• 作成日 : 2025年9月4日

BCP対策に活用できる補助金とは?支給額や申請手順を解説

近年、企業の間でBCP(事業継続計画)を策定・強化する動きが広がっています。しかし、BCPを推進するには、設備の導入や体制の構築などに多額の費用がかかるため、中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。

こうしたコストの壁を軽減する手段として有効なのが、国や自治体の補助金制度です。本記事では、BCP対策に活用できる補助金の種類や支給額、申請手順を解説します。

BCP対策に使える補助金はある?

BCP対策に使える補助金はあります。BCPの策定には、事前準備や社内体制の見直しなど、幅広い取り組みが求められるため、それに伴うコストは避けられません。

こうした費用を補う手段として、補助金を活用する企業が増えています。BCPに関連する補助金で支援対象となる取り組みの例は、下記のとおりです。

  • BCPの策定にかかるコンサル費用
  • 防災設備の導入(自家発電装置・備蓄品など)
  • ITシステム導入やテレワーク環境の整備
  • 拠点の分散化、リスク分散のための設備投資

自社の課題や今後の方針に合った補助金制度を選ぶことで、BCP対策の実効性を高めつつ、費用の負担を抑えられます。

BCP対策に活用できる国の補助金

BCP(事業継続計画)の策定にはコストがかかりますが、国の補助金を活用することで、設備導入や体制整備の負担を軽減できます。

ここでは、BCPとの親和性が高い4つの補助金制度を紹介します。

防災・省エネまちづくり緊急促進事業補助金

国土交通省が実施する「防災・省エネまちづくり緊急促進事業補助金」は、防災性能や省エネ性能を備えた施設整備を支援する制度です。対象となるのは、市街地再開発や住宅街区整備といった再開発事業です。再開発組合や地方公共団体などが申請主体となるため、民間単独では申請できません。

補助の対象の例は、下記のとおりです。

  • 避難所機能の確保
  • 省エネルギー設備の導入
  • 高齢者や子育て世代に配慮した施設設計

参考:
国土交通省|防災・省エネまちづくり緊急促進事業
国土交通省都市局市街地整備課|防災・省エネまちづくり緊急促進事業ガイドブック

補助率は建設費の3~7%で、要件に応じて変動します。現在は令和7年3月末までに着手した事業が対象で、新規募集は終了しています。今後の公募に向けて、要件の確認や事前準備を進めておくとよいでしょう。

この補助金は、BCP(事業継続計画)の実行を支える施設整備にも活用可能です。具体的な対策内容は、下表のとおりです。

対策内容具体的な取り組み
帰宅困難者のための待機スペース整備
  • 災害時に一時的に滞在できるスペースを確保する
  • 簡易ベッド・非常食・トイレを設置する
非常用電源の導入
  • 発電機や蓄電池を導入する
  • 照明や通信機器を最低限稼働できるようにする
災害対策拠点の整備
  • 再開発ビルの一角に防災拠点を整備
  • 避難所機能を備える

こうしたBCPの視点を組み込んだ再開発計画を立案し、関係機関と連携して準備を進めておくことで、次回公募時の採択につながる可能性が高まります。

災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金

災害時に必要な電力や燃料を確保することは、BCP(事業継続計画)における重要な対策のひとつです。本補助金制度では、非常用の燃料備蓄設備や発電設備の導入費用が全額補助されるため、費用面の負担を抑えながらBCP対策を強化できます。

自治体が管理する防災拠点施設で、石油製品タンクや自家用発電設備、備蓄燃料設備などの導入が補助の対象となります。令和7年度の制度の詳細は、下表のとおりです。

項目内容
補助対象者・施設自治体が管理する防災拠点施設
補助対象経費石油製品タンク、自家用発電設備、備蓄燃料設備など
補助率全額補助(定額支給)
実施タイミング補助金の交付決定後に着手可能

