- 作成日 : 2024年12月27日
建退共とは?制度内容やメリットとデメリットを解説
建退共(建設業退職金共済制度)とは、建設業界で働く方々にとって重要な退職金制度です。
この記事を読むことで、制度の概要や事業主・従業員双方にとってのメリットとデメリットが明確に理解できます。
さらに、一人親方の加入可否や、建退共以外のおすすめ退職金制度についても紹介しています。建設業に携わる方々の将来設計や経営判断に役立つ情報が得られるでしょう。
目次
建退共(建設業退職金共済制度)とは?
建退共(建設業退職金共済制度)とは、建設業界で働く労働者のために国が設けた退職金制度です。
建設業は、工事現場ごとに雇用される期間が限られていることが多く、一つの会社に長期間勤務することが難しい業界です。そのため、通常の退職金制度では十分な退職金を確保することが困難でした。
建退共は、このような建設業の特性を考慮して設計された制度で、多くの建設労働者の生活保障に貢献しています。
建退共を契約できる事業主
建退共に加入できるのは、建設業を営む事業主です。
具体的には、以下のような事業主が対象となります。
- 建設業許可を受けている事業主
- 建設業を営む個人事業主
- 建設業を営む法人
- 建設業関連の団体(例:建設業協会)
建退共への加入はあくまで任意の制度ですが、公共工事を受注する際には、加入していると経営事項審査で加点評価されるという大きなメリットがあります。
建退共に加入できる従業員
建退共に加入できる従業員は、建設業に従事する労働者です。
具体的には以下のような方々が対象となります。
- 建設現場で直接作業に従事する労働者
- 現場監督や施工管理者
- 建設機械のオペレーター
- 設計・積算などの技術職
正社員だけでなく、臨時雇用者や日雇い労働者も加入することができます。ただし、事務職員や営業職員は原則として加入対象外となります。
建退共の掛金
建退共の掛金は、労働者が働いた日数に応じて事業主が納付します。掛金の金額は、2023年4月現在、1日あたり320円となっています。この掛金は、建設キャリアアップシステム(CCUS)と連携した電子申請や、証紙方式での納付が可能です。
掛金の納付方法には、以下の方法があります。
- 電子申請方式:CCUSと連携し、オンラインで効率的に掛金を納付します。
- 証紙方式:従来から用いられている方法で、手帳に証紙を貼付します。
建退共の加入者がもらえる退職金
建退共に加入した労働者は、建設業界での就労期間に応じて退職金を受け取ることができます。退職金の額は、掛金納付日数によって決まります。
退職金の計算方法は、以下の通りです。
掛金納付年数 | 退職金額(概算) |
---|---|
15年 | 約140万円 |
20年 | 約190万円 |
40年 | 約420万円 |
退職金の受給には、以下の特徴があります。
- 掛金納付日数が12ヶ月以上で退職金を受け取る権利が発生します。
- 複数の事業主のもとで働いた場合でも、掛金納付日数は通算されます。
- 60歳以上で退職した場合、または、55歳以上で建設業務に従事しなくなった場合に請求できます。
- 死亡退職の場合は、遺族が退職金を受け取ることができます。
建退共(建設業退職金共済制度)は一人親方も加入できる?
一人親方とは、個人事業主として建設現場で働く人を指します。通常、一人親方は従業員ではないため、建退共(建設業退職金共済制度)に直接加入することはできません。
しかし、一人親方を集めて任意組合を設立するか、一人の従業員として既存の任意組合に加入することで、建退共に加入できるようになります。
一人親方が建退共に加入することで、将来の退職金が確保できたり、建設業界での長期的なキャリアプランが立てやすくなるといったメリットがあります。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入するメリットは?
