- 更新日 : 2025年2月4日
経理のペーパーレス化を実現するには?メリット・デメリット・進め方を解説
経理業務ではまだ紙の伝票が使われている場面もありますが、電子帳簿保存法が施行されたことにより、ペーパーレス化が推進されています。経理業務のペーパーレス化は、経理部門の業務を大きく効率化できるなど、さまざまなメリットもあります。
ここでは、経理部門のペーパーレス化の概要とメリット・デメリット、そしてペーパーレス化の進め方を紹介します。
経理のペーパーレス化とは
経理のペーパーレス化とは、これまで紙で作成・処理していた書類や伝票を電子化したものをデータとして管理し、会計処理を行うことです。
例えば、次のような伝票類を電子化します。
取引先から受け取る伝票が電子化されていれば、そのまま処理できます。また、紙の伝票を受け取った場合でも、会計処理を行うときにスキャナー保存や写真で電子化、データ化が可能です。
自社が発行する伝票は、PDFなどで電子化したものを送信します。ペーパーレス化が進めば伝票の内容をデータとして処理できるので、その後の工程に大きなメリットをもたらすでしょう。
経理のペーパーレス化を推進する背景
以前は、法律面においてペーパーレス化を進めにくい状態でした。たとえば紙の領収書をスキャンし、電子データとして保存することは可能でしたが、事前に税務署長の承認を得る必要がありました。満たすべき条件が多く、ペーパーレス化するメリットよりもデメリットが多い印象もあったでしょう。
しかし、2022年1月に電子帳簿保存法が大幅に改正されたことにより、ペーパーレス化しやすい条件が整いました。改正後は、電子データとして受け取った経理書類は電子データのまま、紙書類として受け取った書類は紙あるいは電子データとして保存することが義務化されています。また、紙書類を電子データとして保存する場合も、従来のように税務署長の承認を得る必要がありません。
ただし、電子データをそのまま保存することが難しい状況にあるときは、2022年1月1日~2023年12月31日の2年間に限り、電子データを紙に出力して保存することも認められます。なお、2024年1月1日以降は例外なく、電子データは電子データのままの保存が義務とされるため、早めに電子データ保存に対応しておくことが必要です。
経理のペーパーレス化に対応できる帳簿書類
ペーパーレス化を進める中でも、電子化できる書類とできない書類があります。基本的に経理書類は全て電子化可能です。中でも国税(法人税法や所得税法)に関連する帳簿や書類は電子化する必要があります。また、電子取引の伝票は最初から電子化されています。
次のような場合が、電子化に対応できない事例となります。
- 入力期間が過ぎた伝票・書類
- 読み取った書類がプリンターの最大出力よりも大きい場合
- 定期的な検査で不備があった場合
- 取引先の希望で紙の書類や伝票で処理する場合
経理のペーパーレス化を推進するメリット
経理のペーパーレス化には、次のようなメリットがあります
書類を保管するコストを削減できる
書類を紙で作成する場合や電子データを紙書類として印刷する場合、さまざまなコストがかかります。たとえば、印刷紙やプリンターのインク、ファイリングに必要なファイルなどが必要です。領収書などは収入印紙の貼付も必要になります。
ペーパーレス化をすれば、これらのコストがかかりません。また、電子領収書は収入印紙の貼付も不要なため、印紙代も節約できます。
書類を保管するスペースを削減できる
書類を電子データで保存すれば、保管スペースを維持する必要がなくなります。書類が増えたからといって棚などを新たに購入する必要がなく、また、保管用に外部の倉庫を借りている場合は倉庫代も削減できます。
書類は法人であれば原則として7年間の保管義務があるため、すぐには破棄できません。増える一方の書類を保管するスペースを削減できることも、経理業務をペーパーレス化するメリットです。
書類の検索が容易になる
書類を電子データとして保存すると、書類名で検索できるようになります。必要な書類をすぐに見つけられるため、書類を探す無駄な時間を減らすことができるでしょう。これにより、ほかの作業に影響が及ぶことも少なくなるかもしれません。
