• 作成日 : 2024年6月7日

一人親方が従業員を雇うには?必要な手続きや家族を雇う際の注意点など徹底解説

一人親方(個人事業主)として働いている方の中には、事業拡大の一環として従業員の雇用を検討する人もいるでしょう。この記事では、一人親方が従業員を雇う際の必要な書類や手続き、保険や税務関連の準備まで徹底解説します。

また、家族を雇用する場合の注意点や、一人親方自身の労災保険の見直しも含めて、従業員を雇用する際のポイントも紹介します。

一人親方(個人事業主)も従業員を雇える

個人事業主である一人親方でも、ビジネスの成長や業務の拡大に伴い、新たに人材を雇入れることが可能です。ただし、従業員を雇入れる際には、複数の法律や手続きを遵守する必要があり、これらに不慣れな方にとってはやや複雑に感じられることもあります。

具体的には、労働基準法、社会保険労務士法、雇用保険法など、従業員を雇用するにあたって適用される法律がいくつかあります。これらの法律を遵守することはもちろん、従業員に対する雇用契約書の作成や労働条件の明示、税務署や社会保険事務所への届出など、様々な手続きを行う必要があります。

一人親方が初めて従業員を雇用する際は、これらの手続きや法律について事前にしっかりと学んでおくことが重要です。必要に応じて、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することも一つの手段です。従業員を雇入れることで事業が拡大し、より多くの利益を生み出す可能性がありますが、そのためには事業主としての責任と義務を理解し、適切に対応することが不可欠です。

一人親方が従業員を雇う際に必要な手続きまとめ

個人事業主として活動している一人親方が初めて従業員を雇用する際には、いくつかの法律に基づいた手続きが必要となります。

各手続きの詳細については、後述の章でそれぞれ詳しく解説しますので、本章では従業員を雇用するにあたって必要となる基本的な手続きの全体像をおさえましょう。

労働基準法に基づく手続き

労働基準法は、従業員の勤務条件や労働時間、休日などに関する基本的なルールを定めています。一人親方が従業員を雇う場合、この法律に基づいた手続きを行う必要があります。

まず、労働条件通知書を発行し、従業員に労働条件を明確に伝えることが必須です。また、雇用契約書を用意し、労働条件、就業場所、労働時間などを文書で記載し双方でサインするのが一般的です。

社会保険への加入手続き

従業員を雇うと、健康保険、厚生年金保険への加入が必須となります。これらの社会保険は、従業員の生活の安定と福祉を保障するものであり、個人事業主もこれらの保険への加入手続きを行う必要があります。

加入手続きは、最寄りの社会保険事務所で行うことができ、必要な書類や手続きの詳細は事務所によって異なるため、事前に確認することが重要です。

雇用保険への加入手続き

雇用保険は、従業員が失業した際に給付金を受け取ることができる制度です。従業員を雇う場合、一人親方は必ずこの雇用保険への加入手続きを行わなければなりません。

手続きは、最寄りのハローワークで行うことができ、こちらも加入にあたっての必要書類や手続きの内容は事前に確認しておくことが大切です。

労災保険への加入

従業員を雇用する際には、労働災害から従業員を守るために労災保険への加入が必須です。これは、従業員が仕事中に怪我をしたり病気になったりした場合に保障を提供する保険です。

一人親方は、自身が加入する地域の労働基準監督署へ加入手続きを行う必要があります。この手続きにより、従業員の安全と健康を守るとともに、万が一の時に備えることができます。

税務処理の手続き

従業員を雇用すると、給与支払いに伴う源泉徴収などの税務処理が発生します。これには、給与から所得税や住民税を差し引く手続きが含まれます。

また、従業員が増えることによって事業の構造が変わる場合、税務署への事業の変更届出が必要になることもあります。これらの手続きは複雑であり、間違いがないように慎重に行う必要があります。

各種保険への加入

一人親方として従業員を雇用する際、適切な保険への加入が必須です。具体的には、労災保険、雇用保険、そして社会保険への加入が求められます。以下ではこれらの保険の重要性と加入手続きについて詳細に解説します。

