• 作成日 : 2024年7月12日

労災保険と傷病手当金の違いは?期間や支給額、申請方法、よくある質問を解説

労災保険と傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった時の収入を補償する大切な制度です。労災保険は業務上または通勤途中の病気やケガに対して支給され、傷病手当金は業務外の病気やケガ全般に対して支給されます。

この記事では、労災保険と傷病手当金の違いや、受給者のメリット、支給額の計算方法、支給期間に関する疑問まで詳しく解説します。さらに、うつ病などの精神疾患の場合の労災保険の取り扱いについても紹介します。

労災保険と傷病手当金の違いは?

病気やケガで仕事を休まなければならない時、経済的な支援を受けられる制度として、労災保険と傷病手当金があります。どちらも収入を保障することが目的ですが、制度の仕組みや範囲には違いがあります。

項目労災保険傷病手当金
関連する法律労働基準法、労働者災害補償保険法健康保険法
対象業務上または通勤途中の病気やケガ業務外の病気やケガ
加入者原則すべての労働者健康保険の被保険者
支給要件仕事が原因の病気やケガで通算3日以上休業したこと仕事以外の病気やケガで連続3日以上休業したこと
支給額給付基礎日額の80%標準報酬日額の2/3

労災保険とは

労災保険は、仕事が原因で病気やケガをした労働者に対して、必要な保険給付を行う制度です。正式名称を「労働者災害補償保険」といいます。勤務時間中の事故はもちろん、過労による病気や通勤途中の事故なども、補償の対象となっています。

労災保険は、労働基準法に基づき原則としてすべての労働者を対象としています。パート・アルバイトを含む労働者を1人でも雇用する事業主は、労災保険に加入することが義務付けられています。

労災保険の給付には、以下のようなものがあります。

  • 療養補償給付:治療費や入院費などの実費相当額を補償
  • 休業補償給付:仕事を休んでいる間の所得(休業4日目以降)の補償
  • 障害補償給付:後遺障害が残った場合の補償
  • 遺族補償給付:労働者が死亡した場合の遺族への補償

これらの給付は、労働者が業務上または通勤中にケガをしたり、病気になったりした場合に生じた損害を補てんするためのものです

傷病手当金とは

傷病手当金は、健康保険に加入している被保険者が、業務外の病気やケガのために仕事を休み、事業主から十分な報酬を受けられない時に、生活の安定を図ることを目的とした制度です。

仕事に復帰できない期間、生計を支えるための給料の一部について補償を受けることができます。就業不能と診断された日が連続3日経過することで支給要件を満たし、4日目から支給が開始され、一定期間が経過するまで継続されます。

傷病手当金の対象となる被保険者は、以下の条件を満たす必要があります。

  • 被保険者であること
    傷病手当金金は、健康保険の被保険者(実際に働いて保険料を納めている人)にしか支給されません。その被扶養者(配偶者や子供)や国民健康保険の被保険者・被扶養者には支給されません。
  • 病気やケガのために仕事を休んでいること
    業務上や通勤途中での病気やケガは労災(労災保険)の給付対象となります。なお、美容整形手術など健康保険の給付対象とならない治療のための療養は除きます。
  • 連続して3日間を超えて仕事を休んでいること(待期期間)
    療養を理由に休み始めた日から3日間(待期期間)を除いて、4日目からが支給対象です。
  • 給与の支払いがないこと
    休業した期間について給与等の支払いがないことが必要です。ただし、給与が部分的に支払われている場合は、傷病手当金から給与支給分を減額して支給されます。

傷病手当金の支給額は、標準報酬日額の2/3に相当する金額が支給されます。標準報酬日額とは、直近の12ヶ月間の標準報酬月額を平均し、それを30で割った金額です。

労災保険、傷病手当金の具体例

例えば、会社の業務中に転倒して足を骨折したAさんは、労災保険から治療費として病院費用全額と、休業中の給料相当額が支給されます。一方で、休日に自宅で階段から落ちて同様に足を骨折したBさんは、傷病手当金として給料の約67%が支給されることになります。

労災保険と傷病手当金は一緒にもらえる?

