- 更新日 : 2024年7月25日
労働災害で多い事例は?業種別の事例や防止方法を解説
労働災害とは、労働者が業務中や通勤中に被った事故やケガ、病気のことを指します。建設現場での墜落事故、工場での機械への挟まれ事故、オフィスでの転倒事故など、様々な事例があります。
労働災害は労働者の生命や健康を脅かすだけでなく、企業の生産性や社会的信用にも大きな影響を与えます。この記事では労働災害の種類や起こりやすい業種、具体的な事例や防止方法などについて詳しく解説します。
目次
労働災害とは?
労働災害とは、労働者が業務上の事由により負傷、疾病、障害、または死亡することを指します。労働者が職場で、または通勤中に被った事故やケガ、健康被害などが含まれます。
これらの事故は、労働者の生活や健康に深刻な影響を及ぼすだけでなく、企業の生産性や信頼性にも悪影響を及ぼします。そのため、労働災害の予防は、労働者の安全と健康を保護するため、そして企業の持続可能な経営を支えるために重要な課題となっています。
労働災害の種類
労働災害は、その発生原因や状況により、以下のような種類に分けられます。
- 業務災害:業務中に発生した事故による労働災害です。例えば、機械の操作中に手を挟む、重い物を持ち上げて腰を痛めるなどがあります。また、業務に起因してうつ病やストレス反応など労災認定の対象となる精神疾患と診断されたケースも認定される可能性があります。
- 通勤災害:通勤途中に発生した事故による労働災害です。例えば、自転車で通勤中に転倒して骨折する、電車のホームで足を滑らせて転倒するなどがあります。
- 職業病:特定の業務による長期的な影響により発症した疾病です。例えば、騒音の多い職場で働くことによる難聴、化学物質の取り扱いによる皮膚病などがあります (ただし、これは災害性のない労災となり、厚生労働省が定めた認定基準を満たした場合のみ認められます) 。
- 第三者行為災害:第三者の行為によって引き起こされた労働災害です。例えば、通勤中に他人の運転する車にはねられるなどが該当します。
労働災害が起こりやすい業種
労働災害が起きやすい業種として、特に建設業、運輸業、製造業が挙げられます。
建設業では、高所作業や重機の操作など、危険を伴う作業が多いため、墜落・転落事故や激突事故が頻発します。これらの事故は、労働者の安全と健康を脅かすだけでなく、企業の生産性や信頼性にも影響を及ぼします。というのも、労働災害を度々起こしてしまうと、社会からの信頼性が低下し、行政機関から取引停止などによる売上減少も起こり得るからです。
運輸業も労働災害が多い業種の一つで、特に交通事故や荷物の取り扱い中の事故が発生しやすいです。運搬中の交通事故はもちろんのこと、長時間の運転による腰痛や首の痛みが発生するケースもあります。
製造業では、機械による事故や、物質の取り扱い中の事故が発生しやすいです。また、製造業は、死亡災害及び休業4日以上の死傷災害が多い業種の一つです。
労働災害で多い事例
労働災害で最も多いのは、転倒事故です。特に、床が濡れていたり、油で滑りやすくなっていたりする場所や、段差のある場所では注意が必要です。
次に多いのが、高所から落ちる墜落・転落事故です。屋根の上や足場での作業中に転落したり、階段で踏み外したりするケースが多く見られます。
また、重い荷物を持ち上げる時に無理な姿勢で力むことによる、腰痛などの事故も頻繁に起こっています。急な動作や反動による怪我にも気をつけましょう。
機械を扱う作業では、手や指を挟まれたり、回転部分に巻き込まれたりする事故もあります。
労働災害の発生状況
厚生労働省が発表した令和4年の労働災害発生状況によると、新型コロナウイルス感染症によるものを除いた死亡者数は774人で過去最少となった一方、休業4日以上の死傷者数は132,355人で過去20年で最多となりました。
業種別では、建設業、製造業、林業の死亡者数が減少した一方、陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設、飲食店の死傷者数が増加しました。事故の型別では、「転倒」と「動作の反動・無理な動作」による死傷者数が全体の4割を超え、60歳以上の死傷者数も全体の約4分の1を占めています。