労災保険への加入

労災保険は、従業員が勤務中に怪我をしたり、職業病にかかったりした場合に給付を提供する制度です。従業員を雇うと自動的に加入が義務付けられます。手続きは最寄りの労働基準監督署で行います。この保険に加入することで、従業員が仕事中に事故に遭遇した際の経済的負担から事業主を保護します。

雇用保険への加入

雇用保険は、従業員が失業した際に給付金を受け取れるようにするための保険です。こちらも従業員を雇った際には加入が義務づけられています。手続きは最寄りのハローワーク(公共職業安定所)で行います。雇用保険に加入することで、従業員が失業した際に一定の保障を提供し、再就職を支援します。

社会保険への加入

社会保険は健康保険と厚生年金保険のことを指し、事業主と従業員に共に加入義務があります。健康保険は病気やけがで病院に行った際の費用を、厚生年金保険は将来の年金を支えるものです。これらへの加入手続きは最寄りの日本年金機構、または健康保険組合にて行うことができます。社会保険に加入することにより、従業員だけでなく、その家族も保護される重要なメリットがあります。

労務関連の準備

一人親方が従業員を雇用する際は、労務関連の準備も必要になります。従業員に対する通知や契約書の準備など、主な手続きをそれぞれ見ていきましょう。

労働条件通知書の発行

個人事業主が初めて従業員を雇用する際には、労働基準法に基づき、労働条件を明記した「労働条件通知書」の発行が必須です。

この通知書には、労働者の労働条件、すなわち労働時間、休日、給与、労働期間などの重要事項を記載し、従業員本人に交付する必要があります。正確かつ具体的に労働条件を明示することで、将来的なトラブルの回避にも繋がります。

また、変更があった場合には、改めて通知書を発行して労働条件の変更情報を従業員に伝えることが法律で定められています。

雇用契約書の準備

雇用契約書の準備もまた重要な手続きの一つです。労働条件通知書とは別に、雇用契約の具体的な内容を明確にするために契約書を用意します。

この契約書には労働条件通知書の内容に加え、就業規則、退職条件など、より詳細な労働条件を含めることが望ましいです。雇用契約書を用意することで、従業員との間での合意形成を図り、労働関係における潜在的な課題や問題に前もって対処できるようになります。

36協定の締結と届出

個人事業主が従業員と残業などの時間外労働を行う場合、労働基準法第36条に基づく「36協定」(サブロク協定)の締結が必要です。

締結後は、所轄の労働基準監督署への届出が義務付けられています。36協定の締結には、従業員側の代表者との合意形成が不可欠なため、適切な手続きを踏むようにしましょう。

税務関連の準備

従業員を雇うことになった一人親方にとって、税務関連の準備は避けて通れません。必要な手続きを正しく行い、適切なタイミングで届け出ることが、トラブルを回避し事業をスムーズに運営するためには不可欠です。

税務署への届出

従業員を雇うことになったら、まず税務署に対して「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。

この届出は、従業員を雇い始める前に行う必要があります。また、事業の規模によっては「法人設立等届出書」を提出する必要がある場合もあります。届け出を怠ると、税法違反に問われる可能性がありますので、忘れずに行いましょう。

源泉徴収の対応

従業員から給与を支払う場合、源泉徴収を行う必要があります。源泉徴収とは、従業員の給与から税金を差し引いて国に納める制度です。

具体的には、給与所得の源泉徴収税額表に基づいて、従業員の給与から所得税を差し引きます。この操作には、適切な記録の保持が重要となり、給与支払明細書の交付が必要です。

また、年末には「源泉徴収票」を作成し、従業員に交付する必要があります。正確な源泉徴収の実施は適切な経理業務の基礎となりますので、正確に把握しておきましょう。

一人親方が家族を雇用する際に気をつけること

一人親方の皆さんが、ご家族を雇用する際の留意点について解説します。

同居する家族の雇用は従業員とみなされない

一人親方が家族を雇用する場合、その家族は「家族従事者」と呼ばれ、従業員とは異なる扱いを受けます。これは、一人親方が家族を雇用する場合、その家族は労働基準法の「労働者」に該当しないためです。

