- 作成日 : 2025年1月30日
一人親方も社会保険の加入は義務?加入できる種類や制度、未加入の問題点
一人親方の社会保険加入は義務ではありませんが、公共工事の仕事が受けられないなどのデメリットや将来のリスクを考えると加入を検討した方がいいでしょう。
この記事では、一人親方も社会保険に加入する必要があるのか、加入できる保険にはどのようなものがあるのか、未加入の問題点について詳しく解説します。建設業を中心に、一人親方の方々に役立つ情報をご提供します。
目次
一人親方も社会保険の加入は義務?
一人親方とは、自分一人で事業を運営する個人事業主のことを指します。一人親方の社会保険加入義務については、その就労形態によって変わってきます。
多くの場合、一人親方は個人事業主として扱われるため、社会保険加入義務はありません。通常の会社員とは異なる社会保険制度が適用されます。
社会保険とは?
社会保険は、病気やケガ、失業、老後などのリスクに備えるための公的な保険制度です。社会保険は主に以下の4つの保険で構成されています。
一般的に、会社員はこれらの社会保険に強制加入となりますが、一人親方の場合は状況が異なります。
一人親方の社会保険加入状況
一人親方の多くは、国民健康保険と国民年金に加入しています。これらは、会社員の加入する健康保険や厚生年金保険に相当する制度です。
労災保険については、一人親方向けの特別加入制度が設けられており、希望すれば加入することができます。
一人親方が社会保険に加入するメリットと未加入のリスク
社会保険加入のメリット
一人親方にとって、社会保険に加入することには以下のようなメリットがあります。
- 病気やケガの医療費負担の軽減
国民健康保険に加入することで、医療費の自己負担が3割に抑えられます。 - 老後の年金受給・生活保障
国民年金に加入することで、老後の生活資金を確保できます。2024年度の国民年金(老齢基礎年金)の満額は月額68,000円です。40年間保険料を納付すれば、この金額を受け取ることができます。 - 公共工事への参加資格の確保
社会保険に加入していることは、取引先や顧客に対して信用力を高める効果があります。
特に建設業界では、社会保険加入が公共工事参加の条件となっているケースが増えています。そのため、一人親方であっても社会保険に加入することが事実上の義務となっている場合があります。
社会保険未加入のリスク
社会保険に加入しないことで、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
- 高額な医療費の自己負担
保険未加入の場合、医療費を全額自己負担する必要があります。 - 老後の生活資金不足
国民年金未加入の場合、老後の収入が極めて限られます。 - 公共工事への参加機会の喪失
建設業界では、社会保険未加入者の現場入場を制限する動きが広がっています。
なぜ建設業界で社会保険未加入が問題なのか
特に建設業界では、社会保険未加入問題が深刻化しており、国や業界団体が加入促進に力を入れています。そのため、一人親方であっても社会保険加入を検討することが重要です。
公共工事の仕事が受けられない
公共工事における社会保険加入の重要性は年々高まっています。国土交通省の指導により、多くの自治体や公共機関が社会保険加入を入札条件としているのが現状です。
そのため、社会保険未加入の一人親方は、公共工事の入札や受注において不利な立場に置かれます。多くの自治体や政府機関は、社会保険加入を契約の前提条件としているためです。
具体的には以下のような影響があります。
- 入札参加資格の喪失
- 下請け業者としての採用機会の減少
- 大手建設会社との取引機会の喪失
このような状況下で、社会保険未加入の一人親方は、公共工事の直接受注はもちろん、下請としての参加も困難になっています。結果として、大きな仕事の機会を失うことになるのです。
未加入の場合は追徴金や罰金のリスクも
社会保険未加入が発覚した場合、法的制裁を受ける可能性があります。これには以下のようなリスクが含まれます。
- 過去の未納分に対する追徴金
- 法令違反に対する罰金
- 事業停止命令
これらの罰則は、一人親方の経済的な負担を増大させるだけでなく、事業の信用にも影響を及ぼす可能性があります。
