- 更新日 : 2024年7月12日
ファブレスとは?メリット・デメリット、向いている業界や成功事例を解説
ファブレスとは、工場などの生産ラインを持たない会社・ビジネスを指します。昨今、ファブレスビジネスはさまざまな業界に浸透・拡大しています。しかし、ファブレスには多くのメリットだけではなく、デメリットも存在する点には注意が必要です。
そこで今回は、ファブレスビジネスのメリット・デメリットをはじめ、向いている業界などについて解説します。
目次
ファブレスとは
ファブレスとは「fabrication facility less」の略語であり、日本語では「生産ライン(fabrication facility)を保有しない(less)会社」となります。
ファブレスビジネスは、1980年代に米国のシリコンバレーで生まれました。
当時は半導体業界の不況に加えて設備費などが高騰しており、コスト削減策の一環として日本企業へ製造を委託したことがファブレスの始まりだといわれています。
その後、ファブレスは半導体業界のみならず、さまざまな業界・企業へと拡大していきました。
ファブレスとその他ビジネスモデルとの違い
ここでは、ファブレスとその他ビジネスモデルとの違いを解説します。
ファブレスとOEMの違い
ファブレスは、製造設備を持たずに設計や販売に特化し、製造を外部に委託する企業やビジネスモデルを指します。一方OEMは、受託企業が製造した製品を委託企業の製品として販売する手法を指します。
ファブレスとアウトソーシングの違い
ファブレスは、ある製品を企画〜販売する過程において、製造工程のみを外部へ委託します。一方でアウトソーシングは、社内における業務の一部を外部企業へ委託することを指します。
例えば給与計算や営業(テレアポ)などの業務に対してアウトソーシングを行うことで、業務効率化やコスト削減などを実現可能です。
ファブレスとアウトソーシングでは、外注する業務の範囲が異なる点に注意しましょう。
ファブレスとファウンドリの違い
ファブレスは自社に生産設備を持たず、製品設計に専念します。一方でファウンドリは、製造プロセスに特化した企業であり、ファブレス企業から委託を受けて製品を生産します。そのため、両者は互いに補完関係にあります。
ファブレスビジネスのメリット
ここでは、ファブレスビジネスの主なメリットを解説します。
設備投資の削減
製品の生産ラインを構築するためには莫大な投資が必要となります。主な費用としては次のとおりです。
- 用地の取得費
- 建設費
- 設備費
半導体業界は、製造装置が製造原価の6割を占めるといわれています。ファブレスビジネスを行えば、このような設備投資を削減することが可能です。
なお、設備投資の低価格化により参入障壁が下がるため、ベンチャー・中小企業にとってビジネスチャンスが生まれやすくなる点もメリットだといえるでしょう。
コストダウン
大量生産が可能な製品の場合、生産規模が大きいほどコストを削減できる可能性が高いです。例えば人件費などの固定費は変動しないため、生産量を増やせば増やすほど、固定費の費用対効果が高まります。さらに、製品の材料は大量に仕入れた方が値引きしてもらいやすくなるでしょう。
また、製造を担当するファウンドリ企業は大規模な生産ラインを有しているケースが多いため、製造にかかるコストを抑制することができます。そのためファブレス企業は、ファウンドリ企業から安価で製品を仕入れられ、コストダウンを実現できる点もメリットのひとつです。
市場の変化への柔軟な対応
激しい市場変化と連動して、製品の需給も目まぐるしく変わることがあります。一方で、生産ラインの構築には莫大な費用や時間を要するため、タイムリーな調整は現実的ではありません。
ファブレスビジネスを行えば、ファウンドリ企業への委託量変更により生産量を調整できるため、急激な需給変化にも耐えることが可能です。
自社のコア能力の強化
ファブレスビジネスを行えば、自社のコア能力を強化することが可能です。
企業の収益構造を表すものとして「スマイルカーブ」という言葉があります。スマイルカーブとは、上流工程(企画・設計など)と下流工程(販売・アフターフォローなど)は利益率が高く、中流工程(製造)は利益率が低いことを指しています。
ファブレスビジネスは、上流工程(企画・設計など)下流工程(販売・アフターフォローなど)という利益率が高めの工程に経営資源を集中できるため、自社が持つ強みの更なる強化を期待できるでしょう。
ファブレスビジネスのデメリット
ファブレスビジネスの主なデメリットは次のとおりです。
品質管理・生産管理の課題
ファブレスビジネスは、ファウンドリ企業側で製造を行うことになります。そのため、管理が行き届かないケースも少なくありません。結果として、品質管理・生産管理に課題が発生しやすい状況に陥りがちです。
そのような事態を避けるためには、ファウンドリ企業の製造品が品質基準を満たすための体制を整備する必要があります。
機密情報の漏えいリスク
基本的に、ファブレス企業はファウンドリ企業との間に秘密保持契約(NDA)などを結んでいます。そのため機密情報が漏えいするリスクは低いものの、ゼロとは言い切れません。
リスクがゼロでない以上、ファウンドリ企業選定時に「企業の信頼性」や「機密情報の取り扱い」などについてもチェックしておくことが重要です。
製造プロセスからの知見の喪失
ファブレスビジネスを行う場合は、製造プロセスでのノウハウを蓄積できません。また、製造プロセスで発見された課題の改善なども期待できない点もデメリットだといえます。
結果として、製造プロセスの知見を喪失することになる点には注意が必要です。
レピュテーションリスク
レピュテーションリスクとは、自社に対するネガティブな評判が広まった結果、ブランドイメージが損なわれたり、信用が低下することを指します。
万が一、ファウンドリ企業が製造した製品に問題が発生した場合は、自社のブランドイメージを損なったり、顧客離れを招いてしまう恐れがあります。
ファブレスに適した業界と成功企業の事例
ここでは、ファブレスに適している業界と実際の成功企業について、例を挙げて紹介します。
半導体業界
半導体は開発サイクルが早く、短期間で大量生産を行う必要があります。さらに製造装置が非常に高額であるため、ファブレスビジネスが浸透しています。
米国のQualcomm社は、ファブレス半導体メーカーでトップクラスの売上を誇っています。なお、同社のファウンドリ企業のひとつは、日本にも進出している台湾のTSMC社です。
デジタル機器業界
デジタル機器業界も、約半年ごとに市場に新製品が投入されます。また、デジタル機器内部は部品化が進んでおり、効率的な製造を実現しやすいため、ファブレスビジネスとの相性が良いのが特徴です。
大阪に本社を構えるエレコム株式会社もファブレス企業であり、製造プロセスは提携企業が担当しています。
アパレル業界
アパレル業界は、その年の天候や流行などによって製品の売れ行きが変動します。そのため、需給に応じてリアルタイムに生産をコントロールする必要があるのです。
アパレル業界のグローバル売上高においてトップ3に入るファーストリテイリング社は、製造プロセスを国内外の提携企業へ委託しています。
まとめ
ファブレスビジネスは、コスト削減や適切な生産コントロールが可能となるため、自社の利益増大につながります。また、市場変化に柔軟なビジネスの実現はもちろん、強みの更なる強化にも寄与します。
一方で機密情報漏えいなどのリスクもあるため、パートナー選定や品質管理には十分に注意する必要があるでしょう。
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