• 作成日 : 2025年9月4日

BCP対策における複数購買とは?メリット・デメリットや導入手順を解説

企業が事業を安定的に継続するためには、災害や取引先の不測の事態に備えたBCP対策が欠かせません。とくにサプライチェーンが多岐にわたる業種では、調達先が一社に偏ること自体が大きなリスクとなります。

その解決策として注目されているのが、複数購買(マルチソーシング)です。複数の取引先から原材料や部品を調達することで、供給停止のリスクを最小限に抑えられます。

本記事では、複数購買の意味や導入によるメリット・デメリット、BCP対策に組み込む具体的な手順を詳しく解説します。

複数購買の意味と1社購買のリスク

複数購買(マルチソーシング)とは、原材料や部品を複数の仕入先から調達することを指します。調達先を分散させることで、供給の安定性を確保することが目的です。また、副次的な効果として、価格競争の促進や交渉力の向上も得られます。

一方で、供給先を1社に依存すると、下記のようなリスクを抱えることになります。

  • 自然災害やトラブルによる供給停止
  • 価格交渉力の低下

このような状況に陥ると、顧客への供給責任を果たせなくなる可能性があるため、BCPを策定する上で単一の仕入先への依存は避けたほうがよいでしょう。

複数購買なら、代替調達先へのスムーズな切替や調達地域の分散が可能になります。これによって、国際情勢の変化や海外での災害など、海外調達ならではのリスクも軽減できるでしょう。

ただし、代替先については、事前に品質検証や小規模取引を行い、信頼性を確かめておく必要があります。こうした事前準備を徹底することで、複数購買はBCPにおける調達リスク回避の中核施策として、大きな効果を発揮します。

複数購買のメリット

複数購買は、調達リスクを回避するだけでなく、コスト削減や交渉力強化など経営面で多くの効果をもたらします。ここでは、具体的にどのようなメリットをもたらすのかを詳しく解説します。

原価を抑えられる

複数購買を導入すれば、サプライヤー同士の競争が働き、調達価格そのものを引き下げやすくなります。結果として、原価の抑制や調達コストの削減につながるのが大きな特徴です。

とくに大口発注や長期契約では、複数の候補を確保しておくことで発注側の選択肢が広がり、有利な条件を引き出しやすくなります。

こうした効果を高める手段として、調達システムの活用も有効です。ERPなどの大規模システムは数百万円単位の投資が必要ですが、クラウド型の調達システムなら月額数万円程度から導入可能です。

中小企業でも利用しやすく、発注履歴や価格推移を可視化できるため、仕入コストの最適化につながります。

納期リスクやサプライチェーン寸断リスクを最小化できる

複数購買は、供給停止による納期遅延やサプライチェーン寸断を防ぐ有効な手段です。一社だけに依存していると、突発的な事態が発生した際に、生産や出荷が止まる恐れがあります。

あらかじめ複数のサプライヤーを確保しておけば、緊急時には迅速に切り替えて、原材料を調達可能です。結果として、安定した生産・販売体制を維持できます。

価格交渉力を高められる

複数購買は、サプライヤー同士の競争を生み出し、発注側の交渉力を高める効果があります。選択肢を複数もつことで、比較対象を提示できるため、サプライヤーに条件改善を意識させやすくなります。

実際に、複数社から見積りを取れば、価格だけでなく品質や納期、サービス面でも有利な提案を引き出せるでしょう。結果として、調達戦略に柔軟性が生まれ、安定的な取引関係を築きやすくなります。

品質やサービスを比較・改善できる

複数購買は、品質やサービスを継続的に改善する仕組みとして有効です。単一の取引先では基準が曖昧になりやすい一方、複数社と取引すれば相対的な比較が可能になります。

その評価結果をもとに、改善要望を伝えれば、サプライヤーも品質やサービス向上に取り組みやすくなります。結果として、調達環境全体の品質向上につながり、企業に長期的なメリットをもたらすでしょう。

