- 作成日 : 2024年6月7日
労働災害とは?労災保険の給付基準や申請方法までわかりやすく解説
労働災害(労災)とは仕事中に発生した事故や疾病を指します。事業者や従業員は、労災のリスクに備えて労災保険の給付基準や申請方法を把握しておくと良いでしょう。
この記事では、労災の定義や労災保険がカバーする具体的なケースまで、事業者や従業員が知っておくべき情報をわかりやすくご紹介します。
目次
労働災害(労災)とは
労働災害(労災)とは、従業員が仕事をしている間に発生した事故や疾病のことを指します。
これには、業務中の事故だけでなく、通勤途中や業務命令による外出中に起こった事故も含まれます。労働災害が認定されると、被害を受けた従業員は労働災害保険法に基づく様々な給付を受けられます。
労働災害の認定基準
労働災害が認定されるための基準は、事故が業務上のものであるか、業務に起因して発生しているかが重要になります。例えば、仕事をしている最中や、仕事が原因で後から発症した病気、また、出張や配送などで移動している際に起きた事故なども、労災の対象になります。
労働災害が認められるケース
- 工場、オフィスなどの業務場所での事故
- 業務命令による出張中の交通事故
- 通勤途中(通常のルートと方法での通勤)に発生した事故
- 業務による疾病(過重労働による心臓発作など)
これらのケースで事故や疾病が発生した場合、労働災害として認められ、労災保険の適用を受けることが可能です。この保険給付により、医療費の補償だけでなく、休業補償給付や障害補償給付など、幅広いサポートを受けることが出来ます。
労働災害の種類
働く人々の安全と健康を守るため、労働災害を防止し、発生した場合には迅速に補償する必要があります。労働災害には大きく分けて「業務上の災害」と「通勤途中の災害」の二つがあります。ここでは、これらの種類について詳しく見ていきましょう。
業務上の災害
業務上の災害は、労働者がその職務を遂行している最中、または職務に直接関連する活動をしている際に発生した事故や健康被害を指します。
これには、作業中の事故だけでなく、業務が原因で起こる疾病や職業病も含まれます。例えば、工場での機械操作中の事故や、長時間のデスクワークが原因での腰痛、職場の化学物質による皮膚炎などが該当します。
通勤途中の災害
通勤途中の災害は、「通勤災害」とも呼ばれ、労働者が自宅から職場への往復中に発生した事故による怪我や健康被害を指します。
ただし、通勤手段や経路には制限があり、自宅と職場を直接結ぶ合理的なルートと手段での移動中のみが補償の対象となります。例として、電車内での転倒、自転車での転倒、徒歩通勤中の交通事故などがあります。
労災保険とは
労災保険は、労働者が働いている間に起こる事故や病気を補償するための社会保障制度です。この制度は、業務上または通勤途中に発生した事故や病気によって、労働者がけがをしたり、病気になったり、最悪の場合、亡くなったりした時に、労働者およびその家族が経済的な困難に直面しないように支援を提供します。
労災保険の目的と仕組み
労災保険制度の主な目的は、事故や病気によって生じた労働者およびその遺族の生活を保障し、早期の職業復帰を支援することです。
この制度は予防、補償、復職の三つの柱で構成されており、労働者の安全と健康を守るための予防措置、事故や病気が起こった際の経済的補償、そして、労働者が健康を回復し仕事に復帰するための支援を行います。
労災保険の対象者
労災保険の対象者は、原則として全ての業種の労働者です。アルバイトやパートタイム労働者、臨時労働者を含みます。労働者のための制度であるため、原則として事業主は適用対象外となりますが、特別加入制度を利用することで補償を受けることも可能です。
ただし、家事使用人や国家公務員など、一部対象外の者もいます。また、事業主が労災保険の加入手続きを行うことで、労働者が自動的にこの制度の保護を受けることができます。
労災保険の補償内容
労災保険の補償内容は、業務上または通勤途中に発生した事故により、労働者が負った損害を保障するためのものです。これは医療費を支給する療養補償給付から休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付に至るまで、広範囲にわたります。
それぞれを簡単に表にまとめると、下記のようになります。なお、通勤災害による場合には、遺族給付や療養給付となりますが、内容として異なることはありません。
補償の種類 | 内容 |
---|---|
療養補償給付 | 事故による治療費、薬剤費、入院費、手術費など |
休業補償給付 | 負傷や疾病による休業期間中の給料の一部支給 |
障害補償給付 | 事故による障害の程度に応じた給付 |
遺族補償給付 | 労働者の死亡による遺族への年金や葬祭料の支給 |
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
療養補償給付
業務上の事故や通勤途中の事故により負傷した場合、必要な医療措置にかかる費用は原則として労災保険から支給されます。
これには、治療費、薬剤費、入院費、手術費などが含まれます。労働者は、自己負担なしで適切な治療を受けることができます。
休業補償給付
負傷や疾病により仕事を休む必要が生じた場合、給料の一部が休業補償給付として支給されます。
この補償は、労働者が仕事に復帰するまでの間、経済的なサポートを提供するものです。支給額は、事故前の給与に基づいて計算され、一定期間にわたって支払われます。
障害補償給付
労働災害により、労働者が障害を負った場合、その程度に応じて障害給付が支給されます。
障害の程度は、厚生労働省が定める障害等級によって決定され、それに基づき給付額が計算されます。重度の障害であればあるほど、高額の給付が行われます。
遺族補償給付
業務上の事故等により労働者が死亡した場合、その遺族には遺族給付が支給されます。
この給付は、労働者が生きていた場合に受け取ることができたであろう収入を補填するためのものであり、遺族の経済的支援を目的としています。遺族補償給付には、遺族補償年金や葬祭料の支給が含まれます。
