- 作成日 : 2025年1月30日
一人親方は厚生年金に入れない?加入すべき社会保険や制度を解説
一人親方は法人に所属する会社員とは異なり、厚生年金に加入ができません。代わりに、国民年金や国民健康保険組合に加入することになります。この記事では、厚生年金と国民年金の違いや、国民年金に加入しない場合のリスクや仕事への影響、国民年金に上乗せできる制度について詳しく解説していきます。
目次
一人親方は厚生年金に入れない?
一人親方は原則として厚生年金保険に加入することができません。これは厚生年金保険法において、加入対象が「法人または常時5人以上の従業員を使用する個人事業主の下で働く従業員」と定められているためです。
厚生年金に加入する条件
厚生年金は、一般的には会社員や公務員などが加入する年金制度です。厚生年金に加入するためには、基本的には以下の条件を満たす必要があります。
- 法人に雇用されている
- 常時5人以上の従業員を雇用している事業所に勤務している
個人事業主である一人親方は、法人の従業員ではなく、規模的にも一定の人数を満たす必要がないため、厚生年金の加入対象外とされています。また、フリーランスや個人で契約して仕事を請け負う形態の方も厚生年金の条件に合致せず、国民年金へ加入することになります。このように、厚生年金はあくまで雇用契約によって成り立つ制度であるため、独立して働く一人親方や自営業者には、原則として適用されません。
一人親方は厚生年金ではなく国民年金に加入
一人親方は厚生年金ではなく、国民年金に加入することが一般的です。国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「基礎年金」として位置づけられており、一人親方もこの制度に基づいて保険料を支払う義務があります。国民年金の保険料は定額で、令和6年度の月額は16,980円です。また、所得が一定基準を下回る場合には、保険料の免除や支払い猶予制度を利用することも可能です。厚生年金に加入できない一人親方にとっても、国民年金は将来の年金給付に向けた基本的な保障制度といえます。
厚生年金と国民年金の違い
厚生年金は会社員や公務員などが加入し、国民年金は自営業者や一人親方を含むすべての20歳以上60歳未満の日本在住者が加入する制度です。
厚生年金は、会社員の給与に応じて保険料が決まる仕組みです。保険料は会社と従業員で半分ずつ負担するため、従業員の実質的な負担は半額となります。厚生年金の給付面では「2階建て」と呼ばれる構造を持ち、1階部分の基礎年金(国民年金)に加えて、2階部分として給与に比例した年金が上乗せされます。厚生年金に加入している人は、自動的に国民年金にも加入することになるため、将来は両方の給付を受けることができます。
一方、国民年金は自営業者や一人親方を含む、日本に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入する制度です。保険料は所得に関係なく定額制を採用しており、令和6年度(2024年度)の場合、月額16,980円と定められています。国民年金の給付額は支払った保険料の金額ではなく加入期間によって決まり、40年間満額で保険料を納付した場合の受給額は月額約6万8,000円(令和6年度・2024年度)となります。この金額は、厚生年金の受給額と比較すると低くなる傾向があります。
厚生年金+ 国民年金(第2号被保険者) | 国民年金(第1号被保険者) | |
---|---|---|
加入対象者 | 会社員、公務員、法人の従業員 | すべての20歳以上60歳未満の日本在住者(一人親方、個人事業主、自営業者、フリーランス、学生など) |
保険料 | 給与と賞与に応じて決定、労使折半 | 月額定額 (令和6年度は16,980円) |
給付内容 | 基礎年金+報酬比例部分、障害年金、遺族年金 | 基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金 |
受給金額 | 平均月額約15万円(例:標準的なモデル世帯) | 月額約6万8,000円(40年間満額の場合) |
国民年金保険料の免除制度
国民年金には、経済的な理由などで保険料の支払いが困難な場合に利用できる免除制度があります。免除の種類は以下の通りです。
- 全額免除:すべての保険料が免除されます。
- 部分免除:収入に応じて、保険料の一部が免除されます。
- 学生納付特例:学生に対して、保険料を納付しなくてもよい特例があります。
免除制度を利用することで、将来の年金受給資格を維持しつつ、経済的な負担を軽減することが可能です。
国民年金保険料の確認方法
国民年金保険料の確認方法には、「年金定期便」と「ねんきんネット」があります。年金定期便は毎年誕生月に郵送され、納付履歴や受給見込み額が記載されているため、納付状況を簡単に確認できます。ねんきんネットは、インターネットで年金情報を確認できるサービスで、事前登録後、納付状況や将来の受給額を随時確認できます。一人親方の方にも、納付漏れがないかチェックするのに便利です。
一人親方は国民健康保険の代わりに建設国保の選択もある
建設国保は、建設業に従事する一人親方や個人事業主が加入できる医療保険制度です。通常の国民健康保険と比べて保険料が割安で、付加的な給付も充実しています。
建設国保(国民健康保険組合)とは?
