- 更新日 : 2025年2月19日
災害損失とは?特別勘定や会計処理について解説
被災された事業者は災害損失だけでなく、復旧費用も負担しなければいけません。
そのような事態のため税金面で特別の優遇制度があります。
この記事では、優遇制度を受けるために必要な事項である災害損失の基本的な内容から、災害損失特別勘定に加えて引当金の会計処理、欠損金を説明していきます。
目次
災害損失とは
災害損失とは、商品や建物などの資産が災害による被害を受けた場合に生じる損失や費用のことです。
ここでいう災害とは、自然災害や人為的災害などの災害をいいます。災害の範囲については災害に該当するかどうかの判断が難しい場合もあります。
また、災害損失の対象となる損失や費用の額は災害により直接影響があるものに限られます。
具体例として、以下の損失や費用が災害損失に該当します。
災害の例 | 損失や費用の例 |
---|---|
地震により建物の一部が倒壊した | |
土砂崩れにより倉庫内が汚染され商品を破棄した |
上記は例のため、状況によってその他の損失や費用が考えられます。
また、災害損失に含まれないものは被災者への見舞金や被災による売上減少額などがあります。これらの費用は災害に直接関連しない費用のため災害損失に含まれません。
さらに、災害損失に該当する場合であっても、損害保険などで損失の額が補填される場合は災害損失になりません。災害損失の金額から保険の金額を差し引くことになります。
災害損失の会計処理
災害損失の会計処理は、被災した事業年度に損失額が確定している場合は「災害損失」とします。
また、被災した事業年度に損失額が未確定の場合は、災害損失の金額を見積もって「災害損失引当金」を繰り入れる会計処理を行い、翌年度に取り崩します。
※引当金計上後の翌年度でも損失の額が未確定の場合は、税金の特例があります。
また、「災害損失」や「災害損失引当金繰入損」などの費用の勘定科目は、以下の特別損失の表示要件を満たすことが多いため特別損失として損益計算書に表示します。
【特別損失の要件】
- 臨時の事象に起因すること
- 費用または損失が多額であること
上記の多額は、事業者の規模から金額的に判断することになります。災害で軽微な損失の場合は営業外費用などに表示することが考えられます。
災害損失にする場合
災害損失は、被災した事業年度に損失の額が確定しているときに計上します。
会計処理は、以下の2通りがあります。
- 被災した資産を取り崩すとともに損失を計上する
- 修繕費や撤去費用を計上する
まず、1つ目の資産を取り崩す仕訳は以下の通りです。
商品と車両を例とした仕訳です。
【商品を廃棄して災害損失を計上する仕訳】
【車両を廃棄して災害損失を計上する仕訳】
上記の車両の仕訳は、被災直前までの減価償却費を計上した場合の仕訳です。
資産にある車両を取り崩すとともに、減価償却累計額も取り崩します。借方に差額がでるため災害損失とします。
次に、修繕費や撤去費用を計上する仕訳は以下の通りです。
【修繕費や撤去費用を支払った場合の仕訳】
災害損失引当金にする場合
災害損失引当金は、被災した事業年度に損失額が確定していない場合に計上します。
以下の仕訳例では、費用の勘定科目を「災害損失引当金繰入額」として、引当金(負債)の勘定科目として「災害損失引当金」として説明していきます。
【仕訳の流れと解説】
まずは、被災した事業年度に損失の額を見積もり、災害損失引当金を計上します。
例として車を廃棄した場合と撤去費用を支払った場合を説明します。
【被災した事業年度に災害損失引当金を計上する仕訳】
上記の仕訳は、借方を費用の勘定科目である「災害損失引当金繰入額」として貸方は負債の勘定科目である「災害損失引当金」とします。金額は借方貸方どちらも同額で、被災を受けて直接損失になる見積金額や今後に発生する撤去費用や修繕費の見積金額を計上します。
なお、地震保険などの保険で補填される金額がある場合は、損失額から保険金額を差し引きます。
次に、被災した翌事業年度に、損失額や撤去費用が確定したら引当金から取り崩す仕訳を行います。
【車両を廃棄した仕訳】
上記の仕訳は、廃棄直前までの減価償却費を計上し、資産計上されていた車両を取り崩す仕訳です。それに従って減価償却累計額も取り崩します。
差額は、「災害損失」ではなく「災害損失引当金」とします。理由は、前年度に「災害損失引当金繰入額」として前倒しで費用計上しているためです。
【撤去費用を支払った場合の仕訳】
上記の仕訳も撤去費用を費用の勘定科目で処理せず災害損失引当金を取り崩します。
理由は、上記の車両の仕訳と同様に前年度に前倒しで費用計上をしているためです。
最後に、災害損失引当金に残額がある場合は引当金を取り崩して収益に計上します。
