- 作成日 : 2024年8月23日
スピンアウトとは?スピンオフとの違いやメリット・成功事例を解説
スピンアウトとは企業が子会社や事業を新たな会社として独立させることを指す言葉です。
スピンアウトにより親会社と子会社の資本関係が解消される点が特徴で、新たな事業価値を創出する手段として注目が集まっています。
本記事では、スピンアウトの概要について解説し、そのメリットやデメリット、具体的な手法や企業の事例を紹介します。
目次
スピンアウトとは
はじめに、スピンアウトの概要や類似するスピンオフ、カーブアウトとの違いについて解説します。
スピンアウトの概要
スピンアウトとは、企業が子会社や事業を新たな会社として独立させることを指します。
スピンアウト後に親会社と子会社の資本関係は解消され、子会社は完全に独立する点が特徴です。
親会社の従業員が企画した起業アイデアを独立して興す場合や、親会社が不採算事業を売却したい場合に多く活用されています。
近年はスピンアウトによってスタートアップとなる事例も増えているほか、事業の再構築を検討している中小企業にとっても再編のための有効な手段の1つとなっています。
スピンオフとの違い
スピンアウトと類似する用語にスピンオフがあります。両者の違いは、スピンアウトでは親会社と子会社の資本関係が解消されるのに対し、スピンオフでは資本関係が継続する点です。
スピンオフでは双方の資本関係の継続により、親会社が保有するブランドや顧客ネットワークなどの資産を利用できる点がメリットです。主にリスクの高い事業に取り組む場合や、グループを再編したい場合などに有効です。
一方でスピンオフ後も重大な意思決定に親会社の意向が反映されることがあるため、意思決定に制限がかかるというデメリットも存在します。
カーブアウトとの違い
カーブアウトもスピンオフと同様に、資本関係を継続したまま子会社化や一部事業の切り離しを行うことを意味する用語です。言葉の意味としてはスピンオフとほぼ同義ですが、両者は用語の主体が異なります。
具体的には「スピンオフをした企業」は親会社のことを指し、「カーブアウトした企業」は子会社のことを指します。
子会社にとってはカーブアウトした事業に専念できる点がメリットであり、事業の飛躍的な成長が期待できるでしょう。一方、カーブアウトは必要最小限の人員で行われることが多いため、管理部門が手薄になりがちな点がデメリットです。
スピンアウトのメリット
ここでは、スピンアウトのメリットについて以下の3点を解説します。
- 経営の自由度が向上する
- イノベーションが加速する
- 投資家にアピールできる
経営の自由度が向上する
スピンアウトによって新たに設立された会社は親会社との資本関係が解消されるため、親会社の干渉を受けずに事業運営することができます。
親会社にはない独自の戦略が立てられるため、資金調達や投資、海外進出などについて自由な意思決定が可能になります。迅速な経営判断により、事業拡大や会社の成長のスピード感を高められるでしょう。
イノベーションが加速する
子会社は親会社との資本関係が解消されることにより、イノベーションを構築しやすくなります。
経営方針や提携する企業について親会社の意向や縛りを受けることもないため、新たなアイディアや新鮮なコラボレーションを生み出しやすい環境へと社内を変化させることが可能になります。
高いシナジー効果を期待できるパートナーとの提携も容易になり、スピンアウト前には進出していなかった領域へ事業を展開することも可能となるでしょう。
投資家にアピールできる
スピンアウト後の子会社の状況は、投資家にとって将来の見通しを立てやすい投資対象となるため、良い評価を受けやすいです。投資家からの評価の向上は、資金調達がしやすくなるなどのメリットをもたらします。
親会社が負債を抱えている場合や業績不振に陥っている場合も、スピンアウトすることで親会社の負債から解放されるため、投資家からの評価が上がる要素となります。
スピンアウトのデメリット
本章では、スピンアウトのデメリットとして、以下の2点を解説します。
- 親会社の経営資源を活用できない
- 従業員のモチベーションが低下する可能性がある
親会社の経営資源を活用できない
