- 作成日 : 2025年1月21日
ITAC(IT業務処理統制)とは?内部統制との関係や効果を解説
「内部統制」は、企業が適切かつ透明性の高い経営を行うために必要な仕組みやプロセスです。ITACは、この内部統制を推進するために重要な要素といえます。ITACに取り組めば、業務効率化やコンプライアンスの強化など、さまざまな効果を期待できます。本記事では、ITACの概要や効果をはじめ、注意点などについて解説します。
目次
ITAC(IT業務処理統制)の概要
ITACとは「Information Technology Application Control」の略語であり、日本語ではIT業務処理統制と呼ばれています。
経済産業省が公開した「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」での、ITAC(IT業務処理統制)に関する定義は次のとおりです。
企業は会計や給与計算、受発注管理などを行うためにさまざまなシステムを導入しています。それらのシステムに日々入力される情報が誤っていたり、改ざんが容易な場合、最終的に行う財務報告の信頼性も損なわれてしまうのは明白です。
財務報告が正しく行われない場合、投資家や株主が適切な判断を行えません。また、市場から投資に値しない企業だと判断されてしまうため、資金調達が難しくなるというリスクも考えられます。
このような事態を防ぎ、信頼性や透明性が高い経営を実現するための取り組みがITACです。
出典:経済産業省「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」
内部統制とITAC(IT業務処理統制)
ここでは、内部統制とITACについて詳しく解説します。
内部統制におけるITACとは
前述の「正しい財務報告」を含め、企業が適切かつ透明性が高い経営を行うための仕組みやプロセスを「内部統制」といいます。
内部統制は以下6つの要素で構成されています。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング(監視活動)
- IT(情報技術)への対応
「IT(情報技術)への対応」は他5つの要素に関与しています。ITACは「IT(情報技術)への対応」を構成する要素の1つであるため、内部統制を推進する上で重要な役割を担っているといえます。
IT統制の3要素
内部統制の要素である「IT(情報技術)への対応」には「IT統制」が求められます。「IT統制」とは、企業が保有あるいは活用するITが有するリスクを適切にコントロール・管理する仕組みやプロセスのことです。
IT統制は以下3つの要素で構成されています。
- IT全社的統制
- ITGC(IT全般統制)
- ITAC(IT業務処理統制)
IT全社的統制は企業のIT統制全体の核であり、ITに関する基本方針やリスク評価・対応をはじめ、統制手続きの整備・周知、情報伝達体制の整備などを行います。また、ITGC(IT全般統制)とは、IT統制を機能させるための取り組みであり、ITリソース全体の管理や利用を適切に行うための基盤です。
一方でITAC(IT業務処理統制)は、ITリソース全体ではなく個々のアプリケーションを対象としており、それらが正確かつ完全な処理を行うための基盤といえます。ただし、ITGCが機能していないと、ITACの目的を達成することはできない点は注意が必要です。
ITACがビジネスにもたらす効果
本章では、 ITACがビジネスにもたらす効果について解説します。
業務生産性の向上
業務プロセスの自動化により、入力ミスや誤操作の防止はもちろん、それらを修正するための人件費やコストを削減できます。
手作業からアプリケーションの活用に移行することによって、作業時間の削減や正確性が向上するため、リソースの有効活用やコスト削減を推進可能です。また、業務の標準化を進めることにより属人化を解消でき、業務生産性の向上も期待できます。
コンプライアンスの強化
ITACに取り組むことでデータの入力ミスを低減できるため、画面表示やファイル出力の際の高い正確性を担保できます。
また、企業経営に関する法律や規制などに準拠した業務プロセスを構築することにより、経営に対する信頼性を高めることが可能です。
さらに、アプリケーションが取り扱うデータはもちろん操作ログなどの保存機能によって、監査時に利用できるエビデンスを残すこともできます。
これらは全てコンプライアンスの強化につながるため、不正に強く透明性が高い経営を実現できる点も、ITACがもたらす効果の1つです。
精緻なデータに基づく意思決定の促進
昨今のデジタル化やDX推進により、ビジネスを取り巻くスピードは上昇の一途をたどっています。今後も企業が競争力を維持するためには、迅速な経営判断が重要になるでしょう。
ITACによって信頼性が高いデータをリアルタイムで参照できるようになることは、経営層のスムーズな意思決定に寄与します。
BCP対策
ITACには情報資産管理の方針やBCP策定も含まれており、データのバックアップやリカバリー計画を確立できます。
システム自体のトラブルや障害発生時はもちろん、テロや災害などが発生した場合にデータを迅速に復旧できれば、事業継続が可能になります。
顧客満足度の向上
ITACにより企業が提供するサービスのトラブルを削減できるため、万が一のトラブル時もビジネスへの影響を抑えることができます。
正確かつスピード感のある経営によってサービスの質を改善できるため、顧客満足度の向上を実現可能です。
ITACの注意点や成功のポイント
本章では、ITACの注意点や成功のポイントを解説します。
目的やリソースを考慮した取り組み
ITACは各社の業務特性に合わせた目的や範囲の設定が重要です。目的や範囲があいまいな場合、過度な統制プロセスによって現場の負担が増加してしまいます。
また、ITACへの取り組みはコストもかかるため、費用対効果を十分に考慮しましょう。
導入後の運用体制やモニタリング
ビジネス環境はもちろん、企業のITリソースは常に変化しているため、継続的なモニタリングや運用体制の見直しを行う必要があります。
現場で働く従業員が目的や運用方法を理解していないと、ITACは形骸化してしまいます。また、従業員の異動も発生するため、継続的なトレーニングを実施してITACへの理解を深めることが重要です。
ソフトウェア・サービスの導入
IT業務処理統制を効率的に進めるには、ERPの導入がおすすめです。
ERPを導入すれば、手作業による業務を大幅に削減できます。また独自にシステムを開発する場合は、高いコストがかかることに加えて不具合などが発生するリスクもあります。
一方でERPは内部統制を踏まえた機能を具備しており、導入するだけでITACへの取り組みを推進可能です。
特にクラウド型ERPであれば、災害やテロにも強いだけではなく、ミニマムなシステム構成でスタートできます。
まとめ
ITACは個々のアプリケーションを対象としており、それらが正確かつ完全な処理を行うための基盤です。ITACに取り組めば、業務生産性向上やコンプライアンス強化をはじめ、データ経営の実現やBCP対策の推進も可能です。
より高い効果を得るには、自社の目的や経営資源を踏まえた取り組みや、継続的なモニタリングが重要です。
なお、クラウド型ERPはITACを踏まえた機能を備えている上、データが失われるリスクも限りなくゼロに近づけることが可能です。ITACを推進したい方は、クラウド型ERPの導入をご検討ください。
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