• 更新日 : 2024年7月12日

バリューチェーンとは?サプライチェーンとの違いや企業事例、分析手順を解説

バリューチェーン(価値連鎖)とは、原材料の調達から顧客への提供までを「価値の連なり」として捉え、自社の強みやコスト要因を特定するフレームワークです。

この分析を行うことで、どの業務工程が利益を生み出し、どこが無駄なコストになっているかを可視化できます。

「売上はあがっているのに利益が残らない」「競合との差別化が難しい」と悩む経営者や実務担当者にとって、事業構造を見直す有効な判断材料となります。

バリューチェーン(価値連鎖)の意味とは?

バリューチェーン(Value Chain)とは、原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでの企業活動を、「価値の連鎖」として捉える考え方です。

1985年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が著書『競争優位の戦略』の中で提唱しました。

企業は、ある製品を製造するとき「原材料調達」→「製造」→「在庫管理」→「物流」→「販売」といった工程で作業を進めます。

これらの工程ではただ作業をするだけではなく、それぞれで製品に「付加価値」を付与していくことになります。

このように、一連の工程において価値(Value)が連鎖(Chain)的に創出されるため、バリューチェーンと呼ばれています。

例えば、あるラーメン店が行列を作る理由が「スープの味(製造)」にあるのか、「サービス、接客」にあるのかによって、店が投資すべきポイントは変わります。バリューチェーンは、これを構造的に分解して特定していきます。

企業の利益を生み出す「主活動」

主活動(Primary Activities)とは、製品やサービスが創造され、顧客の手に渡り、アフターフォローされるまでの直接的な流れを指します。製造業をモデルにすると、以下の5つのプロセスで構成されます。

  1. 購買物流(Inbound Logistics):
    製品やサービスを生産するために必要となる原材料などの調達・保管・管理などの活動を指す。
  2. 製造(Operations):
    原材料を加工し、最終製品へと変える活動。組み立て、梱包、設備のメンテナンス、検品。サービス業であれば、サービスのオペレーションそのものを指す。
  3. 出荷物流(Outbound Logistics):
    生産した製品やサービスを各店舗や倉庫などに輸送する活動を指す。配送手配、出荷スケジュール管理などが該当。
  4. 販売・マーケティング(Marketing & Sales):
    顧客に製品を購入してもらうための活動全般。広告宣伝、営業活動、価格設定、販売チャネルの選定など。
  5. サービス(Service):
    販売後の価値を維持・向上させる活動です。顧客対応、取り付け、修理などのサポートが含まれる。

主活動を支える「支援活動」

支援活動(Support Activities)とは、主活動が円滑に行われるようサポートする全社的な機能です。直接製品には触れませんが、企業の効率性や品質を底上げする重要な役割を担います。

  1. 全般管理(Firm Infrastructure):
    企業の経営を支えるインフラ機能です。経営企画、財務、経理、法務、総務などが該当。
  2. 人事・労務管理(Human Resource Management):
    給与の支払い、従業員の採用、教育、評価、報酬決定などの活動。優秀な人材を確保し、モチベーション高く働ける環境を作る。
  3. 技術開発(Technology Development):
    製品設計や技術研究だけでなく、社内システムの開発やノウハウの蓄積、業務効率化も含まれます。
  4. 調達活動(Procurement):
    「購買物流」と混同しやすいですが、こちらは「購入する行為そのもの」を指す。サプライヤーの選定、価格交渉、契約手続き、社内で使う備品や設備の購入契約など。

サプライチェーンとバリューチェーンの違いは?

サプライチェーンは「モノの流れ」を、バリューチェーンは「価値の積み上げ」を指すという点に違いがあります。

この2つを混同していると、分析の方向性がぶれてしまうため、違いをはっきりと理解しておきましょう。

「モノの流れ」か「価値の積み上げ」か

サプライチェーンが着目するのは「モノ(Product)」の物理的な移動と効率です。

「いかに早く、安く、欠品なく届けるか」という全体最適を目指す際に用いられます。原料メーカーから製造、卸売、小売を経て消費者に届くまでの、企業をまたいだ長い「供給の鎖」全体を指すのが一般的です。

一方、バリューチェーンが着目するのは「価値(Value)」の付加と競争優位です。

「なぜ顧客は他社ではなく自社を選ぶのか」という差別化の理由を探る際に用いられます。基本的には、企業内の活動に焦点を当てますが、業界全体のバリューシステム(価値システム)を分析する場合もあります。

【比較表】サプライチェーンとバリューチェーンの違い

比較項目サプライチェーン(供給連鎖)バリューチェーン(価値連鎖)
主眼「モノ」の流れ「価値(利益)」の連鎖
視点供給者から消費者への物理的プロセス顧客にとっての付加価値とコストの関係
分析範囲原料調達から消費までの企業間ネットワーク全体主に自社内部の活動(主活動+支援活動)
主な目的在庫削減、リードタイム短縮、物流コスト削減競争優位の確立、差別化ポイントの特定
担当部門生産管理、物流、購買経営企画、マーケティング、事業戦略

例えば、あるメーカーが「配送コストを下げたい」と考えた場合はサプライチェーンマネジメント(SCM)の領域ですが、「配送スピードを上げて他社と差別化し、高くても売れるようにしたい」と考えるなら、それはバリューチェーン戦略の領域になります。

なぜ今、バリューチェーン分析が重要なのか?