参考:経済産業省 資源エネルギー庁|令和7年度「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金(災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業のうち石油製品タンク等の導入に要する経費を助成する事業及び石油ガス災害バルク等の導入に要する経費を助成する事業)」に係る補助事業者(執行団体)の公募について

現在、令和7年度の公募は終了しており、次回(令和8年度)の募集は未定です。交付決定後でなければ事業着手できないため、今のうちから下記のような申請準備を進めておくとよいでしょう。

  • 対象施設かどうか確認する
  • 導入する設備の内容を検討する
  • 設置場所や必要な許可を確認する
  • 複数社から見積りを取る
  • 関係者との連携体制を整える

非常用燃料や発電設備の導入によって、災害時でも業務を継続できる体制を整えられます。

IT導入補助金

中小企業・小規模事業者が、IT化やDX導入を通じて業務の生産性を高めることを目的とする国の支援制度です。BCP対策としても活用でき、テレワーク環境の構築や遠隔業務に対応するITシステムの導入費用に対して、補助が受けられます。

クラウド型勤怠管理システムやWeb会議ツール、セキュリティ対策ソフトなどが、BCPの観点からも有効なITツールです。ただし、補助対象となるには、IT導入補助金事務局に登録されたツールである必要があります。導入を検討する際は、事前に対象かどうかを確認しましょう。

IT導入補助金では通常枠のほか、インボイス対応やセキュリティ対策、複数社連携枠など多様な枠が用意されています。今後予定されているスケジュールは、下記のとおりです。

締切回締切日交付決定予定
第6次2025年10月31日17:002025年12月11日(予定)
第7次2025年12月2日17:002026年1月20日(予定)

参考:IT導入補助金2025

複数社連携IT導入枠の第3次募集は、2025年10月31日まで申請可能です。また、通常枠の対象者や条件、補助率を下表にまとめています。

項目内容
対象者中小企業・小規模事業者
補助率原則:1/2以内

※賃上げなどの要件を満たせば最大2/3まで引き上げ可

上限額最大450万円

申請枠ごとに補助内容が異なるため、自社のニーズに合った枠を選ぶことが重要です。

中小企業新事業進出促進補助金

中小企業庁・経済産業省が新設した「中小企業新事業進出促進補助金」は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値分野への進出を目指す中小企業を支援する制度です。

この補助金は、BCP(事業継続計画)対策そのものを目的とした取り組みは対象外です。ただし、下記のように、新規事業の中にBCPの視点を取り入れることで、補助対象となる可能性があります。

  • 災害時に備えた拠点分散
  • 遠隔対応体制の構築
  • 新たな非対面サービスの開発

つまり、事業継続と新事業立ち上げを一体化させた構想をもつ企業には、相性のよい制度です。

主な申請条件や補助額の概要は、下表のとおりです。

項目内容
申請対象者・条件既存事業と異なる新市場への進出を目指す中小企業
補助率原則1/2
補助上限額従業員数により上限は2,500万〜7,000万円

※大幅賃上げ特例適用で最大9,000万円

参考:中小企業新事業進出補助金

2025年8月現在は次回公募の詳細が未定となっているため、最新情報は公式サイトで随時チェックしましょう。

自治体独自のBCP関連支援制度

都道府県や市区町村などの自治体でも、BCP(事業継続計画)に関連する独自の補助・支援制度を実施しています。ここでは、3つの支援制度を紹介します。

東京都|BCP実践促進助成金

東京都中小企業振興公社が実施する本制度は、中小企業がBCPを実践的に取り入れるための設備導入や体制構築にかかる費用の一部を補助する制度です。

第1回はすでに終了しています。第2回のスケジュールと制度の概要は、下表のとおりです。

項目内容
補助対象者都内中小企業
対象経費非常用電源、感染症対策設備などの購入費用など
補助率2/3以内
補助上限額1,500万円
スケジュール(第2回)
  • 受付:2025年9月10日~17日まで受付
  • 交付決定日:令和7年11月下旬
  • 助成対象期間:令和7年12月1日~令和8年3月31日

