- 更新日 : 2024年8月8日
年金資産とは?わかりやすく解説|計算方法や仕訳例
企業にとって、従業員の退職金の資金を用意することは重要です。自己資金を貯めておいたり、外部の年金制度に拠出したりすることなどで、将来の退職金支払いに備えます。
企業会計においても、将来の退職金の金額を財務諸表に反映させる必要があります。その中で重要となるのが「年金資産」です。ここでは、年金資産の内容や仕訳の方法などをわかりやすく解説します。
年金資産とは?
年金資産は、企業年金制度を背景に、退職給付のための原資にすることを目的に積み立てている資産のことです。簡単にいうと、外部の機関を使って積み立てられている退職金用の資金です。
年金資産には厚生年金基金制度、適格退職年金制度に基づき保有している資産などが含まれます。
年金資産となる要件として以下のようなものがあります。
- 退職給付以外の目的での使用は不可
- 事業主、事業主の債権者より法的に分離されている
- 積立の超過分以外による事業主へ対しての返還、事業主による解約、目的外の支払いへの利用など、事業主による受給者などの権利の侵害に当たるような行為が禁じられている
- 資産と事業主の資産との交換が不可
年金資産・期待運用収益の計算方法
年金資産は、期末における時価によって計算することとなっています。
時価とは公正な評価額のことで、年金資産の取引に関し十分な知識と情報を有する売り手と買い手が自発的に相対取引するときの価格によって、評価を行います。
期待運用収益
年金資産は外部の機関(年金基金など)で積み立てられたもののことですが、積み立てられた拠出金は運用され収益を生みます。そのため、毎年どれだけの運用収益が得られるかを計算する必要があります。
年金資産の運用収益の計算には、原則として長期期待運用収益率を用います。
長期期待運用収益率は、過去の運用実績、運用方針及び市場の動向などにより設定されます。
年金資産の会計処理
年金資産の会計処理を把握するためには、退職金についても把握する必要があります。企業会計では、退職などで従業員に支給されるもののうち、期末時点で将来発生すると認められる支払総額を計上することとなっています。この支払総額を「退職給付債務」といいます。
退職給付債務は自社から支払う部分の「退職給付引当金」と、外部に積み立て運用されている「年金資産」の2つから構成されます。式で表すと、次のようになります。
実は、年金資産を使った仕訳は原則、行いません。年金資産の額は、退職給付債務から控除して貸借対照表に計上することになっています。
例えば、外部の年金基金に10万円を拠出したとします。通常、年金資産が10万円増えた処理をすると考えますが、会計上は、企業が将来自分で支払う「退職給付引当金」が減少したという処理を行います。
仕訳は次のようになります。
ただし、あまりありませんが、年金資産は、その金額が企業年金制度による退職給付債務、当該企業の年金制度による未認識過去勤務債務や未認識数理計算上の差異を計算後の金額を超えた場合には、前払年金費用で処理を行います。
また、退職一時金制度と企業年金制度のように複数の企業年金制度を持つ場合、企業年金制度で積立超過になる前払年金費用が発生したとしても、退職一時金制度での退職給付引当金との相殺は不可となります。
このケースでは、貸借対照表(B/S)上で前払年金費用、退職給付引当金の両方が計上されます。
年金資産についてご理解いただけましたでしょうか?
年金資産とは、退職給付債務のうち、外部に積み立て運用されている部分のことです。年金資産の額は、退職給付債務から控除して貸借対照表に計上することとなっているため、原則年金資産を使った仕訳は行いません。
ただし、考え方を知っておくことで、退職給付についての総合的な知識を身につけることができます。また、退職給付自体の会計処理は必要となるため、年金資産についても、しっかりと理解しておく必要があります。
今、退職給付について会計処理を行っていない企業でも、今後会計処理を行う必要性が出てくるケースは多くあります。年金資産についてしっかりと理解し、退職給付を正しく処理しましょう。
よくある質問
年金資産とは?
企業年金制度を背景に、退職給付のための原資にすることを目的に積み立てている資産のことです。
年金資産の計算方法は?
年金資産の運用収益の計算には、原則として長期期待運用収益率を用います。
年金資産の会計処理は?
退職給付債務から控除して貸借対照表に計上することとなっているため、原則年金資産を使った仕訳は行いません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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