業務を効率化できる
会計ツールなどのシステムを導入すれば、これまで手動で行っていた請求書発行や記帳を自動化できます。検索機能により必要な伝票をすぐに取り出すことができ、保存期間が過ぎれば自動的に廃棄することも可能です。
また、データを自動連携することで、手入力の作業を減らし、作業時間を短縮できます。これは人的ミスの削減にもつながります。システムを導入することで、日次の業務だけでなく月次や年次の決算業務も大部分を自動化することが可能です。
セキュリティを強化できる
ペーパーレス化により、紙の伝票の持ち出しや紛失・破損がなくなります。また、会計システムによりアクセス権限を細かく設定できるので、社内外に流出するリスクを抑えられ、セキュリティリスクも軽減できるでしょう。
テレワークなど多様な働き方の実現
ペーパーレス化のシステムを導入することで、経理部門でもテレワークが可能になります。これは働き方改革や多様な働き方の実現につながります。
経理のペーパーレス化を推進するデメリット
経理のペーパーレス化には、デメリットもあります。主なデメリットは、次の通りです。
システムの導入コストや手間がかかる
会計ツールなどのシステムを導入すれば、印刷紙やインク、ファイルなどの節約も可能になります。しかし、ツール・システムの導入には費用がかかります。そのため、一時的にはかかるコストが増えることになりかねません。
また、導入だけでなく維持・管理にも費用がかかります。セキュリティ対策ソフトを導入する費用なども見積もっておきましょう。
従業員への教育が必要になる
デジタルツールの取り扱いを得意とする方もいますが、すべての従業員がすぐに対応できるわけではありません。
ペーパーレス化できるツール・システムを導入しても業務が滞りなく実施できるよう、事前に従業員の教育や業務フローの整備などを実施しておく必要があります。
ネットワークやシステム障害の影響を受ける場合がある
システムや回線に障害が発生したときは、データの閲覧・共有が難しくなります。たとえばネットワークエラーが生じ、領収書などの書類が正しく保存されない可能性もあるでしょう。
また、誤ってデータを消去してしまうこともあります。すぐに気づけば復元できる場合もありますが、気づかずに時間が経過し、完全削除されてしまうかもしれません。
そのほかにも、インターネット環境やパソコンの処理速度に問題があり、業務に支障が出るリスクがあります。経理業務をペーパーレス化する前に、インターネット環境とパソコンのスペックに問題がないかチェックしておくことが必要です。
経理のペーパーレス化の進め方
経理のペーパーレス化の進め方と、それぞれのポイントを説明します。
目的を明確にする
経理部門の業務をペーパーレス化する目的や必要性を明確にして、経理部門全員で、できれば全社で共有します。それにより、社内で経理のペーパーレス化を推進する雰囲気を醸成でき、スムーズに進めることができます。
ペーパーレス化する書類を決める
いきなりすべての書類をペーパーレス化する必要はありません。まずはデータ化すべき書類を選定し、ペーパーレス化を推進する書類の優先順位を決定していきましょう。
ただし、導入するシステムによっては、受注書から請求書、受領書などの書類すべてをワンストップで作成できることがあります。その場合は、導入時の負担は大きくなりますが、まとめてペーパーレス化するほうが効率がよいかもしれません。
導入するシステム・ツールを選定する
経理のペーパーレス化には、システム導入が不可欠です。そのため、どのようなシステムが自社に合っているのか、よく検討しなければなりません。大きく分けて次の2種類があります。
会計ソフト
経理部門の業務に特化した単体業務向けの基幹システムです。低コストで導入しやすいでしょう。経費精算、請求書発行など機能を限定したシステムもあります。
ERP
経理部門だけでなく、他の部門の業務も含めて企業の情報を一元管理できます。クラウド型ERPの場合、スモールスタートで導入し、必要に応じて段階的に拡張していくこともできるため、必要な機能やコストに合わせて調整しやすいというメリットがあります。