参考:東京都中小企業振興公社|BCP実践促進助成金

BCPの具体的な施策に取り組む企業にとって、活用しやすい制度といえます。ただし、申請受付期間は短期間に集中しているため、非常用設備の導入や体制構築を検討している企業は、早めに準備を行いましょう。

北海道|中小企業総合振興資金(防災・減災貸付)

北海道庁が提供する「防災・減災貸付」は、BCP(事業継続計画)または事業継続力強化計画にもとづく取り組みを進める中小企業に対し、低利で事業資金を融資する制度です。BCP策定だけでなく、防災設備の導入や体制強化など、実行段階で必要となる多様な費用に対応しています。

また、策定段階の費用も融資対象に含まれるため、BCPの計画づくりから設備整備まで、一貫した支援を受けられる点も特徴です。制度の概要は、下表のとおりです。

項目内容
融資対象
  • BCP(事業継続計画)を策定し、災害等にあらかじめ備える取り組みを行う中小企業者等
  • 中小企業等経営強化法にもとづく国の認定を受けた事業継続力強化計画

または連携事業継続力強化計画に係る防災に資する施設等の整備を行う中小企業者等

融資金額1億円以内
融資利率
  • 固定金利:年1.2~1.8%
  • 変動金利:年1.2%(融資期間が3年を超える取扱いの場合に限る)
融資期間1年超~10年以内(据置1年)
担保・保証金融機関・保証協会の規定による

参考:北海道|防災・減災貸付

制度のうち、事業継続力強化計画や連携事業継続力強化計画は、「中小企業等経営強化法」にもとづく国の認定を必要とするため、申請ハードルがやや高めです。申請を検討する場合は、商工会議所や金融機関などの専門機関に早めに相談することをオススメします。

本制度は、資金使途の幅が広く、実効性の高いBCP対策や体制構築の実施を支援する制度といえます。

鳥取県|中小企業リスク対策強化補助金

鳥取県の本制度は、県内の中小企業が災害・感染症などのリスクに備え、BCP(事業継続計画)にもとづく実効性の高い防災・減災対策を進めることを支援する補助金制度です。2025年度の募集は4月28日から開始され、先着順で予算がなくなり次第終了となります。

また、過去3年以内に同様の県補助金を受けた企業は対象外となるため、注意が必要です。

項目一般対策型地域連携型
対象者
  • 鳥取県内の中小企業者等
  • BCPを策定済み
  • 事業所において災害対策強化の取り組みを実施
  • 過去3年以内に同様の県補助金を受けていないこと
  • 鳥取県内の中小企業者等
  • BCPに地域貢献の記載あり
  • 町内会や自治会等と協定を締結済
  • 過去3年以内に同様の県補助金を受けていないこと
補助対象事業災害対策機器・備蓄品・感染症対策システムなどの導入地域住民向け備蓄品・電源設備・避難所整備など
補助率経費の1/2以内経費の2/3以内
上限額50万円100万円
受付開始日2025年4月28日より先着順

参考:鳥取県|令和7年度中小企業リスク対策強化補助金

地域の防災力向上につながる取り組みを予定している場合は、地域連携型の活用を検討するとよいでしょう。

補助金の申請から支払いまでの手順

BCP関連の補助金では、書類準備や認定取得などの手続きが多いため、計画的かつ丁寧な進行管理が求められます。ここでは、補助金の申請から支払いまでの一例を、5つのステップに分けて解説します。

1. 自社のBCP策定と申請準備を行う

まずは、自社の課題や取り組み内容を明確にし、計画に落とし込みましょう。事業継続力強化支援事業(中小企業庁)や一部の地方自治体補助金では、認定取得が必須です。

そのため、下記のような資料や作業を事前に準備しましょう。

必要な資料詳細
事業計画書
  • 補助対象事業の内容・目的・効果などを記載
  • BCP対策との関連も明示
見積書
  • 導入予定設備・サービスに対する業者からの見積書
経費内訳書
  • 見積りをもとに、費用をカテゴリごとに整理
  • 補助対象・対象外を分けて記載
実施スケジュール(工程表)
  • 実施時期・作業の流れを時系列で整理
認定書(該当する場合)
  • BCPや「事業継続力強化計画」の認定証明書

