- 更新日 : 2026年1月15日
資産除去債務とは?仕訳や計算、見積変更の処理をわかりやすく解説
資産除去債務とは、固定資産を取得した際に、将来その資産を廃棄・除去するために必要な費用を見積もり、現在の負債として計上する勘定科目です。将来の「原状回復費用」や「解体費用」が財務諸表に可視化され、企業の財政状態が明確になります。
ただし、将来の除去費用の見積額が増減する場合には、その都度、資産除去債務の調整を行う必要があります。
ここでは、資産除去債務の概要や見積変更の方法、具体的な仕訳例について解説します。
目次
資産除去債務とは?
資産除去債務とは、将来における固定資産の除去に要する費用について、今のうちから負債として現在価値に割り引いて計上する方法のことです。
上場企業や大企業などでは、「資産除去債務に関する会計基準」に基づいて資産除去債務を適切に財務諸表へ反映する必要があるため、資産除去債務の概要やルールを正しく理解しておきましょう。
資産除去債務の概要
資産除去債務(Asset Retirement Obligations / ARO)は、建物や機械などの有形固定資産を使用し終えた後に、法令や契約に基づいて発生する除去費用を指します。
従来は除去した時に費用計上していましたが、現在は「取得した時点」で将来の負担を見越して負債計上することが求められています。
上場企業や大企業は「資産除去債務に関する会計基準」の適用が義務化されているものの、中小企業に関しては義務化の対象外とされています。
資産除去債務を財務諸表に表示する場合には、将来の除去費用を現在価値に割り引いたうえで、貸借対照表上の負債の部に計上します。
対象となる資産除去債務と具体例
資産除去債務は、以下のすべてに該当するものが対象となります。
- 有形固定資産の取得や建設、開発または通常の使用など、正常な稼働に基づいて生じるもの
- 有形固定資産を除去する義務や除去時の有害物質などを取り除く義務など、法令や契約で要求される法律上の義務またはそれに準ずるもの
- 売却や廃棄、リサイクルなどの資産の除去に関するもの
- 【具体例】
- アスベスト(石綿)の除去費用
- PCB廃棄物の処理費用
- 土壌汚染対策法に基づく浄化費用
- オフィスや店舗の退去時に伴う原状回復費用
- 定期借地権契約終了後の更地返還費用
一方で、有形固定資産の転用・用途変更によって発生する費用や、法律上の義務がなく、単なる自己都合による解体・処分費用については、上記の要件を満たさないため資産除去債務には該当しません。
なお、資産除去債務に該当する場合でも、将来負担すべきコストが合理的に見積もれない場合には、見積もりが可能となるまで計上する必要がありません。ただし、そのような場合には、その旨を財務諸表に注記する必要があるため注意しましょう。
資産除去債務の計算方法と割引率
資産除去債務の計上額は、将来発生する除去費用(割引前将来キャッシュ・フロー)を合理的に見積もり、それを現在の価値に割り引くことで算出します。
計算は以下の3つのステップで構成されます。
1. 将来キャッシュ・フロー(除去費用)の見積もり
将来その資産を除去する際にいくらかかるのか、その総額(割引前将来キャッシュ・フロー)を見積もります。根拠なしに決めることはできず、以下のような客観的な情報に基づいて算出する必要があります。
2. 割引率の決定方法
見積もった将来の金額を現在の価値に割り引くために、「割引率」を設定します。
原則として、「貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前利回り」を用います。
| 参照指標 | 概要 |
|---|---|
| 国債の利回り | 資産の耐用年数(除去までの期間)に対応する年限の国債利回りを採用します。最も一般的。 |
3. 計算のロジック(現在価値)
金額と割引率が決まったら、現在価値を計算します。
例えば、「年利(割引率)が固定されている世界で、5年後に100万円を用意するには、今いくら手元にあればいいか?」を逆算するイメージです。
- 将来の価値:5年後に支払う100万円
- 現在の価値:例えば、86万円(これを年利3%等で5年間運用すると100万円になる金額)
この逆算された「86万円」にあたる部分が、資産除去債務として負債計上すべき金額となります。
【基本編】資産除去債務の仕訳処理の流れ
資産除去債務の仕訳処理を、取得時・決算時・履行時の3段階に分けて、利息費用と減価償却費を計上します。
前章の計算ロジックを用いて算出した金額を、実際にどのように仕訳するのか、数字を用いて解説します。
- 【前提条件】
- 建物取得価額:10,000
- 除去費用見積額(5年後):1,500
- 割引率:3.0%
- 耐用年数:5年(定額法)
