- 作成日 : 2024年10月7日
アメーバ経営とは?概要やメリット・デメリット、導入プロセス、成功のポイントを解説
アメーバ経営とは、組織を独立採算制の小集団に分割し、各従業員が経営者視点を持って事業を運営する経営管理手法です。従業員のモチベーション向上や迅速な意思決定の促進といったメリットが期待できる一方で、部門間の対立が生じやすいというデメリットもあります。
本記事では、アメーバ経営の目的やメリット・デメリット、導入プロセス、成功のポイントなどを解説します。
アメーバ経営とは
はじめに、アメーバ経営の定義と特徴を解説します。
アメーバ経営の定義
アメーバ経営は、京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫が提唱した経営管理手法です。これは、組織を独立採算によって運営する小集団(アメーバ)に分割し、集団ごとに任命されたリーダーが経営者視点で事業運営に取り組む手法を指します。
アメーバ経営の歴史と導入企業
アメーバ経営は、創業者の実体験をもとに、京セラ発展の礎として運用されてきました。また、JAL(日本航空株式会社)の経営再建においても活用され、大きな成果を挙げたことで注目を集めています。
アメーバ経営の特徴
アメーバ経営には、以下3つの特徴があります。
- 全従業員間で、経営情報(収支や市況など)をリアルタイムで共有する
- 時間あたりの付加価値向上を重視する
- 組織を細分化し、部門・人材ごとの収支責任を明確化する
稲盛氏の「企業経営とは、一部の経営陣だけでなく、全社員が関わって行うもの」という哲学のもと、全社員が経営に参画し収支の向上に取り組む点が、一般的な経営管理手法と大きく異なる点です。
アメーバ経営の目的
アメーバ経営を導入する目的は3つあります。
経営者目線を有する人材の育成
アメーバ経営では、各アメーバのリーダーに経営計画や労務・実績管理、資材発注といった経営業務全般を任せます。
従業員に経営者と同等の業務をこなしてもらうことで、経営者目線を持つ人材の育成を図ります。また、成果を生み出すための戦略や方向性などを主体的に考える経験を提供することで、全社的にチャレンジを推奨する組織風土作りも目指します。
部門別採算制度の確立
アメーバ経営には、部門別の採算制度を確立し、利益率の最大化(売上を増やし、経費を減らすこと)を図る目的もあります。
アメーバごとに独立採算の形式をとることで、市場の変化が生じた際も上層部への確認や他部門との調整を必要とせず、必要となる対応をスピーディーに行えます。また、責任の所在を明確化することにもつながります。
全員参加経営の実現
アメーバ経営では、従業員全員が会社経営に参加する組織風土の醸成を図ります。
具体的には、業績向上や各アメーバの目標達成に向け、従業員全員で計画策定や実績管理などに取り組みます。リーダーが設定した目標について、従業員一人ひとりが「自らできること」を考え、取り組むのです。
アメーバ経営の導入プロセス
アメーバ経営を導入する方法を、流れに沿って解説します。
手順1:組織をアメーバ(小集団)に分ける
はじめに、組織を複数のアメーバに分けます。一般的には、各アメーバを5〜20人程度の小集団に分割し、各アメーバで経営管理を行うリーダーを任命・配置します。
手順2:経営状況を可視化する
アメーバごとに独立採算によって事業を運営します。また、定期的に売上や費用、時間あたり付加価値などの経営状況を分析し、目標達成の進捗状況を可視化します。一般的に、可視化された経営状況は、透明性を確保するためにアメーバ間で共有されます。
手順3:収支を高めるための創意工夫を行う
経営状況を可視化したら、その内容を評価します。問題や改善点が見つかったら、メンバー一丸となって改善策を考えること(≒創意工夫)が重要です。
「経営状況の可視化→改善策の実施」を繰り返すことで、アメーバ単体ではもちろん、全社的な業績の向上を図れるでしょう。
アメーバ経営で期待される3つのメリット
アメーバ経営の導入で期待できる3つのメリットを解説します。
メリット1:従業員の意識が高まることで収益増加を見込める
