• 作成日 : 2024年7月9日

障害(補償)等給付とは?支給条件や請求手続きについて解説

この記事では、労災保険の障害(補償)等給付の内容について詳しく解説します。障害(補償)等給付の支給条件や給付金額、請求手続きの方法などについて説明します。

障害(補償)等給付についての全体像や具体的な手続きを把握し、適切な対応を取れるように備えておきましょう。

労災保険における障害(補償)等給付とは

障害(補償)等給付は、労災保険に加入する労働者が仕事中に事故や病気により、障害が治癒した(残った)場合に適用される給付です。

ここでは、給付の対象者と、治癒の定義について見ていきましょう。

障害(補償)等給付の対象者

障害(補償)等給付の対象者は、労災保険に加入している労働者であり、業務上の事由により身体に障害が治癒した場合です。

具体的には、工場での事故、業務中の交通事故、重い荷物を持ち上げた際の怪我などが該当します。また、通勤途中での事故による傷病も対象となることがあります。

これらのケースにおいて、残った障害の程度が一定以上であると認定された場合に、給付が支給されます。具体的な基準は労働者災害補償保険法で定められており、具体例としては視力の損失や四肢の機能低下などが挙げられます。

障害の程度は障害等級として定められ、1級から14級まであります。1級が最も重度の障害を示し、数字が大きくなるほど障害の程度は軽くなります。等級に応じて給付金額が異なります。

労働者の家族も、労働者が障害を負ったことで生活に支障をきたす場合には、一定の条件下で給付を受けることができます。

労災保険における「治癒」の定義

「治癒」とは、病気や損傷が安定した状態を指し、これ以上の治療によって効果が期待できない場合を言います。治癒が認定されると、その時点で障害等級が決定され、障害(補償)等給付の対象となります。

治癒のタイミング

治癒の判断は通常主治医や専門医が行います。しかし、労災保険関係では一定の基準が設けられており、これに基づいて治癒のタイミングが判断されます。例えば、骨折の場合、骨が固まった時点で治癒と認められるケースが多いです。

治癒後の対応

治癒後の障害に対しては、その後の維持治療やリハビリテーションが必要になることもあります。これらも労災保険の範囲で行われる場合があります。補装具の設置や、必要に応じたリハビリが含まれることもあります。

治療費の補償

治癒後も維持治療が必要な場合、これらの治療費や通院費も労災保険から給付されることがあります。

さらに、リハビリテーション費用も含まれる場合があり、意外に多くのことが補償対象となります。同様に、肢体障害の場合は補装具などの費用も対象となります。

障害(補償)等給付の支給条件

労災事故による障害の発生

障害(補償)等給付の支給対象となるには、まず労働者が業務中の事故や通勤途中の事故によって障害を負ったことが必要です。これは、労災保険が適用される主要な条件です。たとえば、工場で作業中に機械に巻き込まれた場合や、通勤途中に交通事故に遭った場合などが該当します。

事例:製造業で勤務するAさんが機械に指を挟まれた事故で手指を失った場合、これは業務中の事故として労災認定され、障害(補償)等給付の対象となります。

障害の程度

次に、労災保険法に基づく障害等級が重要です。障害等級は1級から14級まであり、それぞれの等級に応じた給付額が定められています。障害の程度により受け取る給付の内容が異なります。

等級は1級がもっとも重度で、等級が重くなるほど給付額は高くなります。たとえば、1級は常に介護が必要な状態、14級は日常生活にほとんど支障がない程度の障害です。

事例:Bさんが工事現場で転落し、脊髄を損傷して1級の障害認定を受けた場合、最も高額の給付を受けることができます。

請求手続きの要件

障害(補償)等給付を請求するためには、一定の手続きを完了する必要があります。補償を受けるためには、労働基準監督署に必要な書類を提出し、正規の手続きを踏む必要があります。

