- 更新日 : 2025年9月4日
BCP対策にはクラウドが効果的?活用メリットや導入手順を解説
自然災害・感染症・サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクが多様化するなか、BCP(事業継続計画)の重要性が高まっています。とくに注目されているのが、クラウドを活用したBCP対策です。
クラウドなら、自社サーバーが被災しても遠隔環境で業務を継続でき、復旧も迅速に行えます。クラウドは初期費用を抑えやすく、日々の運用負担も少ないため、コスト面・運用面で現実的な選択肢です。そのため、中小企業や自治体でも導入が進んでいます。
本記事では、BCP対策におけるクラウド活用の基本や導入メリット、失敗しないためのポイントを詳しく解説します。
目次
クラウドを活用したBCP対策とは
BCP(事業継続計画)とは、自然災害や感染症、サイバー攻撃などの緊急事態に備え、重要業務を継続・早期復旧するための計画を指します。単なる復旧ではなく、企業の根幹業務を中断させないことが主な目的です。
中小企業庁が公開する「中小企業BCP支援ガイドブック」では、策定手順や準備内容がわかりやすく解説されており、はじめて取り組む企業にも実践しやすい内容となっています。
なかでも注目されているのが、クラウドを活用したBCP対策です。クラウドは、業務システムやデータを自社設備に依存せず、堅牢な外部インフラ上で運用・保管できる仕組みです。
BCP対策にクラウドが有効な理由
クラウドがBCP対策に有効とされる理由は、分散性・可用性・柔軟性といった特性にあります。下表に、クラウドがBCP対策に適している理由を、クラウドの特性と具体的なメリットに分けてまとめました。
特性 | BCP対策に有効な理由 | クラウドによる具体的なメリット |
---|---|---|
分散性 | 拠点を分けることでリスク分散できる | データを複数の地域に分けて保存できる |
可用性 | システム障害時にも業務中断を最小限に抑えられる | 自動バックアップや冗長構成により迅速な復旧が行える |
柔軟性 | 業務量や災害リスクに応じてリソースを調整できる | ・サブスクリプション型料金で初期費用が抑えやすい ・サーバーの維持管理が不要で、導入コストや運用負担が軽い |
これらの仕組みを自社のオンプレミス環境で整備するには、高額な費用と専門知識が必要です。一方、クラウドを活用すれば、比較的容易に信頼性あるインフラを利用できます。
そのため、クラウド活用によるBCP対策は中小企業や自治体でも現実的に導入できる手段として、注目されています。2025年6月に帝国データバンクが実施した調査によると、BCPを策定している企業は全体の20.4%にとどまり、中小企業に限るとわずか17.1%という結果でした。
BCPを策定していない理由には、必要性を感じないことや、費用の確保が困難といった課題が挙げられています。こうした背景から、高額な設備投資や専門人材を必要としないクラウドの活用は、BCPを進めるうえで現実的な選択肢といえます。
以下の記事では、クラウドシステムについて解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:クラウドシステムとは?メリット・デメリット、導入する際のポイントを解説
BCP対策にクラウドを活用する4つのメリット
BCP対策としてクラウドを活用することで、企業はより現実的かつ効率的なリスク対策を講じることが可能になります。ここでは、なかでも重要な4つのメリットを紹介します。
1. データ消失リスクを大幅に低減できる
クラウドは、地震・火災・停電といった物理的リスクを受けにくい、堅牢なデータセンターで運用されています。多くのクラウドサービスでは、冗長構成や自動バックアップが標準で搭載されており、万が一トラブルが発生しても迅速な復旧が可能です。
これに対し、自社でサーバーを保有するオンプレミス環境では、災害で機器が損傷すれば業務停止に直結するリスクがあります。クラウドなら、データを遠隔地に分散保管できるため、そのリスクを大幅に軽減できます。
2. 場所に縛られず業務を継続できる
クラウドはインターネット接続さえあれば、オフィス以外の場所からでも業務システムにアクセスできます。そのため、災害やパンデミックなどで出社が困難になっても、在宅勤務やサテライトオフィスなどで事業の継続が可能です。
また、クラウド環境では社内ファイルや業務ツールの一元管理ができるため、従業員がどこからでもスムーズに業務を進められます。「場所に縛られずに働ける」ことは、BCP対策において有効な手段といえるでしょう。
3. 初期費用を抑えながら導入できる
クラウドサービスは、自社でサーバーを購入・設置・運用する必要がなく、初期費用を抑えられる点が大きな利点です。多くのクラウドサービスは、月額制のサブスクリプション型を採用しており、必要な機能だけを手軽に利用できます。そのため、ムダな投資を避けられます。
また、クラウドの導入には専用機器の設置が不要なため、導入までのスピードも早く、BCP対策としてすぐに取り入れやすいのも特徴です。
さらに、利用状況に応じたリソース調整を柔軟に増減できることで、事業フェーズにあわせた柔軟な運用も可能です。
4. セキュリティ強化のアウトソースが可能になる
クラウド事業者は、サイバー攻撃や不正アクセスに対して高度なセキュリティ対策を行っています。たとえば、専門知識のあるベンダーが責任を持って、下記のようなセキュリティ対策を実施します。
- 通信の暗号化
- アクセス権限管理
- 脆弱性への迅速な対応など
自社で同等レベルのセキュリティ体制を構築・運用するには、専門人材の確保や24時間体制の監視体制が必要になり、相当なコストと労力が必要です。一方でクラウドなら、これらのセキュリティ業務をアウトソースできるため、負担を減らせます。
以下の記事では、クラウドとオンプレミスの違いを詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:クラウドとオンプレミスの違いは?概要から費用・メリットを徹底比較!