建設業は一人親方が多い
建設業界では、一人親方の割合が他の業種に比べて高い傾向にあり、建設業界では社会保険加入率が低くなりがちです。しかし、業界全体の健全性と労働者の保護のためには、一人親方を含めた社会保険加入の促進が不可欠です。
未加入の問題は、個人の生活保障だけでなく、業界全体の信頼性にも関わる重要な課題となっています。社会保険に加入することで、一人親方は自身の生活を守るだけでなく、建設業界全体の健全な発展にも貢献することができるのです。
社会保険の加入基準は労働者の人数で異なる
個人経営の事業所の社会保険の加入基準は、事業所で働く労働者の人数によって大きく異なります。ここでは、労働者の人数別に義務付けられている社会保険について詳しく解説します。
常時雇用する労働者が5人以上
労働者を常時雇用している個人経営の事業所は、農林漁業やサービス業など一部の業種を除き健康保険と厚生年金保険への加入が法律で義務付けられています。これらの社会保険は、従業員の健康と老後の生活を守るための重要な制度です。
健康保険は、従業員やその家族が病気やケガをした際の医療費を補助し、生活の安定を図ります。一方、厚生年金保険は、従業員の老後の生活を支える年金制度です。
また、これらの事業所では雇用保険への加入も義務付けられています。雇用保険は、従業員が失業した際に給付金を支給し、再就職を支援する制度です。
常時雇用する労働者が5人未満
労働者を5人未満で雇用している個人経営の事業所の場合、健康保険と厚生年金保険への加入義務はありません。ただし、任意で加入することができる制度が用意されています。
この場合、従業員は国民健康保険と国民年金に加入することになります。国民健康保険は市区町村が運営する健康保険制度で、国民年金は全ての国民が加入する基礎的な年金制度です。
雇用保険については、労働者数に関わらず、原則として1人でも雇用していれば加入義務があります。
一人親方・個人事業主
一人親方や個人事業主の方々は、従業員を雇用していない場合、基本的に国民健康保険と国民年金に加入することになります。これらの制度は、雇用関係がない自営業者や自由業者などを対象としています。
国民健康保険は、病気やケガの際の医療費を補助する制度です。保険料は所得や資産に応じて決定されます。国民年金は、老後の基礎的な生活を保障する年金制度で、定額の保険料を納付します。
一人親方や個人事業主の方々にとって、これらの社会保険への加入は自身の生活保障のために非常に重要です。特に建設業などの危険を伴う仕事に従事する方々は、労災保険の特別加入制度も検討する必要があります。
また、事業の拡大に伴い従業員を雇用する場合は、上記の基準に従って適切な社会保険に加入する必要があります。事業の成長とともに、社会保険の加入状況を見直すことが大切です。
社会保険の加入は、単に法律上の義務を果たすだけでなく、自身や従業員の生活を守り、安定した事業運営を行うための重要な要素です。一人親方や個人事業主の方々は、自身の事業形態や将来の展望を考慮しながら、適切な社会保険に加入することが求められます。
一人親方が加入できる社会保険の種類
国民健康保険
一人親方として働く個人事業主は、国民健康保険に加入することが可能です。国民健康保険は、自営業者や無職の方など、会社などの健康保険に加入していない人々を対象とした公的医療保険制度です。
国民健康保険の主な特徴として、以下が挙げられます。
- 医療費の自己負担割合が3割(70歳以上は原則2割)
- 入院時の食事代の一部負担
- 高額療養費制度の適用
- 出産育児一時金の支給
- 葬祭費の支給
保険料は、加入者の前年の所得や資産、世帯の人数などに基づいて計算されます。一人親方の場合、事業収入から必要経費を差し引いた所得に基づいて保険料が決定されます。
国民年金
国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する義務がある公的年金制度です。一人親方も例外ではなく、国民年金の第1号被保険者として加入する必要があります。
国民年金の主な給付内容は以下の通りです。
- 老齢基礎年金:65歳から受け取れる年金
- 障害基礎年金:病気やケガで障害を負った場合に受け取れる年金
