- 作成日 : 2025年1月30日
一人親方の健康保険(医療保険制度)のおすすめは?市町村国保と建設国保はどちらがお得?種類や選び方を解説
一人親方が選択できる健康保険は、主に市町村が運営する国民健康保険(以下、市町村国保と呼ぶ)と、組合が運営する建設国保の2種類があります。市町村国保は主に前年の所得に応じて保険料が決まるのに対し、建設国保は年齢により保険料が決められます。そのほかに、会社員として勤めていた会社の健康保険を任意継続する方法や健康保険に加入している家族の被扶養者として加入する方法もあります。この記事では、一人親方が加入できる健康保険の種類や選び方を解説します。
目次
健康保険(医療保険制度)とは?
健康保険(医療保険制度)とは、病気やケガによって生じる経済的な負担をお互いで支え合うことを目的にした社会保障制度です。主な給付である療養の給付では、医療費の一部が補助されることにより、加入者の負担が「3割」以内となります。つまり、病院や診療所での診察や治療にかかる医療費全体のうち、7割は健康保険の保険者が負担し、残りの3割を自己負担します。例えば、1回の診療にかかる医療費が1万円だった場合、自己負担額は3,000円となり、7,000円は保険者が支払うことになります。
ただし、自己負担割合は年齢や所得によって異なります。75歳以上の高齢者は原則1割となり、就学前や就学中の子どもは、自治体の助成制度により、実質的な負担がゼロになる場合もあります。
健康保険に加入していないとどうなる?
健康保険に加入していない場合、病院での診療費は全額自己負担となります。医療費は想像以上に高額であり、特に大きな手術や入院が必要になった場合、数十万円から数百万円の出費が必要となる可能性があります。
健康保険と社会保険との違い
健康保険は医療費の負担を軽減する制度である一方、社会保険は会社に雇用される従業員に対して適用される保険で、広義的には健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労働保険が含まれます。会社員の健康保険・厚生年金保険の保険料は、雇用主と従業員が半分ずつ負担する「労使折半」の形で支払われます。
一人親方が健康保険(医療保険制度)に加入するパターン
一人親方の健康保険(医療保険制度)加入には4つのパターンがあります。市町村国保、建設国保、任意継続、被扶養者加入です。それぞれの加入条件や特徴を解説します。
①市町村国保に加入する
市町村国保とは市町村が運営する国民健康保険のことであり、他の医療保険制度に加入をしていない全ての人が加入する健康保険制度です。市町村国保では、原則として医療費のうち7割が保険でカバーされ、自己負担は3割となります。
市町村国保は、前年の所得を基準に計算され、家族構成によっても世帯全体の保険料が変動します。また、この制度は各自治体が運営しているため、保険料率は自治体ごとに異なります。また、市町村国保には「扶養」という考え方はなく、世帯全体の1人1人の所得に対して保険料が発生します。
市町村国保の保険料の目安
例えば、東京都新宿区では、年収300万円・30歳・単身者の場合であれば、基礎控除43万円を差し引いた257万円が所得金額となり、年間保険料は約36万893円、月額に換算すると約3万74円となります。
年間保険料 (概算) | 1か月あたり保険料 (概算) | |||
---|---|---|---|---|
総所得金額(円) | 40歳未満 (介護なし) | 40歳~64歳 (介護あり) | 40歳未満 (介護なし) | 40歳~64歳 (介護あり) |
2,500,000 | 303,443 | 364,655 | 25,287 | 30,388 |
2,750,000 | 332,168 | 398,780 | 27,681 | 33,232 |
3,000,000 | 360,893 | 432,905 | 30,074 | 36,075 |
3,250,000 | 389,618 | 467,030 | 32,468 | 38,919 |
3,500,000 | 418,343 | 501,155 | 34,862 | 41,763 |
3,750,000 | 447,068 | 535,280 | 37,256 | 44,607 |
4,000,000 | 475,793 | 569,405 | 39,649 | 47,450 |
4,250,000 | 504,518 | 603,530 | 42,043 | 50,294 |
4,500,000 | 533,243 | 637,655 | 44,437 | 53,138 |
4,750,000 | 561,968 | 671,780 | 46,831 | 55,982 |
5,000,000 | 590,693 | 705,905 | 49,224 | 58,825 |
5,250,000 | 619,418 | 740,030 | 51,618 | 61,669 |
5,500,000 | 648,143 | 774,155 | 54,012 | 64,513 |
5,750,000 | 676,868 | 808,280 | 56,406 | 67,357 |