建退共(建設業退職金共済制度)に加入することで、事業主と従業員のそれぞれにメリットがあります。
事業主にとってのメリット
事業主にとってのメリットは、以下の通りです。
公共工事の入札に有利になる
建退共に加入することで、公共工事の入札において優遇される可能性が高まります。
多くの自治体や公共機関では、建設業者の評価基準の一つとして建退共への加入状況を考慮しています。これは、従業員の福利厚生に配慮している企業として評価されるためです。
特に大規模な公共工事や長期的なプロジェクトにおいては、建退共加入が入札の必須条件となっているケースも少なくありません。
掛金を全額損金に算入できる
建退共の掛金は、全額を法人税法上の損金として扱うことができます。これにより、事業主は税務上の恩恵を受けることが可能です。
具体的には、建退共の掛金を支払うことで、その分だけ課税対象となる利益が減少し、結果として納税額を抑えることができます。
この税制優遇措置は、中小企業の経営者にとって特に魅力的な点といえるでしょう。
国からの補助で掛金の負担を軽減できる
建退共制度では、国からの掛金助成を受けることができます。助成金の額は年度や予算によって変動しますが、通常、掛金の5〜20%程度が助成されます。
この制度により、事業主の経済的負担が軽減され、より多くの従業員に対して退職金制度を提供することが可能となります。
従業員にとってのメリット
従業員にとってのメリットは、以下の通りです。
安全で確実性の高い退職金制度
建退共は国が運営する制度であるため、民間の退職金制度と比較して安全性が高いといえます。
企業の倒産や経営悪化による退職金の未払いリスクがなく、確実に退職金を受け取ることができます。また、建設業界特有の職場移動の多さに対応しており、複数の事業所で働いた場合でも、それぞれの勤務期間を通算して退職金が計算されます。
これにより、建設業で働く従業員は長期的な視点で安心して退職後の生活設計を立てることができます。
通算制度により転職後も期間が通算される
建設業界では、プロジェクトごとに異なる事業所で働くことが一般的です。建退共では、この業界の特性を考慮し、複数の事業所での勤務期間を通算する制度を設けています。
具体的には、前の職場を退職してから1年以内に新しい職場で再び建退共に加入すれば、それまでの勤務期間が継続されたものとして扱われます。
この通算制度により、建設業で働く人々は、キャリアを通じて着実に退職金を積み立てていくことができます。
加入者特典や優待サービスが受けられる
建退共の加入者は、様々な特典や優待サービスを利用することができます。
例えば、全国の提携宿泊施設での割引サービスや、レジャー施設の利用料金の割引などがあります。また、健康診断の割引や、各種保険商品の優遇なども受けられることがあります。これらの特典は、従業員の福利厚生の充実につながり、日々の生活の質の向上に寄与します。
さらに、建設業界における技能向上のための各種セミナーやワークショップへの参加機会が提供されることもあり、キャリアアップにも役立ちます。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入するデメリットは?
一方、建退共(建設業退職金共済制度)に加入するデメリットもあります。
事業主にとってのデメリット
従業員にとってのメリットは、以下の通りです。
掛金を負担する必要がある
建退共に加入する事業主は、従業員1人あたり日額320円の掛金を負担しなければなりません。この金額は決して安くはなく、特に小規模な建設業者にとっては経営を圧迫する可能性があります。
例えば、10人の従業員を抱える会社が月20日稼働した場合、月額64,000円の掛金負担が発生します。年間では768,000円にもなり、これは無視できない金額です。
また、建設業界は景気の変動や季節的要因により仕事量が変動しやすい特徴があります。そのため、安定した収入が得られない時期でも掛金を支払い続けなければならないことが、事業主にとって大きな負担となる可能性があります。
一度契約したら減額や解約が難しい
建退共は一度加入すると、簡単に減額や解約することができません。
例えば、経営状況が悪化して掛金の支払いが困難になった場合でも、すぐに減額や解約ができないため、資金繰りを圧迫する可能性があります。
また、建設業界から撤退したり、事業規模を大幅に縮小したりする場合でも、既存の契約を維持し続けなければならないことがあります。
これは将来的な事業計画の変更や柔軟な経営判断の妨げになる可能性があります。
従業員にとってのデメリット
従業員にとってのメリットは、以下の通りです。
加入後1年未満では退職金がもらえない
建退共制度では、加入後1年未満で退職した場合、退職金を受け取ることができません。
例えば、ある従業員が11ヶ月間勤務した後に退職した場合、その間に事業主が支払った掛金は全て無駄になってしまいます。
建設業界では短期の雇用契約や季節労働者も多いため、従業員にとってはせっかく働いた期間の退職金が受け取れないという不満が生じる可能性があります。
死亡時の支給額が通常の退職金と変わらない
建退共制度では、加入者が死亡した場合の支給額が、通常の退職時と同じ金額になります。
例えば、ある従業員が20年間勤務した後に不幸にも事故で亡くなった場合、その遺族が受け取れる金額は通常の退職金と同額です。他の生命保険などと比較すると、遺族への保障が十分ではない可能性があります。
特に、建設業界は危険を伴う仕事も多いため、家族の生活を支えていた主な収入源を失った遺族にとって、この金額では十分な生活保障にならない可能性があります。
建退共(建設業退職金共済制度)以外でおすすめ退職金制度は?