バリューチェーン分析が必要な理由は、限られた経営資源を「利益を最大化する工程」に集中させ、無駄なコストを削減するためです。

中小企業や個人事業主にとっても、バリューチェーン分析を行うメリットは計り知れません。漠然とした経営判断を、事実に基づいた戦略に変えることができるからです。

1. 「見えないコスト」を削減する

「利益率が低い」という悩みに対して、「とりあえず経費を一律10%削減しよう」という号令をかけるのは危険です。顧客にとって重要な価値を生んでいる活動(例:食材の質)のコストまで削ってしまうと、売上自体が落ちてしまうからです。

バリューチェーン分析を行えば、「主活動の『出荷物流』にかかるコストが競合より高いが、顧客はそこに価値を感じていない」といった課題が見えます。価値を生まない工程のコストだけをピンポイントで削減することで、競争力を落とさずに利益体質へ改善できます。

2. 自社の「本当の強み」を特定できる

「我が社の強みは技術力だ」と考えていても、顧客が評価しているのは実は「営業担当者の親身な対応(販売・サービス)」である場合が多々あります。

分析を通じてプロセスごとの貢献度を評価することで、思い込みではない「客観的な強み」を発見できます。真の強みがわかれば、そこに資金や人材を集中投下し、他社が追随できないレベルまで磨き上げることができます。

3. 競合他社の弱点を突く戦略が立てられる

このフレームワークは競合分析にも有効です。ライバル企業のバリューチェーンを推測・分解してみると、「販売力は強いが、アフターサービスが手薄である」といった弱点が見えてきます。

相手の手薄な領域(例:サービス)を自社が強化することで、真っ向勝負を避けながら市場シェアを奪う「差別化戦略」を立案できるようになります。

【実践】バリューチェーン分析の4ステップ

バリューチェーン分析は次のステップで進めましょう。

  1. 自社におけるバリューチェーンを整理する
  2. 各工程のコストを把握する
  3. 各工程の強みと弱みを評価する
  4. VRIO分析で「競争優位性」を判定する

まずは、ホワイトボードやExcel、Googleスプレッドシートを用意して、以下の手順で自社の活動を分解していきましょう。

STEP1:自社のバリューチェーンを整理する

自社の業務プロセスを「主活動」と「支援活動」に分類し、すべて書き出します。

業種によって構成は異なります。自社のビジネスモデルに合わせて項目を調整してください。

  • 製造業の例:
    材料調達 → 加工・組立 → 品質検査 → 出荷 → 代理店営業 → 保守点検
  • 小売業の例:
    商品選定 → 仕入れ → 店舗陳列・演出 → 接客販売 → 会員管理
  • Webサービス業の例:
    企画・要件定義 → 開発・実装 → マーケティング・集客 → ユーザーサポート → アップデート

この段階では、あまり細かすぎず、かといって粗すぎない粒度でリストアップするのがコツです。部署単位ではなく機能単位で書き出すと実態に即した分析ができます。

STEP2:各工程のコストを把握する

書き出した各活動に対して、どれくらいのコストがかかっているかを配分します。

厳密な会計データが出せない場合は、「担当者の作業時間」や「予算規模」から推計しても構いません。

「高い・普通・低い」の3段階で評価をつけるだけでも、全体の傾向をつかむには十分です。

ここで重要なのは、「活動単位の損益計算書」を作るイメージを持つことです。

「全体の利益は出ているが、実は『配送』の工程だけ見ると大赤字だった」というような隠れた事実を発見することが目的です。

STEP3:各工程の強みと弱みを評価する

各工程について、競合他社と比較した際の「強み」と「弱み」を記述します。

ここでも主観を排し、顧客の声やクレームデータなどの事実に基づいて評価します。

  • 強みの記述例:
    • (製造)熟練職人の技術により、不良品率が他社の半分以下である。
    • (サービス)24時間365日の有人サポート体制があり、顧客満足度が高い。
  • 弱みの記述例:
    • (購買)仕入れルートが1社に依存しており、価格交渉力が弱い。
    • (人事)教育マニュアルがなく、従業員のスキルにバラつきがある。

STEP4:VRIO分析で「競争優位性」を判定する

最後に、STEP3で挙げた「強み」が、ビジネスにおいてどれほど強力な武器になるかを「VRIO(ブリオ)分析」を用いて判定します。

以下の4つの質問を順番に問いかけ、すべてに「Yes」と答えられるものが、自社のコア・コンピタンス(中核となる強み)です。

  1. Value(経済的な価値)
    その強みは、売上向上やコスト削減に貢献しているか?(Noなら単なる特徴)
  2. Rarity(希少性)
    その強みを持っている競合は少ないか?(Noなら業界標準レベル)
  3. Imitability(模倣困難性)
    他社がその強みを真似しようとした時、莫大なコストや時間がかかるか?(Noなら一時的な優位)
  4. Organization(組織)
    その強みを最大限に活かす組織体制やフローが整っているか?(Noなら宝の持ち腐れ)