製造業では死亡者数が前年比で増加し、「はさまれ・巻き込まれ」と「墜落・転落」による事故が多数を占めました。建設業の死亡者数は令和2年以降増加傾向にあり、「墜落・転落」が最多で、「激突され」と「飛来・落下」が前年比で大幅に増加しました。
陸上貨物運送事業の死傷者数は「墜落・転落」が最多で、「転倒」が増加傾向にあります。小売業、社会福祉施設、飲食店では、「転倒」による死傷者数が全体の3割以上を占める状況です。
労働災害の事例:建設業
建設業における労働災害事例をいくつか見てみましょう。
墜落・転落事故
- 足場からの墜落:足場の組立作業中や高所作業中に足場から墜落する事例があります。特に、足場の荷揚げのためホイストを使用して組み立てた後、休憩に入った作業者が、休憩後にホイスト取付け箇所を過ぎようとしたところ、バランスを崩し足場から墜落する事例が報告されています。
- 開口部からの墜落:開口部からの墜落も多く発生します。例えば、開口部に敷かれていたベニヤ板を踏み抜き墜落する事例や、手すり及び落下防止シートを取り外した足場上で、荷取り作業を行い墜落する事例があります。
- 建物との隙間からの墜落:建物と足場との隙間からの墜落事故も発生します。例えば、外周足場と建物ベランダとの間に手すりを設け、足場と建物の間の「渡り」を、階段状に設置した事例があります。
激突され
- ドラグ・ショベルの旋回:ドラグ・ショベルが急に旋回して作業者に激突する事例があります。具体的には、ドラグ・ショベルを用いて土のう(約330キログラム)を運搬中、つり荷が揺れながら旋回したため、玉掛け作業者に激突しそうになる事例が報告されています。
- 移動式クレーンの荷下ろし:移動式クレーンの荷下ろしの際に、ジブを伏せたときにクレーンが転倒し、ジブが作業者に当たりそうになる事例があります。
- かご台車に足をひかれる:米(約330キログラム)を載せたかご台車に足をひかれそうになる事例が報告されています。
- ホイールローダーにひかれる:丸太を運搬中のホイールローダーにひかれそうになる事例があります。
飛来・落下事故
建設現場では、作業中に物体が飛んできたり、落下したりする事故も発生します。例えば、工事用仮設ヤードの骨材仮置場で、作業員が残っていた骨材をスコップで掬いとって清掃片付けをしていたところ、仕切り板(敷鉄板)が倒れて近くで作業していた当該作業員の臀部にあたり、負傷した事例が報告されています。
労働災害の事例:製造業
製造業における労働災害事例をいくつか見てみましょう。
機械等によるはさまれ・巻き込まれ
- ボール盤災害:ボール盤で鋼材への穴あけ作業中、ドリル付近の切りカスをハケで取り除こうとして軍手がドリルに巻き込まれた事例があります。
- ローラー災害:鉄板の曲げ加工中、ローラーに皮手袋が巻き込まれて指を負傷した事例があります。
- スポット溶接災害:スポット溶接機で段取り作業中、起動スイッチを押してしまい、指をはさまれた事例があります。
- プレス災害:プレス機械の金型調整後、安全装置を無効にしたままでフットスイッチを踏んでしまい、金型にはさまれた事例があります。
- 金属加工用機械災害:研磨材の調整作業中、機械の運転を停止させずに行っていたため、研磨材に手をはさまれた事例があります。
- 産業用ロボット災害:自動化された装置にて部材の穴あけ加工作業中、部材をローラーコンベヤーに自動的に供給する材料投入機に頭部をはさまれた事例があります。
墜落・転落
- 工場内のピットに墜落:暗い工場内を歩行中、注意が足りずにピットに墜落する事例が報告されています。
- フォークリフトと共にピット内に転落:運搬した廃材を焼却場のピットに落とす作業中、フォークリフトと共にピット内に転落し死亡する事例があります。
- 足を踏み外して墜落:鉄骨の塗装作業中、足を踏み外して墜落する事例が報告されています。
労働災害の事例:運輸業
運輸業における労働災害事例をいくつか見てみましょう。
墜落・転落
- トラックのパワーゲートからの転落:トラックで製品を客先に届け、荷降ろしのため、製品を積んだロールボックスを後ろ向きに引いてストッパーにつまずき、トラックのパワーゲートから転落する事例があります。
- トラックの荷の上から転落:工場の出荷場で、4トン積みトラックの運転手が荷の積み込みを行い、荷に引っ掛かったシートを無理に引っ張り、トラックの荷の上から転落する事例があります。