最後に、建退共(建設業退職金共済制度)以外でおすすめの退職金制度もご紹介します。
ただし、以下に紹介する退職金制度は従業員向けのものであり、事業主である一人親方が加入できるものではないため、注意が必要です。
中退共(中小企業退職金共済)
中退共は、中小企業向けの国の退職金制度です。建退共と同様に、厚生労働省が所管する制度で、安全性と信頼性が高いのが特徴です。
中退共の主な特徴は、以下の通りです。
- 従業員300人以下または資本金3億円以下の中小企業が加入可能
- 掛金は月額5,000円から30,000円まで選択可能
- 掛金の一部に国の助成金が適用される
- 掛金は全額損金算入可能
- パートタイム労働者も加入可能
中退共は建設業以外の幅広い業種で利用できる点が、建退共との大きな違いです。また、掛金の設定が柔軟で、企業の経営状況に応じて調整しやすいのも魅力の一つです。
企業型確定拠出年金
企業型確定拠出年金は、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員自身が運用方法を選択する年金制度です。退職金制度としても機能し、近年導入する企業が増えています。
企業型確定拠出年金の主な特徴は、以下の通りです。
- 企業が拠出した掛金を従業員自身が運用
- 運用益に対する特別法人税が当面非課税
- 掛金は全額損金算入可能
- 60歳まで原則として引き出しができない
- 転職時にも資産を持ち運びできる
企業型確定拠出年金は、従業員の自助努力を促す制度として注目されています。また、運用次第で高い退職金を期待できる可能性があるのも特徴です。
各制度にはそれぞれ特徴があり、企業の規模や業種、従業員の構成などによって最適な制度が異なります。これらの制度も比較検討した上で、適切な退職金制度を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
バックオフィス業務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
工事台帳をエクセルで作成するには?無料テンプレートをもとに作り方を解説
工事台帳は、建設業者が行う工事の記録を管理するための文書で建設業法により作成が義務付けられています。本記事では、工事台帳をエクセルで作成する方法や、メリット・デメリットについて解説します。また、工事台帳を効率よく作成するための便利なエクセル…
詳しくみる電子帳簿保存法の対応はGoogleドライブでも可能?適切な対応方法やWorkspaceのプランを解説
ビジネス・組織向けに提供されているGoogle Workspaceサービス内のGoogleドライブを活用することで、電子帳簿保存法に対応した書類の管理が可能です。 この記事では、Googleドライブがどのように電子帳簿保存法に対応しているか…
詳しくみるフリーランス新法とは?建設業界における対象者や求められる対応を解説
フリーランス新法とは、個人で企業などから業務の委託を受けて働くフリーランスの労働環境を整備するために新設された法律です。フリーランス新法が施行されると、建設業もその適用対象となります。 本記事では、フリーランス新法の概要や、建設業界における…
詳しくみる建築工事の工程表の種類と違い!テンプレート、書き方のポイント
建築工事の工程表には複数の種類があり、それぞれに特徴があります。この記事では、バーチャート、ガントチャート、斜線式、ネットワーク、曲線式の5種類の工程表について、その特徴や選び方を解説します。また、工程表の書き方のポイントや、作成に役立つテ…
詳しくみる建設リサイクル法の届出を忘れた場合どうなる?罰金や罰則、届出方法まとめ
建設リサイクル法は、建設工事に伴う廃棄物のリサイクルを促進するための法律です。この法律に基づき、一定の規模以上の工事では事前に自治体に届出を行うことが求められます。しかし、万が一届出を忘れてしまった場合、どのような影響があるのでしょうか。罰…
詳しくみる再下請負通知書とは?作成が必要なケースや書き方のポイントを解説
再下請負通知書は建設業におけるグリーンファイル(安全書類)の一つです。建設工事における下請契約の状況を上位の注文者に報告するための重要な書類で、下請業者が作成し元請業者に提出します。建設工事の着工前に提出が必要とされ、工事の安全管理を確保す…
詳しくみる