• 更新日 : 2025年9月4日

介護施設のBCP対策とは?具体的な策定方法やテンプレート活用法を解説

2024年度から、介護施設に「BCP(事業継続計画)」対策が義務化され、多くの事業者が対応を迫られています。しかし、「何から始めればいいのかわからない」「テンプレートだけでは不安」という方も多いでしょう。

本記事では、介護業界特有の課題に即したBCP対策の基本を解説します。また、策定手順や厚労省のテンプレート活用法まで、現場で活かせる実践的な情報もまとめました。

介護業界のBCP対策

介護業界では、災害や感染症による介護サービスの中断を防ぐため、BCP(事業継続計画)の策定が義務化されました。厚生労働省は、利用者の安全確保と、事業継続の両立を求めています。

また、定期的な計画の見直しや訓練の実施をすることで、現場の混乱を防ぎ、迅速に行動できる体制を整えることが重要です。

介護施設のBCP対策は義務

2024年4月より、すべての介護事業所にBCPの策定が義務付けられました。2011年の東日本大震災や2020年以降の新型コロナウイルス流行など、介護現場に影響した事例を受けての措置となります。

施設の倒壊や停電、断水、職員不足などが起こると、サービス利用者の生活や健康が危険にさらされるでしょう。危険から利用者を守り、介護サービスの提供を続けるために、BCPの策定は急務です。

BCPには、次の内容が含まれます。

  • 優先的に継続すべき業務の選定(食事、排泄、服薬、医療対応など)
  • 職員の安否確認・配置計画
  • 非常用物資・設備の備蓄(飲料水、非常食、発電機など)
  • 地域医療機関や自治体、他施設との連携方法

事前準備が万全で、職員の対応がスムーズに行われれば、緊急時でも利用者の安全と生活を守れるでしょう。

未策定事業所に対するペナルティ

2024年4月から、介護事業所におけるBCP未策定に対して、介護報酬の減算措置が導入されました。

所定のBCP対策のうち、未策定の項目数に応じて、請求できる介護報酬が減ってしまう仕組みです。

介護保険制度では、サービスの利用者が1〜3割を負担し、残りは介護保険から「介護報酬」の形で負担されます。BCPが未策定だと、介護報酬のうち基本報酬が減額され、正当な労働の対価を受け取れません。

利用者へのサービス提供だけでなく、経営にも直接的な影響が出るでしょう。

BCPの策定を後回しにすると、収益減少や評判低下のリスクが避けられません。事業継続と信頼確保のため、早期の計画策定と、運用体制の整備を行いましょう。

感染症・災害が介護サービスに与える影響

介護現場で感染症や自然災害が発生した場合、業務継続が困難になります。たとえば新型コロナウイルスの流行時には、全国の施設が面会制限や活動中止を余儀なくされ、施設内感染を防ぐため、職員不足や業務負担増も問題となりました。

また、地震・台風などの自然災害に伴うライフラインの停止は、人命に直結します。高齢者は移動に時間がかかり、避難自体が負担となるため、避難時の安全確保には特別な配慮が必要です。加えて、必要な物資や医療機器が不足すると、持病の悪化や体調変化に対応できず、健康リスクが急上昇します。

BCP対策は人命と事業を守るもの

介護BCPの目的は「人命の保護」と「重要業務の維持」の両立です。緊急時には、安否確認や避難誘導、医療連携など人命救助が最優先されます。また、危険を脱した後、食事・排泄・服薬などの生活支援業務を継続することも重要です。

たとえば、地震で施設が損壊し、一時避難先に移った場合を考えましょう。避難先には、介護用ベッドや入浴設備など、介護に欠かせない医療機器が揃っていないケースも考えられます。職員が被災した場合は、人員不足も避けられません。

介護BCPは危険が迫った際に備えて、人命と事業を守る計画です。場当たり的な対応ではなく、事業を継続し、施設復旧まで人命・資産・信用を守り抜く「行動の指針」となります。BCPは、策定するだけでなく、訓練や検証を通して実効性を高める取り組みも必須です。