建設国保、正式には「建設業国民健康保険組合」とは、建設業に従事する一人親方や従業員などが加入できる健康保険の一種です。一般的な国民健康保険とは異なり、特に建設業に特化した制度となっています。これにより、建設業者が抱える特有のリスクに対して、より適切な健康保険の給付を受けることが可能です。
建設国保の特長
建設国保には以下のような特長があります。
- 業種特化型:建設業に特化した保険であり、建設現場での特有のリスクに対応しています。
- 給付内容の充実:通院や入院、手術費用などの給付が一般的な国民健康保険よりも充実していることが多いです。
- 加入対象者の柔軟性:一人親方や自営業者など、さまざまな形態の働き方に対応可能です。
加入方法
建設国保に加入するためには、以下の手続きが必要です。
- 最寄りの建設国保の窓口に問い合わせる。
- 必要書類を提出する(具体的な書類は各組合により異なります)。
- 保険料の支払い方法を決定し、加入手続きを進める。
保険料の計算
建設国保の保険料は、所得によって異なります。通常、前年の所得に基づいて保険料が算定されるため、安定した収入があることが望ましいです。また、保険料は所得税の控除対象となるため、税負担を軽減する効果もあります。
このように、建設国保は一人親方や建設業に従事する方々にとって、非常に重要な健康保険制度です。特に、所得の不安定さがある場合でも安心して医療を受けることができる点が魅力です。
一人親方が国民年金や建設国保に加入しないとどうなる?
一人親方が国民年金や建設国保に加入しないと、年金の受給資格を失ったり、医療費が全額自己負担になるなど、生活に大きなリスクが生じます。また、工事現場に入場できないなど仕事の受注に影響を及ぼす可能性があります。その具体的なリスクや影響について詳しく説明します。
年金の受給資格がなくなる
国民年金への未加入は、将来的に受け取るはずの年金が支給されなくなります。老齢基礎年金を受給するためには、原則として10年(120月)以上の保険料納付が必要です。納付期間が不足すると、65歳以降の年金受給額が減少するか、最悪の場合、受給資格を失うことになります。また、在職中に病気やケガで働けなくなった場合に支給される障害基礎年金も、未加入期間中の傷病では受給できません。
現場に入れない
一人親方の現場入場には国民年金や建設国保などの社会保険への加入が不可欠となっています。これは、国土交通省が建設業における社会保険の加入対策を強化したことによるものです。
2017年4月以降は、2次下請以下の業者も社会保険に加入していなければ、公共工事の現場に入ることができなくなりました。
一人親方が加入すべきと国土交通省が定める「適切な保険」は、医療保険として国民健康保険または国民健康保険組合(建設国保など)、年金保険として国民年金です。
このような国土交通省の取り組みにより、一人親方が社会保険に加入しているかどうかが、仕事の受注に大きく影響する状況となっています。
生活の不安定
公的な年金がない一人親方にとって、予期せぬ支出や将来の生活設計に大きな支障をきたすことになります。特に老後の生活設計において、国民年金の未加入の影響は深刻です。厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者世帯における公的年金の収入は、全体の収入の約7割を占めています。年金受給権がない場合、老後の安定した収入源を失うことになり、基本的な生活費の確保さえ困難になる可能性があります。
一人親方が厚生年金の代わりとして知っておきたい制度
国民年金基金
国民年金基金は、国民年金(基礎年金)に上乗せして給付を受けられる公的な年金制度です。自営業や一人親方などの国民年金加入者が、将来の年金額を増やすために利用でき、国民年金だけよりも多くの老後資金を確保できます。
国民年金基金への加入には、以下の条件があります。
- 加入対象者:国民年金第1号被保険者(20歳以上60歳未満)、60歳以上65歳未満の人や海外に居住する人で国民年金の任意加入されている人
- 保険料納付状況:国民年金保険料を納付していること
- 他の年金制度:厚生年金や共済組合に未加入であること
- 年齢制限:65歳までに加入すること
国民年金基金への加入方法
国民年金基金への加入は、各都道府県の国民年金基金事務所での窓口申請か、オンラインでの申し込みから選択できます。手続きの際には、年金手帳(基礎年金番号が分かるもの)と本人確認書類が必要となります。
加入時には月々の掛金額を決定します。掛金は月額5,000円から68,000円までの範囲で自由に設定でき、支払いは口座振替が一般的です。半年分や1年分をまとめて納付する前納制度を利用すると、掛金が割引されます。
付加年金(付加保険料)
付加年金は、国民年金に加入している一人親方が、通常の保険料に月額400円を上乗せして納付することで、将来の年金額を増やすことができる制度です。毎月の少額積立で、老後の年金受給額を確実に増やせる仕組みとなっています。
付加年金の最大のメリットは、少額の追加支払いで将来の年金額が増える点にあります。また、付加保険料の負担が月400円と低く抑えられているため、負担を大きくせずに将来の生活に備えられる手段として、一人親方にとっても利用しやすい制度です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、自分自身で積み立てた資金を年金として受け取ることができる制度です。iDeCoの特徴は、自分で積み立てる金額や運用商品を選択し、将来の年金額が運用結果に応じて決まることです。