家族従事者が事業主と同居している場合、私生活と労働の関係を明確に区別することは難しいため、労働者とは見なされず、労働保険法や雇用保険法の適用を受けることができません。

これは、労働基準法の第116条第2項により、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と定められています。

例えば、社長の配偶者が経理を担当したり、社長の兄弟が労働者として働いている、あるいは子どもが新入社員として入ってきたりする場合などを含みます。

雇用保険の適用外となることが多い

家族従事者の場合、「労働者」に原則ならないため、雇用保険に加入することができません。個人事業主と同じとされます。したがって、仮に仕事を辞めた場合などにも雇用保険から「失業給付」を受けることは基本的にできません。また、「産前産後休業(産休)」「育児休業(育休)」も同様になります。

労災保険には特別加入できる

一方で、労災保険への特別加入は認められています。労災保険の特別加入制度とは、一般的に労働者とはみなされない特定の者が、その業務の実態等により労働者に準じて労災保険の適用を受けることができる制度です。

特別加入制度の対象となるのは以下のような方です。

  1. 中小事業主及びその事業に従事する労働者以外の者(役員等)
  2. 労働者を使用しないで次の事業を行う一人親方その他の自営業者及びその者が行う事業に従事する労働者以外の者(家族従事者等)
  3. 特定作業従事者
  4. 海外派遣者

家族従事者は上記の2.に該当します。
これにより、仮に家族従事者が業務中や労働中に事故に遭った場合でも、適切な補償を受けることが可能となります。

なお、労災保険の特別加入制度は、一般的に労働者とは見なされない者(例えば一人親方や家族従事者など)を保護するための制度です。しかし、その一方で、この制度が「民業圧迫」、つまり他の事業者に対する不公平な競争を生むことがないように注意が必要です。

具体的には、特別加入制度により労災保険に加入できると、一般的な労働者と同様の保護を受けることができます。これにより、事業主は労働者を雇う際のリスクを軽減できます。しかし、これがあまりにも手軽に行えると、事業主が労働者を雇う代わりに家族等を雇うことでコストを抑えようとする可能性があります。これは、他の事業者との間で公正な競争環境を損なう可能性があります。

医療保険は国民健康保険か建設国保が適用される

医療保険については、家族従事者は国民健康保険か建設国保に加入することになります。

国民健康保険は、日本に住むすべての人々が原則として加入しなければならない公的医療保険です。国民健康保険に加入していると、医療費が一部補助され、病気やケガをしたときに医療機関での治療費が3割自己負担に軽減されます。ただし、国民健康保険には「扶養」という概念は存在せず、家族全員がそれぞれ保険料を支払う必要があります。

一方、建設国保は、建設業者のための国民健康保険組合で、全国で約12万人(令和6年2月末時点)の被保険者が加入しています。建設国保に加入すると、医療費が一部補助されます。家族の場合、基本的には年齢で保険料は変わりません。ただし、40歳~64歳までの介護保険第2号被保険者に当たる人がいる場合、1人につき一ヶ月3,900円加算されます。

これらの保険制度は、家族従事者が医療サービスを必要としたときに、その費用を補助するためのものです。どちらの保険に加入するかは、個々の家族従事者の状況によります。

年金は国民年金になる

家族従事者の年金保険については、一般的には厚生年金には加入できず、国民年金への加入となります。これは、家族従事者が通常「事業所に使用される者」に該当しないためです。

20歳以上60歳未満の家族従事者は国民年金の加入義務があり、60歳以上の方は必要に応じて任意加入が可能です。

家族が従業員と認められる条件

家族従事者と従業員の主な違いは、家族従事者が「労働者性」を持つかどうかです。労働者性とは、業務を行うにあたり、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること、就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていることを指します。家族従事者が労働者性を持つ場合、その家族従事者は労働者として扱われ、各種の労働法規や社会保険の適用を受けることが可能になります。

家族が従業員と認められる条件は、以下のようになります。

  • 事業主の指揮命令に従って業務を行うことが明確であること
  • 他の従業員と同様の働き方と賃金であること
  • 事業主が同居の親族以外の労働者を使用していること

