• 更新日 : 2025年3月26日

【M&A】PMIにおける税務リスクとは|主な課題と対応策を解説

M&A後の統合プロセス「PMI」において、税務は重要な課題のひとつです。税務処理の違いや過去の申告ミスが発覚すると、予期せぬ税務リスクを抱える可能性があります。この記事では、M&AにおけるPMIの税務リスクについて詳しく説明します。

PMI(Post Merger Integration)とは

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A後に企業統合を実行し、シナジー効果を最大化するためのプロセスです。M&Aの成功は、このPMIの質に大きく左右されます。

M&A成立後、以下の3つを適切に統合することで、企業価値の向上や長期的成長が可能です。

経営統合経営理念・戦略・マネジメントフレームの統合
業務統合経理業務・インフラ・人材・組織・拠点の統合
意識統合企業風土・意識・考え方の統合

PMIは「POST(後)」の言葉を含むため、M&A後にのみ実施すべき取り組みと誤解されがちですが、実際にはM&A成立前から準備が不可欠です。M&Aの目的を明確にし、譲受側の現状を把握するなど、事前の計画を進めることで統合の成功率を高められます。

しかし、日本ではPMIが十分に実施されず、想定した効果が得られないケースも少なくありません。

たとえば、新組織体制を整えずに統合を進めると、業務の重複や従業員の意識のズレが生じ、M&A本来の目的を達成できない可能性があります。そのため、買収前から統合計画を入念に策定し、適切なマネジメントを行うことが不可欠です。

PMIは単なる経営統合ではなく、組織の文化や業務の調和を図り、M&Aの成果を最大化するための重要なプロセスといえるでしょう。

PMIについて理解を深めたい担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

PMIの概要については、以下の関連記事もあわせてご確認ください。

関連記事:M&AにおけるPMIとは?重要性・手順・成功のためのポイントを解説

PMIにおける税務知識の重要性

PMIでは、財務や業務の統合に加え、税務リスクの管理も欠かせません。税務知識が不足すると、想定外の負担や法的リスクが生じる恐れがあります。適切な知識をもち、戦略的に対応することが重要です。

M&Aの成功・失敗を左右する

M&Aの成功には、PMIを通じた円滑な統合が欠かせません。目的を達成し、シナジー効果を最大化するには、買収後の統合プロセスを適切に管理する必要があります。

とくにクロージング後は、税務手続きや会計処理への迅速な対応が求められ、時間的制約の中でのタスク管理が重要です。統合の遅れやミスは混乱を招き、業績悪化や人材流出のリスクを高めかねません。

事前準備と関係者間の認識共有を徹底し、新たな企業価値を創出することこそが、M&Aの真の成功といえるでしょう。

より有効なスキームを選択できるようになる

M&Aでは、適切なスキームを選択することで税負担を抑え、より有利な取引を実現できます。売り手・買い手双方にとって、税務の知識が意思決定の質を高める重要な要素です。

M&Aでは想像以上に大きな対価が動き、採用するスキームによって手取額や税負担が大きく変わります。売り手は財産の最適な承継を、買い手は税コストの最小化を求めるため、税務の影響を理解しないまま進めると損失を被るかもしれません。

適切な税務知識を備えることで、売り手は資産を最大限確保し、買い手は企業運営コストを抑えられます。十分な知識をもって最適な手法を見極めることが、長期的な利益の確保につながります。

M&Aの主なスキーム(手法)とは

スキームとは、取引の方法や枠組みを指す言葉です。M&Aの主なスキーム(手法)を紹介いたします。

M&Aの目的や流れなどについては、以下の関連記事もご確認ください。

関連記事:M&Aとは?M&Aの概要・目的・手続きの流れなどを詳しく解説

株式譲渡

株式譲渡は、売り手が所有する株式を買い手に譲渡し、経営権を移転するM&Aの一般的な手法です。手続きが比較的簡単で、とくに非上場企業や中小企業に多く用いられます。

会社自体の形態は維持され、経営権が移る以外に大きな変化はありません。また、手続きがシンプルかつ、短期間で完了するため、スムーズな取引が可能です。

税制面では、個人の譲渡益には一律20.315%の税率が適用され、売り手は直接対価を受け取れます。ただし、売り手は経営権を喪失し、買い手は売り手のリスクを引き継ぐため、それぞれのリスクを十分に理解して適切に管理することが重要です。

