• 作成日 : 2025年9月4日

BCP対策の費用ガイド|費用対効果の考え方とコスト抑制のポイントを解説

BCP対策は、万が一に備えて企業が取り組むべき重要な施策ですが、導入には一定の費用がかかります。そのため、費用対効果を意識しながら、計画的に進めることが重要です。設備やインフラの導入だけでなく、維持管理費用、マニュアル整備研修体制など、さまざまな費用が発生します。

本記事では、BCP対策にかかる主な費用の内訳と、費用対効果の考え方について解説します。

BCP対策にかかる費用の主な内訳

BCP対策に必要な費用は、大きく「設備・インフラ関連」と「業務体制の整備」に分けられます。企業の規模や業種によって必要な費用は変わりますが、いずれも「初期費用+維持費」を見込むことがポイントです。

設備・インフラの整備費用

BCP対策でもっとも費用がかかるのは、設備やインフラ整備です。主な項目は、下記のとおりです。

  • 自家発電設備
  • 排水ポンプ
  • 制震・免震装置
  • 浄水設備
  • 揚水ポンプ

数万円から導入できるものもありますが、発電機や制震装置などの大型設備だと、数百万円規模になる場合もあります。

さらに、サーバーや業務データの損失に備えるには、クラウドバックアップや無停電電源装置(UPS)の導入も検討が必要です。初期費用は10万〜20万円程度で、維持費として月額数千円が発生します。さらに、非常時の連絡手段として、衛星電話や安否確認システム(数万円〜)を導入する企業もあります。

重要なのは、導入時の初期費用だけでなく、点検や保守といった維持費まで含めて予算化することです。これにより、非常時に確実に機能する体制を整えられます。

業務マニュアル・教育体制の整備費用

BCP対策は、計画を作るだけではなく、実際に運用できる体制を構築することが重要です。そのためには、緊急時には、誰がどの業務を担当するのかを明確にした業務マニュアルや、従業員教育の仕組みが欠かせません。

業務マニュアル・教育体制の整備費用の目安は、下記のとおりです。

  • 社内でマニュアル作成(テンプレート活用):印刷・資料作成費のみの場合は5,000~1万円程度
  • 専門家による監修・研修導入:30万〜50万円前後
  • 社内研修(外部講師をスポット依頼):1回あたり10万〜20万円程度

社内で補える部分と、外部の知見を取り入れる部分をバランスよく組み合わせましょう。

訓練・シミュレーションの実施費用

BCP対策を機能する計画にするには、実際の訓練が欠かせません。まずは、着手しやすい机上シミュレーションからはじめましょう。想定ケースを設定し、対応手順を順に確認していく簡易訓練です。

訓練用のマニュアルや資料の印刷・配布などにかかる費用が中心で、5万〜10万円程度が目安です。

一方、より実践的な実地訓練を行う場合は、実際の業務環境や現場での動きを確認しながら実施するため、準備や運営にコストがかかります。

規模や目的に応じて、費用対効果を意識した計画を立てましょう。

外部委託(BCPコンサルティング)の費用

自社だけでBCPを策定・運用するのが難しい場合は、外部の専門家に委託する方法が有効です。専門家の知見を活用すれば、計画の抜け漏れを防ぎ、実効性を高められるのが大きなメリットです。

外部委託の費用の目安を、下記にまとめました。

委託先サポート内容費用の目安
行政書士・中小企業診断士マニュアル作成や計画書のチェックを中心にサポート30万〜40万円
BCPコンサルティング会社現状分析から計画作成、訓練設計までをパッケージで支援100万〜200万円

部分的に委託すれば、コストを抑えられる場合もあります。

【企業規模別】BCP対策にかかる費用

BCP対策に必要な費用は、企業の規模によって変わります。一般的には、従業員数が増えるにつれて必要な設備や教育の範囲が広がり、投資額も膨らみます。

ここでは、公開されているBCPコンサルティングや設備の相場例をもとに、従業員数ごとの費用目安を詳しく見ていきましょう。

従業員10名規模|50万〜100万円

従業員10名規模の小規模企業では、BCP対策にかかる初期費用はおおむね50万〜100万円程度です。

予算が限られる場合には、「事業を継続するうえで最低限必要な要素」を明確にし、それを優先的に整備することが重要です。

たとえば、停電時に最低限の業務を継続するための電源確保や、重要データを守るためのバックアップ環境は、多くの企業で共通する必須要素といえます。実際の費用構成例は、下記のとおりです。

項目費用の目安
初期費用
  • ポータブル型自家発電機:10万〜30万円
  • クラウドバックアップ導入:10万円前後
  • テンプレートを活用した社内マニュアル整備:数万円
ランニングコスト
  • クラウド利用料:月額数千円〜
  • 発電機の点検・メンテナンス費:年数万円〜

自社のリスクや業務優先度を踏まえて、費用対効果の高い対策を取捨選択しましょう。

従業員50名規模|150万〜300万円

従業員50名規模の企業では、費用は150万~300万円程度になります。具体的な組み合わせ例は、下記のとおりです。

項目費用の目安
初期費用
  • 小型据置発電機:本体+工事費80万〜150万円
  • 業務マニュアルと社内研修:15万〜30万円
ランニングコスト
  • 安否確認システム:月額約9,000円/年間10万円~
  • 発電機や備蓄品の定期点検・更新:年間数万円

10名規模の企業と比べて、人員数に比例してマニュアル整備や教育体制の負荷が大きくなるのが特徴です。規模が大きい分、システムや研修を組み合わせて、体制を強化しましょう。

