- 作成日 : 2025年9月4日
中小企業に必要なBCP対策|メリット・手順・成功ポイントを解説
災害や感染症、サイバー攻撃など、予測不能なリスクが企業活動に与える影響は年々増しています。とくに中小企業は、人材・設備・資金等が限られているため、ひとたび被害に遭うと事業の継続が困難になるケースも少なくありません。
こうした状況に対応する手段が、BCP(事業継続計画)です。本記事では、中小企業がBCP対策をすべき理由やメリット、注意点などをわかりやすく解説します。
目次
中小企業にBCP対策が必要な理由
BCP(Business Continuity Plan)とは、災害や事故、パンデミックなどの非常事態に備えるための計画です。緊急時でも重要な業務を継続し、なるべく早く復旧することが目的です。
大企業だけでなく、中小企業にとってもBCPは必要不可欠な時代になっています。ここでは、BCPが中小企業にとってなぜ重要なのかを、4つの観点から解説します。
自然災害・感染症・サイバー攻撃の影響への備え
地震・台風・豪雨といった自然災害のリスクは増加傾向にあり、企業規模に関係なく予期せぬ被害に遭う可能性が高くなっています。また、近年では、下記のような突発的リスクも脅威となります。
- 感染症の流行:新型コロナウイルス・インフルエンザなど
- サイバー攻撃:ランサムウェア・不正アクセスなど
- 複合災害:自然災害とシステム障害の同時発生など
中小企業は、大企業と比べて人員や設備に余裕がありません。そのため一度業務が止まると、復旧までに時間がかかり、損害が大きくなりやすいという課題を抱えています。
どのようなリスクが起きても事業が止まらない「BCPにもとづく体制作り」は、企業の存続を左右する最優先課題といえます。
取引継続に不可欠な顧客・取引先からの信頼維持
BCPを策定している中小企業は、緊急時にもサービス提供や納品の継続が見込まれるため、顧客や取引先からの信頼を得やすくなります。とくに中小企業では、1社の大口顧客が売上の大半を占めることもあり、信頼の維持は経営の安定に直結します。
また、昨今ではBCPの有無をサプライヤーの選定条件にしている企業もあるため、BCP未対応だと災害時の対応力に不安を持たれて、新規取引の機会を逃しかねません。
事前準備の有無が、契約継続や新規取引の可否を左右することもあります。平時からの備えが、取引の継続性を守るポイントです。
従業員の安全を確保できる体制作り
災害時において、従業員の命と安全を守ることは、重要な責任のひとつです。中小企業では少人数ゆえに個人の役割が大きく、従業員の安全確保はそのまま事業継続に影響します。
そのため、下記のような体制の事前整備が求められます。
- 安否確認の方法(連絡体制・連絡ツール)
- 避難ルートや場所の明示
- 在宅勤務・時差出勤体制の構築(感染症・交通障害への備え)
これらをBCPに組み込んでおけば、いざという時でも冷静かつ迅速な対応が可能です。結果として、混乱や被害の拡大を防げます。
事業停止による経営危機の回避
中小企業にとって、事業の一時停止は深刻な経営リスクにつながります。生産や営業が数週間止まるだけでも、売上の急減や資金繰りの悪化を引き起こす可能性があります。
たとえば、主要取引先への納品が遅れて契約を失ったり、復旧までの固定費負担によって資金が尽きたりする事態も考えられるでしょう。このような損失を最小限に抑えるには、平時からの備えが欠かせません。
BCP対策として、代替手段や復旧手順をあらかじめ定めておくことで、非常時でも早期の事業再開が可能になります。BCPは、経営危機に備える企業の命綱として、大きな役割を果たします。
BCPが必要だとわかっていても動き出せない中小企業の現状
BCPの重要性を理解しながらも、策定に踏み出せない中小企業は少なくありません。帝国データバンクの調査(2025年5月)によると、BCPを策定済みの中小企業は17.1%にとどまり、大企業の38.7%と比べ約21ポイントの差があります。
過去の推移をみると、策定率は2016年の12.3%から9年で約5ポイントしか増えておらず、約8割が未策定のままです。その背景には、「何からはじめればよいかわからない」「人員や予算の確保が難しい」といった中小企業特有の課題が影響しています。
まずは取り組みやすい部分からはじめることが、BCP実現への第一歩になるといえるでしょう。具体的な取り組みについては、「中小企業向けBCP対策の手順」で詳しく解説します。
中小企業がBCP対策を行う3つのメリット
中小企業にとってBCP(事業継続計画)は、単なる「災害対策」にとどまりません。BCPの策定を通じて、自社の弱点を可視化し、組織力を高められます。
ここでは、BCPの導入によって得られる代表的なメリットを3つご紹介します。
緊急時でも事業を早期に復旧できる
BCPの最大の目的は、非常時にも事業を止めないことです。災害・障害などの緊急時においても、事前に復旧手順や代替手段を明確にすることで、業務再開までの時間を短縮できます。
下記のような対策を整えておけば、影響を最小限に抑えられるでしょう。
- 支店や提携先への業務移管
- 在宅勤務への迅速な切り替え
- 在庫を複数拠点に分散し、供給停止リスクを低減
- クラウド活用による業務指示の継続
すべてを一度に整える必要はありません。まずは取り組みやすい部分からでも進めておくことで、いざという時の対応力に大きな差が生まれます。
経営課題の発見や業務効率化につながる
BCPを策定する過程では、自社の業務を棚卸しし、重要度やリスクを洗い出す必要があります。通常の業務運営では見過ごされがちな、経営課題が可視化される点も、BCPのメリットです。
BCPを策定することで、下記のような課題が浮き彫りになる可能性があります。
- 属人化されている業務
- 責任範囲や手順が曖昧な業務フロー
- 非効率な情報伝達・管理の仕組み