※事業継続力強化支援事業(中小企業庁)、一部の地方自治体補助金補助金では認定取得が必須

支援機関からの確認書類
  • 商工会・支援機関からの助言や事前確認結果

※任意だが信頼性向上に有効

補助金申請の準備では、単に必要書類をそろえるだけでなく、計画全体の整合性や説得力が問われます。はじめて申請を行う場合は、商工会議所や認定支援機関など、専門家のアドバイスを積極的に活用するのがオススメです。

以下の記事では、BCP対策の手順やポイントを詳しく解説しているので、参考にしてください。

関連記事:BCP対策とは?具体的な手順や策定時の重要ポイントを解説

2. 補助金の申請書類を提出し、審査を受ける

補助金の申請は、国の制度では「Jグランツ」のような電子申請が主流です。自治体によっては、郵送や窓口提出が必要なケースもあります。

電子申請を行う際には、事前に「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要です。GビズIDプライムアカウントとは、法人や個人事業主が、各種補助金・行政手続きで電子申請を行うための共通認証アカウントのことです。発行までに数週間かかるため、早めの対応が重要になります。提出前に、下記の点をチェックしておくと安心できます。

  • 事業計画書と見積書に整合性があるか
  • 添付資料に漏れがないか
  • 支援機関や自治体で事前確認を受け、不備がないか

たとえば、「見積書に事業者印がない」「経費内訳と見積書の金額が一致していない」など、基本的な記載漏れや整合性の欠如は、審査で指摘されやすい典型的なミスです。申請内容に不備があると審査が遅れたり、減点の対象となるため、事前確認を徹底しましょう。

3. 補助金の交付決定後にBCP施策を実施する

交付決定通知を受けてから、BCPにもとづいた具体的な事業を開始します。通知前に発生した支出は補助対象外になるため、開始時期には十分な注意が必要です。

事業実施中は、下記のような証拠書類や記録を確実に残すことが大切です。

  • 契約書・発注書請求書・振込明細などの支出を証明する書類
  • 設備の導入状況や作業の様子を記録した写真・報告メモ
  • 実施スケジュール通りに進行しているかの管理記録

補助金は「BCP施策の実施後」に確定されるため、資料の保管や進行管理を徹底しましょう。

4. 導入・整備完了後に実績報告書を提出し、内容確認を受ける

クラウド導入や防災設備の整備など、補助対象となる取り組みが完了したら、実績報告書を作成して補助金事務局に提出しましょう。報告書には、実施内容・経費の内訳・成果の概要などを明確に記載する必要があります。

提出後は、事務局による審査が行われ、必要に応じて下記のような追加対応が求められる場合もあります。

  • 提出書類の追加提出依頼
  • 内容に関する質問や不明点の確認
  • 設備導入状況の現地調査(抜き打ちで行われる場合あり)

正確な記録や書類の整備は日頃から行っておくことで、審査対応がスムーズになり、補助金の確定にもつながるでしょう。

5. 補助金を請求し、確定金額の支払いを受ける

審査完了後、補助金額が正式に確定されると、請求手続きに進めます。請求書の提出後、指定口座への振込が行われます。補助金の振込完了後も、下記のような対応や記録管理が必要です。

  • 記録書類や帳票の整理・保管(監査対応のため)
  • 証憑書類や報告書類の保管義務(一般的に5年間)
  • 補助金の種類によっては再申請や年次報告の義務もあり

これらは、監査や報告義務への対応だけでなく、不備が見つかった際に補助金の返還を求められるリスクを回避するためにも欠かせない対応です。最後まで適切に管理することで、補助金の適正な受給が完了します。


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