従業員100名規模|300万〜600万円

従業員100名規模の中小企業の場合、BCP対策にかかる費用は、300万〜600万円程度になります。具体的な組み合わせ例は、下記のとおりです。

項目費用の目安
初期費用
  • 業務用自家発電機:300万〜400万円
  • 全社員を対象とした定期訓練・研修:100万円〜
  • 外部コンサルティングによる全社体制設計:80万〜150万円
ランニングコスト
  • 安否確認システム(全社員対応):年間20〜30万円
  • 研修やシミュレーションの定期実施費:年数十万円〜
  • 発電機・防災資機材の維持更新費:年数十万円〜

100名規模になると、対象人数の増加に比例して基礎コストが積み上がるのが特徴です。たとえば、マニュアル整備や研修にかかるコストが増加します。

費用がかさむケース|外部委託や大型設備の導入時

BCP対策の費用が数万円以上に膨らむのは、外部コンサルの活用や大型設備の導入をする場合です。下記のようなケースが挙げられます。

  • BCPコンサルティング会社に依頼:100万〜200万円
  • 業務用自家発電機(本体+工事費):300万円〜

さらに、複数拠点をもつ企業や自社サーバーを運用している企業では、安否確認システム・代替拠点の整備にもコストが発生します。全体では、数百万円規模の投資になる場合もあります。

BCP対策の費用対効果を判断する2つの視点

BCP対策の費用対効果を考える際は、効果を2つの側面から評価します。ひとつは、災害時の業務停止を最小化して、損失を減らす効果です。もうひとつは、取引先や顧客からの評価が高まることで、新規受注や契約継続につながる収益面での効果です。

損失を最小限に抑える

BCP対策の費用対効果を考えるうえで、もっともわかりやすいのが「停止期間をどれだけ短縮できるか=損失をどれだけ防げるか」という視点です。

たとえば、1日あたりの売上が100万円の企業で考えてみましょう。災害が発生して1か月(30日間)操業が停止した場合、損失は3,000万円にのぼります。

一方、1週間(7日間)で復旧できた場合、損失は700万円にとどまり、2,300万円の損失を回避できたことになります。仮にBCP策定に300万円を投じたとしても、費用対効果は極めて高いといえるでしょう。

さらに、復旧の遅れによる人件費の浪費や仕入・物流の停滞といった間接的な損失も考慮すれば、BCPの策定によって大きな効果を見込めます。

取引先評価や受注拡大で収益につなげる

BCP対策は損失を減らす効果だけではありません。BCPを策定していること自体が「信頼性の高い企業」として評価されるため、収益につながる効果も期待できます。

たとえば、災害発生時にも事業を継続できる体制を整えていれば、製品やサービスを安定的に供給できると見なされます。その結果、既存の契約が継続しやすくなるだけでなく、新規受注の獲得にも有利に働くでしょう。

BCPは損失を減らす「守りの対策」であると同時に、顧客からの信頼を高めて将来的な収益に貢献する「攻めの投資」でもあります。

BCP対策費用を抑えるコツ

BCP対策では、設備投資や教育体制の整備に大きな費用がかかります。十分な予算が確保できない場合は、優先順位をつけて少しずつ進めることが現実的です。ここでは、BCP対策費用を抑えるコツを解説します。

最低限必要な対策を優先して着手する

予算が限られている場合は、「決して止めてはいけない業務」と「一時的に停止してもよい業務」を切り分けることが重要です。

たとえば、医療機関であれば、患者の命に直結する生命維持装置の稼働が最優先です。そのためには、停電時にも機能する無停電装置や非常用電源の導入が欠かせません。

一方、診療予約システムや会計処理などは、数時間~数日程度停止しても致命的な影響にはならないため、後回しにできます。

このように「何が必須か」を基準にすれば、限られた予算の中でもBCPを整備できます。

既存の社内リソースを活用する

新たな設備やシステムを一から導入するより、まずは社内にある資源を活かす方が、初期費用を抑えられます。具体的な方法は、下記のとおりです。

  • 自社で運用中の無停電電源装置(UPS)を非常用電源として転用
  • 既存の社内ポータルを安否確認の連絡手段に活用

BCPの初期段階では「あるものを活用する」という視点を取り入れることで、最低限必要な機能からムリなく体制を整備していけるでしょう。

防災資材を段階的に導入する

防災資材は、一度にすべてを揃える必要はありません。まずは、下記のように、緊急時に必要となる資材から優先的に備蓄しましょう。

  • 飲料水
  • 簡易トイレ
  • 照明

そのあと、翌年度以降に発電機や衛星電話といった高額機材を追加導入すれば、年度ごとに費用を分散できます。このように段階的に導入することで、負担を抑えながら着実にBCP体制を進められます。

補助金を活用して初期費用を軽減する

BCP対策にかかる初期費用は数十万〜数百万円に及ぶこともあり、中小企業にとって大きな負担となります。その負担を軽減する有効な手段が、国や自治体が用意する補助制度の活用です。

代表的な制度は、下表のとおりです。

制度名目的・主な対象補助率・上限
防災・省エネまちづくり緊急促進事業補助金市街地再開発等を前提に、防災・省エネ性能を高めた建築物整備建設費の3~7%
災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金自治体の防災拠点施設に自家用発電設備等を整備全額補助(定額支給)
IT導入補助金(通常枠)中小企業のITツール導入原則:1/2以内

※賃上げなどの要件を満たせば最大2/3まで引き上げ可

参考:
国土交通省|防災・省エネまちづくり緊急促進事業
経済産業省 資源エネルギー庁|令和7年度「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金(災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業のうち石油製品タンク等の導入に要する経費を助成する事業及び石油ガス災害バルク等の導入に要する経費を助成する事業)」に係る補助事業者(執行団体)の公募について
IT導入補助金2025

これらを活用すれば、設備やシステム導入の自己負担を大幅に抑えられる可能性があります。まずは自治体が実施する支援制度を確認しましょう。


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