- 作成日 : 2025年9月4日
BCP対策で得られる5つのメリット|導入の必要性・効果をわかりやすく解説
災害や感染症、サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクは年々多様化しています。そうしたリスクに備え、万が一の事態でも重要業務を止めず、迅速に復旧を図るために不可欠なのがBCP対策です。
一方で、まだ規模的に必要ないといった理由から、BCPへの着手に踏み切れない中小企業も少なくありません。しかし近年では、業種や企業規模を問わず、BCPを備えることが企業の信頼性や持続性を左右する重要なポイントになっています。
本記事では、BCP対策で得られるメリットや、導入の必要性を詳しく解説します。
BCP対策とは
ここでは、BCP対策の定義や防災計画・BCMの違い、社会的背景について解説します。BCP対策の基本をしっかり押さえておきましょう。
また、BCP対策の具体的な手順やポイントなど、より理解を深めたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:BCP対策とは?具体的な手順や策定時の重要ポイントを解説
BCP(事業継続計画)の定義と目的
BCP(Business Continuity Plan)とは、自然災害・感染症・サイバー攻撃などのリスクに直面しても、重要な事業を継続するために平時から準備しておく計画のことです。単なる緊急対応ではなく、企業の持続的な成長を支える経営基盤として位置づけられます。
主な目的は、下記のとおりです。
- 被害を最小限に抑えること
- 中核業務を維持し、早期復旧すること
BCPを策定しておくことで、顧客や取引先からの信頼維持や経営の持続性の確保につながります。
BCPと防災計画・BCMの違い
BCPと混同されやすい言葉に「防災計画」や「BCM(Business Continuity Management)」がありますが、下記のように、目的や役割が異なります。
項目 | 目的・役割 |
---|---|
BCP | 緊急事態における事業の継続・早期復旧が目的 |
防災計画 | 人命や設備の被害を最小限に抑えることが目的 |
BCM | BCPを策定・運用・改善するための活動全般 |
BCPは防災計画と並ぶ重要なリスク対策であり、BCMはそのBCPを継続的に運用・改善していくための仕組みです。両者を適切に組み合わせることで、緊急時にも機能する体制が整います。
BCPが必要とされる社会的背景と企業動向
BCP対策の必要性が高まっている背景には、企業を取り巻くリスクの多様化と深刻化があります。とくに近年は、次のような理由からBCPが必要とされています。
- 新型コロナウイルスによる事業停止リスクの顕在化
- 台風・地震などの大規模自然災害の頻発
- サイバー攻撃や通信障害などITインフラ依存リスクの拡大
- 介護・医療・福祉分野など一部業界でのBCP義務化(※介護事業は2024年4月から)
これまで大企業の話と考えられていたBCPは、今や中小企業でも無視できない経営課題のひとつです。「備えていれば安心」というより、備えがないことで深刻な損失につながる可能性がある時代に入っているといえるでしょう。
BCP対策の5つのメリット
BCP対策は、単に災害や緊急時に備えるだけでなく、企業経営にさまざまな恩恵をもたらします。ここでは、BCPを導入することで得られる5つのメリットを解説します。
1. 事業を止めずに早期復旧を実現できる
BCPの大きなメリットは、災害や感染症、停電といった非常時においても重要業務を継続し、早期復旧を可能にする点です。そのためには、中核業務に優先順位をつけて対応する必要があります。
あらかじめ優先順位を整理しておけば、被害状況に応じて業務の優先度を判断できるため、復旧の手順が明確になります。その結果、混乱を最小限に抑えられて、売上損失や顧客離れといったリスクも軽減可能です。
危機下でも「止まらない会社」であるために、BCPは不可欠な仕組みです。
2. 従業員の安全・安心を確保できる
従業員の安全を守ることは、企業としての責任であると同時に、社内外の信頼にもつながる重要な取り組みです。BCPを策定することで、災害時や緊急時に備えた具体的な仕組みを整備できます。
具体的な対応例は、下記のとおりです。
- 安否確認の仕組みや避難手順を事前に共有
- テレワーク・在宅勤務の体制を構築
- 交代勤務や代替業務体制を構築