- 5年後の除去費用現在価値:1,294 (計算式:1,500 ÷ (1.03)^5 ≒ 1,294)
STEP1:計上時(取得時)
固定資産の取得価額に、資産除去債務の現在価値を上乗せします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 建物 | 11,294 | 現金預金 | 10,000 |
| 資産除去債務 | 1,294 |
STEP2:決算時(毎期)
決算では2つの処理を行います。
- 減価償却: 建物勘定(11,294)を耐用年数で償却。
- 利息費用の計上: 時間の経過とともに、現在の負債額を将来の支払額(1,500)に近づけるため、割引率分を増やします。
×1年度決算の仕訳
- 利息費用:1,294 × 3% ≒ 39
- 減価償却費:11,294 ÷ 5 ≒ 2,259
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 利息費用 | 39 | 資産除去債務 | 39 |
| 減価償却費 | 2,259 | 減価償却累計額 | 2,259 |
※「利息費用」は、実際に現金を支払うわけではなく、負債残高を増やすための会計上の処理です。
STEP3:履行時(除去時)
資産を除去し、実際に費用を支払った時の処理です。計上していた資産除去債務を取り崩します。
条件:5年後に実際にかかった費用が1,500だった場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資産除去債務 | 1,500 | 現金預金 | 1,500 |
もし実際の支払額と資産除去債務残高にズレが生じた場合は、「履行差額」として処理し、費用(または収益)に計上します。
資産除去債務の見積変更が必要なケースとは?
資産除去債務を計上する場合、当初見積もった将来キャッシュ・フローが増減するケースも考えられます。将来の費用予測が変わった時点で、負債額と資産額の両方を修正します。
インフレによる解体費用の高騰や、法改正による処理方法の厳格化などにより、当初の見積もりが変わることは珍しくありません。
見積変更のタイミング
過年度遡及会計基準に基づき、新たな事実が発生した時点で速やかに変更を行います。
- 増加する場合: 解体業者の人件費高騰などで見積額が上がった。
- 減少する場合: 技術革新により、安価な除去方法が確立された。
このような事象が生じた場合には、最新の状況を踏まえて将来キャッシュ・フローの見積変更を行う必要があります。資産除去債務を計上する企業では、決算のたびに見積変更を行う必要がないかどうかを確認しなければなりません。
見積変更を行う場合の会計ルールと割引率
見積もりの変更額を、その時点の「資産除去債務」と「固定資産」に加減算し、残りの耐用年数で償却していきます。
資産除去債務に見積変更を行う際の会計処理については、資産除去債務に関する会計基準として「プロスペクティブ・アプローチ」が採用されています。
プロスペクティブ・アプローチでは、変更時点での調整額を「資産除去債務」と「固定資産」の両方に加減算し、残りの耐用年数で償却していきます。
- 見積額が増加する場合:見積もり変更時点での割引率
- 見積額が減少する場合:当初(負債計上時)での割引率
※過去に増加があり、どの割引率を適用すべきか不明な場合は、加重平均した割引率となります。
【応用編】資産除去債務の見積変更を行う際の仕訳例
資産除去債務の計上や見積変更による調整については、適切なプロセスによって会計処理を行う必要があります。以下の具体例を通じて、資産除去債務の計上から見積変更を行う場合の仕訳を確認しましょう。
- 【シミュレーション条件】
- 当初見積額:1,500(割引率3.0%)
- 3年目開始時に見積額が 1,800へ増加(その時点の割引率2.5%)
- 4年目開始時に見積額が 1,200へ減少(加重平均割引率を使用)
■ ×2年度決算時(×3年3月31日)
通常の利息費用と減価償却を行います。
利息費用:(1,294 + 39) × 3% ≒ 40
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 利息費用 | 40 | 資産除去債務 | 40 |
| 減価償却費 | 2,259 | 減価償却累計額 | 2,259 |
■ ×3年度開始時:見積変更(増加)の処理
将来の見積額が1,500から1,800へ増加しました。増加額300を、変更時点の割引率(2.5%)で現在価値に割り引き、資産と負債に加算します。残存年数は3年です。
計算式:(1,800 – 1,500) ÷ (1 + 0.025)^3 ≒ 279
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 建物 | 279 | 資産除去債務 | 279 |