BCP対策にクラウドを活用する際の3つの注意点
BCP対策にクラウドを活用することで得られるメリットは多い一方で、導入や運用にあたっては注意すべき点もあります。ここでは、クラウド活用における代表的な注意点を3つに分けて解説します。
1. クラウドにアクセスできなくなる可能性がある
クラウドを導入しても、通信インフラや電力の供給が絶たれれば業務は継続できません。災害時には、インターネット接続の不具合や拠点の停電によって、クラウドにアクセスできなくなる可能性があります。
また、クラウド事業者側のデータセンターは被災しないとは限りません。クラウドを「万能なBCP対策」と捉えず、複数の手段を組み合わせた冗長化が重要となります。
2. セキュリティ面とコストに想定外のリスクがある
クラウドサービスは、提供会社によってセキュリティ水準やサポート体制が異なります。万全な対策が取られていないサービスを選ぶと、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まる可能性があります。
クラウドには従量課金制のサービスも多く、予想以上にコストが膨らむケースも少なくありません。BCP対策としてのクラウド利用にあたっては、ISO/IEC 27017などクラウド向けセキュリティ認証の取得状況を確認しましょう。
これらの認証は、一定のセキュリティ管理体制や運用ルールを満たしている証拠になります。さらに、認証取得済みのサービスであれば、社内監査や取引先からのセキュリティ確認にも対応しやすく、審査工数や説明コストの削減にもつながるでしょう。
また、上記のリスクに備えて、複数クラウドサービスの比較検討や使用状況を社内で可視化・管理できる体制を整えることが重要です。
3. 運用トラブルを防ぐために社内教育と知識共有を徹底する必要がある
クラウド活用には、一定のITリテラシーとセキュリティ意識が求められます。社内に知識が浸透していないと、誤操作やアクセス権の設定ミスなどが発生するリスクもあります。
とくに中小企業では、導入後の社内教育やマニュアル整備を怠ると、トラブル時の対応が遅れて、クラウドの恩恵を十分に活かせません。リスクを最小限に抑えるために、障害時の対応フローや復旧手順のマニュアル化、定期的な訓練を行う必要があります。
自社で対応が難しい場合は、クラウドベンダーのサポート体制や対応実績も選定時の重要な判断材料となります。
BCP対策でクラウドを導入する3つの手順
クラウドは、BCP対策を効率化・高度化できる有力な手段です。しかし、やみくもにクラウドを導入するだけでは、災害時の業務継続は実現できません。
ここでは、BCP対策としてクラウドを導入する際に必要な手順を解説します。
1. 必要なクラウド機能を洗い出す
クラウド導入に先立ち、まずは災害時でも継続すべき優先業務を明確にしましょう。たとえば、売上に直結するECシステムや、顧客対応を担う業務が該当します。
次に、それら業務に関連するデータ・アプリケーションを整理し、どの範囲を復旧対象とするかを定めましょう。さらに、RTO(目標復旧時間)とRPO(目標復旧時点)の2指標を設定しておくと、必要なクラウド機能を的確に選定できます。業務の重要度に応じた設計が、堅実なBCPにつながります。
2. クラウド移行の進め方を決める
クラウド移行には、「自社での導入」と「支援サービスの活用」の2つの選択肢があります。
自社での導入は、ファイル保管などシンプルな用途でクラウドを利用する場合に適しています。費用は抑えやすいですが、クラウドに関する知識や人員が必要です。とくに、初期設計やセキュリティ設定などを自社で担うため、時間と工数がかかる点には注意しましょう。
一方で、導入支援サービスの活用は、業務システム全体の移行や運用も含めて対応してくれるため、スムーズかつ短期間で導入を進められるのが特徴です。さらに、クラウド環境の構築から運用管理までを一括で任せられるので、自社のITリソースが限られている企業にもオススメです。
自社の目的やリソースなどの状況に応じて、最適な進め方を検討しましょう。