こうした体制整備によって、従業員は安心して働ける環境を得られます。その結果、離職の防止や人材確保につながり、組織全体の力を高められるでしょう。
3. 顧客・取引先からの信頼を維持できる
BCP対策を講じている企業は、非常時でも取引を継続できる体制をもつため、顧客やパートナー企業から高く評価されるメリットがあります。
昨今では、取引継続や入札参加において、BCPの有無が選定基準になる場合があります。そのため、BCPを整備していること自体が、取引上の信頼を左右する要素になるといえるでしょう。
また、緊急時に迅速かつ正確な情報発信ができれば、信頼性はいっそう高まります。復旧の見込みや代替供給の可否を、顧客・取引先に伝えることで、不安を軽減して取引中断のリスクを抑えられます。こうした対応を積み重ねることが、長期的な信頼関係の維持につながるでしょう。
4. 経営資源を可視化でき、業務改善につなげられる
BCPを策定する過程では、業務の棚卸しや資産・人員配置の見直しが必要です。これによって、業務のボトルネックやムダが浮き彫りになり、結果的に日常業務の改善にもつながります。
具体的には、下記のような改善が期待できます。
- 業務プロセスや資産・人員配置のムダを把握できる
- 属人化していた作業が整理され、標準化・効率化が進む
- 危機対応だけでなく、日常業務の生産性向上に直結する
BCPは業務改善ツールとしても、活用できる点がメリットです。
5. 補助金や助成制度の対象になる可能性がある
BCP対策の導入にはコストがかかる場合があります。国や自治体による補助制度を活用することで、費用負担を抑えながら導入できる可能性があります。
主な制度は、下表のとおりです。
補助金名 | 防災・省エネまちづくり緊急促進事業補助金 | 中小企業新事業進出促進補助金 |
---|---|---|
主な目的 | 防災性能・省エネ性能を備えた都市施設の整備支援 | 新市場・高付加価値分野への事業進出支援 |
BCPとの関連 | 再開発事業における防災・避難・電源確保など、BCPの施設面を補助 | 新規事業にBCP視点(拠点分散・遠隔対応等)を取り入れることで対象に |
主な対象例 |
|
|
補助率 | 建設費の3〜7%(条件による) | 原則1/2(特例で最大2/3) |
補助上限額 | 明示なし(事業内容により個別設定) | 最大7,000万円(特例時9,000万円) |
参考:国土交通省|防災・省エネまちづくり緊急促進事業、中小企業新事業進出補助金
2025年8月現在、2つの制度は次回の公募情報が未定となっています。補助金制度は公募期間が短く、必要書類も多いため、直前の準備では対応が難しいことも少なくありません。
スムーズに申請を進めるためには、次回の公募に向けて下記のような準備を進めておきましょう。
- 制度の対象範囲や申請条件を把握しておく
- 自社のBCPや新事業構想をあらかじめ整理しておく
- 関係者との連携体制をつくっておく
制度の要件は年度ごとに改定されるため、必ず最新情報を確認しましょう。早めに準備しておくことで、再公募のタイミングを逃さずに活用できます。
BCP対策が中小企業にこそ必要な3つの理由
BCP(事業継続計画)の重要性が語られる場面では、大企業の事例が取り上げられることが多く、「自社にはあまり関係なさそうだ」と感じる中小企業の担当者も少なくありません。しかし実際には、中小企業のほうが突発的なトラブルの影響を大きく受けやすく、復旧にも時間とコストがかかりやすいのが現実です。
1. 企業規模に関係なく復旧力が求められる
災害や停電、システム障害などの緊急事態は、企業の規模にかかわらず突然発生します。中小企業は人手や資金に余裕がないことが多く、業務が少しでも止まると大きな損失を被りやすいのが実情です。
とくに、下記のようなリスクが懸念されます。
- 営業再開に時間がかかり、機会損失や顧客流出が発生する
- 担当者不在で対応ができず、業務継続が困難になる
- 業務停止が長期化すれば、廃業リスクが高まる
こうしたリスクに備え、BCPによる事業を止めない仕組みづくりが必要です。
2. 信用・取引継続の条件として重視される
近年、取引先や顧客からの信頼性を判断する材料として、BCPの有無が重視されるケースが増えています。大手企業や官公庁と取引のある中小企業にとっては、BCP体制の有無が契約継続や選定の条件となる場面も少なくありません。