このVRIO分析まで行うことで、「単なる強み」と「持続的に勝てる強み」を明確に区別できます。

業界別・有名企業のバリューチェーン成功事例

バリューチェーン分析によって成功している事例を紹介します。

事例1:スターバックス(サービス業・飲食)

スターバックスは、単にコーヒーを売るのではなく「サードプレイス(家庭でも職場でもない第三の場所)」という体験価値を提供しています。

  • 調達(主活動):
    「C.A.F.E.プラクティス」という独自の倫理的調達ガイドラインを設け、高品質なコーヒー豆を生産者から直接適正価格で仕入れています。これが味の基盤となり、ブランドの信頼性を高めています。
  • 人事・労務管理(支援活動):
    アルバイトを含めた従業員を「パートナー」と呼び、充実した教育研修や福利厚生(ストックオプションなど)を提供しています。マニュアルに頼らない、個々のパートナーによるホスピタリティ溢れる接客は、この支援活動への投資から生まれています。
  • 店舗運営(主活動):
    くつろげるソファ、Wi-Fi環境、洗練された内装など、店舗空間そのものが商品の一部として設計されています。

スターバックスは「人事(教育)」と「店舗環境」というプロセスに莫大なコストをかけていますが、それが「他店より高くても行きたい」という模倣困難な価値を生み出しています。

参照:スターバックスのバリューチェーン分析 – Business Model Analyst

事例2:トヨタ自動車(製造業)

トヨタのバリューチェーンは、徹底的な効率化によるコストリーダーシップの典型例です。

  • 購買物流・製造(主活動):
    有名な「ジャスト・イン・タイム(JIT)」と「かんばん方式」により、必要なものを必要な時に必要なだけ調達・生産します。製造業にとってリスクである「在庫保管コスト」と「廃棄ロス」を極限まで圧縮しています。
  • 技術開発(支援活動):
    サプライヤー(部品供給会社)とも密接に連携し、設計段階からコストダウンと品質向上を共同で進める体制を構築しています。
  • 品質管理(主活動):
    「自働化(ニンベンのついた自動化)」により、異常が発生したら即座にラインを止め、不良品を次工程に流さない仕組みが定着しています。これにより手戻りのコストを防いでいます。

トヨタは各工程間の「ムダ」をなくすことで、高品質な車を競争力のある価格で提供し続けています。

参照:カンバン方式とは? – TOYOTA SYSTEMS

バリューチェーン分析結果を経営戦略にどう落とし込むか?

バリューチェーン分析で自社の姿が明らかになったら、最後は具体的な戦略に落とし込みます。

ポーターは、企業が競争優位を築くための基本戦略として以下の3つを挙げています。

1. コストリーダーシップ戦略

競合他社よりも低いコストで製品を提供し、価格競争で優位に立つ、あるいは高い利益率を確保する戦略です。

分析の結果、特定の工程(例:製造や調達)で大幅なコストダウンが可能だと判明した場合に採用します。

(例:マクドナルド、ニトリ、100円ショップ)

2. 差別化戦略

顧客が「高くてもそれが欲しい」と感じる特異な価値を提供する戦略です。

分析の結果、他社が真似できない技術、ブランド、サービス力(VRIOの「I」が高い要素)が見つかった場合に採用します。

(例:Apple、スターバックス、高級ブランド)

3. 集中戦略

特定の顧客層や地域、製品ジャンルにターゲットを絞り込み、経営資源を一点突破で投入する戦略です。

リソースに限りのある中小企業にとって、最も有効な戦略とされています。バリューチェーンのすべての工程を強くする必要はありません。「この分野の、この工程だけは誰にも負けない」というポイントを作ることが勝利への近道です。

(例:軽自動車特化のスズキ、左利き用品専門店)

バリューチェーンの最適化が利益体質を作る

バリューチェーン分析は、自社のビジネスを「価値」と「コスト」の両面から解剖し、利益が出る体質へと手術するための実践的なツールです。

  • 視点の転換: 業務を「作業」ではなく「価値の源泉」として捉え直す。
  • コストの適正化: 顧客にとって価値のない工程のコストは徹底的に削る。
  • 強みの強化: 差別化につながる工程には、惜しみなく投資する。

まずは、ホワイトボードの前で自社の業務フローを書き出すことから始めてみてください。

もし分析の過程で、「経理や請求書発行などの『支援活動』に予想以上に手間とコストがかかっている」と気づいたなら、それは改善のチャンスです。

バックオフィス業務は直接的な価値を生まないからこそ、ITツールで徹底的に効率化し、そこで浮いた時間と資金を、顧客に愛されるための「主活動」に再投資する。これこそが、賢い経営者が実践しているバリューチェーンの最適化です。

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