• 作成日 : 2024年6月21日

法定福利費をざっくりと計算!建設業の見積書の作り方を解説

法定福利費とは、労働者を雇用する際に企業が負担しなければならない費用のことです。健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料などが含まれ、これらは法律で定められているため、「法定」という言葉が使われています。特に建設業界では、法定福利費を適切に計上し、支払うことが求められています。

この記事では、法定福利費の意味や計算方法、建設業における見積書への明示の必要性、作成手順、注意点などについて詳しく解説します。

※本記事では、2024年度(令和6年度)の保険料率を紹介しています。

法定福利費とは?

法定福利費は、労働者を雇用する際に企業が負担しなければならない費用で、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、児童手当拠出金、労災保険料などが含まれます。これらは法律で定められており、企業は労働者の福利厚生のために支払う義務があります。

福利厚生の「法定福利費」と「福利厚生費」の違い

福利厚生には、「法定福利費」と「福利厚生費」の2種類があります。

法定福利費は前述の通り、法律で定められた強制的な費用です。一方、福利厚生費は、法定外福利費とも呼び、企業が独自に行う任意の福利厚生のための費用で、社員旅行やレクリエーション、慶弔見舞金などが含まれます。これは、労働者のモチベーション向上、職場環境の改善、人材の確保・定着などを目的として行われます。企業の財政状況や方針によって、その内容や水準は異なります。

法定福利費をざっくりと計算

法定福利費の金額は、労働者の賃金に一定の保険料率を乗じて算出されます。ここでは、主な法定福利費の計算方法を簡単に説明します。

社会保険保険料率企業負担個人負担
健康保険10%5.00%5.00%
厚生年金18.30%9.15%9.15%
雇用保険1.85%1.15%0.7%
介護保険1.6%0.8%0.8%
児童手当拠出金0.36%0.36%
労災保険1.7%1.7%

健康保険料

健康保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じて算出します。保険料率は、労使折半で全国健康保険協会管掌健康保険の場合、都道府県ごとに異なりますが、平均して約10%です。

例:標準報酬月額が30万円の場合

健康保険料 = 30万円 × 10% = 3万円(労使折半なので、会社負担分は1.5万円)

厚生年金保険料

厚生年金保険料も、標準報酬月額に保険料率を乗じて計算します。2024年度の保険料率は18.3%で、労使折半となります。

例:標準報酬月額が30万円の場合

厚生年金保険料 = 30万円 × 18.3% = 5.49万円(労使折半なので、会社負担分は2.745万円)

雇用保険料

雇用保険料は、労働者の賃金総額に保険料率を乗じて算出します。2024年度の一般の事業の場合、労働者負担分が0.7%、会社負担分が1.15%です。

例:賃金総額が30万円の場合

雇用保険料 = 30万円 ×1.15%=3,450円(会社負担分)

介護保険料料

介護保険料は、40歳以上の労働者について、標準報酬月額に介護保険料率(1.6%)を乗じて算出します。労使折半となります。

例:40歳以上の労働者の標準報酬月額が30万円の場合

介護保険料 = 30万円 ×1.6%=4,800円(労使折半なので、会社負担分は2,400円)

児童手当拠出金

児童手当拠出金は、労働者の賃金総額に拠出金率(0.36%)を乗じて計算します。

例:賃金総額が30万円の場合

児童手当拠出金 = 30万円 × 0.36% = 1,080円(会社負担)

労災保険料

労災保険料は、労働者の業種や事業規模によって異なる料率を、賃金総額に乗じて算出します。建設事業の場合、2023年度の料率は3.5%です。

例:建設業の賃金総額が30万円の場合

労災保険料 = 30万円 ×1.7%=5,100円(会社負担)

これらの計算例は、あくまでも簡単な目安です。実際の計算では、標準報酬月額の等級や各保険料率の変更などを考慮する必要があります。

※標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料や報酬額を算定するための基準となる金額のことです。具体的には、労働者の毎月の給与や賞与などの報酬を一定の算式で平均化し、さらに一定の等級区分に当てはめて決定された金額を指します。

