- 作成日 : 2025年1月30日
一人親方が法人化するには?年収や所得の目安、手続きを解説
一人親方の法人化とは自身の事業を法人化(法人成り)することを指します。この記事では、法人化のメリットやデメリット、適切なタイミング、手続きの流れを詳しく解説します。
法人化により税負担の軽減や社会的信用の向上が期待できますが、同時に事務負担も増加します。年収800万円や売上1,000万円を超えた場合に検討する価値があり、株式会社や合同会社など、最適な会社形態の選び方も紹介します。法人化の判断材料として、ぜひご活用ください。
目次
一人親方の法人化とは?
一人親方の法人化とは、個人事業主として働いている建設業や運送業などの職人が、自身の事業を法人化(法人成り)することを指します。具体的には、個人事業主から株式会社や合同会社などの法人格を持つ事業体へと移行する過程のことです。
法人化することで、事業は個人から独立した法的存在となり、その結果、事業のリスクが個人の財産から分離されます。
法人成りのタイミングは、個々の事業主によりますが、一般的には、事業が一定の規模に達したとき、または事業のリスクを個人の財産から分離したいときに考えられます。しかし、法人成りには手続きが伴うため、その手間と費用を考慮する必要があります。
一人親方が法人化する主な理由
一人親方が法人化を検討する背景には、様々な要因がありますが、主な理由として以下のようなことが挙げられます。
- 事業規模の拡大
- 税制面でのメリット
- 社会的信用度の向上
- 従業員の雇用
- 資金調達の容易化
これらの理由により、事業の成長に伴って法人化を選択する一人親方が増加しています。
一人親方(個人事業主)と法人の違い
一人親方が法人化を検討する際、一人親方(個人事業主)と法人の違いを理解することが重要です。主な違いは以下の通りです。
項目 | 一人親方(個人事業主) | 法人 |
---|---|---|
事業主体 | 個人 | 会社 |
責任範囲 | 無限責任 | 有限責任 |
所得税 | 累進課税 | 法人税(一律税率) |
社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金 |
決算・申告 | 比較的簡易 | 専門知識が必要 |
これらの違いを踏まえ、自身の事業状況や将来の展望に基づいて法人化の判断をする必要があります。
一人親方が法人化するメリット
税負担を軽減できる
一人親方が法人化することで、個人事業主として課税される所得税や住民税と比較して、法人税や法人住民税の税率が低くなることがあります。特に、年間の所得が高額な場合、法人化により税負担を軽減できる可能性があります。
例えば、個人事業主の場合、所得税の最高税率は45%ですが、法人税の基本税率は23.2%となっています。さらに、中小企業向けの軽減税率を適用すると、年800万円以下の所得に対しては15%の税率が適用されます。
また、法人化することで、役員報酬と配当を組み合わせることにより、さらなる節税効果を得ることができます。役員報酬は経費として計上でき、配当は別途課税されるため、適切な配分を行うことで税負担を最適化できます。
経費に計上できる項目が増える
法人化すると、一人親方の時には経費として認められなかった項目も、会社の経費として計上できるようになります。これにより、課税対象となる利益を減らし、さらなる節税効果を得ることができます。
法人化後に以下のような項目が経費として計上可能になります。
社会的信用が上がる
一人親方から法人化することで、取引先や顧客、金融機関からの信用度が向上します。法人格を持つことにより、一人親方と比較して安定性や継続性があると認識されやすくなり、ビジネスチャンスの拡大に結びつく可能性が高まります。
例えば、金融機関からの融資を受けやすくなる傾向があり、事業拡大のための資金調達がスムーズになる可能性があります。また、大手企業との取引がより円滑になることが期待できます。
事業拡大ができる
一人親方から法人化することで、個人事業主時代には難しかった新規事業への参入ができるようになります。法人としての信用力を活かし、これまで進出できなかった地域への営業展開や地方自治体が実施する入札案件への参加なども視野に入れることができます。
社会保険に加入できる
法人化することで、一人親方も社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することができるようになります。一人親方の場合は国民健康保険や国民年金に加入することになりますが、法人の役員として社会保険に加入することで、より充実した保障を受けることができます。
倒産時に個人の財産を守れる