上記の仕訳は、当初の災害損失引当金の金額500万円から車両の損失分150万円と撤去費用300万円を差し引いた金額50万円を取り崩す仕訳です。この仕訳で災害損失引当金の残高はゼロになります。
なお、当初の引当金計上時の見積もり通りに損失や撤去費用が発生した場合は、引当金の残高がそもそもゼロになるため、戻入の仕訳は不要です。
災害損失の税務上の取り扱い
税務上では、上記の仕訳例のように会計で費用計上していることが前提になります。
特に、会計で費用計上することを税務の面から損金経理(そんきんけいり)といいます。
以下で述べる各費用や損失は、被災時に損金経理することで税務でも認められます。
災害により滅失・損壊した資産等
商品や店舗が被災したことにより、滅失・損壊した場合に生じる以下の費用は、損金経理することで損金の額になります。
資産の評価損
災害により棚卸資産や固定資産、一定の繰延資産に評価損が生じた場合は、損金経理することで税務上も損金の額になります。
評価損の例として以下があります。
- 前提
仕入価格10万円(帳簿価額)の木材は通常は販売価格15万円で販売できる。
しかし、大雨の影響で通常の状態で販売することができず、訳あり品として3万円で販売可能である。
- 評価損の金額
評価損7万円 = 帳簿価額10万円 - 時価3万円
上記の評価損を、「災害損失」や「商品評価損」などの勘定科目で損金経理することで税務でも損金の額になります。
復旧のために支出する費用
被災した固定資産を復旧するための支出は以下の取り扱いです。
- 被災資産についてその原状を回復するための費用は、修繕費となります。
- 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出する費用について、修繕費とする経理をしているときは、この処理が認められます。
- 被災資産について支出する費用(上記1又は2に該当する費用を除きます。)の額のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この処理が認められます。
資本的支出とは、その固定資産の耐用年数を延ばすような支出や新品同様に戻すような支出などです。
復旧のための費用は、上記の取り扱いのように修繕費として損金経理することで多めに損失として認められます。
災害損失特別勘定とは
災害損失特別勘定とは、税務で使われる勘定科目です。
内容的には会計でいう引当金の性質で、災害にかかる支出を前倒しで負債として計上するものです。
損金経理で重要なのは、災害損失特別勘定の相手勘定である「災害損失特別勘定繰入損」などの費用の勘定科目です。
なお、費用の勘定科目を「災害損失特別勘定繰入損」や相手勘定科目である「災害損失特別勘定」の文字通りの勘定科目を使わなくても、内容が同等であれば問題ありません。
ただし、申告時に「災害損失特別勘定に関する明細書」の添付が必要です。
つまり、税務に合わせて「災害損失特別勘定」などの勘定科目を使用しても問題なく、会計的に「災害損失引当金」などの勘定科目を使用しても問題ありません。
災害損失欠損金とは
そもそも欠損金とは一般的には赤字と呼ばれますが、法人税の課税所得がマイナスになることです。
災害損失欠損金とは、被災した事業年度の欠損金のうち、災害損失で生じた部分をいいます。青色申告を行う事業者であれば、災害損失欠損金は青色欠損金にも該当するため、繰戻還付の適用をどちらか選択することができます。
なお、繰戻還付とは、過去に納付した法人税を現在生じた欠損金にかかる法人税と相殺し、還付を受けることをいいます。簡単にいうと、過去に納付した法人税の一部を払い戻してもらうことです。
災害損失の仕訳を正しく理解しよう
災害損失について、会計面から税務の取り扱いまでを説明しました。
税務では、災害によって生じる損失や費用、撤去費用などのほとんどは損金として認められます。
その前提として、会計で費用計上しておくことが大切です。
よくある質問
災害損失とは何ですか?
商品や建物などの資産が災害による被害を受けた場合に生じる損失や費用のことを災害損失といいます。詳しくはこちらをご覧ください。
災害損失は損益計算書上どのように表記されますか?
「災害損失」や「災害損失引当金繰入損」などの費用の勘定科目は、一定の特別損失の表示要件を満たすことが多いため特別損失として損益計算書に表示します。詳しくはこちらをご覧ください。
災害損失特別勘定とは何ですか?
税務で使われる勘定科目で、内容的には会計でいう引当金の性質を持ち、災害にかかる支出を前倒しで負債として計上するものです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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