- 高さ1メートルのトラックの荷台から墜落:トラック(2トン積み)で機械部品を各事所等へ配送する作業中、配送先で荷降ろし作業を行っていた際に、高さ1メートルのトラックの荷台から墜落する事例があります。
転倒
- トラックの荷台からの転倒:荷台からロールボックスパレットを下ろす際に転倒し、頭部を強打する事例があります。荷を押さえようとして足を滑らせた結果、転倒が発生しました。
- トラック内での転倒:トラックの運転席や荷台内での転倒事故も発生します。特に、運転席から降りる際や荷台での作業中に足を滑らせて転倒する事例が報告されています。
- 荷物の取り扱い中の転倒:重い荷物を持ち上げる際や荷物の運搬中に転倒する事例もあります。特に、荷物の重量を過小評価して無理な動作をした結果、転倒が発生する事例が報告されています。
動作の反動・無理な動作
- 重い荷物の持ち上げ:荷物の重さを勘違いしてギックリ腰になる事例があります。具体的には、倉庫から、段ボールに入った材料を台車で運び出すために重い荷物を不用意に持ち上げてしまったという事例が報告されています。
- ドラム缶の支え:倒れかかったドラム缶を支えてギックリ腰になる事例があります。具体的には、作業者が接着剤の入ったドラム缶(200kg)を支えようとした際に、荷の重量が予想以上に重かったという事例が報告されています。
- 台車の動き:台車の動きが悪く、無理に動かそうとして体を捻ってしまい、腰や背中を痛める事例があります。具体的には、荷受場で水のケース(72kg)を積んだ台車の動きが悪く、無理に動かそうとした結果、体を捻ってしまったという事例が報告されています。
労働災害が発生した時の事業者の対応
労働災害が発生した際、事業者は適切かつ迅速に、下記のような対応を行うことが求められます。適切な対応を行わないと、労災隠しとして罰則を受ける場合もあるため注意が必要です (労働安全衛生法120条) 。
- 現場対応:被災者の救護を優先し、直ちに最寄りの労災指定病院に、それが難しければ一般の病院に、乗用車等で被災者を搬送します。重傷であれば、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。その後、被災労働者の家族にも速やかに連絡をします。
- 事故状況の把握・原因調査:事故の原因を把握し、再発防止策を策定するために、事故状況の詳細な調査を行います。
- 労災保険給付手続き:労働者が労働災害により負傷した場合などには、休業補償給付などの労災保険給付の請求を労働基準監督署長あてに行います。
- 労働基準監督署の調査:労災発生後は、労働基準監督署による立ち入り調査が行われる場合があります。労災の認否はこの結果をもとに判断されるため、事業主は誠実に対応すべき責任があります。
- 労働者死傷病報告の届出:事業主は、労災によって労働者が死亡又は休業した場合、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出しなければなりません。
- 再発防止策の策定:労働災害を発生させてしまった場合、災害の原因を分析し、再発防止対策を策定して実施することが重要です。
労災事故報告書のテンプレート
労働災害が発生した場合、事業者は以下のケースで労働災害事故報告書の提出義務があります。
- 労働者が労働災害により負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
- 労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
- 労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
- 事業場内での火災や爆発などの事故が発生した場合
これらの報告は、労働基準監督署長へ「遅滞なく」提出する必要があります。提出を怠ると、労災隠しとみなされ、法的な問題が生じる可能性があります (労働安全衛生法120条) 。
以下より、労災事故報告書のテンプレートは無料でダウンロードいただけます。
労災事故報告書の書き方や注意点は下記記事をご覧ください。
労働災害の事故を防止するには?