具体的には、労災事故の報告書や診断書、請求書などを提出し、労働基準監督署の調査を受けることが求められます。

例:Cさんが業務中の事故で指を失った場合、所定の労災報告書や診断書を労働基準監督署に提出する必要があります。

他の給付との関係

障害(補償)等給付は他の公的保険や給付と重複して受けることができる場合とできない場合があります。

例えば、同じ事故で健康保険の障害給付や障害年金を受けることができるかどうかについても確認が必要です。一般的には、重複受給ができない場合が多いですが、事故の状況や制度に応じて例外も存在します。

事例:Dさんが通勤途中に交通事故に遭い、交通事故による自賠責保険での給付を受けつつ、労災保険の障害(補償)等給付も申請する場合、どちらか一方の給付総額が調整されることがあります。

平均賃金の影響

支給される給付の額は、負傷または疾病発生前の平均賃金を基に計算されます。平均賃金は、通常、事故発生の日以前の3か月間の賃金を基にします。これにより、給付額が算出され、個々の状況に応じた補償がなされます。

事例:Eさんが交通事故に遭う前の3か月間の平均賃金が月額30万円だった場合、その平均賃金を基に障害(補償)等給付の額が決定されます。

障害(補償)等給付の金額

給付の基本的な算定方法

障害(補償)等給付の金額は、労災保険によって定められた基準に基づいて算定されます。基本的には、事故によって受けた障害の程度やその障害が持続する期間に応じて支払われる金額が異なります。

労災保険の基準は多岐にわたり、複雑に見えるかもしれませんが、公正かつ公平な補償を目指しています。

休業補償給付との違い

休業補償給付とは、労働者が業務中の事故や病気で働けなくなった期間の給付を意味します。

一方、障害(補償)等給付は、その後も持続的に残る障害に対する補償です。休業補償給付が一時的なものであるのに対し、障害(補償)等給付は障害が継続する限り支給されるという特徴があります。

等級別の給付額

障害(補償)等給付は、障害の重さによって等級が分けられ、その等級に応じて給付額が決まっています。等級は1級から14級まであり、1級が最も重度の障害を意味します。

■1級から7級の給付額

1級から7級の障害に該当する場合、一時金と年金が支給されます。年金の支給額は、障害の等級に応じて異なり、1級の障害に対する年金給付は基礎年金額の313日分と定められています。同様に、2級は277日分、3級は245日分、4級は213日分、5級は184日分、6級は156日分、7級は131日分と、それぞれ等級に応じた金額が支給されます。

障害等級給付額(年金)
※給付基礎日額をもとにする
障害特別支給金(一時金)障害特別年金(年金)
※算定基礎日額をもとにする
第1級313日分342万円313日分
第2級277日分320万円277日分
第3級245日分300万円245日分
第4級213日分264万円213日分
第5級184日分225万円184日分
第6級156日分192万円156日分
第7級131日分159万円131日分

■8級から14級の給付額

8級から14級の場合、一時金のみが支給されます。これも等級によって給付額が異なり、例えば8級では基礎年金額の503日分、9級は391日分、10級は302日分、11級は223日分、12級は156日分、13級は101日分、14級では基礎年金額の56日分が支給されます。

障害等級給付額(一時金)
※給付基礎日額をもとにする
障害特別支給金(一時金)障害特別一時金
※算定基礎日額をもとにする
第8級503日分65万円503日分
第9級391日分50万円391日分
第10級302日分39万円302日分
第11級223日分29万円223日分
第12級156日分20万円156日分
第13級101日分14万円101日分
第14級56日分8万円56日分

■具体例

月の平均給与が30万円の労働者が11級の障害を受けた場合、支給される一時金は以下のようになります。

月30万円 ÷ 30日=1日の給与1万円 × 223日分 = 223万円の一時金が支給されます。同様に、12級では約156万円、14級では約56万円と算出されます。

特別支給金

労災保険法に加えて、労働基準法やその他の法令に基づき、特別支給金が追加で支給されることがあります。これには、特別特定傷病者支援金や特別支給障害年金などが含まれます。