これらの条件を満たす場合、家族従事者は「労働者性」を持つと認められ、労働法規や社会保険の適用を受けることが可能になります。

一人親方自身の労災保険の見直しも必要に

労災保険は、労働者が業務上の事由または通勤によって負傷したり、病気に見舞われたり、あるいは死亡した場合に被災労働者やその遺族を保護するために必要な保険給付を行う制度です。労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。

一人親方自身も労災保険の特別加入制度を利用して労災保険に加入することができます。特別加入制度は、一般的に労働者とは見なされない者(例えば一人親方や家族従事者など)を保護するための制度です。

しかしながら、一人親方が従業員を雇う場合、労災保険の切り替えが必要となります。これは、一人親方が従業員を雇うことで、事業主としての責任が生じ、労働者を雇用する事業所としての労災保険の適用が必要となるためです。

具体的な手続きは以下の通りです。

  1. 労災保険の切り替え:一人親方が従業員を雇うと、その従業員に対する労災保険の加入が義務付けられます。一人親方が年間100日以上にわたって労働者を使うようになると、特別加入制度の労災保険から脱退しなければなりません。
  2. 中小事業主としての労災保険への切り替え:一人親方向けの労災保険ではなく、中小事業主という労災保険に切り替えて加入員証を発行してもらうことで、引き続き現場へ入ることを可能にする必要があります。
  3. 手続きの方法:この手続きは特別加入団体ではなく、労働保険事務組合に事務を委託して加入をし直すことが必要になります。

従業員を雇う際の相談窓口

一人親方が従業員を雇う際に相談できる主な窓口としては、以下のようなものがあります。

  • 都道府県労働局の雇用環境・均等室
    労働条件や労務管理、社会保険手続きなど雇用に関する総合的な相談に応じてくれます。
  • 公益財団法人 全国中小企業勤労者福祉サービスセンター
    中小企業向けの無料労務相談窓口を全国に設置しています。
  • 社会保険労務士労務管理全般について専門的な助言を受けられます。有料ですが、きめ細かい対応が期待できます。
  • 商工会議所や商工会
    地域の経営相談所があり、労務管理も含めた起業相談に応じてくれます。
  • インターネット上の労務相談サイト
    行政機関や民間団体が運営する無料の労務相談サイトもあります。

初めての雇用は手続きが複雑なので、まずは無料の相談窓口を活用し、不明点を解消していくことをお勧めします。状況に応じて社会保険労務士の助力を検討するのも良いでしょう。

従業員と良好な関係性を築くために

一人親方が従業員を雇用した際、事業成功のカギは従業員との良好な関係性にあります。信頼関係構築、効果的なコミュニケーション、そして働きやすい環境作りが重要です。

従業員との信頼関係を築く

従業員との信頼関係は、相互理解から始まります。そのためには、定期的な面談やフィードバックの機会を設け、従業員の意見や懸念を真剣に聞くことが重要です。

また、約束やルールは公正に適用し、透明性を保つことで信頼を築くことができます。

効果的なコミュニケーションを行う

効果的なコミュニケーションは、誤解を避け、チームワークを促進する上で不可欠です。定期的なミーティングの開催、明確で理解しやすい指示、そしてオープンな対話の促進が重要です。

また、従業員の達成を認識し、適切に評価することも良心的な関係構築に寄与します。

働きやすい環境を整える

従業員が最大限のパフォーマンスを発揮するためには、働きやすい環境が不可欠です。これには、適切なツールや設備の提供、健康で安全な職場環境の確保、そして柔軟な働き方への対応などが含まれます。

ワークライフバランスの重要性を認識し、従業員がプライベートと仕事のバランスを取りやすくする措置を講じることも大切です。

従業員の成長を支援する

従業員が自己実現を果たし、キャリアを通じて成長できる機会を提供することは、モチベーションの向上に繋がります。

研修プログラムの提供、キャリアアップの機会、そして新しいスキルを学べる環境の整備などを適切に行うことで、従業員の満足度を高められるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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