- 作成日 : 2025年3月28日
ISSBとは?IFRSサステナビリティ開示基準の内容や今後の動向を解説
IFRSとは国際財務報告基準のことを指します。グローバル化が進む中、世界で会計基準を統一することを目的に制定されました。これに関連してISSBという機関が設立されたのです。この記事では、ISSBの概要とIFRSサステナビリティ開示基準(S1・S2)のポイント、日本での動向について解説します。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは
ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)は、サステナビリティに関する開示基準を国際的に策定・統合する機関です。近年、企業においては特に気候変動やESG(環境・社会・ガバナンス)情報の開示が求められるようになってきました。
そこでIFRS(International Financial Reporting Standards)の策定を行なっているIFRS財団は2021年にISSBを設立し、企業が投資家や利害関係者向けに行うこれらの情報開示に関する枠組みを標準化し、各国企業の比較可能性と透明性向上を目指しています。
ISSBの設立背景
ISSBが設立された背景には、国ごとにサステナビリティ関連基準が異なり、各々が独自の基準に基づいて情報開示を行なっていたことが挙げられます。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やGRIスタンダードなど複数の国際基準はありましたが、投資家が企業の持続可能性を評価するうえで統一的な基準が求められていたのです。また、近年では企業は単に利益を上げるだけでなく、ESGに対する取り組みが求められるようになってきました。
そこで、IFRS財団が中心となり、IASB(国際会計基準審議会)で培った財務報告の国際基準化のノウハウを活かし、新たにサステナビリティ開示基準をグローバルにまとめる機関としてISSBが設立されました。
ISSBの役割
ISSBには大きく3つの役割があります。
- 企業が財務諸表と同程度の厳密さでサステナビリティ情報を開示できる世界共通の基準を策定すること
- TCFDなど国際的に認知されている既存の枠組みを統合して、重複や混乱を解消すること
- 投資家を含む利害関係者が企業の持続可能性リスクや機会を評価するための情報を、正確で比較しやすい形で提供できるような仕組みを構築すること
IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)とは
IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)とは、IFRSをベースに、企業のサステナビリティ情報を財務諸表と同様の水準で開示できるよう策定された国際基準です。ESGや気候変動リスク、サステナビリティ関連情報の開示方法を定めています。
ISSB基準には「IFRS S1号」と「IFRS S2号」の2種類があります。以下でそれぞれ詳しくご紹介します。
IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
IFRS S1号は、企業がサステナビリティに関するリスクや機会をどのように財務情報へ反映しているかを開示するための包括的な基準です。投資家が企業を評価する際に必要不可欠な情報を適切に整理し、各企業の状況に応じて明確な開示が行われるようガイドラインを提供する目的があります。
具体的には、ガバナンスや戦略、リスク管理プロセス、指標や目標など幅広い情報を「財務諸表と同程度の信頼性」で公表することを求めています。
IFRS S2号「気候関連開示」
IFRS S2号は、気候変動のリスクと機会に特化した開示基準です。TCFDのフレームワークをベースとしながら、気候変動が企業の事業や財務状態に与える影響を投資家が正確に把握できるよう、定量的・定性的な指標を提示することを求めています。
例えば、温室効果ガス排出量に関する情報や、脱炭素化への取り組み状況とそれによる潜在的リスクや機会についての開示が推奨されています。
IFRS S1号・S2号の適用時期
IFRS S1号・S2号の最新の基準は、2023年に公表されましたが、多くの国・地域で適用を開始するのは2024年以降になるとされています。実際の強制適用時期は法制化や証券取引所の規制など各国の体制によって異なるため、企業の経理担当者は自社が上場している市場や規制当局の方針を確認する必要があります。
日本においても義務化を目指し、金融庁や関連機関が具体的なスケジュールを検討中です。
IFRS S1号・S2号の日本語訳の入手方法