複数購買のデメリット

複数購買はリスク分散やコスト削減に有効ですが、運用上の課題も伴います。ここでは、具体的なデメリットを解説します。

調達・管理にかかる負担が増える

複数のサプライヤーと取引する場合、発注や納期管理が複雑化し、担当部署の負担が大きくなります。さらに、契約条件の確認や監査に必要なコストも膨らみやすくなるでしょう。

これらのデメリットを回避するために、ERPや調達管理システムの導入がオススメです。発注・在庫・契約情報を一元管理することで、業務の煩雑さを抑えて、効率的な調達体制を維持できます。

サプライヤーと長期的な信頼関係を築きにくい

発注量が分散すると、1社あたりの取引規模が縮小し、関係が希薄化する可能性があります。その結果、長期的なパートナーシップを築きづらくなるデメリットがあります。

こうした弱点を補うには、購買方針を事前に説明し、重要な取引先とは定期的に情報共有や改善活動を行うとよいでしょう。

不具合発生時の原因がわかりにくくなる

複数購買では品質不良が起きた際に、「どのサプライヤーが原因なのか」を特定するのが難しくなるケースがあります。その結果、調査や対応に余計なコストがかかる可能性があります。

対策としては、あらかじめロット番号や仕入先コードを記録するのがオススメです。トレーサビリティを確保しておけば、迅速かつ正確な原因究明が可能になるでしょう。

仕様や品質が統一しにくい

複数購買では、サプライヤーごとに規格や仕様が異なるため、標準化や安定生産に支障をきたすリスクがあります。とくに製造業では、部品の互換性不足が原因で、不具合や手戻りにつながる場合があります。

このリスクを防ぐには、導入前に品質検証や共通仕様の合意を得ることが重要です。

また、いきなり全社規模で切り替えるのではなく、まずは試験ロットで小規模に導入しましょう。そこで品質や納期の実績を確認し、問題がなければ徐々に取引規模を拡大していくアプローチが有効です。

こうしたプロセスを踏むことで、リスクを抑えつつ安定した調達体制を築けます。

複数購買をBCP対策に組み込む手順

複数購買を効果的に機能させるには、単に仕入先を増やすだけでは不十分です。実際にBCPに組み込むための手順を6つのステップで解説します。

1. 重要部品や資材を特定する

自社の事業継続に直結する重要な部品や原材料を特定しましょう。生産停止やサービス提供の中断につながる品目をリスト化し、調達困難となった場合の影響度や代替可能性を評価します。

代替が難しい品目ほど、調達先の確保や代替手段を具体的に記載しておくことが重要です。具体的には「影響度×代替可能性」のマトリクス図を作成し、注力すべき資材を明確にすると効果的です。

2. 代替調達先をリストアップする

既存の取引先だけに依存せず、代替となる調達候先を候補として洗い出しておきましょう。

国内外から候補を探し、地理的に分散させることで、自然災害や国際情勢の影響を受けにくい体制を築けます。その際、物流条件や供給能力といった実務的な要素も加味して選定しましょう。

さらに、代替先については、平時から小規模取引や品質確認を行い、信頼関係を積み上げておくことも必要です。緊急時でもスムーズに発注でき、調達リスクを大幅に減らせます。

3. 契約条件・品質基準を統一する

代替先を確保しても、品質や納期、コストの基準がバラバラでは緊急時に混乱が生じます。そのため、複数のサプライヤーに対し、契約条件や品質基準を事前に統一しておきましょう。

品質検査や試作品確認を行い、必要な条件を契約書に明記しておくと安心です。切替先に移行しても、同等の水準で安定的に供給を継続できる体制を整えられます。

4. 在庫方針と発注ルールを策定する

複数購買を効果的に機能させるには、在庫管理と発注ルールを標準化することが欠かせません。安全在庫量や発注のタイミングを決めて、緊急時にも安定供給できる体制を整えておきましょう。