法人化することで、会社の債務と個人の財産を分離することができます。一人親方の場合、事業の失敗により多額の負債を抱えた場合、個人の財産も差し押さえの対象となりますが、法人化することで法人の財産のみが対象となります。
ただし、完全に個人の財産が保護されるわけではありません。金融機関からの借入れなどの際に個人保証を求められる場合もあるため注意が必要です。
事業承継がしやすくなる
法人化することで、将来的な事業承継がスムーズに行えるようになります。一人親方の場合、事業の承継には様々な手続きや税務上の課題がありますが、法人であれば株式の譲渡や相続によって比較的容易に事業を引き継ぐことができます。
一人親方が法人化するデメリット
会社設立にかかる手間と費用がかかる
一人親方が法人化する際には、会社設立に伴う様々な手続きと費用が発生します。これには、定款作成、公証人による認証、登記申請などが含まれます。
法人設立にかかる費用としては、以下のようなものがあります。
これらの費用に加えて、会社設立を専門家に依頼した場合は、追加の費用が発生します。おおよそ20万円から30万円程度が一般的ですが、依頼内容によって変動します。また、設立した会社が軌道に乗るまでの運転資金を準備する必要があります。
赤字でも住民税法人税割を支払う
法人化すると、一人親方の時とは異なり、赤字決算であっても一定の税金を支払う必要があります。特に注意が必要なのが、住民税の法人税割です。
法人住民税は、均等割と法人税割から構成されています。均等割は、赤字であっても必ず支払わなければならない最低限の税金で、自治体により金額が異なりますが、年間7万円程度が一般的です。
法人税割は通常、法人税額に応じて計算されますが、赤字で法人税が発生しない場合でも、一定の金額(例:東京都の場合、年間2万円)を支払う必要があります。
事務や会計の負担が増加
法人化すると、一人親方として活動していた時よりも、事務作業や会計処理の負担が増加します。法人化した場合、税務申告が法人税申告となります。申告の際は、決算書や損益計算書、貸借対照表などの作成が必要となります。
主な事務作業は以下の通りです。
これらの作業を自身で行う場合、多くの時間と労力を要します。税理士や会計士に依頼する場合は、その費用も考慮する必要があります。
一人親方が法人化する所得・売上の目安
一人親方が法人化を検討するタイミングは、所得や売上の金額が一定の水準に達した時が一つの判断基準となります。それでは、具体的にどの程度の金額が目安となるのでしょうか。法人化を考えるタイミングについて解説します。
所得金額が800万円を超えた場合
所得金額は、収入(利益)から必要な経費や社会保険料、控除等を引いた残りの金額のことです。一人親方など個人事業主の場合、この所得金額が増えるほど、所得税の率も段階的に上がっていきます。これを累進課税と呼びます。
年間の所得金額が800万円を超えると、個人で事業を続けるより会社を作って法人税を払う方が、税金を少なくできる可能性が高くなります。これは、法人税の率が一定なので、所得の多い人にとっては個人で払うより有利になることがあるからです。
■ 一人親方(個人事業主)の所得税の税率と金額
所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
■ 法人の法人税の税率(普通法人)
所得金額 | 税率 |
---|---|
8,000,000円 以下 | 15% |
8,000,000円 超 | 23.20% |
売上が1,000万円を超えた場合
年間売上が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。
しかし、消費税の課税事業者となるタイミングで法人化を行うと、売上に関する基準がリセットされるため、少なくとも2年間は消費税の免除期間が確保できます。
一人親方の法人化にはどんな会社形態が良いか
一人親方が法人化を検討する際、「株式会社」と「合同会社」の2つの会社形態が考えられます。それぞれの特徴を理解し、自身の事業に最適な形態を選ぶことが重要です。
株式会社
株式会社は最も一般的な会社形態で、信用力が高く、将来的な事業拡大を見据えた場合に適しています。会社の株主(所有者)と取締役(経営者)が分離されているタイプの法人形態です。
株式会社を設立する際の費用は、約24万円〜となります。主な内訳は下記のとおりです。
- 定款の認証手数料:3~5万円
- 定款に貼る収入印紙代:4万円(電子定款の場合は0円)
- 定款の謄本の発行手数料:約2千円
- 登録免許税:約15万円(資本金額により変動)
上記に加え資本金が必要となります。最低資本金は定められていませんが、実務上は300万円程度が目安となります。また、取締役会の設置や株主総会の開催など、運営面での手続きも必要となります。
関連リンク:株式会社とは?仕組みやメリットをわかりやすく解説!