労働災害を防止するためには、事業者と労働者が一体となって取り組むことが不可欠です。具体的には、以下のような対策が有効でしょう。
安全衛生教育の実施
労働者が安全に作業を行うためには、安全衛生に関する教育が必要です。これには、作業手順の理解、危険物の扱い方、緊急時の対応方法などが含まれます。例えば、新入社員に対しては、業務内容に応じた安全教育を行い、既存の社員に対しては定期的な再教育を行うことが重要です。
リスクアセスメントの実施
作業に伴う危険性や有害性を見つけ出し、それらを除去または低減するためのリスクアセスメントが重要です。これにより、事故の可能性を事前に評価し、適切な対策を講じることができます。例えば、新たに導入する機械や設備、または作業手順の変更時には、リスクアセスメントを行い、必要な安全対策を講じることが重要です。
具体的な進め方としては、
- 労働災害につながる危険性、有害性を特定する
- 特定したリスクの重大性、発生頻度を分析する
- 分析した内容からリスクの対応優先度を決める
- 優先度が高いリスクから対策を進める
などです。
5Sの実施
5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ))は、職場環境を整え、事故の発生を防ぐための基本的な活動です。例えば、作業道具は決められた場所に戻す(整理)、作業道具の配置を工夫する(整頓)、作業後は必ず清掃する(清掃)、作業服は清潔に保つ(清潔)、ルールを守る(躾)などの活動を行います。
特別教育の実施
特定の危険性がある作業に従事する労働者に対しては、その作業に特化した教育を実施することが重要です。例えば、化学物質の取り扱いや高所作業、重機の操作など、特別な知識や技術が必要な作業については、専門的な教育を行います。
労働安全衛生法で定められている「危険または有害な業務」は、以下に記載する労働安全衛生規則第36条「特別教育を必要とする業務」で規定されています(以下は一例です)。
- 研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務
- アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等
- 最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転
- 最大荷重1トン未満のショベルローダー又はフォークローダーの運転
- 小型ボイラーの取扱いの業務
- つり上げ荷重が1トン未満の移動式クレーンの運転
KY活動の実施
KY活動(危険予知活動)は、作業前に現場の危険要因とそれによって発生するであろう災害について、作業者間で話し合う活動です。例えば、作業開始前に作業者全員で危険予知活動を行い、それぞれが危険要因を共有し、対策を話し合います。
メンタルヘルス対策の実施
労働者のメンタルヘルスを保つための対策も重要です。ストレス管理やハラスメント防止など、心の健康を保つための取り組みが求められます。例えば、定期的なメンタルヘルスチェックの実施や、カウンセリングの提供、ワークライフバランスの改善などの取り組みを行います。
フェイルセーフ、フールプルーフの仕組みの導入
エラーが発生したときにシステムが安全な状態に戻るフェイルセーフや、誤操作を防ぐフールプルーフの仕組みを導入することも労働災害を防止する有効な手段です。例えば、機械の操作ミスを防ぐための安全装置の設置や、誤って機械を起動させないようにするためのロックアウト・タグアウト(LOTO)システムの導入などがあります。
従業員の過重労働を防ぐ
過重労働は労働者の健康を害し、事故のリスクを高めます。適切な労働時間の管理と休息の確保が必要です。例えば、適切な休憩時間の設定や、長時間労働の防止のためのシフト制度の導入などがあります。
これらの対策を組み合わせ、継続的に実施することが、安全な職場環境の実現につながります。
労働災害の防止は、事業者と労働者が一体となって取り組むべき課題です。お互いに協力し、安全意識を高め合いながら、災害のない職場を目指していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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