この特別支給金は、自動的に追加支給される場合と、申請が必要な場合があります。申請方法や条件は労務管理の専門家や社会保険労務士に相談することが推奨されます。

支給日

障害(補償)等給付の支給は、原則として四半期ごとに行われます。ただし、給付額の確認や支給のタイミングについては、労務管理の専門家や社会保険労務士の協力を得ることが重要です。

障害(補償)等給付の遅延や誤りを避けるためにも、定期的な確認が推奨されます。

障害(補償)等給付を請求する手順

障害(補償)等給付を請求する手順は、簡単にまとめると下記の通りです。

  1. 必要書類の準備
  2. 書類の記入方法とポイント
  3. 労働基準監督署への提出
  4. 監督署による審査
  5. 給付金の支給決定と受け取り
  6. 必要に応じた異議申し立て

それぞれの手続について、詳しく見ていきましょう。

1. 必要書類の準備

労災保険による障害(補償)等給付を請求するためには、まず必要な書類を揃えることが重要です。以下の書類を用意してください。

労災請求書

労災請求書(特に労災保険法第12号様式)が必要です。この書類は労働基準監督署や各都道府県労働局などから入手可能です。予め、正確な書式をダウンロードして記入しておくことをお勧めします。

診断書

医師による診断書も必要です。これは受傷後の治療経過および現在の障害状態を明記したものです。診断書は、治療を行った病院で取得してください。

病院の診療記録

病院での診療記録やカルテの写しも必要になる場合があります。これにより、受傷から治療までの一連の経過を示し、労災認定に繋がります。

2. 書類の記入方法とポイント

書類を揃えたら、それぞれ正確に記入します。特に労災請求書は複雑なため、以下のポイントに注意して記入しましょう。

請求者情報の記入

請求者の氏名、住所、生年月日など、基本的な個人情報を正確に記入します。誤記があると手続きが遅れる原因になりますので慎重に行いましょう。

事故発生時の状況説明

事故が発生した日時、場所、状況を詳細に記入します。これは労災保険の適用範囲を確認するために非常に重要です。

治療経過の詳細記入

受傷後の治療経過や医師の指示などを詳細に記入します。これにより、障害の度合いを正確に把握できます。

3. 労働基準監督署への提出

必要書類を適切に記入したら、次にそれらを労働基準監督署に提出します。郵送でも提出可能ですが直接持参した方が安心です。

提出先の確認

提出先は各地域の労働基準監督署です。お住まいの地域に対応する監督署を事前に確認しておきましょう。

提出時の注意事項

書類の不備がないよう再度チェックし、提出します。不備があると再提出が必要となり手続きが遅れます。

4. 監督署による審査

提出された書類は労働基準監督署によって審査されます。この審査には一定の時間がかかります。

審査期間

通常、審査期間は1ヶ月から3ヶ月程度です。状況によってはさらに時間がかかる場合もあります。

追加資料の提出要求

審査中に追加資料の提出を求められることがあります。この場合、速やかに対応することが重要です。

5. 給付金の支給決定と受け取り

審査が完了し、給付が認められた場合、給付金の支給が決定されます。

支給通知の受け取り

支給が決定されると、通知が送付されます。この通知には支給内容や金額が記載されています。

給付金の受け取り方法

通常、給付金は指定の銀行口座に振り込まれます。指定した口座情報が正確であることを確認しましょう。

6. 必要に応じた異議申し立て

支給決定に納得がいかない場合、異議申し立てを行うことができます。

異議申し立ての手続き

異議申し立てを行う場合は、所定の手続きに従い、指定の書面を提出します。

弁護士や専門家の相談

異議申し立ての際には、弁護士や労働問題に詳しい専門家に相談することをおすすめします。このプロセスは専門的で複雑な場合がありますので、不安な場合はプロの助言を受けることが重要です。

障害(補償)等給付の請求が通らなかった場合の対応

理由の確認と理解

まずは請求が通らなかった理由を確認し、その内容を理解することが重要です。厚生労働省からの通知や労働基準監督署の連絡を注意深く確認してください。拒否された理由は、書類の不備や要件を満たしていないなど様々です。