労災保険と傷病手当金は、どちらも病気やケガで仕事を休んだ時の所得を補償する制度ですが、一緒にもらうことはできません。

労災保険の休業補償は、仕事中や通勤中に起きたケガや病気に対して給付されるのに対し、健康保険の傷病手当金は、仕事以外が原因のケガや病気の場合に支払われます。つまり、同じケガや病気で、労災保険と傷病手当金の両方から給付を受け取ることはできないのです。

基本的に、労災保険の対象になるケガや病気で会社を休んだ場合、傷病手当金は支給されません。これは、同じ理由で2つの制度から二重に補償を受けるのを避けるためです。労災保険の休業補償が優先して適用され、傷病手当金は払われない仕組みになっています。

労災保険と傷病手当金の重複受給の例外ケース

ただし、例外的なケースもあります。労災保険の休業補償給付が、傷病手当金の支給額よりも少ない場合、その差額分については傷病手当金を受け取ることができます。

具体的な計算例を見てみましょう。

  • 標準報酬月額:300,000円
  • 給付基礎日額:10,000円
  • 労災保険の休業補償給付(日額):8,000円(給付基礎日額の80%)
  • 傷病手当金の支給額(日額):6,667円(標準報酬日額の2/3)

この例では、労災保険の休業補償給付が傷病手当金の支給額を上回っているため、傷病手当金は支給されません。仮に、労災保険の休業補償給付が5,000円だった場合、差額の1,667円(6,667円 – 5,000円)が傷病手当金から支給されることになります。

労災保険と傷病手当金の併給調整は、実務上は労災保険の保険者(労働基準監督署)と健康保険の保険者(全国健康保険協会や健康保険組合)間で行われます。被保険者本人が個別に調整する必要はありません。

ただし、労災保険の請求が遅れたために、その間に傷病手当金を受給してしまった場合などは、後日、健康保険の保険者に報告し、調整する必要があります。

労災保険と傷病手当金はどっちが得?支給額の計算方法

病気やケガで仕事を休まなければならない時、働けない期間の収入をどう補償してもらえるのか気になるものです。ここからは、労災保険と傷病手当金、それぞれの支給額の計算方法を見ていきましょう。

労災保険の支給額

労災保険の休業補償は、1日につき労働者の給付基礎日額の80%が支給されます。給付基礎日額は、過去3ヶ月間の賃金の合計をその期間の総日数(暦日数)で割ったものです。

例えば、過去3ヶ月間で総賃金が600,000円で、その期間の総日数(暦日数)が90日とすると、給付基礎日額は600,000円 ÷ 90日 = 約6,666.7円となります。その80%を取ると、労災保険の休業補償の日額は6,666.7円 × 0.8 = 約5,333円となります。

傷病手当金の支給額

健康保険の傷病手当金は、1日につき標準報酬日額の2/3が支給されます。標準報酬日額とは、標準報酬月額を30で割った金額のことで、直近12ヶ月間の平均です。支給開始は病気やケガで労務不能となってから4日目からで、最初の3日間は支給されません。

例えば、標準報酬月額が300,000円の場合、1日あたりの標準報酬日額は300,000円 ÷ 30日 = 10,000円となります。その2/3を取ると、傷病手当金の日額は10,000円 × 2/3 = 約6,667円となります。

労災保険と傷病手当金の期間はいつからいつまで?支給期間

病気やケガで仕事を休んだ時、労災保険と傷病手当金の支給期間はどのようになっているのでしょうか。以下に、それぞれの制度の支給期間について詳しく説明します。

労災保険の支給期間

労災保険の休業補償は、労働者の仕事中に発生した怪我や病気による休業4日目から支給されます。

支給期間は、療養のために休業が必要な期間中支給されます。療養が終わるまで、あるいは症状が固定するまで、長期にわたって補償を受けられるのが特徴です。ただし、療養開始後から1年6ヶ月経過しても怪我や病気が治っておらず、傷病等級表の傷病等級に該当する障害がある場合には、傷病(補償)年金が支給されます。

傷病手当金の支給期間

健康保険の傷病手当金は、病気やケガが原因で仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)を経過した後、4日目から支給が開始されます。