合同会社(LLC)
合同会社とは、会社の所有者と経営者が同一であるタイプの法人形態です。2006年の会社法改正で導入されました。合同会社は執行役や取締役などの役職者は設置されません。
また、合同会社の設立には証人による定款認証が不要で、登記申請のみで設立できます。
合同会社を設立する際の費用は、約10万円程度で済みます。これは、株式会社の設立費用と比べるとかなり経済的です。
- 会社登記のための登録免許税:6万円
- 定款作成のための収入印紙代:4万円(電子定款の場合は0円)
- 定款の謄本の発行手数料:約2千円
これらを合計すると、合同会社の設立にかかる基本的な費用は約10万円となります。
株式会社と比較すると、会社の設立にかかる費用やランニングコストが低いのが魅力です。一方で、社会的信用度がやや劣る点がデメリットとして挙げられます。
関連リンク:2024年版!合同会社の設立は1人でも可能!流れ・やり方を図解で簡単に
一人親方が法人化する流れ、手続き
一人親方が法人化する際には、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。以下に、法人化の流れと具体的な手続きを詳しく解説します。
①会社の事業内容を決める
法人化の第一歩は、会社の事業内容を明確に定めることです。これは定款に記載する必要があり、将来の事業展開も考慮して幅広く設定することが賢明です。例えば、建設業を営む一人親方の場合、「建設工事業、土木工事業、及びそれらに付帯する一切の業務」などと記載することが一般的です。
②会社の実印を作成する
法人の代表印(実印)を作成します。この印鑑は登記申請や各種契約書に使用するため、慎重に選ぶ必要があります。一般的に、法人実印は15mmから23mm程度の大きさで、会社名のみを彫刻したものを使用します。印鑑証明書の取得も忘れずに行いましょう。
③定款を作成し公証人の認証を受ける
定款は会社の基本規則を定めた書類です。定款には以下の項目を含める必要があります。
- 会社の商号
- 事業目的
- 本店所在地
- 設立時の資本金の額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
- 発行可能株式総数
- 株式の譲渡制限に関する規定
- 取締役の員数
- 会社の機関設計
- 事業年度
作成した定款は公証役場で公証人の認証を受ける必要があります。この際、認証手数料と印紙代が必要となります。
④資本金を支払う
法人設立には資本金が必要です。最低資本金制度は廃止されましたが、一般的には100万円以上の資本金を用意することが多いです。資本金は会社名義の銀行口座に払い込みます。口座開設には定款や印鑑証明書が必要となるため、事前に準備しておきましょう。
⑤法務局に登記申請する
法人設立登記は、会社の本店所在地を管轄する法務局に申請します。必要書類は以下の通りです。
- 定款
- 登記申請書
- 代表取締役の就任承諾書
- 印鑑証明書
- 資本金払込証明書
- 本店所在地の証明書(賃貸契約書のコピーなど)
登記申請後、約1週間程度で登記が完了し、登記簿謄本が発行されます。これにより法人として正式に認められます。
⑥個人事業主の廃業手続き
法人化が完了したら、個人事業主としての廃業手続きを行います。具体的には以下の手続きが必要です。
- 税務署への廃業届の提出
- 所轄の都道府県税事務所への事業税の廃業届の提出
- 市区町村役場への住民税の廃業届の提出
- 青色申告の取りやめ届の提出(青色申告を行っていた場合)
- 国民健康保険の脱退手続き
- 国民年金の種別変更手続き
これらの手続きは、法人設立後速やかに行う必要があります。特に、税務関連の手続きは期限が定められているため、注意が必要です。
一人親方の法人化に役立つひな形・テンプレート
会社の定款や事業計画書を効率的に作成するには、テンプレートを活用すると便利です。
以下より、今すぐ実務で使用できる、テンプレートを無料でダウンロードいただけます。自社に合わせてカスタマイズしながらお役立てください。
関連リンク:
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事業計画書とは?書き方・作り方を簡単解説!テンプレ70個以上!
法人化は一人親方の事業拡大や信用力向上につながる重要なステップです。しかし、手続きの複雑さや経営管理の変化に戸惑う方も少なくありません。十分な準備と計画を立て、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、慎重に法人化を進めていくことが成功の鍵となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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