- 作成日 : 2024年12月19日
一人親方は健康保険に加入すべき?国保と建設国保の違いや選び方も解説
一人親方にとって、健康保険の加入は傷病による経済的リスクに備えるために必要です。一人親方が健康保険への加入を検討する際は、市町村が運営する国民健康保険と、組合によって運営される建設国保などから選択をします。
本記事では、一人親方が加入する保険制度について説明した上で、それぞれの保険料や給付内容、手続きの流れを解説します。
目次
一人親方は健康保険に加入すべき?
一人親方に限らず、健康保険の加入は国民としての義務であり、健康リスクに備えるためにも必要不可欠です。
健康保険の加入形態は、事業規模や従業員数によって異なります。法人であれば、従業員数にかかわらず社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入が義務付けられています。個人事業主の場合、従業員を5人以上雇用している場合は原則として強制加入となりますが、それ以外であれば加入は任意です。
社会保険の適用事業所で雇用されている場合、個人で改めて健康保険に加入をする必要はありません。しかし、会社と雇用関係を結んでいない一人親方の場合、自分自身で健康保険に加入をする必要があります。
健康保険は原則として加入が必須ですが、加入することで以下のようなメリットが得られます。
- 医療費の自己負担額が3割以内に抑えられる
- 高額医療費が掛かる場合の負担軽減制度が利用できる
- 出産や葬祭費用の補填が受けられる
特に一人で事業を営んでいる一人親方の場合、健康保険に加入することで傷病による経済的リスクに備えることができます。
一人親方が加入できる健康保険の種類は?
一人親方が選択できる健康保険制度としては、市町村が運営する国民健康保険(以下、市町村国保)と、建設国保があります。また、75歳以上である場合には後期高齢者医療制度に加入することになります。ここからは、この3種類の保険について解説をします。
国民健康保険(国保)
市町村国保は、都道府県と市町村(特別区を含む)が運営する健康保険です。
他の健康保険(会社の社会保険や国保組合)に加入していない人を対象に、74歳までであれば職業を問わず加入できます。
加入条件は以下の通りです。
- 日本国内に住所を有する75歳未満の人
- 他の健康保険に加入していないこと
加入の際は居住する市町村、特別区の窓口によって手続きを行います。
保険料は主に前年の所得に応じて計算されますが、詳細な計算方法は自治体によって異なります。
給付内容としては、主に次のようなものが設けられています。
- 医療費の負担を軽減する療養給付
- 入院時の食費、生活費を負担する入院時食事療養費給付
- 高額医療費の負担を軽減する高額療養費制度
- 出産時一時金、葬祭費用の支給
ただし、社会保険では支給される傷病手当金や出産手当金などの制度は、市町村には支給が義務付けられていないため、多くの自治体では存在していないことには注意が必要です。
市町村国保は、他の健康保険に加入をしていないすべての人が対象となるため、一人親方が健康保険を選択する際にも考えられる一般的な候補として挙げられます。
国民健康保険組合(建設国保)
建設国保は、建設業界の組合員によって構成された組合組織による、建設業に従事する人を対象とした健康保険です。
事業の形態により加入条件が異なりますが、一人親方が加入する際の基本的な要件は以下の通りです。
【一人親方の加入要件】
- 建設業に従事していること
- 他の健康保険に加入していないこと
- 同一世帯の家族が市町村国保に加入していないこと
- 75歳未満であること
保険料は次の3つの要素により決定されるため、市町村国保と異なり所得金額による影響がありません。
【保険料の決定要素】
- 年齢
- 加入者の勤務形態(個人事業主、従業員、一人親方など)
- 同一世帯の人数(家族の人数と年齢に応じた加算)
給付内容には、市町村国保と同様の給付に加えて、建設国保特有の給付も設けられています。例えば、人間ドックや各種健診費用の補助の他、傷病により長期間入院した時の所得保障として入院手当金制度も用意されています。
建設業従事者に特化した健康保険であるため、市町村国保と比較して加入要件や審査が厳しい傾向にあります。しかし、メリットも多く感じられる保険制度であり、一人親方の健康保険加入の際の候補として挙げられます。
後期高齢者医療制度(75歳以上)
後期高齢者医療制度は、75歳以上の人(一定の障がいがある場合は65歳以上)を対象とした、各都道府県の広域連合が運営する健康保険制度です。これは任意で加入を選択するものではなく、年齢到達により自動的に加入となります。
75歳の誕生日から自動的に加入となり、それまで加入していた健康保険から移行します。保険料は前年所得に応じて計算され、原則として受給する年金額から天引きされます。
主な給付内容としては、医療費の窓口負担が原則1割(所得に応じて2割、または3割)となる療養給付があります。また、入院時の食事療養費給付や高額療養費制度も市町村国保と同様に利用できます。
設けられている制度は市町村国保と同じものが多いですが、基準金額の設定が異なる部分もあるため、75歳以降に制度を利用する際は改めて確認が必要です。
後期高齢者医療制度は選択して加入をするものではなく、自動的に加入するものであるため、一人親方であっても75歳(または65歳)以降は必ず入らなければならない保険です。
国保と建設国保はどちらがお得?