事業譲渡

事業譲渡は、会社が保有する事業の一部またはすべてを売却する手法です。売り手は事業の対価として現金を受け取るものの、会社それ自体は引き続き所有します。

譲渡する事業や資産、負債を選択できるため、経営権を保持しつつ不要な部分だけを売却可能です。買い手側も必要な事業のみを取得できるため、効率的な取引が実現します。

ただし、譲渡対象の権利や義務を引き継ぐには、従業員の雇用契約の締結や不動産の登記変更など、個別の同意が必要です。必要な手続きを十分に理解し、適切に進めることが事業譲渡を成功させるポイントとなります。

会社合併

会社合併は、複数の企業を統合し、業界再編を促すために広く活用されるM&A手法です。主に「新設合併」と「吸収合併」の2種類があります。

新設合併と吸収合併の特徴は以下の通りです。

新設合併
  • 新たに設立した企業に複数の会社を統合する
  • すべての権利義務を新設された会社に引き継げる
吸収合併
  • 1社が存続し、ほかの企業は消滅(解散)する
  • 存続企業がほかの企業の権利義務を引き継げ

合併によって企業間の結びつきが強まり、シナジー効果を生み出せます。とくに、大型の業界再編を伴う案件では合併が有効です。

ただし、合併は時間やコストがかかる点に注意が必要です。事前の計画を綿密に立て、スムーズな統合プロセスを確保することが成功のカギとなります。

M&Aに伴う主な税金の種類

M&Aにおいては、株式売却に伴う個人の所得税や住民税だけでなく、さまざまな税金が発生します。

M&A手法売手(個人)売手(法人)買手
株式譲渡所得税、個人住民税法人税
事業譲渡所得税、個人住民税、消費税法人税等、消費税不動産取得税、登録免許税
会社合併

(適格合併)

登録免許税

※ 株式譲渡が相続・遺贈・贈与による場合、相続税や贈与税が発生する可能性がある。

M&Aのスキームによっては、法人税や消費税など複数の税金が関わるため、慎重な検討が必要です。

これらの税負担を適切に管理するには、事前の計画と的確な税務対応が不可欠です。M&Aを進める際は、発生する税金の種類とその影響を把握し、戦略的に対処しましょう。

PMIにおける税務の主な課題・リスク

PMIにおける税務は、統合後の企業運営に大きな影響を及ぼす重要な要素です。税務上の課題やリスクを適切に把握し、戦略的に対応することがM&A成功のカギとなります。

とくに、税制の違いが障壁となるケースが多いため、事前の綿密な計画と慎重な対応が求められます。

税務デューデリジェンスの不足

税務デューデリジェンスは、譲渡企業の納税状況や税務申告の正確性を確認する重要な調査です。過去の税務申告書や税務調査に関連する資料を分析し、M&Aの実施や価格設定における判断材料を提供します。

この調査は、M&Aの成否や価格交渉、さらには買収後のPMIにも大きな影響を与えます。税務デューデリジェンスを十分に実施しないと、潜在的な税務リスクを見逃し、買収後に予期しない税務問題が発生するかもしれません。

たとえば、過去の税務申告に誤りや漏れが発覚すると、追徴課税やそれに伴うコストが発生することがあります。事前に税務リスクを把握することで、PMI計画の作成やリスク対策をスムーズに進め、M&A後の経営統合を円滑に実行する準備が整います。

会計システムの違いに対する変更

M&A後、譲渡企業と譲受企業の会計システムの統合はPMIの重要な課題です。とくに、異なる税務申告体制がある場合、出力されるデータや帳票に違いが生じるため、両者をスムーズに統合することが求められます。

これらの違いを放置すると、会計処理の不一致やデータ管理の問題が起こる可能性があるため、早期に最適化を図ることが不可欠です。場合によっては、譲渡企業の会計システムを譲受企業のシステムに統一し、両者が同じ基準で運用できるようにする必要があります。

これにより、財務状況の透明性が向上し、経営統合の進捗が円滑に進みます。

国際的な取引における課税リスク

国際的な取引における課税リスクを回避するには、移転価格税制に適切に対応しましょう。

移転価格税制は、海外関連会社との取引において利益の不正な移転を防ぎ、自国の税収を確保するための制度です。企業が取引価格を市場価格と大きく乖離させると、税務当局から指摘を受け、追加課税のリスクが生じる可能性があります。