また、複数サプライヤーへの発注比率を定めて、依存度を平準化することも重要です。保管コストや在庫の劣化リスクも踏まえて、過不足のない適正在庫を維持しましょう。

5. 定期的な調達先評価と見直しを行う

定期的な調達先評価と見直しを行いましょう。半年から1年単位で、下記の視点で調達先の状況を評価し、取引の妥当性を確認します。

  • 経営状態
  • 納期遵守率
  • 品質水準

また、市場動向や為替、国際情勢の変化に応じてサプライヤーリストを更新することも欠かせません。さらに、新規候補の調査・開拓を継続的に行うことで、突発的な供給停止にも対応できる体制が強化されます。

6. 発注切替の訓練を実施する

訓練を通じて、発注先の切り替えが円滑に進むかを確認しましょう。具体的には、下記のような流れを事前に検証しておくのがオススメです。

  • 在庫移動
  • 生産ラインの変更
  • 輸送ルートの切替

さらに、訓練で明らかになった課題はマニュアルに反映し、定期的に改善を重ねましょう。

複数購買によるBCP対策のポイント

複数購買を導入しても、運用の仕方次第では十分に効果を発揮できないことがあります。5つのポイントを押さえておくことで、非常時でも確実に機能する仕組みとして活用できます。

適正在庫の確保による供給継続性の向上

複数購買を効果的に機能させるには、需要予測やリードタイムを踏まえた適正在庫の確保が欠かせません。

まずは、過去の販売データから簡易的に安全在庫水準を算定してみましょう。

そのうえで、安全在庫量を明確に設定し、緊急時でも一定期間は生産や出荷を維持できる体制を整えておくことが重要です。

取引先との情報共有体制の構築

複数購買の効果を十分に発揮するには、取引先との連携が欠かせません。発注や納期、在庫をリアルタイムで共有できれば、予期せぬトラブルが起きても迅速に対応でき、被害の拡大を防げます。

また、緊急時の連絡ルートや対応手順を明確にしておくことで、いざというときにも混乱なく動ける体制を整えられます。

調達管理のデジタル化

複数購買を効果的に機能させるには、サプライヤーごとの在庫・納期・価格情報を迅速に把握する必要があります。そのためには、調達プロセスのデジタル化が重要です。

発注・納品・請求・支払いといった調達プロセスをITシステムやクラウドサービスで管理することで、切り替えの判断スピードと精度を大幅に高められます。

紙をデータ化したり手作業を自動化したりすれば、ミスや処理時間を大幅に削減できるだけでなく、遠隔環境でも安全に業務を継続できる体制を整えられる点が大きなメリットといえます。

国内外の調達先を組み合わせたリスク分散

調達先を国内外で組み合わせることで、自然災害や国際的なリスクに強い供給網を構築できます。

国内については、調達先を複数地域に分散し、地震や豪雨といった自然災害のリスクを抑えることが重要です。海外調達では、為替変動や輸送リードタイム、さらには政治情勢・貿易規制の変化といった要素を考慮し、安定供給できる体制を整えましょう。

このように、国内と海外の特性を踏まえて組み合わせることで、災害や情勢変化があっても安定した供給を維持できます。

計画の定期見直しと実地訓練による改善

複数購買は1社購買に比べて取引先や条件が多く、時間の経過とともに計画と実態のズレが生じやすいのが課題です。さらに運用が形式的になり、形骸化してしまうリスクもあります。

ズレを防ぐには、定期的な計画の見直しで最新の状況に反映させる必要があります。計画の見直しは年1回を基本とし、大規模災害や取引先の変化があった際には臨時で行いましょう。生産拠点や在庫分散の状況を点検し、弱点を補強することが目的です。

また、計画の形骸化を防ぐには、訓練が欠かせません。訓練によって現場が主体的に動けるかを確認し、浮き彫りになった課題を計画に反映しましょう。


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