- 更新日 : 2025年9月4日
災害時に役立つBCPとは?企業の事例や災害対策との違いを解説
近年、日本各地で地震や台風、感染症などの災害が頻発しています。企業は、有事の際でも事業を続けるため、BCP(事業継続計画)の策定が不可欠となりました。
本記事では、BCPの基本的な考え方や防災との違いを解説し、具体的な策定のポイント、実際の活用事例を紹介します。
目次
災害時に役立つBCPとは
BCP(事業継続計画)とは、災害や感染症などの緊急時でも事業を続けるため、早期に復旧を行う計画です。単なる防災対策にとどまらず、復旧の目標時間を定め、事業の継続や従業員の保護を重視します。
BCPは「事業継続計画」のこと
BCPは、「Business Continuity Plan」の略称です。日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。目的は、緊急時に企業の重要業務を維持し、早期復旧を行うことです。人命保護だけでなく、従業員の生活を守ることも含まれます。
また、BCPの策定により、企業価値の向上も可能です。顧客や取引先に対しては、「リスク管理を徹底している企業」として信用を得られるでしょう。災害時の混乱を乗り越えるだけでなく、平常時の取引や採用においても、ポジティブな影響が期待できます。
BCPが必要とされる背景
BCPが強く求められる背景には、近年の大規模災害や、感染症の流行があります。2011年の東日本大震災では、多くの企業が被災し、事業が長期間停止する事態となりました。
また、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大でも、同様の事態が起こっています。従業員が出社できない、取引先が操業停止に追い込まれたなどの理由で、事業継続できない企業が続出しました。
従来の防災対策だけでは、人命を守れても、事業停滞が防げません。地震や感染症の被害を防げなかったことで、対策の方法を変える必要性が明らかになりました。また、サイバー攻撃や物流停滞など、非自然災害リスクの脅威も見逃せません。
結果、現在はBCPの策定による「危機を乗り越える力」が、企業価値として重視されています。
BCPと災害対策は別物
BCPと災害対策は、根本的に異なります。災害対策は、自然災害から従業員や利用者の生命を守るため、必要な準備のことです。一方、BCPは被災を前提に、事業の継続・復旧を目的とします。
災害対策は災害から人命を守るもの
災害対策は、災害発生時の人命保護を最優先とします。従業員や顧客の生命に主眼を置き、二次被害を防ぐ取り組みです。たとえば、次の取り組みは、すべて災害対策に含まれます。
- 地震の揺れから身を守る方法
- 建物からの避難経路
- 消火器の使用方法
- 台風・水害時の退避行動
災害対策マニュアルの目的は、命を守ることです。事業継続や経営への影響は考慮せず、従業員がいかに安全に避難できるかを考えます。また、最優先すべきは「自分の命」であると位置づけるため、個人でできる取り組みが大半です。
加えて、マニュアルには訓練の実施要項も含まれます。避難訓練や防災訓練によって、個人の命を守る方法が、従業員に浸透するでしょう。実際の行動を確認し、現場で迷わず行動することは、計画の策定と同様に重要です。
BCPは事業継続が主目的
BCP(事業継続計画)は、災害時や緊急事態でも、重要業務を続けることが目的です。あるいは、可能な限り短時間で復旧することを目指します。
また、BCPは自然災害以外の出来事もリスクととらえ、対処を検討します。リスクと対処法の一例を、次にまとめました。
対象リスク | 想定される影響 | 対応する対抗策(例) |
---|---|---|
感染症の流行 | 出社制限・従業員の欠勤増加による業務停滞 |
|
サイバー攻撃 | システム停止・情報漏えい・取引中断 |
|
BCPは災害対策というより、経営戦略の一環です。したがって、自然災害以外のリスクにも対処する必要があります。
BCPと災害対策の6つの違い
BCPは事業存続と早期復旧を重視し、災害対策は従業員の安全確保に焦点を置きます。別々に策定するものではなく、互いを補完し合う関係です。
1. 策定の目的
BCPの目的は、災害や緊急事態が発生した場合に事業を継続し、早期復旧を果たすことです。
取引先や顧客に対して、必要な商品・サービスを提供し続け、操業停止による信用低下を防ぎます。性質上、策定の主体は経営層であり、組織全体を巻き込んだ計画となるのが特徴です。
一方、災害対策は地震・火災時などの初動対応が中心で、個人や現場単位の行動指針を示すものです。
BCPが「企業存続のための戦略」であるのに対し、災害対策は「人命優先の安全確保」に主眼を置いています。
2. 脅威とする対象
BCPは「災害や社会的リスク」に広く対応する一方、災害対策は「自然の脅威」への対処を重視します。
災害対策で対処するリスクは、火災・地震・風水害などの物理的な災害です。また、計画内容も物理的な被害の軽減を目的としています。一方、BCPが脅威とするリスクの一例は、次の通りです。
- 感染症
- サイバー攻撃
- 自然災害
上記以外にも、BCPの対象は数え切れません。策定時は、無数のリスクに対して、優先的に対処すべき事項を決める必要があります。
3. 保護する対象
BCPの目的は、事業を止めないことです。資産や業務を放り出しては事業を続けられないので、次の対象も保護する必要があります。
- 重要書類
- データ・サーバー
- 情報端末(パソコン・スマートフォン)
- 連絡手段
- 自動車などの車両
- 社屋
BCPの保護対象は、従業員を含む経営資源のすべてです。災害対策は「人を守る計画」ですが、BCPは「人と事業の両方を守る戦略」の側面が強くなります。