労災保険で補償される具体的なケース
労災保険は、労働者が仕事中に負った傷害や病気、または通勤中の事故による傷害や病気を補償する制度です。以下に、具体的な補償ケースをいくつかご紹介します。
作業中の事故
作業中に手を切ったり、脚を骨折したりするなどの事故が起きた場合、これは労災保険の補償対象となります。例えば、工事現場での落下事故や、工具を使った作業中の切り傷などが該当します。これらの事故により、医療機関での治療が必要となった場合、治療費全額が労災保険から支給されます。また、仕事を休む必要がある場合は、休業補償として給付基礎日額の60%が支給されます。
職業病
一部の業種では、特定の病気を発症するリスクが高まることがあります。例えば、建設業ではじん肺、化学工場では化学物質による皮膚病などがあります。業務が原因でこれらの病気が発症した場合、労災保険の補償が適用されます。具体的には、じん肺になった場合、医療費全額と休業補償給付が支給されます。また、皮膚病になった場合も、治療費全額と休業補償給付が支給されます。
通勤事故
通勤中に交通事故に遭ったり、通勤途中で転倒して怪我をしたりした場合も、労災保険の補償対象となります。例えば、自転車で通勤中に車と接触して怪我をした場合や、雨天時に滑って転倒した場合などが該当します。これらの事故により、医療機関での治療が必要となった場合、治療費全額が労災保険から支給されます。また、仕事を休む必要がある場合は、休業補償給付として給付基礎日額の60%が支給されます。
心のケガ
過重な労働や職場の人間関係などからくるストレスが原因で、うつ病や心身症などの精神的な病気になった場合も、労災保険の適用が考えられます。具体的には、長時間労働や過度なストレスが原因でうつ病になった場合、医療費全額と休業補償給付が支給されます。また、職場の人間関係のストレスから心身症になった場合も、治療費全額と休業補償給付が支給されます。
これらのケースは一例に過ぎませんが、労災保険は従業員を幅広く保護するために設けられています。事故や疾病が発生した場合は、すぐに労働基準監督署に相談し、適切な手続きを行うことが重要です。
労災保険の申請方法
事故の報告と相談
労働災害が発生した場合、まずは速やかに事故の報告と相談を行います。この段階で、具体的な事故の状況、発生日時、災害を負った従業員の状態などを詳細に報告する必要があります。
事故報告は、労働災害の発生を労働基準監督署へ通知するとともに、必要に応じて業務上の災害か通勤途中の災害かの判断、今後の対応策などの相談を行うことができます。
必要書類の準備
労災保険の申請には、事故の証明となる書類が必要になります。労災事故報告書、診断書、就労関係を証明する書類など、申請する補償内容によって必要な書類が異なります。
主な書類をまとめると、下記の表のようになります。
書類名 | 説明 | 備考 |
---|---|---|
労災事故報告書 | 労災事故の詳細を記入した報告書 | 労働者が作成 |
診断書 | 事故による傷病の状態を示す医師の診断書。 | 発行からあまり時間が経っていないもの |
治療経過報告書 | 治療の経過についての詳細が記された報告書 | 医師が作成 |
労働不能証明書 | 労働を行うことができない状態であることの証明 | 場合によって必要 |
例えば、休業補償給付の申請では、休業期間を証明する書類や、賃金台帳などが必要です。具体的な必要書類については、事前に労働基準監督署やホームページで確認し、準備を進めましょう。
申請手続きの流れ
必要書類が揃ったら、次は申請手続きを行います。労災保険の申請は、発生した労働災害が「業務上」であるか「通勤途中」であるかにより、提出先が異なります。
業務上の災害の場合は、まず労働基準監督署への報告と、その後に労災保険の申請を行います。通勤途中の災害であれば、直接、労災保険の申請を行うことになります。
申請方法は、直接関係する労働基準監督署へ出向くか、郵送での提出が可能です。どちらの方法を取るにしても、事前に手続きの流れや必要書類、提出期限などをしっかりと確認しておくことが重要です。
労災保険申請の際の注意点
労災保険を申請する際には、いくつかの注意点があります。
適用除外のケースを理解する
労災保険が適用されるのは、業務上または通勤途中で発生した事故に限ります。自己の故意や重大な過失による事故、業務以外の活動中に発生した事故などは、保険の適用外となることがあります。
申請前に、自身の事故が労災保険の適用を受けられるものかどうかを、しっかりと確認しましょう。
申請期限を守る
労災保険の申請には期限があります。療養補償給付であれば、療養に関する費用を支払った日の翌日から2年以内となります。また、遺族補償年金の支給申請は労働者が亡くなった日の翌日から5年以内に申請しなければなりません。
期限を過ぎてしまうと、たとえ適用条件を満たしていても給付を受けることができなくなるので、注意が必要です。
正確かつ詳細な情報を提供する
申請書には事故の状況や受けたけがの程度、治療の経過などを詳細に記入する必要があります。不明瞭な点があると、申請が受理されないこともあるため、できるだけ正確かつ具体的な情報の提供が求められます。
わからない点や不安な点は、あらかじめ相談窓口などで確認しておきましょう。
必要書類を揃える
事故の報告書や診断書など、申請に必要な書類は事前に揃えておきましょう。ここで注意が必要なのは、書類には有効期限があることです。特に、医療機関から発行される診断書は、新しさが求められる場合が多いため、申請するタイミングに合わせて新しいものを取得する必要があります。
また、提出する書類は原則として原本が求められるため、事前にコピーを取っておくことをお勧めします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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