市町村国保と建設国保には、保険料の決定方法の他にも、給付内容や加入手続きにおいて違いがあります。それぞれについて、建設業の一人親方が加入する際にどちらがお得になるかを考えていきます。
保険料の比較
市町村国保と建設国保では、保険料の計算方法が大きく異なります。
市町村国保は、加入者全員に一律で課される均等割と、前年所得に応じて計算される所得割の合計で保険料が決まります。運営する自治体によって均等割の金額や所得割の率が異なる場合もありますが、基本的には所得割の比率が大きいため、所得が高くなるほど保険料も上がる仕組みです。さらに、同一世帯の家族も加入者として扱われるため、その分の均等割が加算され、所得に応じて所得割も課されます。
建設国保は前年所得に関係なく、加入者の年齢、勤務形態、家族の人数によって保険料が決定します。家族についても年齢に応じた一律の加算額が設定されており、家族に所得があっても追加の保険料は発生しません。
このような計算方法の違いから、前年所得が高い人や、家族も一定の所得がある世帯では、建設国保の方が保険料を抑えられる可能性が高いといえます。
一方で、市町村国保には所得が低い場合に減免制度が設けられていることもあり、所得が低い世帯は、市町村国保の方が保険料を安く抑えられる傾向があります。
給付内容の比較
給付内容としては、市町村国保の基本的な給付に加えて、建設国保では独自の給付が設けられています。
【共通する給付】
- 療養給付:診察を受けた際や、薬剤を購入した際の費用の負担(加入者の負担が3割以内)
- 高額療養費制度:1カ月の間に同じ医療機関での自己負担額が高額となった場合に、上限額を超えた部分を負担
- 入院時生活療養費の一部を負担
- 出産一時金の支給
- 葬祭費の支給
【建設国保独自制度】
- 入院給付金や出産手当金の支給(入院や出産による休業時の所得保障)
- 人間ドックや各種健診費用の補助
- 市町村国保よりも手厚い出産一時金や葬祭費の支給
市町村国保は基本的な療養や入院時の給付が中心であり、出産や傷病時の所得を補填するような給付はありません。
建設国保では出産や傷病時の支給制度もあるため、給付内容の比較としては市町村国保よりも充実しているといえます。
加入手続きの比較
手続きの面では、市町村国保の方がシンプルです。
他の健康保険から市町村国保に加入する場合、健康保険資格喪失証明書、本人確認書類、マイナンバーを用意して、居住する市区町村の窓口に持参すれば基本的に加入ができます。
※詳細な手続きの流れは市区町村により異なる場合もあります。
建設国保は、手続きや必要書類が市町村国保と比較して煩雑です。
基本的な手続きの流れと必要書類は以下の通りです。
【加入手続き】
- 建設国保支部に加入の連絡
- 必要書類の取り寄せ
- 添付書類の用意
- 郵送等による申請
- 審査
【必須書類】
- 世帯全員の住民票
- 加入者本人及び同一世帯者の被保険者証、資格確認書、資格情報のお知らせのいずれかの写し
- 業種/業態が確認できる書類 (一人親方の場合は所得税の確定申告書)
※家族の状況などにより追加書類が必要な場合もあります。
手続きや必要書類は支部によって異なることもあるため、加入の際は居住する地域の支部に確認が必要です。
また、建設国保は限られた人に向けた健康保険であるため、審査が厳格で時間を要する場合もあります。
手続きの簡便さを考えた場合には、市町村国保の方が加入が容易であると考えられます。
国保と建設国保のメリット・デメリットを整理
一人親方の健康保険選びでは、市町村国保と建設国保それぞれにメリットとデメリットがあります。自身の収入状況や家族構成と照らし合わせて、最適な選択をすることが重要です。
国保のメリット・デメリット
市町村国保のメリットとしては、加入手続きが簡単で、用意する書類も少なく済むことです。また、前年の所得が少ない場合は保険料が安くなり、一定の所得を下回ると保険料の軽減制度も適用されることがあります。さらに、転職をした際も手続きが不要で、継続して加入できる点も利点の1つです。