原因の特定と改善

次に、拒否された原因を特定し、改善するための具体的な方法を考えましょう。

例えば、書類不備が原因の場合は、再度正確に記入し直す必要があります。また、要件未達の場合は、要件を満たしたうえで、必要な証拠を新たに提出します。

例えば、「障害等級」の誤りが原因であった場合は、障害等級を示す医師の診断書を再度用意し、正確に記載されたものを提出することが必要です。

再提出の準備

原因が特定できたら、適切な修正を行った上で、必要な書類を再度準備します。以下の点を確認しましょう。

  • 全ての必要書類が揃っているか
  • 書類の内容が正確であること
  • 診断書や報告書に間違いや抜けがないか

相談窓口の活用

専門の相談窓口を活用し、アドバイスを受けることも有効です。労働基準監督署や労災保険の窓口に相談すると、適切な手続きについて詳しく教えてもらえます。

また、各自治体には労災保険に関する無料相談窓口が設けられている場合もありますので活用しましょう。

弁護士や社労士への相談

複雑なケースや自身での手続きが難しい場合は、専門の弁護士や社会保険労務士に相談することを検討しましょう。

例えば、労働問題に詳しい弁護士や労災手続きに精通した社労士は、迅速かつ正確な手続きの支援を提供してくれます。多くの場合、初回相談は無料で行っていることもあり、事前に問い合わせると良いでしょう。

ある労災受給者が申請を拒否された際、労働専門の弁護士に相談したところ、弁護士のアドバイスに従って再申請を行い、最終的に給付が認められたというケースもあります。

不服申立ての手続き

再提出や専門家のアドバイスを受けてもなお請求が通らない場合、不服申立てを行うことができます。不服申立てには提出期間が設定されているため、早めに対処することが重要です。

裁判所への提訴

不服申立ての結果に納得がいかない場合、最終手段として裁判所に提訴することも検討されます。ただし、提訴には時間と費用がかかるため、慎重に判断する必要があります。

障害(補償)等給付の請求ができる期間

請求期限の概要

障害(補償)等給付の請求期限は、一般的に療養の給付や休業の給付が終了し、傷病の症状が固定されたときから2年間とされています。この2年間の期間内に請求を行う必要があります。

具体的な期間の計算方法

請求期限は、症状が固定された日を起点に計算します。症状が固定された日とは、医師が「治癒」と判断した日となります。具体的には、以下のようなステップで確認します。

  1. 療養の給付が終了した日を確認する。
  2. その日から傷病の症状が固定され、「治癒」と診断された日を確認する。
  3. その日から2年以内に請求手続きを行う。

例外的な場合の請求期間

例外的なケースとして、請求者が病気や障害によって請求手続きを行うことが困難な場合、請求期限が延長されることがあります。この場合、理由を証明するための医師の診断書やその他の書類が必要となる場合があります。

病気や障害による請求期限延長の詳細

例外的な延長措置が適用される場合、医師の診断書に基づき、労働基準監督署が承認を行います。この申請手続きは通常の請求手続きとは異なるため、余裕を持って準備しなければなりません。

請求期限延長の申請には以下の書類が必要です。

  • 医師の診断書(治療が困難である旨が記載されているもの)
  • 請求者の身元を証明するもの(住民票など)

遅延した場合の影響

請求期限を過ぎると、原則として障害(補償)等給付を受けることはできません。そのため、期限内に必要な手続きを完了させることが非常に重要です。ただし、前述のようにやむを得ない事情がある場合には、個別に対応が検討されることもあります。

遅延理由の証明

遅延の理由が正当であると判断されるには、具体的な証明が必要です。例えば以下のような証明方法があります。

  • 病院からの診断書
  • 介護が必要な親族の証明書

事前の相談窓口

請求書類の準備や請求期限延長の手続きについて不安がある場合は、最寄りの労働基準監督署や労働局に事前に相談することをお勧めします。適切なアドバイスを受けることで、スムーズに手続きを進めることができます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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