また災害対策は、基本的に「人命第一」です。従業員や来客などの安全を確保し、安全な避難や負傷者救護を優先します。資産や業務は二次的な要素とされ、対策内容では触れられません。
4. 適用範囲
BCPの適用範囲は、災害対策より広く設定されます。たとえば、全国の支社や工場はもちろん、取引先や物流網、ITシステムなども保護対象です。さらに、経営層の意思決定フローや、代替手段の準備も対象となります。
一方、災害対策は、1か所の拠点に注目して策定されるものです。避難ルートや初期消火、安否確認など、対応内容も現場レベルに限られます。策定に欠かせないハザードマップや消火器の配置などは、拠点によって異なるため、「拠点・現場レベルでしか整備できない」のが正確でしょう。
5. 有効性の評価軸
BCPと災害対策マニュアルの有効性評価には、次の基準があります。
項目 | BCP(事業継続計画) | 災害対策 |
---|---|---|
評価の中心 | 事業がどの程度早く復旧できるか | 人命を守れるか、安全を確保できるか |
主な指標 |
|
|
視点 | 経営・事業継続の視点 | 安全管理・労働災害防止の視点 |
BCPは事業の復旧が早いほど、災害対策は守れた人命の数が多いほど、有効だと評価される仕組みです。
6. 経営的視点
BCPは経営戦略、災害対策は安全管理の視点で作成されます。
BCPは、有事の際に取引を続けられるか、取引先を信用できるか、の指標となります。近年は、取引継続の条件として、BCPの策定を求める企業も増えてきました。BCPは自社の事業を守る計画であると同時に、取引先から信用を得るための要素にもなっています。
一方、災害対策では、安全や従業員保護が目的です。経営戦略や事業継続との関係は、ほとんどありません。
災害時におけるBCPの策定ポイント5つ
BCPの策定時は、最優先で復旧すべき業務は何か、いつまでに復旧すべきかを考え、現場の実態に即した計画を立てましょう。また、実際に運用できるか、訓練を通して評価することも重要です。次から紹介するポイントを押さえることで、災害時でも機能するBCPを策定できます。
1. 中核業務の選定
BCPの策定は、自社に不可欠な業務を洗い出し、業務停止時の影響を評価することから始まります。業務が止まった場合、取引先やサプライチェーンに与える影響の大きい順に、復旧の優先順位をつけましょう。
また、復旧の難易度によっても、優先順位は変動するでしょう。影響と難易度の2軸評価で優先順位をつけることで、より現実的な優先順位を設定できます。
2. 復旧目標時間の設定
復旧の優先順位がついたら、復旧目標時間(RTO)を設定しましょう。現実的に投入可能な人員・資金・インフラを考慮して、各業務を何日で再開できるか可視化します。
復旧時間を短く設定しすぎると、現実的に実行できません。逆に長すぎると、取引先にも影響が出るでしょう。復旧までのダウンタイムを経営層・現場で共有し、実効性のある時間設定を行うのが重要です。
3. 連絡体制の整備
災害時には、迅速かつ正確な情報共有が不可欠です。緊急連絡先や責任者を選定し、連絡体制を整備しましょう。完成した連絡網は、全社員に周知するのが基本です。緊急連絡先や責任者が速やかになり、復旧も進みやすくなります。
また、外部ベンダーや行政との連絡窓口も事前に決めましょう。緊急時の物資調達や支援要請も、スムーズに行えます。
4. 意思決定フローの可視化
災害発生時は「誰が判断を下すのか」「誰の指示を仰げばよいか」を明確にしましょう。意思決定フローが不明確だと対応が遅れ、被害も拡大しかねません。万が一、経営層が被災して、指示が出せなくなった場合に備えて、代理の意思決定者も決めるのが理想です。
5. 机上訓練と現場のすり合わせ
BCPは、実地で機能させなければ、効果が得られません。実地訓練と机上訓練(イメージトレーニング)を通して、策定時に見落としていたポイントを洗い出しましょう。
実際の現場では、ほぼ確実に想定外の行動や齟齬が発生します。現場と経営層が協力し、対応力を向上させる取り組みが必要です。
災害時BCPの活用事例3選
企業規模・業種に関係なく、BCPによる人命保護・早期復旧は可能です。次から、BCPにより早期復旧を遂げた企業の事例をご紹介します。
1. スーパーマーケット
あるスーパーマーケットのBCPでは、店舗と複数の配送拠点を分散配置し、被災リスクに備えています。特定の拠点が被災しても、ほかから商品を供給し、営業を続けられるよう取り組みました。
BCPの策定により、被災した店舗は、2〜3日で営業を再開可能になっています。災害直後に必要となる水や保存食、生活必需品を計画的に備蓄し、現場従業員のシフトも変更しました。営業を続けるだけでなく、地域社会への貢献にも成功した事例です。
2. 半導体工場
ある半導体工場では、生産設備の停止が大きな損失に直結します。被災に備えて制御システムを二重化し、生産ラインの一部が停止しても、ほかラインで継続できる体制を整備しました。
加えて、システム障害や停電に備えた無停電電源装置(UPS)の導入や、外部委託先との代替契約など、多層的に対策を行いました。実際に被災した際も、致命的な被害を避け、わずか4日で生産を再開しています。
3. 自動車金型製作工場
中小規模の製造業でも、BCPは効果を発揮します。ある自動車金型製作工場では、災害発生時の混乱を抑えるため、日常的に勉強会を実施しました。現場に作業手順や設備点検を浸透させ、被災からの復旧に備えたのです。
勉強会や訓練を実施したことにより、被災した工場でも、半日で復旧が完了しています。製品の生産は1日遅れただけで、出荷を止めませんでした。元々は熟練技術者の離職に備えた業務マニュアルや勉強会が、迅速な復旧につながった事例です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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