介護施設BCP対策の6要素

介護施設のBCP対策には、次の6要素が求められます。

要素内容
1. 安否確認手段の確保(必須)電話・メール・SNSなど複数の連絡手段を準備し、通信障害時の代替手段も設定する
2. 担当者の任命(必須)緊急時の指揮命令系統を明確化し、判断責任者を事前に決定する
3. 備蓄管理(必須)食料・水・医療用品・衛生用品を人数と期間に応じて備蓄し、使用期限を定期確認する
4. 定期訓練の実施(必須)避難訓練や感染症対応訓練を年1回以上行い、全員が流れを把握する
5. 優先業務の明確化食事介助・排泄介助・服薬管理など、非常時にも継続すべき業務を定義する
6. 外部連携体制の整備医療機関・自治体・他施設と協力体制を構築し、支援ルートを確保する

とくに、1〜4の項目は、BCP策定義務により策定が必須です。災害や感染症の発生時、速やかに対応し利用者の安全を守るため、最低限必要な項目となります。

BCP対策を策定する5つの手順

BCPの策定は、次の5ステップで進めましょう。

手順内容
1. 自社の中核業務とリスクの洗い出し施設運営に不可欠な業務と、業務に影響する災害・感染症を特定する
2. 被害想定と優先順位の決定停電・断水・人員不足などの被害を想定し、影響度順に優先度を設定する
3. 対応体制と役割分担の設計災害時の指揮担当者、連絡担当者、避難誘導担当者などを明確化し、代替要員も決める
4. マニュアル・チェックリストの整備行動手順を文書化し、全員が理解できるよう図解やフローチャートを活用する
5. 訓練・見直し・改善サイクルの導入年1回以上の訓練を行い、結果を分析して改善点を反映し、PDCAサイクルを回す

上記のステップを順番に行うことで、より現場に即したBCPが完成します。計画が机上の空論とならないよう、順番に決めましょう。

介護事業者がBCP対策をするメリット

BCP策定済みの介護事業所は、災害や感染症などの緊急時に、迅速かつ計画的な対応ができると評価されます。施設利用者はもちろん、利用者の家族にとっても、安心できる材料になるでしょう。

利用者や職員の安心・信頼獲得

介護サービスは、平時から利用者の生命や生活を守る業種です。たとえ災害や感染症が起こっても、サービスを途切れさせない計画や準備は、利用者からの信頼につながります。

また、BCPは職員にとっても、安心感を与えてくれるものです。安全と役割が明確になるため、非常時の不安が軽減されます。日々の業務にも、より集中できるでしょう。結果的に離職防止や採用活動にもプラスに作用し、事業の安定化も可能です。

介護報酬の減算回避

BCP策定の有無は、介護報酬の減算回避に関係します。2024年度の改定以降、未策定事業所は報酬減額の対象となりました。規定通りの介護報酬を受け取るために、BCPの策定・運用は必須です。

また、BCPの策定により、行政からの信頼を得られる可能性もあります。BCPの策定は、災害や感染症時に利用者を守る体制が整っている証拠となるためです。行政や地域住民から、安心して介護を依頼できる業者として、評価されるでしょう。

【通所系サービス】BCP策定のポイント3選

通所系サービスでは、送迎中や施設滞在中など、場面ごとのリスクが異なります。各状況に適したBCP対策を行い、利用者と職員の安全を守りましょう。

送迎中の災害対応・連絡体制の構築

送迎中のBCPでは、地震や水害などの突発的な災害発生に備えます。停車・避難場所を事前に選定し、速やかに安全を確保しましょう。また、利用者の安否確認や、家族への連絡手順も必要です。担当職員に共有し、緊急時でも対応できるよう訓練を行いましょう。

通所車両に次の備品を据え付けておくと、被災後の生活も確保できます。

  • 非常用連絡先リスト
  • 地図
  • 非常用電源
  • 飲料水
  • 食料
  • 調理器具
  • 簡易トイレ
  • 毛布

上記の備品があれば、緊急事態に対応できる環境が整うでしょう。

施設滞在中のライフライン停止・感染対策

施設滞在中に被災した場合、水道や電気などの停止リスクがあります。しかし、非常用電源や水・食料などの備蓄品があれば、最低限の介護サービスを提供できるでしょう。

また、感染症が拡大した場合は、感染者・非感染者を分ける「ゾーニング」や、隔離対応が必要です。隔離スペースの設置方法や、個室の使用基準を決めましょう。清掃・消毒・換気といった感染対策をマニュアル化することで、混乱や二重対応を防止できます。