支給期間は、支給開始日から最長1年6ヶ月です。ただし、1年6ヶ月経過後も病気やケガが治癒せず、引き続き仕事に就けない状態が続く場合は、障害年金の対象になる可能性があります。

具体的な例を見てみましょう。

【例1】労災保険の場合

建設現場で働く Aさんが、仕事中に足場から転落し、骨折しました。

労災保険の休業補償給付は、休業4日目から支給されます。そして、骨折が完治するまでの必要な期間、補償が続くのです。

【例2】傷病手当金の場合

事務職の Bさんが、くも膜下出血で倒れ、入院することになりました。

この場合、会社を休み始めた日から連続する3日間は待期期間となり、傷病手当金は支給されません。4日目から傷病手当金の支給対象期間となります。ただし、支給期間は通算1年6ヶ月までと限られています。

労災保険と傷病手当金の申請方法

労災保険と傷病手当金は、申請方法が異なります。それぞれの制度に応じた手続きが必要になるので、詳しく見ていきましょう。

労災保険の申請方法

労災保険の申請は、原則として事業主が行います。労働者が業務上の事由または通勤により負傷したり疾病にかかったりした場合、事業主は遅滞なく労働基準監督署長に届け出なければなりません。

具体的な手続きは以下の通りです。

  • 従業員が「療養補償給付たる療養の給付請求書」や「休業補償給付支給請求書」などの必要書類を労働基準監督署に提出
  • 事業主が「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出
  • 労働基準監督署が必要な調査を実施
  • 労働基準監督署長が労災保険給付の支給・不支給を決定
  • 支給決定されると労働基準監督署から保険給付が支払われる

労災保険の申請に必要な書類は、事業主が準備することになります。労働者としては、医師の診断書や事故の状況を説明する書類などを事業主に提出する必要があります。

傷病手当金の申請方法

傷病手当金の申請は、原則として被保険者本人が行います。具体的には以下のような手続きが必要です。

  • 被保険者が「傷病手当金支給申請書(療養担当者記入用)」を医療機関に提出
  • 医療機関が診療内容などを記入し、被保険者に返却
  • 被保険者が事業主に「傷病手当金支給申請書(事業主記入用)」を提出し、事業主が休業期間などを証明する
  • 被保険者が「傷病手当金支給申請書」を健康保険組合等に提出
  • 健康保険組合等が審査し、傷病手当金を被保険者に支給

このように、労災保険は労働基準監督署、傷病手当金は健康保険組合等といったように申請先が異なります。

労災保険と傷病手当金に関するよくある質問

労災と傷病手当金は同時に申請できる?

労災保険と傷病手当金は、同時に申請することが可能です。ただし、先に説明したように、原則として併給はできません。労災保険の休業補償給付が優先され、不足分があれば傷病手当金で補填される仕組みになっています。

労災なのに、傷病手当金をもらってしまったら

労災認定を受けているにもかかわらず傷病手当金を受け取ってしまった場合、受給された傷病手当金の返還が必要です。もし、傷病手当金を誤って受け取った場合、速やかに管轄の健康保険組合等に連絡を取り、過払い金として返還する必要があります。返還手続きは健康保険組合等によって異なります。

うつ病で労災はもらえる?

うつ病でも、労災保険の対象になる場合があります。業務上の事由により発症したうつ病と認められれば、労災保険の給付を受けられます。
申請手続きは複雑であり、以下のような書類が必要です。

  • 医師の診断書:うつ病の診断とその原因が業務に関連していることを明記した医師の証明。
  • 業務内容の説明資料:職場の業務内容、特にストレスが多い環境や過重労働があることを証明する資料。
  • 同僚や上司からの証言や証明:実際の労働環境を証明するため、関連する同僚や上司からの証言や書面による証明。

労災保険と傷病手当金の支給に関する注意点

労災保険の支給を受けるには、まず事故や病気が仕事に起因するということを明らかにする必要があります。これには、事故発生の状況、目撃者の証言、医師の診断書などの多くの証拠が求められます。

一方、傷病手当金は労災とは異なり、仕事以外の原因である病気や怪我がある場合に支給を受けることができますが、こちらも適切な医師の診断が必要です。それぞれの手続きを進める際には、指定された期間内に必要書類を提出し、適切な申請を行うことが重要です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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