6,000,000 | 705,593 | 842,405 | 58,799 | 70,200 |
6,250,000 | 734,318 | 876,530 | 61,193 | 73,044 |
6,500,000 | 763,043 | 910,655 | 63,587 | 75,888 |
6,750,000 | 791,768 | 944,780 | 65,981 | 78,732 |
7,000,000 | 820,493 | 978,905 | 68,374 | 81,575 |
7,250,000 | 849,218 | 1,013,030 | 70,768 | 84,419 |
7,500,000 | 864,460 | 1,033,672 | 72,038 | 86,139 |
7,750,000 | 871,460 | 1,041,460 | 72,622 | 86,788 |
8,000,000 | 878,460 | 1,048,460 | 73,205 | 87,372 |
※出典:新宿区「令和6年度 国民健康保険料 概算早見表(総所得金額等)」
②建設国保へ加入する
建設国保(全国建設工事業国民健康保険組合)は、建設業に従事する一人親方や従業員が5名未満の事業所、その家族を対象に、全国建設工事業国民健康保険組合が運営する保険制度です。
建設国保のメリットは、所得による保険料の計算がないため収入が一定以上ある場合には市町村国保よりも保険料が安くなります。ただし、加入する家族の人数や年齢によって保険料が高くなるため、家族構成や年齢によっては市町村国保の方が安くなる場合もあります。
建設国保の保険料の目安
例えば、30歳の一人親方が建設国保に加入する場合、保険料は月額22,400円となります。40歳以降は医療分・支援金分に加えて介護保険分が加算されます。また、未就学児以外の家族1人あたり月額9,100円(40歳以上の場合は13,000円)、未就学児の家族1人あたり月額8,100円の保険料が加算されます。
年齢 | 医療分(円) | 支援金分(円) | 介護分・40~64歳(円) | 合計(円) |
---|---|---|---|---|
A区分 (20歳未満) | 8,800 | 2,500 | – | 11,300 |
B区分 (30歳未満) | 13,900 | 3,200 | – | 17,100 |
C区分 (40歳未満) | 17,900 | 4,500 | – ※(3,900) | 22,400 ※26,300 |
D区分 (55歳未満) | 18,900 | 5,000 | 3,900 | ※27,800 |
E区分 (65歳未満) | 19,500 | 5,200 | ※(3,900) | 24,700 ※28,600 |
F区分 (65歳以上) | 19,700 | 5,400 | – | 25,100 |
家族 (未就学児以外) | 6,300 | 2,800 | 3,900 ※(3,900) | 9,100 ※13,000 |
家族 (未就学児) | 5,300 | 2,800 | – | 8,100 |
※介護分(介護保険第2号)については、40歳の到達月(誕生日の前日の属する月)から、65歳の到達月(誕生日の前日の属する月)の前月分まで対象となる被保険者の方に賦課・徴収します。
退職後、任意継続をする(最長2年間)
一人親方が会社に勤めて社会保険に加入をしていた期間がある場合、健康保険の任意継続も利用できます。任意継続とは、会社に勤めていた方が退職後も健康保険の適用を継続することです。これは、退職後に国民健康保険に切り替えたくない場合や、家族を扶養している場合に利用されることが多い制度です。
任意継続を利用する際の注意点は下記のとおりです。
- 退職後20日以内に手続きを行う必要がある
- 任意継続の保険期間は、最長で2年間まで利用できる
- 任意継続は、保険料の全額を自己負担で支払う
任意継続を利用することで、原則として退職前と同じ健康保険の給付を受けることができますが、保険料の負担が変わる点に注意が必要です。会社に在籍していた時は、保険料の半分を会社が負担していましたが、任意継続の場合はその全額を自分で支払うことになります。そのため、保険料が実質的に倍増することになります。
扶養家族として加入する(年収130万円未満)
一人親方の年収が130万円未満の場合は、会社で社会保険に加入している家族の被扶養者として健康保険に加入する方法もあります。この方法は、主に配偶者や親の健康保険に被扶養者として加わることで、低コストで保険給付を受けることができるメリットがあります。
被扶養者として加入するためには、年収が130万円未満であることが必須です。この年収の基準は、社会保険の扶養制度によるもので、130万円を超えると扶養から外されてしまいます。この場合、個別に国民健康保険などへの加入が必要となります。
市町村国保と建設国保の保険料はどちらが得になるか
市町村国保は前年所得に応じて保険料が増加するのに対し、建設国保の保険料は年齢や家族構成に基づいた保険料であり、所得に影響を受けません。そのため、所得が上昇するほど建設国保の相対的な負担が軽くなります。