たとえば、日本の親会社が海外子会社に商品を通常より低価格で販売した場合、その差額分が利益移転と見なされ追加課税がおこなわれることがあります。このような状況は、親会社の収支に影響を及ぼし、経営リスクを高める原因です。

企業は移転価格税制に適切に対応し、必要な対策を講じるで、国際的な取引における課税リスクを回避できます。

PMIにおける税務リスクの3つの対策

PMIにおける税務リスクは、統合後の企業運営に影響を与える可能性があります。適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることが重要です。

デューデリジェンスを徹底する

デューデリジェンス(DD)の徹底は、M&A後のPMI成功に欠かせません。

デューデリジェンスは、買収側が売却対象企業の実態を事前に把握し、取引の妥当性を確認するための重要な調査です。この調査を通じてM&A後に発生する可能性のあるリスクを特定し、適切な対応策を講じられます。

財務や税務などの分野で隠れたリスクを事前に発見し、買収後の問題を回避するためには、デューデリジェンスが不可欠です。徹底的に実施することで、PMIのリスクを最小限に抑え、M&Aの価値を最大化できるでしょう。

デューデリジェンスの目的や種類については、以下の関連記事もあわせてご確認ください。

関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?目的、種類などを解説

PMI開始前の税務戦略立案をおこなう

M&A後の成功を収めるためには、経営陣がM&Aの目的やビジョンを明確にし、その成果を逆算して統合計画を策定することが不可欠です。この計画には税務戦略を含め、定量目標と定性目標に基づいたKPIを設定することが求められます。

統合計画を立案した後はマネジメントサイクルを導入し、定期的に進捗をモニタリングすることが重要です。これにより、税務面でもシナジー効果を確認し、必要に応じて調整をおこなえます。

適切な税務戦略の策定と経営陣の強いリーダーシップがあれば、PMIの成功を実現できるでしょう。

税務統合プロセスを設計する

税務統合プロセスの設計は、M&A後の成功的な統合を実現するために必要です。

買収後の企業の税務システムや申告方法を統一し、税務手続きを円滑に進めるためには、事前準備が欠かせません。組織再編税制や申告・納税手続きが国ごとに異なり、案件を取り巻く税制や手続きは非常に複雑です。

クロージング前から具体的な施策の準備を進めることで、税務統合後の実行がスムーズになります。また、PMIには専門的な知識が求められることが多いため、外部の専門家の支援を活用することが効果的です。

専門家と連携し、税務統合プロセスを設計することでM&A後の税務リスクを最小化し、円滑な統合を実現できるでしょう。

PMIの成功事例【2選】

PMIの成功事例を紹介いたします。

事例1:サントリーホールディングス株式会社

サントリーホールディングスは、2014年にビーム社を買収し、PMIを成功に導きました。

ビーム社は1790年代からバーボンウイスキーを製造してきた伝統ある企業です。サントリーはその伝統を尊重しながら、新しい取り組みを加えることで、PMIを効果的に進めました。

PMI成功の要因は、トップが現場レベルで徹底的にコミュニケーションを図り、部門間での理解が深まったことです。ウイスキー造りの効率化をあえて避けたことで、ウイスキーの販路を世界に広げるシナジー効果を享受し、サントリーは売上を大幅に伸ばしました。

PMIの成功により、両社のブランド展開や技術交流が進み、業績も向上した成功事例です。

事例2:ニデック株式会社

ニデック株式会社(旧・日本電産)は、M&A戦略を積極的に活用して企業成長を促進しています。2024年10月までに74件のM&Aを実施し、なかでも経営が悪化した技術力のある企業を買収し、経営改善を進めて事業の拡大に成功しました。

日本電産は買収後の早期シナジーを実現し、買収額を迅速に回収しています。また、従業員や役員の人員削減を避け、再生屋として数多くの業績不振企業の立て直しに成功しました。

この戦略により、ニデックは世界No.1の総合モーターメーカーとしての地位を確立し、成長を続けています。

PMIに伴う税務リスクを理解しよう

M&Aの成功には、PMIにおける税務対応が欠かせません。税務リスクを適切に管理し、統合後のスムーズな運営を実現することが重要です。そのためには、事前の税務デューデリジェンスを徹底し、最適な統合計画を策定することが求められます。

必要に応じて専門家の協力を得ながら計画して、M&A後の税務リスクを最小限に抑えましょう。


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