一方、デメリットとしては、前年の所得が高い場合は保険料も高額になり、家族の所得にも保険料が加算される点があります。さらに、原則として傷病手当金など所得保障の制度はなく、健診費用の負担などの保健事業も限定的であることが挙げられます。
建設国保のメリット・デメリット
建設国保のメリットとしては、まず所得の多寡に関係なく、保険料が年齢、勤務形態、家族数に応じて一定であり、家族の所得による追加保険料も発生しない点が挙げられます。また、入院時や出産時などの給付制度が充実している点や、人間ドックや健康診断への補助が手厚いことも特徴です。
一方、デメリットとしては、加入時の手続きが煩雑で、用意する書類が多く、審査も厳格に行われる点が挙げられます。また、収入が少ない場合でも保険料が定額なため、市町村国保よりも負担が大きくなる可能性があります。さらに、建設業から離れると加入資格を失ってしまうため、その際は新たに手続きが必要です。
保険料の支払いが困難になる場合は?
健康保険の保険料負担が難しくなった場合でも、市町村国保や建設国保にはさまざまな免除制度があります。以下に、各制度の概要と条件についてご紹介します。
国保の保険料免除制度
世帯の所得状況に応じた均等割額の軽減制度があり、最大で7割までの軽減が可能です。さらに未就学児は均等割額が半額となり、所得による軽減と組み合わせることで最大8.5割まで軽減されます。
また、非自発的失業者への軽減制度や、被災者への減免制度なども整備されています。これらの制度は基本的に申請が必要で、条件を満たせば適用されます。
建設国保の保険料減免制度
建設国保では、主に災害による減免制度が設けられています。火災や自然災害により甚大な損失を受けた場合、損失の程度に応じて一定期間、保険料の支払いが免除されます。
また、家族が多い世帯への配慮として、5人目以降の家族保険料が免除される制度もあります。
一人親方が健康保険以外に加入すべき制度は?
一人親方にとって健康保険の加入は原則として必須ですが、それ以外にも加入すべき制度を3つ紹介します。
国民年金
- 日本に居住する20歳以上60歳未満の方は原則必須加入
- 毎月一定額の保険料の支払い
- 老齢年金、障害年金や遺族年金を受給するために必要
国民年金は将来の生活保障として重要な制度です。
一人親方労災保険
- 業務中や通勤中の事故による傷病を補償
- 選択した労災給付日額により保険料が決定
一人親方は一般的な労災保険の適用外であるため、特別加入により労働災害リスクに備える必要があります。
工事保険
工事保険とは、工事現場での事故により発生した次の3つの損害補償のための保険の総称です。
- 資材や施工物、機材への損害に対する補償
- 第三者への損害に対する補償
- 従業員や下請け会社の怪我に対する補償
保険の種類により補償範囲が異なるため、業務の内容により工事保険から適切な種類を選ぶ必要があります。
一人親方の健康保険は、国保か建設国保かでじっくり検討を
一人親方は会社の従業員と違って社会保険に加入をしないため、健康保険の加入が疎かになりがちです。しかし、一人で事業を営む一人親方だからこそ、傷病による経済的リスクを軽減するために健康保険に加入することは重要です。
選択肢としては市町村国保や建設国保があり、それぞれ保険料や給付内容、加入手続きに違いがあります。保険料の面では、所得金額や家族構成によってメリットを得られる保険が異なるため、試算することで保険を選ぶ際の目安になります。
それぞれの保険の特徴を理解して、自分にメリットのある保険を選択しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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