スピンアウトにより子会社は親会社から完全に独立した企業になるため、親会社の経営資源を活用できなくなります。
親会社のブランド力や販売チャネルも活用できなくなるため、スピンアウト前に十分な経営資源の確保や中長期の成長計画を練った上での実行が必須になります。
スピンアウト後に十分な経営資源や収益の見込みがあるかの見通しは、投資家からの評価にも影響するため、十分な対策や準備が必要です。
従業員のモチベーションが低下する可能性がある
スピンアウトによって、従業員は親会社と子会社に分断されることになります。これまでの環境や業務内容が変化するため、従業員のモチベーションが低下する可能性があるでしょう。
モチベーションの低下は人材流出や離職にも影響し、会社の生産性にも影響します。元の企業から人材が分散することにもなるため、人材の割り振りを適切に行わなければ企業の成長スピードにも悪影響が生じることになりかねません。
スピンアウトのプロセス
スピンアウトを行う際の方法について、一般的な2つの方法を解説します。
- 会社分割
- 事業譲渡
会社分割
親会社が保有する特定の事業を既存の会社もしくは新設する会社に移転する方法です。移転の際には事業に関連する人材の雇用契約、取引先との売買契約などの各種契約や財産を包括的に引き継ぐことができます。
また企業の新設時にかかる不動産取得税や登録免許税などの軽減措置を受けられる可能性もあります。従業員一人一人との契約や許認可の再取得にかかる負担や労力を省けるため、スピンアウトに用いられる代表的な方法です。
ただし、承継時に負債を引き継ぐ点には注意しましょう。取引には株式が利用されることが一般的です。
事業譲渡
事業譲渡は社内の特定事業を他の会社へ売却する方法です。会社分割とは対照的に、譲渡する資産や負債について、1つずつ選択し再契約を行います。
従業員や取引先との契約を個別に巻き直す手間がかかる反面、将来起こり得る簿外債務などのリスクを避けられる点はメリットだといえます。
新設企業への不動産取得税や登録免許税への軽減措置はなく、取引には現金が利用されることが多いため、事前に譲渡によって生じる税金も想定しておく必要があるでしょう。
スピンアウトの成功事例
本章では、スピンアウトを行った企業の成功事例として、以下の例について解説します。
- 株式会社良品計画
- 株式会社銀座ルノアール
株式会社良品計画
無印良品(MUJI)を展開する株式会社良品計画は元々、総合スーパーマーケットを展開する株式会社西友のプライベートブランドでした。
1990年に西友からスピンアウト後、現在にいたるまで日本を含む32カ国に事業を展開し、店舗数は海外店舗が国内店舗を上回るまでに成長しています。
元々の親会社西友は国内事業が売上の中心であり、独立した後の自由度の高い事業戦略が成長の一因になっていると考えられます。
株式会社銀座ルノアール
喫茶室ルノアールなどを運営する株式会社銀座ルノアールは、有限会社花見煎餅の喫茶部門の事業がスピンアウトしたことにより誕生しました。1989年には株式を店頭登録し、後にジャスダックへの上場も果たしています。
ルノアールのゆったりした空間と古風なムードのインテリアは親会社のコンセプトを活用したもので、ビジネス客にも幅広い支持を得ています。親会社と子会社の関係次第では、スピンアウト後も親会社の経営資源を一部活用できることもあるようです。
まとめ
スピンアウトは、資本関係を含め子会社や事業を親会社から切り離すという経営戦略の手法の1つです。子会社にとっては経営の自由度の向上や、イノベーションの加速、投資家へアピールできるなどのメリットがあります。
その反面、親会社の経営資源を活用できなくなることや、従業員のモチベーション管理には事前の準備や対策が必要です。
スピンアウトを行う際にはメリット・デメリットを整理し、必要に応じてスピンオフやカーブアウトなどの幅広い選択肢から自社に最適な手法を選ぶことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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