家族・地域との情報共有と役割分担

災害時対応には、外部との連携も重要です。利用者・職員の家族や自治体、防災組織、医療機関との情報共有は、初動対応のスピードを左右します。避難が必要な場合の連絡方法や、家族に依頼する役割(迎え・物資提供など)を事前に共有することで、安全を確保しやすくなるでしょう。

また、平時からの信頼関係構築も重要です。地域防災会議への参加や、自治体主催の防災訓練への職員派遣を通じて、顔の見える関係を作りましょう。非常時に迷わず連携できるようになり、お互い協力できることから、心理的な安定にもつながります。

【訪問系サービス】BCP策定のポイント3選

訪問系サービスのBCPは、通所系サービスと対策内容が異なります。移動中と居宅内では、対策すべきリスクが違うので、両方に対応する前提で策定しましょう。

訪問中の災害・感染拡大時の対応策

訪問介護中に災害が発生した場合、職員と利用者の安全確保が必要です。訪問先ごとの避難ルートや一時避難場所をマップ化し、職員全員が把握できるよう備えましょう。

また、感染症が流行している際の訪問を中止するか、継続するかの判断基準も、BCPに含める必要があります。たとえば、発熱や咳などの症状がある利用者宅への訪問を制限し、オンラインで安否確認を行うことも可能です。あるいは、必要な物資を配送する仕組みも考えられます。

訪問を継続する場合、職員の感染防止対策が必須です。マスクや手袋、防護服などを携帯し、正しい着脱手順と廃棄方法を徹底しましょう。

職員と利用者の安全確保・安否確認方法

非常時の混乱を抑えるため、職員と利用者の安全確保基準をマニュアル化しましょう。火災発生時の消火器の使用方法や、建物倒壊時の避難経路、水害時の高台避難など、状況別の初動を掲載すると効果的です。

また、利用者や職員の安否確認も必要になります。職員にGPS機能付きスマートフォンや専用端末を支給したり、緊急時の一斉連絡網を整備したりしましょう。連絡が取れない場合の代替手段や、班ごとの担当者を決めておくと、混乱を抑えられます。

利用者や家族については、連絡先を把握するのが重要です。災害時の連絡・支援が滞らないよう、体制を整えましょう。

医療・自治体との連携・支援受入体制

訪問介護は、地域の医療機関や自治体との連携が重要です。たとえば、災害時に利用者が急変した場合、事前に連携している医療機関があれば、搬送や診療をスムーズに実施できます。

また、感染症流行時には、感染者の受入先や症状に応じた医療対応ルートが定まっていれば、感染の拡大を食い止められます。

自治体と連携することで、避難所の場所や収容可能人数、バリアフリー対応状況などの情報を共有できるでしょう。災害発生時の支援要請方法や、物資供給・人員派遣の受入体制を構築しておけば、非常時に訪問介護を続けられる可能性もあります。

介護事業者のBCP策定に役立つ支援

介護事業者のBCP策定に役立つ、公的機関の支援内容を紹介します。法務のプロが施設に在籍していなくても、下記の支援を活用すれば、BCPを策定できるでしょう。

テンプレート・チェックリスト

厚生労働省では「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」や、策定の手引き、チェックリストを提供しています。災害・感染症対応に必要な項目が揃っているため、BCPをはじめて策定する事業者にも有用です。

ただし、内容を編集せず、使い回すのは推奨しません。施設の特性や地域のリスクに合わない場合があるため、施設の実態にあわせて編集しましょう。地域のハザードマップや、過去の災害事例を参考にして、内容を追加・削除してください。

補助金・支援制度

自治体によっては、BCP策定に伴い、補助金や助成金制度を活用できるケースがあります。

  • 対象:都内中小企業者等、公社のBCP策定支援講座等を受講するなどしてBCPを策定し、実践する事業者
  • 支援内容:策定されたBCPを実践するために必要な設備・物品の購入、設置に係る経費
  • 補助上限・割合:限度額500万円、1/2以内(小規模企業は2/3以内)
  • 特記事項:申請スケジュールは全3回、受付期間が異なる

補助金や助成金は、研修費や設備費に充てられます。また、BCPの策定相談窓口を設置している自治体もあるため、策定の際は問い合わせてみましょう。


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