- 作成日 : 2024年12月19日
一人親方になるには?必要な準備・手続きを徹底解説
一人親方になるには、事前準備や税金・保険・年金などの手続きが必要です。
この記事では、一人親方になるために必要な手続きや開業後にやるべきことまで網羅的に解説しています。記事を読むことで、一人親方になるための具体的なステップが明確になり、スムーズな開業が可能になります。
建設業界での独立を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
そもそも一人親方とは?
そもそも一人親方とは、主に建設業界で独立して働く個人事業主のことを指します。
他の従業員を雇わずに、自身のみ、あるいは家族と一緒に働くケースが一人親方の代表例です。
自己の技術や技能を活かして、大手建設会社や元請け業者から直接仕事を受注したり、他の建設業者の下請けとしても働きます。仕事の受注から施工、納品まで一貫して請け負うのが一人親方の特徴です。
一人親方として活躍できる職種は建設業だけでも、大工、左官、塗装工、電気工事士、配管工、タイル工、内装工、板金工、鳶職、溶接工など多岐にわたります。
一人親方として働くことで、自身の技術を直接仕事に活かせるほか、仕事の選択や時間の管理が自由になるといったメリットがあります。
一人親方になる前に準備すべきことは?
一人親方になる前に準備すべきことは、以下の通りです。
初期費用を用意する
まず、一人親方として独立するには相応の初期費用が必要です。
具体的には、工具や機材の購入費、事務所や倉庫の賃貸費、車両購入費などが挙げられます。これらの費用は業種や規模によって大きく異なりますが、一般的に数百万円から数千万円程度が必要とされます。
資金調達の方法としては、自己資金の他に、銀行からの融資や公的融資制度の利用などがあります。日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や「小規模事業者経営改善資金融資(マル経融資)」などの制度を活用することも検討しましょう。
事業用の銀行口座を開設する
個人の口座と事業用の口座を分けることは、会計処理を簡素化し、税務申告をスムーズに行うために重要です。
主要な銀行では、個人事業主向けの口座を提供していますので、自身の事業に適した口座を選択しましょう。
口座開設時には、本人確認書類や開業届の写しなどが必要となります。また、インターネットバンキングの利用も検討し、取引先への振込や入金確認を効率的に行える環境を整えましょう。
事業用のクレジットカードを作成する
事業用のクレジットカードを作成することで、経費の管理が容易になり、かつ支払いの柔軟性が高まります。
多くのクレジットカード会社が個人事業主向けのカードを提供しており、経費カテゴリー別の明細や、会計ソフトとの連携機能などが付いているものもあります。
カードの選択基準としては、年会費、ポイント還元率、付帯保険の内容などを考慮しましょう。特に、建設業に関連する保険が付帯されているカードは、事業上のリスク管理に役立ちます。
車両などのローン契約を済ませておく
建設業の一人親方にとって、車両は必要不可欠な道具です。新車や中古車の購入、あるいはリースの選択など、自身の事業規模や資金状況に応じて最適な方法を選びましょう。
車両ローンの契約は、個人での申し込みよりも事業者としての申し込みの方が、審査基準が厳しくなる場合があります。そのため、開業前に個人として契約を済ませておくことで、より有利な条件でローンを組める可能性があります。
必要な資格・許可を取得する
一人親方として働くために必須の資格はありませんが、以下のような資格を取得することで、仕事の幅を広げたり、信頼性を高めたりすることができます。
- 建設業許可:一定規模以上の工事を請け負う場合に必要
- 技能士資格:各種専門工事の技能を証明する国家資格
- 作業主任者資格:特定の危険作業を行う際に必要
これらの資格・許可は、取得に時間がかかるものもあるため、開業前から計画的に準備を進めることが重要です。また、資格取得は自身の技術力向上にもつながり、競争力を高める要因にもなります。
一人親方の開業・税金に関する手続きは?