また、市町村国保や建設国保もともに「扶養」という考え方はなく、世帯全体で保険料が計算されます。。
例えば、年収による市町村国保と建設国保の保険料の違いを比較してみましょう。
■ 年収400万円、30歳、単身者の場合
- 市町村国保(新宿区の例)
- 年間保険料:約36万893円(月額:約3万74円)
- 建設国保(一人親方)
- 年間保険料:26万8,800円(月額:2万2,400円)
この場合、建設国保の方が年間で9万2093円安くなります。
■ 年収400万円、30歳、配偶者有(30歳・年収100万円)の場合
- 市町村国保(新宿区の例)
- 本人の年間保険料:約36万893円(月額:約3万74円)
- 配偶者分の年間保険料:13万1093円(月額:約1万0,924円)
- 年間保険料合計=約49万1986円(月額:4万998円)
- 建設国保
- 本人の年間保険料:26万8,800円(月額:2万2,400円)
- 配偶者分家族の年間保険料(未就学児以外):約10万9,200円(月額:9,100円)
- 年間保険料合計=約37万8,000円(月額:約3万1,500円)
この場合、建設国保の方が年間で約11万3986円安くなります。
■ 年収400万円、50歳、単身者の場合
- 市町村国保(新宿区の例)
- 年間保険料:43万2905円(月額:3万6075円)
- 建設国保
- 年間保険料:33万3,600円(月額:2万7,800円)
この場合、建設国保の方が年間で約9万9305円安くなります。
※参考:建設国保の保険料(令和6年度)|建設国保、新宿区「令和6年度 国民健康保険料 概算早見表(総所得金額等)」
一人親方が市町村国保に加入する方法
一人親方が市町村国保に加入するには、住んでいる自治体の役所で手続きを行います。一人親方が市町村国保に加入するための手続きと流れについて説明します。
- 必要書類を準備する
- 市区町村の窓口を訪れる
- 国民健康保険の加入手続きを行う
- その場で国民健康保険被保険者証(保険証)が交付される
必要書類を準備する
国保に加入するためには、いくつかの必要書類を用意する必要があります。本人確認書類として運転免許証やマイナンバーカードを用意します。必要書類は自治体により異なる場合もありますが、一般的には他の健康保険を喪失した証明も必要です。詳細は、申請をする自治体窓口に事前に確認しておくことが賢明です。
市区町村の窓口を訪れる
必要書類が揃ったら、市区町村の役所や健康保険担当窓口を訪れます。この際、自分の状況を説明し、国保への加入手続きをお願いしましょう。
国民健康保険の加入手続きを行う
一人親方が市町村国保に加入するための手続きは、基本的に窓口で行います。書類を提出し、担当者からの確認を受けた後、加入が認められます。その際に何か不備があればその場で伝えられます。
その場で国民健康保険被保険者証(保険証)が交付される
手続きが完了した後、その場で保険証が交付されます。
一人親方が建設国保に加入する方法
一人親方が建設国保に加入するには、最寄りの建設国保の支部に申し込みを行います。全国建設工事業国民健康保険組合は全国に支部があります。最寄りの支部を事前に調べておきましょう。
- 必要書類を準備する
- 最寄りの建設国保の支部で申し込みを行う
- 加入手続きが完了後、期日保険証が送付される
1.必要書類を揃える
一人親方が建設国保の加入をする際は、以下の書類が必須で必要となります。
- 加入者本人及び同一世帯の者の(被保険者証・資格確認証・資格情報のお知らせ)いずれかの写し
- 所得税の確定申告書
- 加入申込書
- 住民票(世帯全員分のマイナンバーの記載あり・発行後3ヵ月以内)
また、加入状況ごとに追加書類が必要な場合があります。詳しくは、最寄りの建設国保へお問い合わせください。
2.最寄りの建設国保の支部で申し込みを行う
建設国保への加入手続きは、地域を管轄する支部の窓口で手続きを行います。加入手続きをする際は事前に支部へ確認をしましょう。
参考: 国保組合のご紹介-支部一覧|建設連合国民健康保険組合
まとめ
一人親方にとって健康保険(医療保険制度)は、万が一の病気やケガに備える重要な制度です。十分な備えがないと収入や生活に大きな影響を及ぼす恐れがあります。一人親方が加入する健康保険の選択肢としては、主に市町村国保と建設国保の2つがあります。市町村国保は居住地の市区町村で加入でき、保険料は前年の所得に応じて決まります。
一方、建設国保は建設業に特化した健康保険で、従業員が5名未満の事業所やその家族を対象にした保険制度です。建設国保は、主に年齢により保険料が定められており、収入による変動はありません。年収が一定以上ある場合には国保よりも保険料が安くなる場合があります。
市町村国保に加入するか、建設国保を選ぶかは、年収やそれぞれの特徴を理解して、自身に最適な保険を選びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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