- 更新日 : 2025年2月20日
労災保険のアフターケアとは?無料治療の要件や申請方法を解説
労災のアフターケア制度は、労働災害や通勤災害により負傷や疾病を被った労働者が、症状固定後も後遺症状に応じて必要な治療を無料で継続して受けられるようにする制度です。対象となる20種類の傷病があり、診察、検査、処置、薬剤支給などが行われます。この記事では、アフターケア制度の仕組みと疾病の種類、申請方法を解説します。また、治療費だけでなく通院費も請求可能です。この制度を活用することで、労働者の健康維持と早い社会復帰を支援できます。
目次
労災のアフターケア制度とは?
労災のアフターケア制度は、労働災害で負傷や疾病を被った労働者が治癒(症状固定)した後も、後遺症状に応じて必要な医療を無料で受けられる制度です。この制度は、労働者の健康維持と社会復帰の促進を目的としています。
アフターケア制度の治療内容
労災のアフターケア制度の治療内容は大きく分けて、診察、検査、処置、薬剤の支給の4つに分けられます。対象となる傷病ごとに具体的な治療内容が定められており、それぞれの傷病に応じて、適切な組み合わせで治療が提供されます。
- 診察:労働者が受けたケガや病気の治療に必要な診察が労働者災害補償保険から支給されます。
- 保健指導:労働者が健康を取り戻すために必要な保健指導が労働者災害補償保険から支給されます。
- 保健のための処置:労働者が健康を取り戻すために必要な保健のための処置が労働者災害補償保険から支給されます。
- 検査:労働者が健康を取り戻すために必要な検査が労働者災害補償保険から支給されます。
なお、これらの治療を受けるためには、労働者が医師から治療を必要とする診断を受け、その診断書を労働者災害補償保険に提出する必要があります。
また、治療が終了した後も、定期的に健康状態を報告することが求められます。この制度を利用するための具体的な手続きについては、後ほど説明します。
いつまで治療できるか
労災のアフターケア制度における治療は、健康管理手帳の有効期間が満了する日まで受けられます。
健康管理手帳の更新に関しては、定期的な診察結果や医師の判断に基づいて決定されます。労働者の健康状態や社会復帰の状況を考慮しながら、適切な期間のアフターケアが提供されます。
アフターケア制度の利用条件
アフターケア制度を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります:
- 労災保険の療養補償給付または複数事業労働者療養給付を受けていたこと
- 傷病が治癒(症状固定)していること
- アフターケアの対象となる傷病であること
- 後遺症状に関する予防や軽減のための医療が必要であること
これらの条件を満たしていても、個々のケースによっては労働基準監督署長による審査が行われ、承認されない場合もあります。アフターケアの必要性や効果が認められる場合に承認されます。
労災のアフターケアの対象となるケガや病気
労災保険のアフターケア制度は、20種類の特定の傷病に対して適用されます。これらの傷病は、治癒(症状固定)後も後遺症状が残る可能性が高く、継続的な医療措置が必要とされるものです。対象となる疾病と要件は以下の通りです。
傷病名 | アフターケアの要件 | |
---|---|---|
1 | せき髄損傷 |
|
2 | 頭頚部外傷症候群など (頭頚部外傷症候群、頚肩腕障害、腰痛) |
|
3 | 尿路系傷害 | 障害補償を受給している方 |
4 | 尿路系腫瘍 | 障害補償を受給している方 |
5 | 慢性肝炎 | 障害補償を受給している方 |
6 | 白内障などの眼疾患 |
|
7 | 振動障害 | 障害補償を受給している方 |
8 | 大腿骨頭部骨折および股関節脱臼・脱臼骨折 |
|
9 | 人工関節・人工骨頭置換 | 障害補償を受給している方 |
10 | 慢性化膿性骨髄炎 | 骨折などにより化膿性骨髄炎を併発し、引き続き慢性化膿性骨髄炎に移行した方で、障害補償を受給している方 |
11 | 虚血性心疾患など |
|
12 | 脳の器質性障害 |
|
13 | 外傷による末梢神経損傷 | 外傷により末梢神経損傷に起因し、症状が固定したあとも激しい疼痛が持続する方で、障害等級12級以上の障害補償を受給している方 |
14 | 熱傷 | 障害等級12級以上の障害補償を受給している方 |
15 | サリン中毒 | 療養補償を受給して、サリン中毒が症状固定した方 |
16 | 精神障害 | 療養補償を受給して、精神障害が症状固定した方 |
17 | 循環器障害 |
|
18 | 呼吸機能障害 | 障害補償を受給している方 |
19 | 消化器障害 | 障害補償を受給している方 |
20 | 炭鉱災害による一酸化炭素中毒 | 療養補償を受給して症状が固定した方 |
※給付を受給している方にはこれから受給すると見込まれる方も含みます。
これらの疾病に対するアフターケアの適用は、個別のケースごとに労働基準監督署長が判断します。症状の程度や継続的な医療の必要性などが考慮されます。
労災のアフターケア制度を利用する際は、対象となる疾病であるかどうかを確認し、適切な申請手続きを行うことが重要です。また、定期的に医療機関を受診し、症状の変化や治療の効果を確認することで、より効果的なアフターケアを受けることができます。
労災のアフターケア制度の申請方法
労災のアフターケア制度を利用するには、所定の手続きが必要です。以下に、申請の流れと必要な書類について詳しく説明します。
申請の流れ
アフターケア制度の申請は、以下の手順で行います。
- ケガや病気の治癒の確認
労働者が受けたケガや病気が治癒したことを確認します。そのため、労災保険の障害補償や療養補償などを受けながら、症状が回復・固定するまで治療を続けます。 - 「健康管理手帳交付申請書」を都道府県労働局長に提出
「健康管理手帳交付申請書」を所属する事業場を管轄する都道府県労働局長宛に提出します。申請書の提出期限は、傷病の種類によりますが、一般的には症状が回復・固定した日の翌日から起算して2年、もしくは3年以内に申請する必要があります。ただし、期限がない傷病については、この制限は適用されません。 - 健康管理手帳の交付
審査の結果、交付が決定した場合は、健康管理手帳が手元に届きます。不交付の場合は、3か月以内に厚生労働大臣に対して審査請求が可能です。 - 承認後、指定医療機関でアフターケアを受ける
健康管理手帳が届いたら、労災保険の指定医療機関に手帳を提示した上で、アフターケアを受けることができます。
申請後の変更手続き
アフターケア承認後に、住所変更や医療機関の変更が必要になった場合は、速やかに労働基準監督署に届け出る必要があります。変更手続きを怠ると、アフターケアの継続に支障が生じる可能性があるので注意しましょう。
アフターケアに関する通院費も請求できる
労災保険のアフターケア制度では、治療費だけでなく、通院に要する交通費も請求することができます。
ただし、通院費給付の対象となるのは一定の要件があります。
- 自宅や勤務先から同一市町村内にある医療機関へ、片道2キロメートル以上を、バスや鉄道、自家用車等により通院する場合
- 同一市町村内にアフターケアを受けることのできる医療機関がないことが理由で、他の市町村の医療機関へ通院する場合
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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