■ ×3年度決算時(×4年3月31日)
ここでの利息費用計算は、「当初分」と「増加分」を分けて計算するか、加重平均レートを使います(結果は同じです)。
利息費用の計算(加重平均法)
期首残高:1,294 + 39 + 40 + 279 = 1,652
加重平均割引率:約2.9%(※計算根拠:当初3%と増加分2.5%の比率より算出)
利息費用:1,652 × 2.9% ≒ 48
減価償却費の計算
当初分:2,259
増加分:279 ÷ 3年(残存)= 93
合計:2,352
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 利息費用 | 48 | 資産除去債務 | 48 |
| 減価償却費 | 2,352 | 減価償却累計額 | 2,352 |
■ ×4年度開始時:見積変更(減少)の処理
将来の見積額が1,200に減少しました。減少分について調整を行いますが、適用すべき割引率が混在しているため、加重平均割引率(2.9%)を使用します。
資産除去債務の帳簿価額合計:1,700
新しい将来キャッシュ・フローの現在価値:1,200 ÷ (1 + 0.029)^2 ≒ 1,133
減少させる額(調整額):1,700 – 1,133 = 567
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資産除去債務 | 567 | 建物 | 567 |
このように、見積もりが変わるたびに「資産の価値」と「負債の残高」を細かくチューニングしていく必要があります。
資産除去債務の税務上の取り扱いと簡便法
実務で忘れてはならないのが、税金とのズレと中小企業向けの特例です。
税務上の損金算入時期(税効果会計)
会計上は毎年「費用」として計上していますが、法人税法上は、実際にお金を支払って除去した年度まで「損金」になりません。
このため、会計上の利益と税務上の所得にズレ(一時差異)が生じます。このズレを調整するために「税効果会計」を適用し、「繰延税金資産」を計上する処理が必要です。
※回収可能性の判断を伴うため、公認会計士や税理士との相談が必要です。
オフィス賃貸などで使える「簡便法」
不動産賃貸借契約に基づく原状回復義務については、以下の条件を満たす場合、複雑な計算を省略できる簡便法が認められています。
- 不動産賃貸借契約であること。
- 金額や履行時期の合理的な見積もりが困難であること。
- 敷金・保証金が原状回復費用に充当される見込みであること。
【簡便法の仕訳イメージ】
資産除去債務を負債計上する代わりに、「敷金のうち、返ってこないと見込まれる金額」を資産(長期前払費用など)から減額し、契約期間にわたって費用化します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 |
|---|---|---|
| 長期前払費用 | 敷金・保証金 | 原状回復見込額を振り替え |
| 減価償却費 | 長期前払費用 | 契約期間で均等償却 |
この方法であれば、毎年の利息計算や割引率の見直しが不要となり、実務負担を大幅に軽減できます。
資産除去債務の正しい理解で適切な財務管理を
資産除去債務は、将来の支出を現在に反映させることで企業の財務健全性を正しく評価するための重要な仕組みです。
基本的には将来の除去費用を現在価値に割り引いて負債と資産に両建てし、毎期の決算で利息費用と減価償却費を計上していきます。もし見積もりが変わればプロスペクティブ・アプローチでの修正が必要となり、税務上は実際に除去するまで損金にならないため税効果会計の検討も必要です。
特に見積変更の計算はミスが起きやすいため、本記事の仕訳例を参考に、自社の固定資産台帳と照らし合わせて確認することをおすすめします。
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よくある質問
資産除去債務とは?
取得した有形固定資産を法令上の義務により除去する必要があるとき、将来発生する合理的に見積もり可能な費用のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
資産除去債務の会計基準は?
将来的に発生する可能性があっても、法律上の義務に準ずるものでなければ資産除去債務にはなりません。詳しくはこちらをご覧ください。
資産除去債務の仕訳・計算方法は?
資産除去債務を算定する場合、期末の処理を行う場合、関連する資産を除去した場合などで異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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