一人親方などの自営業者は、国民年金基金の掛金と合わせて月額68,000円まで掛金を積み立てることができ、積立金額は全額が所得控除の対象となるため、節税効果も期待できます。
例えば、年間の掛け金が12万円の場合、所得税率に応じて最大で約3万円の控除が受けられることがあります。 運用益が非課税 通常の貯蓄や投資では運用益に税金がかかりますが、iDeCoでは運用中の利益が非課税となるため、資産形成がより有利に進められます。
また、iDeCoで積み立てた資産は60歳以降に受け取ることが可能で、運用益にも税制優遇が適用されるため、効率よく資産形成ができます。
特に一人親方にとっては、老後の生活資金を自分でしっかり準備したいというニーズに応える制度といえます。たとえば、安定性を重視するなら定期預金を、リターンを狙うなら株式や投資信託などの運用商品を選べるため、目的に合わせた資産運用が可能です。
iDeCoの加入方法と注意点
加入手続き iDeCoの加入手続きは、金融機関を通じて行います。必要な書類を用意し、申し込みを行うことで簡単に開始できます。 掛け金の上限 一人親方の場合、毎月の掛け金は最大で68,000円(2024年現在)まで可能です。自分の生活状況に応じて適切な金額を設定することが大切です。 運用のリスク iDeCoは投資性があるため、運用にはリスクが伴うことを理解しておく必要があります。資産の運用状況を定期的に確認し、必要に応じて見直すことが重要です。 iDeCoは、将来の年金を考える上で非常に有効な選択肢となります。一人親方として活動する方々も、自分に合った資産形成を考える際には、この制度をぜひ検討してみてください。
民間の個人年金
民間の個人年金は、自営業者や一人親方が将来の生活資金を自ら準備するための手段として活用される年金制度です。これは、保険会社が提供する商品で、積立期間中に保険料を払い込むことで、老後に年金として受け取ることができます。民間の個人年金には、確定年金や終身年金といった種類があり、受取期間や金額を自分の希望に合わせて選択できる柔軟さがあります。
例えば、10年確定年金を選択すれば、受取開始から10年間は必ず年金が支払われるため、受給中に万が一のことがあっても遺族が残りの年金を受け取れます。終身年金の場合、受給者が存命である限り生涯年金を受け取れるため、長生きに備えた資金として安心です。また、税制上の優遇措置がある商品もあるため、所得控除を活用することで節税効果も期待できます。
民間の個人年金の注意点
民間の個人年金を利用する際は、いくつかの注意点があります。以下の点を考慮してください。
- 保険料の支払い:契約時に設定した保険料を継続的に支払う必要があるため、ライフスタイルによっては負担となる場合があります。
- 契約内容の理解:各保険商品によって内容が異なるため、契約前にはしっかりと内容を理解してから選ぶことが重要です。
- 運用益のリスク:運用益が約束されていない場合もあり、特に変額年金では市場動向による影響を受ける可能性があるため注意が必要です。
このように、民間の個人年金は一人親方にとって、老後の安心感を得るための有力な方法です。自身のライフスタイルに合ったプランを見つけて、将来に備えることが大切です。
小規模企業共済
小規模企業共済は、自営業者や一人親方が引退や廃業時に備えた資金を積み立てるための制度です。これは国が運営しており、積立金は共済金として一括または分割で受け取ることができます。月額1,000円から7万円までの範囲で自由に掛金を設定でき、掛金全額が所得控除の対象となるため、節税効果も期待できるのが大きな特徴です。
例えば、月々2万円を掛金として10年間積み立てた場合、退職時にはその掛金総額に利息が付いた共済金を受け取ることができ、老後の資金として活用できます。また、貸付制度も備わっており、事業資金が必要になった際に掛金を担保に低利で借り入れることができるため、資金運用の柔軟性が高い点も魅力です。小規模企業共済は、国民年金と組み合わせることで老後の生活基盤を強化できる一方で、事業の突発的な資金需要にも対応できる一人親方にとって頼れる制度といえます。
小規模企業共済の加入資格と手続き
小規模企業共済に加入するためには、以下のような資格があります。
- 法人の役員: 法人を創業している場合、その役員として加入可能です。
- 個人事業主: 自営業を営む個人事業主も対象となります。加入手続きは比較的簡単で、所定の申込用紙に必要事項を記入し、所轄の共済組合に提出するだけで済みます。具体的な手続きや必要書類については、各共済組合の公式サイトで確認できます。
一人親方として年金や制度を利用し充実した老後を準備しよう
一人親方は、法人に所属する会社員とは異なり、厚生年金に加入できないため、基本的に国民年金に加入し、老後の年金給付を受けます。また、自営業者向けの年金制度や民間の個人年金を活用することで、老後の資金をさらに充実させることが可能です。たとえば、国民年金基金や付加年金、iDeCo(個人型確定拠出年金)などを併用することで、老後の収入源を増やすことができます。自分に合った制度を選択し計画的に準備を進めることが、一人親方としての安定した将来を支える鍵となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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