は、交付申請書や事業実施計画書などの必要書類を作成します。これらの書類は厚生労働省のホームページからダウンロードが可能です。作成した書類を、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に提出します。
2. 労働局による交付申請の審査
提出された交付申請書と事業実施計画書について、都道府県労働局が内容を審査します。完了すると「交付決定通知」または「不交付決定通知」が申請者に届きます。交付申請から交付決定まで3ヶ月程度かかります。
3. 事業の実施
交付決定後、申請内容に沿って賃金の引上げ、設備の導入、経費の支払いなど実際の事業を実施します。もし事業計画を変更する場合は「事業計画変更申請書」を、事業を中止する場合は「事業廃止承認申請書」を、事業完了が遅れる場合は「事業完了予定期日変更報告書」を、それぞれ労働局へ提出しなくてはなりません。
4. 事業実績報告の提出
事業終了後、申請者は所定の事業実績報告書や助成金支給申請書を都道府県労働局へ提出します。報告書の提出期限は、事業完了日から1ヶ月経過した日か、翌年度4月10日のいずれか早い方となるため、期限管理には注意が必要です。
5. 事業実績報告の審査と助成金交付
都道府県労働局は提出された事業実績報告書を審査し、適正と認められた場合、原則20日以内に交付額を確定し、助成金が支払われます。
6. 助成金の受領
確定通知後、申請者は指定した口座で助成金を受領します。
業務改善助成金の成功事例
ここでは、業務改善助成金の成功事例として、厚生労働省が公表している業務改善助成金の活用例を紹介します。
デリバリー販売拡大に成功した飲食業
飲食業を営むA社は、コロナ禍により店内飲食が減少していたため、業務改善助成金を利用してコンサルティングを受けました。さらに、コンサルタントのアドバイスを元に受注システムや配達用バイクをはじめ、二層フライヤーなどの設備を導入しました。
その後、受注システム導入による電話応対時間や配達時間の削減に加え、調理時間の削減などの効果を確認。最終的に時間給の100円引き上げに成功したのです。
業務管理システム導入により経営情報の一元管理に成功した理容業
理容業のB社は、会計や顧客管理に加えて在庫管理なども手作業で行っていたため、業務に時間がかかるだけではなくミスも発生していました。
そこで、業務改善助成金を活用して理容店向けの業務管理システムを導入した結果、予約対応に関する時間が10%/日も削減できただけではなく、在庫管理や精算処理自体の作業も半減。最終的に時間給の61円アップを実現しました。
参考:厚生労働省「業務改善助成金の活用例「(P6、P13)」
業務改善助成金を申請する際の注意点
設備投資のタイミング
業務改善助成金では、設備投資を行うタイミングが非常に重要です。助成金のルールでは「交付決定通知を受けた日以降」に設備投資を実施する必要があります。つまり、申請書類を提出し、審査を経て助成金の交付が正式に認められるまでは、設備を購入したり、工事などの契約を交わしてはなりません。交付決定前に発注したり、支払いが発生したりする場合は、たとえ対象設備であっても助成金の対象外となります。
また、事業実施期間には期限があり、期間内に設備が納品・稼働状態になっている必要があります。助成金の審査には3ヶ月程度がかかることが多いため、特に年度末や締切直前の申請では、余裕を持ったスケジューリングが求められます。交付決定後に契約し、期限までに確実に納品・設置が完了するようスケジュールを組むことが重要です。
賃金引き上げのタイミング
業務改善助成金を受け取るためには、従業員の最低賃金を一定額以上引き上げることが条件となりますが、実施のタイミングに注意が必要です。賃金の引き上げは、交付決定後、かつ所定の期間内に行わなければなりません。交付決定前に行った賃金引き上げは、助成の対象とは認められないため注意しましょう。
さらに令和6年度以降、段階的な引き上げではなく「一括での賃上げ」が定められています。例えば、1時間あたり30円の引き上げが必要な場合、それを2回に分けて段階的に上げることは認められず、1回で30円上げることが必要です。また、その賃上げが労働条件通知書や就業規則、賃金台帳などの記録に明確に反映されている必要があります。不備がある場合、審査で却下されることもあるため、実施後は書類の整備も怠らないようにしましょう。
なお、引き上げ後の賃金が、地域別最低賃金改定によってふたたび基準を下回る可能性もあるため、最低賃金の改定予定にも留意した計画を立てることが望ましいです。
他の助成金との併用
業務改善助成金は、目的や内容によっては他の助成金制度と併用することが可能ですが、いくつかの制限があります。特に注意すべきなのは「同一の経費」や「同一の対象労働者」に対して、複数の助成金を重複して申請することは原則として認められていない点です。例えば、業務改善助成金で従業員のAさんの賃上げを予定している場合、同じAさんについてキャリアアップ助成金も申請するとなると、併用不可とされる可能性があります。
ただし、対象設備や対象者が異なっている場合は、併用が可能となるケースも存在します。例えば、業務改善助成金では業務効率化のためのレジ導入に対して助成を受け、別の助成金では別の人材育成費用を対象とするといったように区別されていれば、同時に活用することが可能です。
併用の可否については、自治体や管轄する労働局などの判断にもよるため、申請前に詳細を問い合わせることをおすすめします。申請者の判断で進めた結果、後になって片方が不支給となるトラブルも起こっているため、計画段階での確認は必須です。
業務改善助成金を賢く活用しましょう
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が最低賃金を30円以上引き上げ、生産性向上のために設備投資などを行った際、費用の一部が最大600万円まで助成される制度です。申請には賃上げと設備導入のタイミング、他の助成金との併用制限などに注意が必要で、特例事業者に該当すればパソコンや車両購入も対象となります。従業員を雇用している個人事業主も対象となりますが、1人事業は対象外です。本制度を活用すれば、財務リスクを抑えて生産性向上の取り組みを行うことができます。
生産性に課題を感じている企業は、業務改善助成金の積極的な活用をご検討ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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