たとえば、下記のような場面でBCP対策の有無が問われるケースがあります。
- 契約や入札時に、BCPの策定状況を確認される
- BCPがないことで納品遅延やサービス停止リスクを懸念され、契約更新が見送られる
一方で、しっかりとBCPを整備していれば、緊急時でも対応可能な体制が評価されます。結果として、取引先からの継続発注にもつながるでしょう。
このように、将来的な事業拡大や新規取引の獲得を目指すうえでも、BCPの整備は重要な要素のひとつといえるでしょう。
3. 人的資源・情報資産の保護が重要となる
中小企業では、限られた人材で業務を回しているため、担当者に業務が集中しやすく、属人化のリスクが高くなりがちです。そのため特定の人が不在になるだけで、業務が滞ったり、対応が遅れたりすることも珍しくありません。
また、顧客情報や業務データの管理も属人的になりやすく、バックアップ体制が不十分な場合には、情報の紛失や漏えいといった重大なリスクにつながるおそれもあります。
BCPを導入することで、下記のような体制を構築し、人的・情報資源の損失を防げます。
- 担当業務の代替者やマニュアルを事前に明記し、引き継ぎ体制を確保する
- 定期的なバックアップを実施し、システム障害時の早期復旧を可能にする
- 緊急時にも対応できるように、情報管理や人材配置の見直しを図る
人と情報は、中小企業にとってかけがえのない資産です。これらを守るためにも、BCPは重要な備えとなるでしょう。
BCPを導入する際の3つの注意点
BCPは、企業の事業継続性を高める重要な取り組みです。しかし、実際に導入・運用するにはいくつかの注意点があります。
1. 初期導入コストと社内リソースを確保する
BCPの策定には、現状分析や文書作成、従業員への教育など多くの工程と時間が必要になります。そのため、想定以上に工数がかかるケースも少なくありません。
また、社内にBCP策定のノウハウがない場合は、外部コンサルタントの支援や専用ツールの導入が必要になるため、コストがかさむ可能性もあります。とくに、次のような課題が導入の障壁となりがちです。
- 通常業務と並行して準備を進めるための人手が足りない
- 社内に専門性をもつ担当者がいない
- 経営層からコストに対する理解が得にくい
こうした課題への対応策としては、最重要業務に絞った「簡易BCP」から着手することが効果的です。また、中小企業庁が公開している無料のひな型・テンプレートを活用すれば、ゼロから作成する負担を軽減できます。
さらに、補助金や助成金の活用で、初期導入コストの障壁を下げられる場合もあります。導入にかかる期間の目安は、3か月〜半年程度が一般的です。平時からスケジュールを確保し、制度をうまく組み合わせることで、ムリなくBCP策定を進められるでしょう。
2. 計画倒れにならないように検証する
策定したBCPの検証が不十分なままだと、いざという時に誰も動けず、計画倒れになる恐れがあります。よくある問題点は、下記のとおりです。
- 役割分担や対応手順が曖昧
- 通信・システムの代替手段が未整備
- 前提条件と実際の事業環境が一致していない
こうした課題を防ぐには、定期的な検証を通じて計画と現場の実態をすりあわせることが欠かせません。検証で浮き彫りになった不備は速やかに改善し、BCPを実効性のある仕組みに仕上げていくことが重要です。
3. 従業員の理解・協力を得る
BCPを策定した際、実際に行動に移すのは現場の従業員です。そのため、計画を有効に機能させるには、従業員が内容を正しく理解し、納得したうえで協力できる状態であることが不可欠です。
中小企業では、限られた人材に多くの業務が集中したり、属人化が進んでいたりする傾向があります。BCPが現場に十分に浸透していないと、災害やトラブルが発生した際に混乱が生じるリスクが高まります。
従業員の理解を深め、運用につなげるためには、下記のような取り組みが効果的です。
- BCPの必要性について、説明会や朝礼で日常的に共有を行う
- 業務マニュアルに反映し、日常業務に自然に組み込む
- 参加型の訓練やe-learningを導入し、習熟度を評価と結びつける
共感と当事者意識が芽生えることで、BCPは現場で機能する実践的な仕組みとして根付きやすくなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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