IFRS S1号・S2号の公式な日本語訳は、公益財団法人財務会計基準機構の日本向けサイトなどで正式な翻訳文書を確認できます。
ドラフト段階で公開された翻訳案については、パブリックコメントを経て最終版へと更新されるため、常に最新のバージョンを利用することが重要です。
参考:
サステナビリティ開示テーマ別基準第1号|企業会計基準委員会
サステナビリティ開示テーマ別基準第2号|企業会計基準委員会
サステナビリティ開示基準|企業会計基準委員会
ISSBに関連する組織
ISSBは単独で基準を策定しているわけではありません。IFRS財団をはじめ、IASBやTCFDなど複数の組織と連携を取りながら活動しています。ここからISSBの主な関連組織を紹介します。
IFRS財団
IFRS財団は、国際的な会計基準であるIFRS(International Financial Reporting Standards)の開発・普及を目的とした非営利組織です。IASBの運営母体として、世界中の企業が財務諸表を共通ルールで作成できるようにサポートしてきました。
サステナビリティ領域の国際基準整備においては、IFRS財団が立ち上げたISSBがその担い手となっています。資金調達やガバナンス面でも、IFRS財団がISSBを強力にバックアップしています。
IASB(国際会計基準審議会)
IASBは、IFRS財団の下部組織として国際財務報告基準(IFRS)の策定を担っています。企業の財務報告に関するグローバルスタンダードを作り上げ、世界各国の会計基準の統合を進める団体です。
ISSBはIASBとは別組織ですが、気候関連情報などを財務報告にも取り入れるうえで、IASBが培った国際的な基準策定の知見が大いに活かされています。将来的にはサステナビリティ情報と財務情報との連携がさらに強化される見通しです。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)
TCFDは、金融安定理事会(FSB)が設立した「気候関連財務情報開示タスクフォース」の略称です。企業が気候変動に伴うリスクと機会を開示する指針を提言としてまとめ、世界中の上場企業や金融機関がこのフレームワークを活用してきました。
ISSBのIFRS S2号は、このTCFD提言を基礎に策定されており、気候変動が財務的にどのようなインパクトをもたらすのかを、投資家が理解しやすくすることを目指しています。
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)は、日本国内におけるサステナビリティ開示基準に関する意見集約や研究を行う組織です。
ASBJ(企業会計基準委員会)の協力のもと、ISSBが公表する基準を日本語に翻訳し、国内企業の実務に適合するように検討・アレンジする役割を担っています。
ISSBの今後の動向
ISSBの今後の動向としては、IFRS S1号・S2号の適用拡大と新たな基準の策定・適用が中心になるでしょう。特に日本を含む各国での導入状況や、新たなサステナビリティ課題への対応が注目されています。
日本でのIFRSサステナビリティ開示基準の検討状況
日本では、SSBJやASBJ、金融庁などが連携し、ISSBが提示するIFRSサステナビリティ開示基準をどのように国内の開示規制に組み込むかを検討中です。既に一部の大企業はTCFDベースの気候関連情報開示を始めていますが、S1号・S2号の正式な導入には法改正や証券取引所の上場規則見直しなどが必要になる可能性があります。
今後はパブリックコメントなどを通じて、企業の声を反映しながら基準適用が具体化していく見通しです。
日本企業や金融庁の対応状況
金融庁は、ESG投資やサステナビリティ関連情報の開示を強化する方針を打ち出しており、IFRSサステナビリティ開示基準への対応はその重要課題の一つです。日本企業の中には、海外投資家やステークホルダーからの要請を受け、独自にTCFD開示や自社の脱炭素戦略を強化している例も増えています。
金融庁は企業の自主的な取り組みを支援しつつ、最終的には義務化を含む規制を示す可能性が高いと考えられます。
IFRSにより財務情報とサステナビリティ情報が一体に
IFRSの登場により、企業情報は財務情報とサステナビリティ情報が一体となる方向へ加速しています。ISSB基準(IFRS S1号・S2号)によって、投資家が必要とする持続可能性リスクや機会の情報を、財務諸表と同等の精度で開示することが求められるでしょう。
今後は日本でも金融庁をはじめとする監督当局の指針が整備され、企業が対応を迫られる場面が増えていくはずです。早めの情報収集と社内体制整備が必要となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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