一人親方の開業・税金に関する手続きは、以下の通りです。
開業届を提出する
一人親方として事業を開始する際、最初に行うべき手続きが開業届の提出です。これは税務署に対して事業開始を報告するもので、事業開始日から1か月以内に提出する必要があります。
開業届には、以下の情報を記載します。
- 事業主の氏名、住所
- 屋号(ある場合)
- 事業の種類
- 事業開始日
- 事業所の所在地
開業届とは、個人事業の開業届出・廃業届出書を指し、納税地を所轄する税務署に提出します。また確定申告時に青色申告を行いたい場合は、所得税の青色申告承認申請書も提出します。
所得税の青色申告承認申請書を提出する
青色申告は、事業所得や不動産所得のある個人事業主が利用できる申告方式です。青色申告を行うことで、様々な税制上の特典を受けられるため、一人親方にとっても有益な選択肢となります。
青色申告承認申請書は、原則として事業開始日から2か月以内に提出する必要があります。ただし、その年の3月15日までに提出すれば、その年の1月1日から青色申告を行うことができます。
青色申告のメリットには、以下のようなものがあります。
- 最大65万円の青色申告特別控除
- 損失の繰越控除・繰戻還付
- 純損失の3年間繰越控除
- 家族従業員の給与の必要経費算入
青色事業専従者給与に関する届出書を提出する
一人親方として家族を従業員として雇用する場合、青色事業専従者給与に関する届出書の提出が必要です。この届出書は、青色申告者が事業に専ら従事する親族に支払う給与を必要経費として認めてもらうためのものです。
届出書には以下の情報を記載します。
- 専従者の氏名、生年月日、続柄
- 給与の支給額と支給方法
- 専従者の職務内容
この届出書は、青色申告承認申請書と同様に、原則として事業開始日から2か月以内に提出する必要があります。
源泉所得税の納期の特例の承認申請書を提出する
一人親方として従業員を雇用する場合、源泉所得税の徴収と納付が義務付けられます。通常、源泉所得税は毎月納付する必要がありますが、従業員数が常時10人未満の小規模事業者は、納期の特例を申請することができます。
納期の特例を申請すると、源泉所得税の納付を年2回(7月10日と翌年1月20日)にまとめることができ、事務負担を軽減できます。この申請は随時受け付けられており、承認された場合は申請した月の翌月から適用されます。
個人事業開始申告書を提出する
個人事業開始申告書は、事業を開始したことを税務署に報告するための書類です。この届出書は、開業届とは別に提出する必要があります。
主に以下の情報を記載します。
- 事業主の氏名、住所、生年月日
- 事業の種類と概要
- 事業開始年月日
- 事業所の所在地
- 青色申告の適用の有無
個人事業開始申告書は、事業開始から1か月以内に提出することが求められます。この届出書を提出することで、税務署は事業主の情報を正確に把握し、適切な課税を行うことができます。
消費税課税事業者届出書の提出
一人親方として事業を開始する際、消費税の取り扱いについても考慮する必要があります。基準期間(個人事業者の場合は前々年)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、消費税課税事業者となります。
課税事業者となる場合は、消費税課税事業者届出書を事業開始日から1か月以内に提出する必要があります。ただし、事業開始から2年間は免税事業者となる特例があるため、多くの一人親方はこの期間を活用して事業基盤を整えることが一般的です。
ただし、相続により事業を承継した場合など、新規事業であっても納税義務が免除されない場合があるため、注意が必要です。
一人親方の保険・年金に関する手続きは?
一人親方の保険・年金に関する手続きは、以下の通りです。
国民健康保険に切り替える
一人親方として独立する際、まず行うべき手続きの一つが国民健康保険への切り替えです。以前の勤務先で加入していた健康保険から脱退し、新たに国民健康保険に加入する必要があります。
国民健康保険への加入手続きは、居住地の市区町村役場で行います。必要書類は以下の通りです。
- 健康保険資格喪失証明書(前の勤務先から発行)
- 本人確認書類(運転免許証など)
- マイナンバーカードまたは通知カード
保険料は前年の所得に基づいて計算されます。新規開業の場合、最初の年は所得がゼロとして扱われることが多いですが、翌年からは実際の所得に応じて保険料が決定されます。
国民年金に切り替える
健康保険と同様に、年金制度も切り替える必要があります。勤務先で加入していた厚生年金から国民年金に変更します。
国民年金の加入手続きも、居住地の市区町村役場で行います。必要書類は以下の通りです。
- 年金手帳
- 厚生年金資格喪失証明書(前の勤務先から発行)
- 本人確認書類(運転免許証など)
- マイナンバーカードまたは通知カード
国民年金の保険料は月額16,980円(2024年度)で、毎月の納付または前納での支払いが可能です。所得が低い場合は、保険料の免除や猶予制度を利用することもできます。
労災保険に特別加入する
一人親方として建設業に従事する場合、労災保険への特別加入が強く推奨されます。通常、労災保険は雇用主が従業員のために加入するものですが、一人親方の場合は自ら加入する必要があります。
労災保険特別加入の手続きは、特別加入団体へ申込み、所在地を管轄する労働基準監督署で行われます。加入には以下の条件を満たす必要があります。
- 建設業務に従事していること
- 労働保険事務組合に加入していること
保険料は年間の見込み収入に基づいて計算されます。作業内容によってもリスク評価が異なるため、保険料率が変動します。
民間保険の加入も検討する
公的保険だけでなく、民間の保険加入も検討する価値があります。一人親方として事業を行う上で、以下のような保険が役立つ可能性があります。
- 総合収入保障保険
- 所得補償保険
- 土木工事保険
- 建設工事保険
一人親方の開業後にやるべきことは?
一人親方の開業後にやるべきことについても解説します。
名刺を作成する
一人親方として開業したら、まず名刺を作成しましょう。名刺は取引先や顧客とのコミュニケーションツールとして欠かせません。名刺には以下の情報を含めるようにしましょう。
- 屋号または事業名
- お名前
- 職種や専門分野
- 連絡先(電話番号、メールアドレス)
- 住所
会計ソフトを導入する
一人親方として事業を営む上で、適切な会計管理は非常に重要です。会計ソフトを導入することで、収支の管理や確定申告の準備が格段に楽になります。以下のような機能を持つソフトを選びましょう。
- 収入・支出の記録
- 請求書の作成
- 経費の管理
- 青色申告対応
- クラウド対応(データのバックアップや複数デバイスでのアクセスが可能)
確定申告の準備を始める
一人親方は個人事業主として、毎年確定申告を行う必要があります。確定申告の期間は例年2月16日から3月15日までで、この期間内に前年の所得と税額を計算し、申告書を提出します。
確定申告の主な手順は以下の通りです。
一人親方として事業を始めたら、確定申告の準備を早めに始めることが大切です。確定申告の期限は翌年の3月15日ですが、余裕を持って準備を進めることで、申告漏れや記入ミスを防ぐことができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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