アメーバ経営では、全従業員が会社全体や各アメーバの収支状況をリアルタイムで把握することができます。つまり、各自が行なっている業務が、どのくらい成果に結びついたのかをはっきりと見てとることができるのです。
日々の活動が数字となって現れることで、一人ひとりが「目標達成に向けて積極的に取り組もう」という意識を持ちやすくなります。また、他メンバーとの一体感や達成感、自己決定感などが高まることで、モチベーションや従業員満足度が高まるケースも少なくありません。
従業員一人ひとりの主体性やモチベーションなどが高まることで、全社的な収益増加を見込めます。
メリット2:意思決定の柔軟性やスピードが高まる
前述のとおり、各部門が独自に権限や責任を持つことで、上層部や他部門との調整業務などが大幅に減ります。市場の変化に対して柔軟かつ迅速に対応できることで、無駄なコストの削減や、売上増加につながる機会(顧客増加など)の活用を図れます。
また、意思決定にかける時間や労力を本業に投下することで、事業の成長速度を高める効果も期待できるでしょう。
メリット3:次世代の経営を担う人材を確保できる
アメーバごとに経営管理してもらうことで、経営のノウハウや経験を有する人材を複数確保できます。次世代の経営陣候補を確保することで、会社の存続可能性が高まる上に、中長期的な成長にもつながります。
失敗例から見て取れるアメーバ経営のデメリット(課題)
本章ではさまざまな失敗事例をもとに、アメーバ経営で注意すべきデメリット(課題)を3つ紹介します。
デメリット1:導入が難しい
小集団への分割や独立採算制の導入、情報共有のシステム構築など、アメーバ経営の導入に向けてやるべきことはたくさんあります。多大な労力やコスト、時間を要するため、すでにリソースが不足している企業にとっては導入の難易度が非常に高いといえます。
デメリット2:部門間の対立が生じやすくなる
アメーバ経営を導入する企業では、各部門(アメーバ)が1つの独立した企業のように活動を行います。そのため、見方によってはライバル同士となり、成果をあげるために部門間の対立が生じる恐れがあります。
デメリット3:利益追求が第一となり、さまざまな弊害が生じる恐れがある
一人ひとりが経営者目線を持つことは、必ずしも良い側面ばかりではありません。利益追求が最大の目的となってしまい、商品やサービスの品質が低下するリスクがあります。また、成果を生み出すためにワークライフバランスを犠牲にする従業員が出てくる事態も想定されます。
アメーバ経営を成功させるポイント
アメーバ経営を成功させるには、前述のデメリット(課題)に対処することが不可欠です。具体的には、以下2つのポイントを押さえることが大切です。
ポイント1:従業員のワークライフバランスやモチベーション維持を尊重する
従業員のワークライフバランスが崩れたりモチベーションが低下したりすると、商品の品質低下や従業員の離職などを招き、かえって売上や利益などが低下する恐れがあります。
アメーバ経営を行うにあたっては、利益や経営者目線を重視しつつ、同時に「従業員が快適に働ける環境づくり」も徹底し、上記の事態を回避することも大切です。
ポイント2:フィロソフィを全社員に浸透させる
稲盛氏が定義するフィロソフィとは、「人として正しい判断基準」を意味します。アメーバ経営の導入にあたっては、全従業員に対して、正義や公平、利他などの要素(≒フィロソフィ)を意識した意思決定や行動を徹底させることが重要です。
そうすることで、部門間の対立や利益追求によるサービスの品質低下を招くリスクを軽減できます。
まとめ
迅速な意思決定の促進や従業員の経営者意識を高める上で、アメーバ経営の導入は有用な手法です。
アメーバ経営の導入にあたっては、基本的な概念を理解するだけでなく、自社の経営にどのように適用できるかを検討することも大切です。そのためには、まず経営陣と現場が主体となって、アメーバ経営の導入にかかるコストや懸念点を分析することがおすすめです。
また、コミュニケーションやKPI管理を円滑に行う上で、どのようなITシステムを導入するのが良いかも考えられるとよいでしょう。
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