3. スムーズに移行するための計画と準備を進める
クラウド導入をBCPに活かすには、計画的な移行と段階的な準備が欠かせません。まず、既存の業務システムやデータの棚卸しを行い、移行対象を明確にしましょう。
次に、スケジュールや影響範囲を可視化した移行計画を策定し、クラウド上で動作確認や災害時のシミュレーションを実施します。
運用開始後は、モニタリング体制の整備や定期的な訓練・見直しにより、BCPとしての有効性を維持することが重要です。
クラウドサービス選定で失敗しないための5つのポイント
クラウドサービスは、BCP対策を強化するうえで有効な手段です。しかし、安易に選んでしまうと、災害時に期待した効果を得られない可能性があります。
とくに中小企業では、運用負荷やサポート体制の違いが事業継続に直結するため、選定段階で慎重な判断が求められるでしょう。ここでは、BCP視点でクラウドサービスを選ぶ際に確認すべき5つのポイントを紹介します。
1. 障害時も安心できるサポート体制があるか
クラウドサービスを選ぶ際は、障害発生時にどのようなサポートが受けられるかを確認しましょう。たとえば、24時間365日対応のサポート窓口があるか、障害発生後の対応手順がマニュアル化されているかは重要な判断材料です。
また、日本語対応の有無や専任担当者の配置も重要です。緊急時に対応が遅れると、業務再開が大きく遅れ、BCPの効果を損ないます。
障害時にも迅速・的確に対応できるクラウドベンダーかを事前に見極めましょう。
2. セキュリティ対策は十分か
クラウド環境では、情報漏洩や不正アクセスを防ぐ高度なセキュリティ対策が求められます。下記のような、基本機能の有無は必ずチェックしましょう。
- 通信の暗号化
- 多要素認証
- アクセス権の管理
また、ISO/IEC 27001などの国際的なセキュリティ認証を取得している事業者であれば、一定の管理基準を満たしている証拠になります。BCP対策で扱う業務は機密性が高いケースも多く、セキュリティの強度はリスク低減に直結する要素となるため、導入前に対策内容を細かく確認しておきましょう。
3. 災害に強いデータセンターを備えているか
BCP対策では、クラウドの運用拠点となるデータセンターの堅牢性も見逃せません。地震や台風、停電などに備えて、耐震設計や二重化された電源・通信インフラを備えているかを確認しましょう。
また、万が一の被災に備えて、データを複数地域に分散して保存できる仕組み(リージョン分散)があるかも重要です。万全のインフラと分散体制をもつクラウドサービスなら、災害時も安定稼働が可能となり、業務中断リスクを大幅に低減できます。
4. 自社の運用に合った料金体系か
クラウドサービスは初期投資を抑えられるメリットがありますが、料金体系が自社に合っていなければコスト負担が増す場合もあります。下記のようにさまざまなプランがあるため、自社の利用頻度や容量に応じて最適なプランを選びましょう。
- 月額定額制
- 従量課金制
- ハイブリッド型
また、サービス変更や解約に伴う違約金の有無、長期契約時の割引率なども事前に確認しておくと安心です。コスト面でも柔軟に対応できるサービスを選ぶことで、長期的に安定したBCP運用が可能になります。
5. 社内でムリなく運用が可能か
クラウドサービスは、導入後に社内でムリなく使いこなせることが前提です。直感的に使えるUIや、操作マニュアル・サポートドキュメントの充実度はチェックポイントのひとつです。
ITスキルに不安のある職員が多い場合は、導入時の研修サポートや操作支援体制の有無も確認しましょう。ベンダーによるトレーニングやチャットサポートなどがあると安心です。操作性に優れたサービスを選ぶことで、定着率が高まり、BCP対策としての実効性も高められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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