建設業で法定福利費を明示した見積書が必要になる理由

建設業界では、法定福利費を明示した見積書の提出が義務付けられています。この背景には、建設業における労働者の福利厚生の確保と、公正な競争環境の実現という大きな目的があります。

近年、建設業界では労務費の削減を目的とした不適切な工事価格の設定が問題視されてきました。法定福利費は労働者の社会保険料等に充てられるべきものですが、見積書に明示されていない場合、これらの費用が適切に支払われない恐れがあります。その結果、労働者の福利厚生が損なわれるだけでなく、法定福利費を適切に計上している事業者との間で不公平な競争が生じることになります。

こうした問題に対応するため、国土交通省は法定福利費を内訳明示した見積書の活用を推進してきました。さらに、この改正により、元請け業者は下請け業者に対し、法定福利費を内訳明示した見積書の提出を求める必要があります。また、下請け業者は、元請け業者から請求のあった場合、法定福利費の内訳を明示した見積書を提出しなければなりません。

法定福利費を明示した見積書の作成手順

法定福利費を適切に計上するために、見積書への明示が義務付けられています。ここでは、法定福利費を明示した見積書の作成手順を説明します。

手順1:工事に必要な労務費を算出する

まず、工事に必要な労働者の人数と、その労働者に支払う賃金を算出します。これは、工事内容毎に必要な工数と平均的な賃金を用いて計算します。

手順2:法定福利費の額を計算する

次に、手順1で算出した労務費を基に、法対象となる社会保険の保険料率を乗じて、法定福利費を算出します。具体的な計算式は次の通りです。

法定福利費=労務費総額×法定保険料率

健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料などの保険料率を乗じて算出します。介護保険料や児童手当拠出金についても、必要に応じて計算に含めます。

手順3:見積書に法定福利費の内訳を明示する

計算した法定福利費の額を、見積書の中で内訳として明示します。

内訳を明示した法定福利費の合計額を、見積書の総額に上乗せします。これにより、法定福利費を含めた適切な工事価格が提示されます。

手順4:見積書を提出する

作成した見積書を、元請け業者や発注者に提出します。元請け業者の場合は、下請け業者から提出された見積書に法定福利費が適切に計上されているか確認が必要です。
以上が、法定福利費を明示した見積書の作成手順です。見積書の作成にあたっては、適用される保険料率や労務費の算出根拠などを十分に理解し、正確な計算を行うことが求められます。

法定福利費の見積書作成の注意点

元請け業者である場合

元請け企業の方は、下請けに発注する際に「見積書に必ず法定福利費を記載してください」と伝えることが重要です。また、下請け業者から提出された見積書に法定福利費が適切に計上されているかを確認する必要があります。具体的には、以下の点に注意します。

  • 法定福利費の内訳が明示されているか
  • 法定福利費の額が適切に計算されているか(労務費に対する保険料率等)
  • 法定福利費が見積書の総額に含まれているか

法定福利費が適切に計上されていない場合は、下請け業者に見積書の修正を求めます。

下請け業者である場合

下請け企業の方は、見積書に必ず法定福利費を記載することが必要です。法定福利費を明示しないと、元請け企業からの発注を受けられない可能性があります。

具体的には、以下の点に注意します。

  • 労務費の算出根拠が明確であること(労働者数、賃金水準等)
  • 法定福利費の計算が正確であること(保険料率の適用等)
  • 法定福利費の内訳が適切に明示されていること

その他の注意点としては、法定福利費は消費税の対象になるため、消費税を含めた金額を見積もりに記載することが必要です。また、法定福利費の計算には、各種社会保険の保険料率が必要となりますが、これらの率は都道府県や年度によって異なるため、最新の情報を確認することが重要です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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