ERPについては、次の記事を参照してください。
業務フローを構築する
経理業務をペーパーレス化するには、新しく作成する書類は電子文書でなければなりません。そのため、書類や伝票を作成し、配布するための業務フローも大きく変化します。また、取引先から書類を受け取った後の処理も変化します。したがって、ペーパーレス化や書類の電子化に合わせて新しい業務フローを構築する必要があります。
従業員への周知・教育を行う
会計システム・ツールの導入に対して、社内の理解を得ることも必要です。書類を電子データで作成・保存する必要性や意図を従業員全体に説明し、業務がどのように変わるのか具体的に周知します。
また、システム導入に必要なスキルについての教育を実施し、全社的なITスキルの向上も目指しましょう。
アウトソーシングを活用する
人材や費用などの問題から、自社だけで経理のシステム化が難しい場合は、経理業務を完全にアウトソーシングするという方法もあります。また、既存の書類の電子化をアウトソーシングすることも可能です。
書類の処理から管理・保存まで任せることができ、大きな業務効率化になります。
経理のペーパーレス化を進めていきましょう
経理部門は紙の書類を使用する業務が多くなりがちです。
経理部門は全ての部署とやり取りをしているため、経理部門のペーパーレス化を実現できれば、全社でのペーパーレス化にも大きな影響を与えるでしょう。
経理業務は専用ソフトやERPなど、ペーパーレス化をサポートするツールやシステムが数多く提供されているため、ペーパーレス化を実現しやすい業務ともいえます。電子帳簿保存法の改正やリモートワークに対応するためにも、ペーパーレス化を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
ペーパーレス化の関連記事
新着記事
開発プロジェクトを成功に導くための工数管理|課題と解決策を徹底解説
開発プロジェクトを進めるなかで、工数管理がうまくいかず、納期遅延や予算超過に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 適切な工数管理は、進捗の把握やリソースの最適化、リスクの早期発見を可能にし、プロジェクトの成功に大きな影響を与えます。 本…
詳しくみる工数管理が意味ない・無駄といわれる理由|メリットや解決策を徹底解説
工数管理は、プロジェクトの進行やリソースの最適化に欠かせない手段ですが、「意味ない」「無駄」と感じる人も少なくありません。しかし、工数管理を適切に活用すれば、プロジェクトの成功率を高め、業務効率化や生産性向上を実現できます。 本記事では、工…
詳しくみる工数管理をエクセルで行う方法は?表の作り方やポイントを徹底解説
エクセルでも、工数管理は十分に対応可能です。特別なツールを導入しなくても、エクセルを活用すれば、タスクの進捗やコスト、各担当者の作業時間を可視化できます。 本記事では、エクセルで工数管理を行う方法について解説します。必要なファイルや表の作り…
詳しくみるプロジェクトの管理工数とは?工数比率の目安や見積もり方法を解説
管理工数とは、プロジェクトを進行するうえで必要な作業の管理にかかる時間や労力を示す指標です。適切な工数見積もりと管理が行われていない場合、プロジェクトの遅延やコスト増加といった問題を引き起こす可能性があります。 本記事では、管理工数の見積も…
詳しくみる基幹システムをクラウド化するメリット・デメリットや手順を紹介
基幹システムの老朽化が進んでおり、システム刷新を検討している企業も多いでしょう。 近年はリモートワークの普及や、保守・運用のコスト削減などを目的として、オンプレミス型ではなく、クラウド型の基幹システムを選ぶ企業も増えてきました。 この記事で…
詳しくみる【M&A】PMIにおける税務リスクとは|主な課題と対応策を解説
M&A後の統合プロセス「PMI」において、税務は重要な課題のひとつです。税務処理の違いや過去の申告ミスが発覚すると、予期せぬ税務リスクを抱える可能性があります。この記事では、M&AにおけるPMIの税務リスクについて詳しく説明…
詳しくみる