これらの課題を改善していくことで、組織全体の業務フローが整理され、結果として日常業務の効率化や生産性の向上にもつながります。
補助金や税制優遇などの支援が受けやすくなる
BCPを策定し、経済産業省が定める「事業継続力強化計画」などの認定を受けることで、支援制度を活用できる可能性が高まります。中小企業にとって、導入コストを抑えながらBCPに取り組める点は大きなメリットです。
BCPに活用できる可能性のある支援制度の一部を、下表にまとめました。
支援制度名 | 特徴 |
---|---|
BCP実践促進助成金(東京都) |
|
中小企業経営強化税制 |
|
低利融資・金融支援 |
|
参考:
東京都中小企業振興公社|BCP実践促進助成金
中小企業庁|中小企業経営強化税制
日本政策金融公庫|BCP資金
費用面に不安を抱える中小企業は、こうした公的支援を活用することで、ムリのないBCP導入を実現できるでしょう。
中小企業向けBCP対策の手順
中小企業がBCPの策定を進める際は、下記の手順に沿って進めると効果的です。
- 業務の優先順位を決める
- 被害を想定し、対策を立てる
- 計画内容をマニュアル化して共有する
- 運用体制と役割分担を明確にする
- 緊急時の初動フローや連絡手順を整える
- 定期的に運用・見直し・改善を実施する
これらのステップを順に進めることで、現実的かつ実行可能なBCPが構築され、非常時の対応力を高める土台となります。まずは、優先業務の洗い出しと簡易的なマニュアルの作成から取りかかりましょう。
また、年1回以上の見直しをルール化しておくことで、BCPが形骸化せず、常に最新の実態に合った計画として機能します。
以下の記事では、BCP対策の手順やポイントを解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:BCP対策とは?具体的な手順や策定時の重要ポイントを解説
中小企業のBCP対策を成功させる5つのポイント
BCPを策定しても、実際に機能しなければ意味がありません。ここでは、BCPを形骸化させず、実効性を高めるための具体的なポイントを解説します。
1. 少人数でも動けるBCP運用体制を作る
中小企業では人員が限られているため、緊急時に少人数でも事業を維持できる体制が求められます。具体的には、下記のような備えがあると安心できます。
- 責任者・代理者の設定:BCPを統括する担当者と不在時の代行者を明確にする
- 役割分担の明文化:営業・製造など各部門で「最低限続けるべき業務」と担当者を定義
- 連絡手段の多重化:電話・チャット・安否確認アプリなどを併用して連絡を確保
日頃から訓練し、「誰が・何をするか」を共有しておくことが重要です。
2. BCPを全従業員に浸透させる
BCPは作成して終わりではなく、全従業員が理解し行動できることで機能します。そのためには、下記のような工夫が必要です。
- 研修・訓練の実施:避難訓練やシステム復旧演習を定期的に行う
- わかりやすいマニュアル:専門用語を避け、図解やフローで手順を簡潔に示す
- 新入社員研修に組み込む:入社時からBCPの目的と初動行動を習得させる
教育と実践を重ねることで、非常時の判断力が自然と養われます。
3. 実現可能な復旧目標と行動計画を設定する
BCPを策定する際は、「現実的に実行できる計画」であることが不可欠です。理想を追いすぎて実態に合わない計画になってしまうと、非常時に機能せず、BCPが形骸化してしまう恐れがあります。
下記のポイントを押さえて、ムリのない行動計画を立てましょう。
- 復旧時間目標(RTO)を設定:業務ごとに「何時間以内に再開が必要か」を明確にする
- 代替手段を用意:在宅勤務・外注・拠点移動など現実的な策を想定する
- 必要資源の確認:人材・予算・設備の確保可否を事前に見積もる
さらに、現場の従業員や担当者の意見を取り入れることも重要です。実務を担う立場の声を反映させることで、実態に即した現実的な計画作りが可能になります。
4. 定期的な見直しで最新状態を維持する
BCPは、一度作ったら終わりではありません。時間の経過とともに、組織や環境が変化するため、定期的な見直しと更新が重要です。少なくとも年1回は全体を点検し、必要であれば都度修正しましょう。
見直しの際に確認すべき項目は、下記のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
人員変更への対応 | 異動・退職・採用に伴い、担当者や連絡先を更新する |
設備・システムの変更反映 | 新たに導入したツールやクラウドなどの運用をBCPに反映する |
訓練結果の反映 | 避難訓練や復旧演習で得た課題をマニュアルに反映する |
法改正・取引先要件の変化 | 関連する外部要因の変化に応じてBCPも柔軟に対応させる |
定期的に改善することで、いざという時に役立つ計画になるでしょう。
5. 外部リソースを活用してBCPを強化する
中小企業が、自社だけで万全なBCP体制を築くのは難しい場合があります。外部の支援や知見を取り入れることで、対策の精度と実行力を向上させられます。
外部リソースの活用例は、下記のとおりです。
活用方法 | 詳細 |
---|---|
専門家への相談 | 中小企業診断士やBCPコンサルタントにチェックしてもらう |
公的支援制度の利用 | 事業継続力強化計画の認定を得ると、補助金の加点や税制優遇の対象になりやすくなる |
外部との連携協定の構築 |
|
こうした外部とのネットワークは、中小企業にとって大きな支えとなります。自社の弱点を補完する意味でも、早期に連携体制を築いておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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