- 遺族基礎年金:加入者が亡くなった場合に遺族が受け取れる年金
保険料は月額16,980円(2024年度)で、年度ごとに改定されます。一人親方の場合、収入に応じて保険料の免除や猶予制度を利用できる場合があります。
保険料の免除・猶予制度
経済的理由で保険料の納付が困難な場合、以下の制度を利用することができます。
- 全額免除:保険料の全額が免除されます
- 一部免除:保険料の一部(4分の3、半額、4分の1)が免除されます
- 納付猶予:50歳未満の方を対象に、保険料の納付を後回しにできます
- 学生納付特例:学生を対象とした保険料の納付猶予制度です
これらの制度を利用する場合、申請が必要です。また、免除や猶予を受けた期間は、将来の年金額に影響します。可能な限り、後から保険料を追納することをおすすめします。
国民年金基金
国民年金の給付額を上乗せしたい一人親方は、国民年金基金に加入することで、より充実した老後の年金を受け取ることができます。国民年金基金は任意加入の制度で、掛金は全額社会保険料控除の対象となり、税制優遇を受けられます。
国民年金基金の特徴:
- 終身年金型と有期年金型から選択可能
- 死亡一時金制度あり
- 加入期間や掛金額に応じて受取年金額が決定
一人親方として働く中で、将来の生活設計を考えながら、国民年金基金への加入を検討することも重要です。
一人親方が加入できるその他の保険・制度
労災保険(特別加入制度)
一人親方が加入できる重要な保険制度として、労災保険の特別加入制度があります。通常、労災保険は事業主が労働者のために加入する制度ですが、特別加入制度を利用することで、一人親方も労災保険の対象となることができます。
労災保険特別加入制度の主な特徴は以下の通りです。
- 業務中や通勤中の事故・疾病に対する補償
- 医療費の給付
- 休業補償
- 障害が残った場合の障害補償
- 遺族補償
加入手続きは、一人親方が所属する事業主団体を通じて行います。保険料は年間の見込み収入を基に算出され、四半期ごとに納付します。
小規模企業共済
小規模企業共済は、一人親方を含む個人事業主や小規模企業の経営者が廃業や退職に備えて加入できる制度です。この制度は、いわば「経営者のための退職金制度」と呼ばれています。
主な特徴として以下が挙げられます。
- 掛金は全額所得控除の対象
- 共済金は一時金または分割で受け取り可能
- 事業資金の貸付制度あり
- 65歳までに事業をやめなくても、65歳以降は共済金を受け取ることが可能
加入手続きは、商工会議所や商工会、金融機関などで行うことができます。掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で自由に選択できます。
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度(中退共)は、主に中小企業の従業員のための退職金制度ですが、一人親方が法人化して役員となった場合にも加入できます。この制度は、中小企業退職金共済法に基づいて設けられた国の制度です。
中退共の主なメリットは以下の通りです。
- 掛金の一部に国の助成がある
- 掛金は全額非課税扱い
- 簡単な手続きで加入可能
- 退職金の支払いは確実
加入手続きは、金融機関や委託団体を通じて行います。掛金は月額5,000円から30,000円の間で選択できます。ただし、1週間の労働時間が30時間未満の短時間労働者は、2,000円からの掛金となります。
建設業退職金共済制度
建設業退職金共済制度(建退共)は、建設業界に特化した退職金制度です。一人親方も、事業主として加入することができます。この制度は、建設現場で働く労働者の福祉の増進と建設業の振興を目的としています。
建退共の特徴は以下の通りです。
- 掛金は日額320円
- 掛金は全額非課税扱い
- 建設現場ごとに働いた日数分の掛金を納付
- 退職金は累計で働いた日数に応じて支給
加入手続きは、建退共の各都道府県支部や金融機関で行うことができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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